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生産地から
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[2006年11月]
鹿児島県大島農業改良普及センター |
技術主査 河口 幸一郎 |
1 生産が低迷する地域のさとうきび
〜管内の概要〜
当普及センターの管轄する地域は、鹿児島県本土から南方、約380kmに位置する奄美大島および喜界島ほか3島からなる地域である。管内は亜熱帯性気候にあり四季を通じて温暖であるが、一方で台風、干ばつ、潮風害等の自然災害や、大消費地への遠隔な地理、アリモドキゾウムシ等の特殊病害虫の発生等の生産環境の下にある。
そのような中で、さとうきびは奄美大島の北部および喜界島で主に栽培され、それぞれ分みつ糖工場が一工場ずつ操業しており、管内農業算出額の34.4%を占めている。
しかしながら、近年、両島とも生産量が減少傾向にあり、製糖工場の安定操業は当然のことながら、地域農業振興においてもこの増産は大きな課題となっている。
2 株出面積の減少と単収低下が招く生産の低迷
〜生産量低下の要因把握と課題整理〜
このような生産量低迷を招いている要因把握と増産のための課題整理を行うため、平成16年に統計資料整理と農家への聞き取りを行った。
まず、統計資料で特に着目したのが、生産量低下の中でも株出栽培の低下が顕著であることであった。そのため、株出栽培の作付面積や単収の推移を分析したところ、(1)株出面積の減少に伴って生産量が低下している、(2)平成10年度以降は株出栽培を含む全作型において単収が低下している、ことがわかった。
次に、奄美大島内で経営規模の大きな農家の7戸を抽出し、その農家の基本技術の実施状況について聞き取りを行った。
その結果、多くの農家で春植栽培の植付けおよび株出管理が適期にできていないことがわかった。またその理由を問うと、これらの作業適期が収穫時期と重なり、収穫作業を優先せざるを得ないとの回答であった。
株出栽培は収穫後の地中の株から再生する分けつを原料茎とする作型で、収穫までの栽培期間が約1年で、かつ他の作型に比べ生産コストが低いため、他の作型に比べ生産性が高い。しかし、株出管理等による株からの再生促進の当否が、収量に大きく影響する。
以上のような要因や株出栽培の特性を整理した上でこの株出栽培に着目し、収穫面積を拡大し収量を向上させるためには、(1)作付面積に占める株出面積の割合をいかに高めるか、(2)単収向上のための適期株出管理をどのように進めるか、という2つの課題を設定し、適期株出管理技術の普及を重点的な活動として展開することとした。
3 株出管理の推進を主要活動に加える
〜増産に向けた普及センター活動の方向づけ〜
さとうきび生産振興に対するそれまでの当普及センターの活動は、大規模農家群の育成・支援およびケーンハーベスタを有する営農集団の運営支援が中心となっていた。
しかし、前述のように生産量が低下傾向にある中で、増産を図り、少なくとも製糖工場が安定操業可能な一定量以上の生産量を確保することが、さとうきびの生産振興のみならず、地域農業振興においても重要な課題であった。従って、普及センターの活動もこれまでの活動を踏まえつつ、「生産量確保に向けたしくみづくり」を新たな活動事項として加えることとなった。
一方、平成16〜17年にかけては、県農業試験場徳之島支場(現「県農業開発総合センター徳之島支場」)と県内農業機械メーカーの共同で開発された、株揃え・根切・排土・除草剤散布・施肥を一工程で行う株出管理機の導入が始まり、奄美大島においては株出萌芽性に優れるNi17が急速に普及しようとするなど、株出栽培に対する生産性向上の機運が高まりつつあった。その機運をとらえ、株出栽培の面積拡大および単収向上を目標とした方策を関係機関と協議の上、これらが一体となって取り組むことの申し合わせを行った。
表2 平成18年度大島農業改良普及センターにおけるさとうきび生産振興に係る活動計画 |
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4 実演会・展示ほ・PR活動等の展開
〜関係機関と連携した取組〜
株出栽培の生産性を上げるための技術改善のひとつとして、適期の株出管理の実施が重要であるが、前述のように収穫作業との労力競合から、これまで株出管理が適期に十分行われていなかった。そのため、生産農家に対して適期株出管理の必要性やその効果について理解を図り、その実践への誘導と、実践するに当たってのしくみづくりが必要であった。
平成16年度から各市町農林技術員連絡協議会さとうきび(糖業)部会の活動として、関係機関と一体となって取り組んだ生産農家への啓発方策として、(1)株出管理実演会の開催、(2)適期株出管理展示ほの設置、(3)各種会合・研修会での呼びかけやチラシ等を通じたPR等を行ってきた。
株出管理実演会は、奄美大島および喜界島両島で開催し、生産農家や関係機関の参集の下、株出管理機や株揃え機による株出管理作業の実演を行うとともに、適期株出管理の効果や必要性について説明を行った。また、株出管理作業を受託する組織からは、作業申し込み方法や作業料金等も説明を行った。
