砂糖 砂糖分野の各種業務の情報、情報誌「砂糖類情報」の記事、統計資料など

ホーム > 砂糖 > 視点 > 「バイオマス・ニッポン総合戦略」と「農林漁業バイオ燃料法」

「バイオマス・ニッポン総合戦略」と「農林漁業バイオ燃料法」

印刷ページ

最終更新日:2010年3月6日

砂糖類情報ホームページ

[2009年3月]

【視点】
農林水産省大臣官房環境バイオマス政策課 総括補佐 川合 豊彦

1 はじめに

 バイオマスは生物が合成した有機物であり、生命と太陽がある限り枯渇しない資源です。また、バイオマスを燃焼する際に放出される二酸化炭素は、生物の成長過程で大気から吸収されるものであるため、大気中の二酸化炭素を増加させない「カーボンニュートラル」という特性を有しています。バイオ燃料などバイオマスの利活用は、地球温暖化防止や循環型社会の形成に役立つといわれ、農林水産業の新たな領域を開拓するとともに、エネルギー問題にも対応できるため、政府全体で積極的に推進することとされています。

 政府においては、「バイオマス・ニッポン総合戦略」(平成14年12月閣議決定、平成18年3月改定)に基づき国産バイオ燃料の生産拡大やバイオマスタウン構想の策定を図っているところです(図1)。

図1 バイオマス利活用の加速化

2 国産バイオ燃料の生産拡大と大規模実証事業

(1) バイオ燃料をめぐる現状

 わが国の農林漁業・農山漁村を取り巻く現状を見ると、国民の食生活の変化などにより、輸入農林水産物が増加しており、国内の農林水産物の生産は減少傾向にあります。また、わが国の人口が減少局面に入る中、国内の市場規模の縮小も懸念されているところです。

 このような中、農山漁村地域においては耕作放棄地や休耕地などが多く存在しており、十分な活用の図られていない資源も少なからず存在しています。

 さらには、農林水産物の生産・加工に伴い、稲わらなどの農産物の非食用部、林地残材、砂糖やでん粉の搾りかすなどの副産物が大量に発生していますが、これらの相当部分は十分な活用が図られていないのが実情です。

 一方、近年の原油価格の高騰や自国農業の保護・育成、貧困対策といった諸問題に対応する観点から、自国内で原料生産が可能であり、エネルギー安全保障上も重要な役割を果たすバイオ燃料(化石燃料を除く動植物に由来する有機物から製造されるバイオエタノールやバイオディーゼル燃料など)に対する関心が高まっており、世界的にその生産・利用の拡大に向けた取り組みが広がりつつあります。

 このうち、主にとうもろこしやさとうきびを原料に生産されるバイオエタノールの生産量は、6,413万キロリットル(以下、kl)(2007年)とこの5年間で約2倍に増加しており、米国(全生産量の40%)、ブラジル(同35%)の2か国で世界の生産量の8割(4,856万kl)を占めています。また、主になたね油や大豆油から精製されるバイオディーゼル燃料は、欧州が世界の生産量(859万kl、2007年)の76%(649万kl)を占めており、輸送用燃料として利用されています。

 わが国においては、「バイオマス・ニッポン総合戦略」を策定し、バイオマスを総合的に最大限活用することにより農林漁業・農山漁村の活性化を図っております。その中でバイオ燃料については、他のバイオマス製品とは異なり、潜在的なニーズが極めて大きいことから、「計画的に利用に必要な環境の整備を行っていく」とされたところです。

 さらに、バイオ燃料については、平成19年2月に、農林水産省など関係7府省が「国産バイオ燃料の大幅な生産拡大に向けた工程表」を作成し、平成23年に国産バイオ燃料を5万kl生産する目標を立てているところです。農林水産省では技術開発がなされれば、稲わら、間伐材などを原料として2030年頃には600万klの国産バイオ燃料が生産可能と試算しています。

 国産バイオ燃料の生産拡大は、エネルギー問題への対応や地球温暖化防止のみならず、わが国の農林漁業の発展を考える上でも、従来の農林水産物の用途の枠を超えたエネルギー用途という新たな領域を開拓し、併せて、休耕地などにバイオ燃料の原料となる資源作物を作付けることで農地を活用し、いざというときには食料や飼料用作物を作付けるなど、わが国の食料の安全保障にも貢献するものとして期待が寄せられています。

