ホーム > 砂糖 > 調査報告 > さとうきび > 干ばつ・台風と南・北大東島 −2004年夏・秋−
最終更新日:2010年3月6日
独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構 九州沖縄農業研究センター 作物機能開発部長 |
杉本 明 |
1.はじめに 2.調査結果 3.今後の栽培技術の方向 |
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写真1 島南側幕上圃場 春植 (写真1から8は南大東島 9から16は北大東島である。) |
写真2 島南西側幕上圃場 春植 |
写真3 幕下圃場 4月植「Ni11」 |
写真4 幕上圃場 株出し「Ni9」 |
写真5 島西側幕上圃場 春植「F161」 |
写真6 幕上圃場 春植「F161」 |
写真7 幕下圃場 夏植「Ni15」写
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写真8 幕元圃場 株出し「F161」
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写真9 幕上圃場 4月植 「F161」と調査協力をいただいた方々 |
写真10 幕上圃場 3月植写 |
写真11 幕下圃場 春植
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写真12 幕下圃場 春植株出し
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写真13 幕上圃場 春植株出し |
写真14 幕上圃場 2月植「F161」 |
写真15 幕下圃場 10月植「NiF8」
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写真16 幕下圃場 8月植「Ni15」
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北大東島でも南大東島と同様、良好な生育は、適切な灌水、夏植あるいは早い春植によってもたらされ、甚大な被害は、遅い植え付け、無灌水、圃場が幕上にあることと結びついている。
第1表には平成16/17さとうきび年期における南大東島の株出し圃場における収量と圃場の概要を示した。幕上で灌水できなかった圃場が極少収であり、点滴灌漑や幕元のために水供給が比較的良かった圃場、収穫後の管理の早い圃場などは極少収を免れていた。第2表には北大東島幕上における株出し圃場の収量および幕上あるいは幕下の夏植圃場の収量を示した。南大東島と同様、同じ作型でも極少収の圃場とそれを免れた圃場があることが分かる。また、夏植の圃場には多収となった圃場が認められる。夏植の多収は南大東島でも認められる。極少収圃場、極少収を免れた圃場、多収圃場の属性には共通点があるため、その条件を解明して栽培技術(品種選択および肥培管理)に取り入れることが重要である。
遅い春植、大きな干ばつ被害、それに潮風害が加わる場合に壊滅的な被害となり、比較的早い植え付け、干ばつ被害の回避または軽減によって中程度の被害となる。夏植、灌漑の実施により干ばつ被害を回避し得た場合には深刻な潮風害が回避されている。同様な肥培管理の場合、幕上で被害が甚大であり、幕下では変異が比較的大きく、幕元では被害が少なく生育が良い。いずれもさとうきびに対するインプットという観点から見れば同じ事である。以上のことから、
(1) 干ばつ発生時に水分供給が可能であること
すなわち灌水を実施するか、保水性の高い土壌で栽培するか、あるいは、優れた根系によって大きな土壌圏から吸水すること
(2) 台風時に茎の一点に当たる風の力が弱いこと
すなわち防風林などによって風の力を減衰させるか、あるいはたくさんの支点で風を受けることによって一点に当たる風の力を弱めること
(3) 潮風害発生後の生育環境を改良すること
すなわち、濃密な肥培管理で養水分を供給し出葉を促すか、あるいは太い茎の貯蔵養分で出葉を促進し、強い根系で養水分を供給するかということ
である。これらは多収獲得の理論と矛盾しない。
第1表 南大東島の株出圃場で極少収であった圃場と極少収を免れた圃場の特性
第2表 北大東島の株出圃場(幕上)と夏植圃場の10アール当たり収量
(2) 厳しい環境下で発現される品種・系統の特性の差異
沖縄県農業試験場、九州沖縄農業研究センターでは相互に協力し、南大東島、北大東島で、厳しい自然環境条件に適応性の高いさとうきび品種の育成に向けた圃場試験を実施している。沖縄農試は当面の製糖用品種育成を目的に、製糖用実用品種・系統間の交配で作出した系統を供試し、九州沖縄農研では将来を見据え、野生種などを用いた種属間交雑系統を供試して特性を評価している。試験の目的から、どの試験も春植とし、出芽・株立ち以降の肥培管理は無灌水を原則としている。
第3表 南大東島における有望系統の無灌水での栽培試験の成績
