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シュガーエステル開発の歴史と最近の動向

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類情報ホームページ

[2010年02月]

【ユーザーから】
三菱化学フーズ株式会社 監査役 小久保 定夫

はじめに

 スーパーマーケットの食品売り場で製品を手にとって見たときシュガーエステル(ショ糖脂肪酸エステル、SEと略記)と言う表示を目にすることはあまりないが、「乳化剤」という表示に気づくことが多い。シュガーエステルはこの「乳化剤」の一種で、「乳化剤」と表示されている食品にはシュガーエステルが使われている可能性がある。シュガーエステルのことを話すと、「甘いですか」「甘味料ですか」と聞かれることが多い。シュガーエステルは「砂糖」と「脂肪酸」からできているが不思議なことにエステル結合ができると甘さがなくなってしまう。「甘い砂糖から甘くない砂糖誘導体を作って何の意味があるか」と思われる方もおられるかもしれない。本稿では砂糖を化学工業の原料として使用する立場から、甘くないシュガーエステルはどのような経緯で開発され、どのような機能・用途があるかについて述べることにする。

1.開発の歴史

 砂糖は、高純度で安価にしかも毎年大量に再生産可能な資源であることから、1943年にアメリカでSugar Research Foundation(SRF)が設立され、砂糖を化学工業原料として使用し付加価値を高めるための研究が開始された。1952年にSRFのHass会長は「砂糖と油脂から洗剤ができないか」と界面活性剤分野の権威者であるSnell博士に電話で相談した。この電話は食品、化粧品、医薬、その他工業用途など幅広く使用されているシュガーエステル誕生のきっかけとなった。その後の研究の結果、その成果は1956年にSnell法として発表され、多くの企業が興味を持ち工業化に取り組んだ。アメリカではColonial Sugars Co.、Pfizer.& Co.、イタリアではLedogaS.P.A.、その他イギリス、ドイツ等多くの会社で検討がおこなわれた。

 このように多くの製薬会社、砂糖会社が技術開発に参入したが、技術上の問題点を解決できずに撤退した。その中で日本の大日本製糖株式会社が1959年に世界で初めて工業化に成功した。その後この事業は、三菱化成株式会社(現在の三菱化学株式会社)に引き継がれ現在に至っている。

 シュガーエステルの開発の目的は、砂糖を大量に使用する可能性のある安価で良質な洗浄剤を製造することにあった。石油化学系洗剤原料に対抗できるほど安価に供給するためには、大型で合理化された製造プロセスによってコストを削減する必要があるが、現状ではこの目的は達成できていない。現在までのところ一部の食品用の洗浄剤として使用されているに留まり、その主たる用途は食品用の添加物が中心である。

表1 ショ糖エステルの開発と認可の歴史
*1 JECFA:The Joint FAO/WHO Expert Committee On Food Additives
*2 ADI :Acceptable Daily Intake(1日摂取許容量)

2.製造方法

 砂糖はブドウ糖と果糖が結びついた糖類で、1分子の中には8カ所の水になじむ水酸基がある。この水酸基にパーム油、やし油から得られる脂肪酸をつけると(この結合をエステル結合という)、不思議なことに冒頭に述べたように甘味を感じなくなる。通常、無味、無臭と表現しているが、厳密には脂肪酸由来の風味や独特の味を感ずる。水に溶けるものから油脂のようにまったく水に溶けない製品まで、8個ある水酸基にいくつ脂肪酸をつけるかによって性格が変わる。また結合する脂肪酸の種類によってもその性格が変わる。

 シュガーエステルの製造方法は数多く提案されているが、工業的に成功している方法は、いずれも砂糖と脂肪酸の低級アルコールエステルとのエステル交換反応である。

*OHの部分が水酸基、COOの部分がエステル結合
図1 ショ糖モノステアリン酸エステルの構造式

 エステル交換反応の技術はさらに以下のように分類される。

1)均一系でのエステル交換
反応系を均一に保つために、砂糖と脂肪酸エステルの両方を溶解する溶媒を使用する。このため、反応に使用した溶媒を除去する多大の設備と費用が必要になり、シュガーエステルの高価格の原因になっているが、反応温度を比較的低温に設定できるので着色のない高品質の製品が得られる。

2)不均一系
砂糖と脂肪酸エステルを微量の水または糖アルコールで溶融状態を作り、反応を進める。そのため、操作温度が高くなり砂糖の着色の発生、親水性の製品が作りにくいなどの欠点を有している。

3)酵素反応
酵素反応はいくつか試みられているが、基礎レベルとしても満足のいく収量のある報告はなく、従って工業化されていない。

図2 SEの製造方法

3.機能と用途

 この世の中にはさまざまの境界面が存在し、その境界面のことを「界面」と呼ぶ。界面は性質の異なる物質から構成されるので、両方になじみやすい物質がこの界面に並びやすい。その界面に吸着し作用する物資のことを「界面活性剤」と呼んでいる。界面活性剤は、界面で何らかの役割を果たすことが多い。この役割は、乳化、可溶化、抗菌、粘度調整、洗浄、成分との相互作用など多岐にわたっており、状況に応じて、多くの機能を発現することになる。

 シュガーエステルは界面活性剤の一種であるが、食品添加物の分類の中では乳化剤と称している。単に水と油を混ぜ合わせる乳化の機能だけでなく、可溶化、分散、起泡、消泡、湿潤、でん粉の老化防止、洗浄、製造工程の改善、食感の改善、などさまざまな機能を包括的に乳化剤という名称で表現している。また、最適な機能を得るために複数の乳化剤と組み合わせて使用されることもあり、配合製剤としても利用されている。