 こういった観点から、農林水産省では平成19年度から、原料の調達からバイオ燃料の製造・販売まで地域の関係者が一体となった大規模実証事業を開始し、バイオエタノールについては、北海道2地区、新潟県1地区で合計年間3.1万klの生産を目標としているところです。バイオディーゼル燃料については、なたね油や廃食油などを原料とした実証事業が行われています。さらに、平成20年度からは、食料供給と競合しない稲わらなどのソフトセルロース系原料からバイオエタノールを製造する技術の確立を図る事業を北海道、秋田県および兵庫県で採択し、国産バイオ燃料の大幅な生産拡大を推進しているところです。

 このようなわが国の先進的な取り組みが評価され、北海道洞爺湖サミットの首脳声明に「非食用植物や非可食バイオマスから生産される第2世代バイオ燃料の開発と商業化を加速する」ことが明記されました(図2)。

図2 国産バイオ燃料大規模実証事業(バイオエタノール)

(2) 北海道バイオエタノール株式会社の取り組み

 農林水産省が進める大規模実証事業3地区のうちの1つが、北海道上川郡清水町で行っている北海道バイオエタノール株式会社を事業実施主体とする取り組みです。北海道バイオエタノール株式会社は、北海道農業協同組合中央会やホクレン農業協同組合連合会、日本甜菜製糖株式会社、北海道糖業株式会社、三菱商事株式会社などが共同出資し、平成19年6月に設立されました。

 わが国最大の食料供給基地である北海道では、麦・大豆・てん菜・でん粉原料用ばれいしょなどの輪作体系による、大規模かつ効率的な畑作経営が実現しています。このような高い生産能力を食料供給のみならず、エネルギー供給にも活用する観点から、北海道バイオエタノール株式会社の取り組みは始まりました。なお、原料はてん菜や規格外小麦を活用し、バイオエタノールの年間製造量は1.5万klとしています。

 製造されたバイオエタノールは、苫小牧にある「ホクレン苫小牧石油貯蔵施設」を中継し、石油会社の製油所に輸送され、ETBE混合ガソリンとして販売されます。

 平成19年10月にバイオエタノール製造プラント起工式を行い、工事に着工しました。平成21年2月現在、プラント建設工事は大詰めを迎えており、3月末には施設整備を完了し、試運転を行った後5月頃からバイオエタノールの製造を開始する予定です(図3)。

図3 北海道バイオエタノール工場完成予定図

 バイオ燃料を効率的に生産するためには、原料の生産、調達の低コスト化を図ることが重要な要素です。我が国最大の農業地帯である北海道は、原料を安定的かつ低コストで調達する上で最も適した地域です。

 まずは北海道においてバイオ燃料の効率的な生産技術や体制を確立させ、わが国のバイオ燃料製造のモデル、リーダーとしての役割を期待しています。

3 農林漁業バイオ燃料法の制定

 国産バイオ燃料の生産拡大においては、①原料供給者である農林漁業者とその供給を受けるバイオ燃料製造業者との連携が確立されていないこと②バイオ燃料の原材料の生産側、バイオ燃料の製造側ともにコストが高いこと③バイオ燃料に関する研究開発をさらに進める必要があること―などの課題が存在しています。

 一方、近年では、諸外国において農産物がバイオエタノールの原材料として大量に利用されていることが農産物価格の高騰の一因になっており、食料自給率の低いわが国においては、食料および飼料の安定供給の確保に支障を及ぼさないバイオ燃料の生産拡大を図る必要があります。

 これらの課題の解決を目指すため、新たな法律上の仕組みとして先の通常国会において、「農林漁業有機物資源のバイオ燃料の原材料としての利用の促進に関する法律平成20年法律第45号」(以下「農林漁業バイオ燃料法」)が制定されました。

 農林漁業バイオ燃料法は、農林水産省が経済産業省及び環境省の協力を得て、法律案を平成20年2月15日に閣議決定し、国会へ提出されました。また、同法律案は同年4月24日に衆議院本会議において可決、同年5月21日に参議院本会議における可決をもって成立し、同月28日に法律第45号として公布、同年10月1日に施行されました。

 本法では、「農林水産物及びその生産又は加工に伴い副次的に得られた動植物に由来する有機物であって、エネルギー源として利用することができるもの」、すなわち農林漁業に由来するバイオマスを「農林漁業有機物資源」と定義しています。

 本法において「バイオ燃料」とは、農林漁業有機物資源から製造される燃料をいいます(単なる乾燥・切断などにより製造されるまき・チップを除く。)

 さらに、国は、バイオ燃料の利用促進を図るために、基本方針を定めることとしています(平成20年10月2日告示)。基本方針では、バイオ燃料の生産拡大の意義と基本的な方向を示すとともに、食料および飼料の安定供給の確保に配慮することを明記することとしています。そして、農林漁業者とバイオ燃料製造業者の共同プロジェクトとして「生産製造連携事業」に取り組む計画やバイオ燃料に関する「研究開発事業」に取組む計画について、基本方針に照らして適切である場合などには、国がこれを認定し、認定された取り組みへ法律上の支援措置を講じることとしています(図4)。