第3表に沖縄県農業試験場が行っている品種選定試験の結果を示した。2回株出しにおいて標準品種が1茎重346g、茎数698本/a、原料茎重242kg/a、可製糖率11.0%と少収であるのに対し、RY93-34、RK92-20は原料茎重がそれぞれ497kg/a、547kg/aと2倍以上の多収であった。また干ばつ害の厳しい幕上の圃場における春植え試験でも、標準品種の原料茎重150kg/aに対し、RK96-6049は337kg/aと2倍以上の成績を示した。第4表には九州沖縄農業研究センターが南大東島で実施している、NiF8の根系改良によって不良環境適応性の高糖多収性品種を育成するための試験の結果を示した。NiF8は仮茎長が114cm、株当たり茎数が1.3本、圃場ブリックスが14.3%であった。供試系統はいずれも戻し交雑世代であるが、その中には仮茎長が長く、株当たり茎数も多いものが多数認められた。圃場ブリックスはNiF8と同程度か低い系統が多かった。南大東島の幕下圃場ではあるが、出芽・株立ち以降は無灌水で栽培した結果であり、同島の厳しい干ばつ条件下でも多収性を発現する製糖用系統が存在することを示している。第5表には厳しい気象条件下での安定多収性発現に必要な品種特性解明のために実施している試験の結果を示した。植え付けは3月上旬、出芽・株立ち以降は無灌水栽培である。NCo310、Ni9は、圃場ブリックスは平均で20.4%、21.4%と高かったが、仮茎長が152cm、168cmと短く、原料茎重は248kg/a、250kg/aと軽かった。供試系統は、圃場ブリックスは13.9〜17.1%と低かったが、仮茎長は195cm〜233cmと長く、原料茎重も312〜428kg/aと明らかに優れていた。エリアンサス属植物のIJ76-349は、仮茎長が248cm、原料茎重は462kg/aと多かった。これらの系統はいずれも株出しからその顕著な多収性を発現するのが特徴であり、株出し栽培における既存品種との差異はより大きいと予想される。
これらの結果は、既存の製糖用品種の生育が不良な条件下でも、優れた発芽・萌芽・初期生育、優れた根系によって良好な生育を示すさとうきび系統が存在すること、そのような特性に着目して選定した品種の導入によって比較的安定的に砂糖生産ができる可能性が高いことを示している。
第4表 製糖用品種として選抜したBC1系統の特性
第5表 大東島における安定多収に必要な特性の探索に供試した系統の成績
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(2) 新たな技術開発の方向
(1) 干ばつ・台風に比較的強い作型の開発
夏植は干ばつ・台風に比較的抵抗力があることが経験的に知られ、本年の調査でもその傾向が確認された。しかし、夏植は収穫後の萌芽が不良で株出し収量が低くなりがちなのが欠点である。南・北大東島は株出し栽培を中心としているためこのままでは夏植の普及は困難である。夏植え型栽培の普及には以下2点の改良が必要である。まず、夏植・冬収穫における萌芽の改良と、冬収穫後の株出し栽培における干ばつ・台風に対する抵抗性の強化である。その意味からはNi17、RK94-4035の夏植株出し体系での生産力評価が必要である。もう一つ、夏植え型栽培の利用には「夏植え型1年栽培」(夏・秋植/秋収穫)の検討も重要である。この栽培型の場合には栽培開始が常に夏または秋であり、新植においても株出しにおいても夏植の利点が発揮される可能性が高い。さらに、萌芽期が高温期であるため、萌芽の向上を通した株出し収量の改善が期待される。ただし、この作型については従来の冬収穫用品種では糖度が低く対応できないため、夏・秋に高糖度に達する品種の開発が必要である。このような特性を具える系統はすでに開発され、品種登録も遠くはない。南・北大東島への導入を視野に入れた試験栽培の実施が急がれよう。
(2) 干ばつ・台風への抵抗性の高い品種の育成
ハーベスタの稼働率向上による原料生産コストの低減、労働の分散による重労働感の緩和などには収穫期間や植え付け期間の拡張が必要である。そのためには、先述した夏植株出し体系、夏植え型1年栽培のほかに、現在の栽培型の強化が必要であり、春植・株出し体系においても干ばつ・台風に抵抗力の高い施設整備、肥培管理、品種特性の改良が必要である。施設整備の要点は、溜池・導水管の整備と防風林の整備であり、肥培管理技術開発の要点は節水型栽培技術と灌水技術、早期・適期管理を可能にするための省力的機械化の達成である。根系が優れ、初期生育が早く風折が発生しにくいさとうきびの開発も重要事項である。幸い、沖縄県下では、従来型点滴灌漑を改良した土中点滴灌漑技術、作溝・植え付け・施肥一環作業型のプランター、プラソイラや堆肥の条まき散布機などが開発され、南北大東島では溜池と点滴灌水の施設拡充、防風林の植栽が進められている。第3、4表に示したように、品種の選定も進んでいる。干ばつ・台風に抵抗性の高いさとうきび、節水型栽培技術、灌水・防風の基盤整備が揃って進められており、安定栽培への道筋はつけられたといえよう。
(3) 南・北大東島における栽培改善の基本
収量増加の要素は茎数の増加、あるいは1茎重の増加である。南北大東島は全量をハーベスタ収穫で行っており、畦幅は県下でも最も広い。土壌は踏圧によって硬化しがちな上に、肥沃度も保水力も低い。干ばつが常発するため、茎の伸びは悪く1茎重は軽い。両島の培土は多回株出しを意識するせいか比較的低く、そのためもあって、株当たり茎数は他の地域と比べて多く、畦方向には切れ目無く立毛が覆っている。畦方向への茎の増加はこれ以上望めないため、単位収量の向上には畦間方向への茎数増加が必要である。そのためには畦間の短縮が不可欠であるが、大型ハーベスタ収穫のため現状では不可能である。大型ハーベスタを用いる理由は、広い圃場と短い収穫期間である。すなわち、収穫期間を拡張できなければハーベスタの小型化は難しいこと、単位収量向上の鍵は収穫期間拡張の成否が握っているということができる。収穫期間拡張に伴うハーベスタの小型化には、主目的である畦間方向での茎数増加に加え、土壌踏圧軽減による物理性悪化の抑制を通した1茎重の増加も期待される。当面の対策としての幕上における夏植え型株出し栽培、今後の方向としての夏植え型1年栽培導入の検討はこのことの促進も意味している。さとうきびを取り巻く状況は厳しさを増している、基盤整備の充実と共に、さとうきびの特性を最大に生かした栽培と利用法による生産の安定と向上、その道を進むことも近道の一つである。
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