株出管理展示ほは両島に設置し、同一ほ場での株出管理の有無による生育の違いを比較展示している。17年度に奄美市笠利町に設置した展示ほでは、表3のとおり株出管理の実施により15%の増収効果が認められた。これらの調査で得られた成果は、次年度以降の推進の資料としても活用している。
また、集落や地区で開催されるさとうきび関係の会合や市町域で開催される研修会において、展示ほの成果の紹介や株出管理作業受託のPR、生産農家向けのチラシ配布等を通じて、適期株出管理の啓発を行った。
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株出管理実演会(平成17年3月:奄美市笠利町) |
株出管理展示ほ(平成17年9月:喜界町) |
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表3 株出管理展示ほの収穫物調査結果
(平成17年度:奄美市笠利町土浜に設置)
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株出管理を推進したさとうきび農談会
(平成16年8月:奄美市笠利町) |
5 適期株出管理のためのしくみづくり
〜株出管理作業の受託体制整備〜
株出管理機や株揃え機を利用した適期株出管理の啓発を進める一方で、この技術を農家の経営に確実に組み入れるためのしくみづくりが必要であった。
そこで、これらの機械が農作業受託組織、営農集団、大規模農家等に導入されつつあったことから、これらの機械を利用した作業受託体制づくりに取り組んだ。
この結果、16年度に「笠利町さとうきび受託組合」(現「奄美市さとうきび受託組合」)において株出管理作業の受託体制ができた。
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株出管理機による株出管理作業 |
株揃え機による株出管理作業 |
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表4 株出管理機と株揃え機の比較
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6 株出管理作業の受託体制づくり
〜笠利町さとうきび受託組合の取組〜
笠利町さとうきび受託組合は奄美大島北端に位置する旧笠利町(現奄美市笠利町)において、行政、農協、製糖会社等が出資し、平成6年から運営している作業受委託組織である。当組合はさとうきびの収穫作業をはじめ、耕うん作業等の受託作業の外、機械のリース等の事業を行っている。
組合には平成16年3月に株出管理機が導入され、平成17年1月の株出管理時期から本格稼働することとし、当初は株出管理機をリース用に供する予定であった。しかし、この時期に生産農家の労力が不足している現状から、リース方式では株出管理機が十分に活用されないことも予想された。そこで、受託方式を関係機関に提案し、協議の結果、組合での受託作業が実施されることとなった。
受託作業を始めるに当たっては、(1)株出管理機を装着するトラクターやオペレーターの配置、(2)肥料や除草剤の積み込みをはじめとした作業手順、(3)料金設定、等について関係者との協議や試運転等を重ねながら準備を進めた。また、実演会や農家巡回時のチラシ配布等を通じて、受託作業のPRも行った。
組合が平成16年度に受託した株出管理作業は5haにとどまったが、その後に導入した株揃え機の受託作業を併せ、平成17年度は25haに伸びている。
一方、喜界島においても平成16年度に喜界町農業開発組合に導入された株出管理機を利用した受託作業が始まり、ここにおいても実演会等を開催しながらPRを行い、適期株出管理作業の普及を進めている。
このような取組の中で、平成17年12月に農林水産省から「さとうきび・でん粉原料用かんしょに係る支援方策について」および「さとうきび増産プロジェクト基本方針」が示された。これらを受けて全ての生産農家が経営安定対策支援対象となることと、地域ぐるみで株出栽培の比率を高め、かつ単収を向上することにより、増産に取り組む体制づくりが、現場段階では課題となってきた。その体制づくりのモデルとして、奄美市笠利町宇宿地区において、株出管理作業等の主要作業の受委託を行う地域営農組織づくりを支援してきた。
7 地域営農組織による株出管理等の受委託体制づくり
〜より多くの生産農家が株出管理作業に取り組む体制に向けて〜
管内のさとうきび生産農家は、個別農家ごとに労働を自己完結する経営形態と、ケーンハーベスタ等を所有する営農集団等の作業受託組織や個別農家との相対による全部または一部の作業を受委託して労働力を補う経営形態に類別される。しかし、これまで地域を単位に労働力等の調整を行いながら、生産活動を行うような組織がなかった。その理由としては、これまでさとうきび等の畑作では、地域で共同管理する用排水路等の営農基盤がないため、地域営農に向けた話し合いがほとんど行われなかったことが考えられる。
しかしながら、新たなさとうきび政策や増産への対応に向けて、地域を単位とした営農組織が必要であるとの関係機関での認識の下、旧笠利町内においてそのモデルとなる組織づくりを進めることが、平成17年11月に申し合わされた。