 乳化剤は多くの加工食品に使われているが、野菜などの洗浄の用途を含めればスーパーマーケットの食品売り場のあらゆる場所の商品に使用される可能性がある。乳飲料、マーガリン、コーヒークリーム、パン、クッキー、チョコレート、キャンディー、アイスクリーム、缶コーヒーなどさまざまな食品に使用されている。

 食品に使用される理由は、(1)生産工程での問題点の解決(2)品質の安定、改良(3)流通過程でのトラブルの防止−などが挙げられる。食品を家庭で作り、消費するのであれば、何か不都合が生じても微調整が可能である。しかし工業的に製造販売する場合、製品品質の振れ幅を一定に抑えなければならないし、表示も固定されている。配合を簡単に変更することはできないし、機械化された工場でしかも連続的に作る場合は、機械の特性にあった状態に中間製品をコントロールする必要がある。また工程の途中で半製品を一定時間保持することも必要である。こうした課題の解決に、食品用乳化剤を使用することが有効である。

図3 食品用乳化剤が使用されている製品

 表2はシュガーエステルの機能別の用途の一覧である。

表2 シュガーエステルの機能の分類と食品工業での用途事例

 以下に個別の用途事例をいくつか紹介する。

 先に述べたとおりシュガーエステルの開発のもともとの目標は洗剤原料にあったが、価格、洗浄力の点で衣料用洗剤や食器洗浄用洗剤として活用されるには至っていない。ただし野菜・果実や哺乳瓶、ブロイラーなどの洗浄には使用されている。また農産物にも果実類の鮮度保持で使用さている。

 小麦粉用途ではドウコンディショナーとしてパンの成形時の機械への付着を防ぎ、流通過程でパンを柔らかく保つ老化防止剤として使用される。麺では麺線同士の付着を防ぎ食感を改良する。ケーキの製造では、原料を一度に投入して攪拌することで失敗なくケーキ作りができ、しかも起泡した生地を焼成前に安定的に維持することができる。

 チョコレートは製造工程の中に温度を一定に保ち安定な結晶形の生成を促すテンパリングという工程があるが、このとき粘度を低下させ操作をしやすくする、あるいはコーティング・チョコレート、たとえばナッツチョコの場合、ナッツに均一なチョコレートコーティングができる。

 キャンディーではサク味の付与、歯への付着を防ぐ効果がある。チューインガムではガムの歯つきの防止の目的で使用されている。

 飲料では乳製品を使用した場合の乳化、またホットで販売される缶コーヒーや缶紅茶には微生物的安定性を高め、品質の劣化を防ぐ目的で使用されている。

 マーガリン、低カロリースプレッドなどでは、親油性のシュガーエステルが使用されている。植物性のホイップクリームやコーヒークリームでは、親水性のシュガーエステルがホイップ性の向上、コーヒーへの分散性の向上、たんぱく質の凝集の防止の目的で使用されている。

 医薬品については、油溶性ビタミンの可溶化、溶解調整効果、皮膚浸透性、外用薬の乳化、打錠の際の滑沢剤(錠剤を作る際の型離れを良くする目的の添加物)の目的で用されている。

 工業分野では、食品用フィルムや透明食品容器の曇り防止剤として弁当や惣菜の透明の蓋の内側に塗布され、水分の結露を防ぎ、内容物がよく見えるようにしている。

 そのほかシュガーエステルとは別の分野と認識されているのが、アメリカではショ糖ポリエステルである「オレストラ」が油脂代替物が食品添加物として認可され、ポテトチップスなどの揚げ油として使用されている。

4.食品添加物の位置づけと生理学的性質

 シュガーエステルの安全性については、国際機関であるFAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)において評価され、動物実験や酵素分解試験によってその生分解性の高いことが確認され、安全性は高いものと認識されている。

 1956年に日本で食品添加物として認可を受けたが、その後ヨーロッパ各国、米国で認可を受け、また世界の規格を提案しているJECFA(FAO/WHO合同食品専門家会議)においても認められている。

 最近の話題としては、JECFAの第71回会合において、シュガーエステルの国際規格である「ショ糖オリゴエステル(Sucrose Oligoesters)」が新設された。親水性から親油性のグレードのものまで対応できるようになった。

5.まとめ

 ショ糖、でん粉などの再生可能な原料を出発物質として付加価値の高い製品あるいは機能のある製品を作ることは、今後ますます重要になると思われる。シュガーエステルは、洗剤原料として開発され、シュガーエステルが日本で食品添加物として認可されてから既に50年が経過しようとしている。この間食品用の乳化剤として日本で大きく花開き、中国、台湾、韓国などアジア諸国で使用が広がっていることは、シュガーエステルの製造、用途開発に携わったものとして喜びに耐えない。今後ヨーロッパ、米国でもシュガーエステルが安全性と高い機能が評価され、一層の普及が進むことを期待したい。

<参考文献>

  1. 山田、河瀬、荻本 油化学 29(8),21(1980)
  2. 小久保、松田、葛城 油化学 45(10),1157(1996)
  3. 渡辺 FFI Journal No.180,18(1999)
  4. 廣川書店 第8版食品添加物公定書解説書 D―952
  5. 町田、小久保 月刊フードケミカル 1988―4,75
  6. 小久保 月刊フードケミカル 1994―6,39
  7. 西村彰夫 機能性脂質の開発と応用 CMC 300−313
  8. 月刊フードケミカル 2009―9,7
  9. 河本 砂糖類情報1999年9月
    (編集者 注)
    乳化剤市場の動向については、以下の文献に掲載されている。
    月刊フードケミカル 2009―12
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