図4 農林漁業バイオ燃料法の概要

4 バイオマスタウン構想策定の加速化

(1) バイオマスタウン加速化戦略委員会

 バイオマスタウン構想は、関係者の連携のもと、地域内において食品残さの飼料化や家畜排せつ物のたい肥化、建設廃材や林地残材などによる発電など、市町村が中心となってバイオマス資源の循環利用の促進を図るものです。「バイオマス・ニッポン総合戦略」では2010年までに300構想を策定することを目標としており、平成21年2月末現在で172地域が構想を公表しています(図5)。このバイオマスタウンの取り組みにより、京都議定書の6%削減約束の0.1%に相当する約100万CO2トンの温室効果ガス排出削減が見込まれます。平成20年11月からは、構想の一層の策定ならびに具体化を目指し「バイオマスタウン加速化戦略委員会」(座長:迫田章義東大教授)において議論を開始しました。今後は都市地域と農村地域の連携や広域での取組といった国民参加型のバイオマスタウン構想に発展させることが重要となっています。

図5 バイオマスタウンを策定した172市町村

(2) さとうきびを中心としたバイオマス利活用(沖縄県伊江村の取り組み)

 沖縄県の伊江島では、平成17年3月に「バイオマスアイランド」と題したバイオマスタウン構想を公表しています。この構想は、伊江村、JAおきなわ伊江支店、アサヒビール株式会社、九州沖縄農業研究センターが主体となって作られています。

 この構想に基づいて、さとうきびからバイオエタノールを製造して、ガソリンとバイオエタノールとの混合燃料(バイオエタノールの混合割合は3%)を用いて伊江島の公用車を走行させる実証実験が平成18年から行われています。この実験では、アサヒビールがバイオエタノールの製造を行い、九州沖縄農業研究センターが開発した通常よりも収量が多いさとうきびの試験栽培をJAおきなわ伊江支店が行っています。

 この構想では、バイオエタノールの原料となる糖みつが採れる茎以外にも、葉がら部分を畜舎の敷料に、梢頭部分を家畜の飼料へと、多用途に用いる計画が作られています(図6)。

図6 伊江島バイオマスアイランド構想

(3) でん粉原料用かんしょやさとうきびの有効活用(鹿児島県南種子町、西之表市の取り組み)

 種子島に位置する南種子町では、平成20年3月に公表したバイオマスタウン構想に基づき、さとうきびの活用の他にも、でん粉工場から発生するでん粉かすが、家畜の飼料や土壌改良材に用いられています。さらに、平成21年度にたい肥センターを整備してたい肥の原料として用いる計画も進められています。

 同じく種子島に位置する西之表市でも、バイオマスタウン構想が平成20年3月に公表されています。構想には、さとうきびやでん粉原料用かんしょの活用が盛り込まれており、でん粉かすを飼料化、たい肥化する試みが検討されています。

5 国際バイオ燃料基準検討会議

 北海道洞爺湖サミット首脳声明には、「バイオ燃料の生産と使用について科学に基づく基準と指標を策定するために、国際バイオエネルギー・パートナーシップ(GBEP)が他の利害関係者と共に、取り組むことを呼びかける」ことが盛り込まれました。

 当省では、食料生産と両立するバイオ燃料の生産拡大を目指すわが国の立場を国際的な基準づくりに反映させていくため、平成20年9月に有識者による「国際バイオ燃料基準検討会議」(座長:鈴木宣弘東大教授)を設置し、科学的な観点から基準・指標のあり方について3回の検討を行い考え方をとりまとめました。11月にブラジルで開催されたGBEPにおいて当省から提案を行いましたが、今春を目標に各国の意見集約を行う予定です(図7)。

図7 バイオ燃料の国際基準の策定に向けた取り組み

6 おわりに

 現在、農林水産省では農林漁業バイオ燃料法に基づく基本方針、政省令も含め、関係者に対する法律説明会を全国各ブロックで行っています。

 本法に基づく取り組みにより、本法の目的である農林漁業有機物資源の新たな需要の開拓およびその有効な利用の確保ならびにバイオ燃料の生産の拡大が図られ、究極的には農林漁業の持続的かつ健全な発展およびエネルギーの供給源の多様化が実現されるよう、関係者の皆様の積極的な活用をお願いします。本法や支援内容についてさらに詳しい情報は、以下のホームページ(環境バイオマス政策課:http://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/index.html)に掲載されておりますので参考としてください。


ページのトップへ