まず、地域営農のモデル組織をどこに設立するかについて、関係機関と検討を行った。その結果、(1)本県が施策として進めている新・農村振興運動の重点地区であり地域での話し合いが活発である、(2)畑地かんがいを含めた基盤整備が終了している、(3)作業受委託に不可欠なケーンハーベスタを所有する営農集団や生産農家が存在する、等の理由から、奄美市笠利町宇宿地区が選定された。
宇宿地区は小学校校区の範囲の地域で、崎原、土盛、宇宿、城間、万屋の5集落からなる。地域内にはさとうきび生産農家が約120戸あり、奄美大島の分みつ糖生産の約30%を占める地域である。この地域においては営農集団や個人農家、受託組合のケーンハーベスタがそれぞれ稼働し、また、個人所有の株揃え機も稼働している。
地域選定の後、当年12月から地域の生産農家代表やケーンハーベスタ所有農家、営農集団代表者等も交え、組織体制や関係機関の支援体制等、設立に向けた検討を行った。その後、平成18年1月には集落ごとの説明会を行い、組織設立の準備を進めるための設立準備会を立ち上げた。この中で管理組合規約や運営規程等、運営方法の検討や役員体制について、地域代表者や関係機関と話し合いを重ねてきた。そして、平成18年7月30日に「宇宿地区さとうきび管理組合」が111名の生産農家等により設立された。
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宇宿地区での集落説明会(平成18年1月) |
宇宿地区さとうきび管理組合設立総会 |
8 地域一体となった増産と経営安定の体制づくり
〜宇宿地区さとうきび管理組合の目的と意義〜
宇宿地区さとうきび管理組合(以下、「管理組合」という。)は、組合員からさとうきびの主要作業の委託申し込みを受け付け、それを調整・取りまとめを行い、受託する個人農家や営農集団等に委託する事業を行うことになっている。当面は主要作業のうち、収穫作業および株出管理作業を中心に行うこととなる。
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図1 宇宿地区さとうきび管理組合の作業受委託のフロー図(案) |
収穫作業の受委託を進めることで、組合員である委託者の作業を軽減し、軽減された労力を、適期の春植栽培の植付けや株出管理に振り向けることで増収を図ろうという目的がある。また、これまで遅れがちであり、または実施されていなかった株出管理作業を受委託することで確実に実施し、株出栽培の単収向上を図ることも目的である。これらを地域一体で増産に取り組もうというところにこの管理組合の意義がある。
また併せて、これらの主要作業の受委託を行うことにより、全組合員が経営安定対策の対象となり、経営安定を図ることにも意義がある。
関係機関では奄美市笠利町内において、管理組合をモデルとしながら、今後、各地区での同様の組織づくりを進めることとしている。従って、管理組合に対する設立・運営の支援のノウハウを、今後計画している新たな組織づくりへ生かすことも、この管理組合の意義のひとつである。
これまで管理組合に対して当普及センターでは、地域営農の必要性や他地域での集落営農の事例の説明、規約・規程等の運営方法・作業料金等の提案等を行いながら、支援をしてきた。また、今後は具体的な作業受委託を実施するための事務手続き・料金徴収等の諸手続の方法の構築をするため、管理組合理事や関係機関と話し合いを進めることとしている。
管理組合が円滑な作業受委託の事業ができるまでには、まだ多くの課題を抱えているものの、これらをひとつずつ解決することで、地域ぐるみの増産が図られることが期待される。
9 適期株出管理に向けた課題や今後の対応
これまで述べた活動を展開して適期株出管理を推進してきたが、表5のとおり地域全体の株出面積に対する株出管理実施状況は、まだ高い実施割合とは言い難い。
表5 株出栽培面積に占める株出管理
(根切・排土)の実施状況(平成17年産) |
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従って、適期株出管理をさらに定着させるためには、(1)展示ほでの生育状況やその調査で得られた成果を広くPRする、(2)株出管理機等による作業を実演することで株出管理技術に対する理解を深める、等の啓発活動が引き続き必要である。
また、この技術を実施する方法のモデルとして「宇宿地区さとうきび管理組合」の育成を支援しているが、管内では地域営農組織よりも、任意の生産農家が組織する営農集団を拡充する組織形態が適するとの意見もある。従って、それぞれの地域における機械の所有形態や話し合いの進み具合等を把握しながら、地域営農組織を含めた、より多くの生産農家が株出管理を実施できる方式を見出して、体制づくりを進めていく必要がある。
このように当普及センターでは、今後ともさとうきび増産プロジェクト基本計画の実施に向け、(1)株出管理技術の普及、(2)この技術の定着を図るための組織育成を含めた体制づくり、を中心に関係機関と連携して支援することとしている。これらの取組が着実な増産と、生産農家の経営安定につながるよう努めていきたい。