ホーム > 砂糖 > 生産現場の優良事例など さとうきび生産関係 > 沖縄県におけるさとうきび増産に係る農地防風林のあり方について
最終更新日:2010年3月6日
生産地から |
沖縄県農林水産部 村づくり計画課 副参事 | 根間 恵勇 |
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強風で茎の折損や倒伏、葉の裂傷と潮風被害を受ける台風後のさとうきび(久米島) |
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一般的に防風林による減風効果は、風上で樹高の5倍、風下で樹高の20倍といわれている。また防風林の密閉度は60〜70%で最も減風効果が高いと言われている。
図−1にさとうきびを例に防風林の収量と品質向上に対する効果について示した。防風林の周辺は温度の上昇や土壌水分蒸発散の減少等、栽培環境の改善効果がある。これによって初期生育(茎伸長)が促進され、光合成に重要な生葉数も増加することから、収量向上と糖度の上昇につながると考えられる。
図−1 防風林からの距離がさとうきびの収量品質に与える影響(Hは樹高:10m) |
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台風による潮害で枯れたモクマオウ防風林帯(多良間村) |
強風・潮風に強いフクギ (3列植の中央が フクギで、両端はアカテツ) |
畑の四方を囲む理想的な防風林配置 南大東村(県森林緑地課提供)の写真を 加工して作成したイメージ |
育成ために防風ネットと支柱で保護された 防風林帯(うるま市宮城島上原土地改良区) |
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樹種の組み合わせは、風の影響を多く受ける海岸側と比較的少ない内陸では基本的に異なる。海岸付近では、既に植生しているアダン、モンパノキ、トキワギョリュウクサトベラ、オオハマボウ、クロヨナ、サキシマハマボウに加え、フクギ、アカテツ等比較的塩害に強い樹種を組み合わせる。
一方、内陸側においては、上述の樹種の中から、単一樹種もしくは2から3樹種を組み合わせる。
従来の整備事業の中では、早期の防風効果を期待して比較的生長の早いモクマオウを主体として、それに生長は遅いが高木で耐久性のあるフクギ、その他テリハボク、低木のシャリンバイやブッソソウゲ、ソウシジュ、クロヨナ等5から6樹種が組み合わせられてきた。
性質の異なる複数樹種の組み合わせは、自然林の発想に基づく、理想的な考え方である。ただし、生育速度の異なる樹種で防風林帯を維持するためには受光を良くする枝打ちや伐採等の管理が必要である。
モクマオウからフクギへ、早生から永年生の樹種へ世代交代により安定した防風林帯の完成を目指すものであったが、多くの場合、管理不足から次代の主たるフクギの生育がモクマオウに抑えられ、またモクマオウ自身も衰退し、当初の目的を達成した事例は少ない。
このような状況を受け、近年はテリハボク、フクギを主とする2〜3種の組み合わせに変わってきた。
今後は維持管理の省力化を図りながら、長期的な視点からフクギ等単木による優良農地防風林を造成していく必要がある。
台風による幹、枝の折損や潮害で 衰弱したモクマオウの防風林帯 |
防風林の日制定を記念して、うるま市宮城島で開催された 植樹大会の模様 (樹種はフクギ、アカテツ) |
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(1) 防風林の日制定と記念植樹
平成18年11月に農業生産性の向上を目指して防風林設置の重要性を啓発するため「沖縄県防災農業推進会議」が設置され、毎年11月の第4木曜日を「防風林の日」として各地で講演会や苗木の植樹を行うこととなった。第1回記念行事として、平成18年11月30日にうるま市宮城島で農家、関係者150余名が参加して、防風林苗木の植樹大会が催され、フクギ、アカテツ300本が植えられた。平成19年度は宜野座村での開催を予定している。
(2) 宮古多良間村における防風林の事例
古くから伝わる「抱護」の考えを基に造成された防風林では、風や鳥類により種子が運ばれる自然の営みの中で、長い時間をかけて環境に適した草類や低木が着生し、生物多様性も築かれ全体としてバランスの取れた林帯が形成される。
多良間村では、1740年代に造成されたフクギ、テリハボクを主とする抱護が、現在も集落や畑地を台風、季節風から守っている。
多良間村のフクギ、テリハボク抱護 |
(3) 宮古島市における防風林植栽のボランティア活動
平成15年9月11日に襲来した台風14号を契機に、県宮古支庁の「宮古地域防災営農推進会議」による支援で、平成17年6月にボランティア組織「美ぎ島(かぎすま)グリーンネット」が設立された(かぎすまとは宮古の方言で美しい島の意)。宮古森林組合を事務局に、法人77団体(年会費1万円)、個人693名(年会費2千円)で構成される組織である。平成17年度は4回、延参加人数544名の植樹活動を通じて、テリハボクを中心に約47aに5種5,109本を植栽し、翌平成18年度はさらに植樹活動の回数を6回(延参加人数667人)に増やし、テリハボクとフクギを中心に約28aに10種3,829本を植栽した。
(4) 沖縄製糖株式会社宮古島工場の防風垣の造成支援
平成15年9月の台風14号によって、さとうきびは甚大な被害を受けた。その時、防風林のある地区の台風被害がそれのない地区に比較して少なかったことから、沖縄製糖株式会社は、従来の原料用苗の増殖、配布等に対する補助から、さとうきび増産と品質向上のための防風林用苗木増殖、配布に補助対象を切り替えて防風林の育成を積極的に推進している。具体的には、通常300〜400円/本で流通しているフクギ、テリハボクの苗について補助を行い、100円/本での販売を行っている。2005〜2006年の販売実績は11,000本に達している。
同製糖会社の工場長は「一番の目的は農家自身に防風垣の重要性を認識させること。自主的に植えることへの援助である。防風垣の有無で農産物の状況が大きく変わってくる。防風林に対する農家の意識を高めるきっかけにしたい。防風垣の普及・地力の増強、病害虫対策をしっかりとやってさとうきび増産につなげたい。」と話す。
美ぎ島グリーンネットによる植樹活動風景 |
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台風14号により葉の脱落、 梢頭部折損、倒状したさとうきび |
宮古島市で さとうきび畑の農道沿いに植栽されたテリハボク防風垣 |
沖縄県の農業においては、台風、干ばつ、病害虫の発生は農作物の安定生産を阻害する大きな要因であり、農業振興上大きな課題になっている。
防風、防潮林の必要性については生産農家も十分認識しているが、一方で、日陰の発生、根の侵入、実作付面積の減少などを理由として、事業を進めるに当たり合意形成が進まないという面もある。しかし、気象災害に強い農業を進めるため防風林の造成は必須であり、さとうきび増産プロジェクトの中でも計画的、かつ緊急に取り組むべき事項として位置付けられている。
防風林は、農作物を保護し市場のニーズに対応した付加価値の高い農産物を安定的に供給するために不可欠である。今後も地域が連携して長期的な視点から焦 らず、慌てず、諦めずに、健全な農地防風林の造成に取り組んでいくことが大切である。
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