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こころの栄養としての砂糖〜砂糖摂取によるストレス低減の検討〜

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報
今月の視点
[2005年11月]

【調査・報告〔砂糖/健康〕】

日本学術振興会 特別研究員   内藤まゆみ
お茶の水女子大学文教育学部   教授 坂元章

1.はじめに
2.調査方法
3.調査結果
4.要約
5.考察

1.はじめに

  ストレス解消法として「甘いものを食べる」人は少なくない。砂糖が情動ストレス(イライラする、不安だ、落ち込む、など)を和らげるよう作用することは、科学的研究によっても裏づけられつつある。例えば、うつ感情は脳内の神経伝達物質であるセロトニン神経系の機能低下が一因であるが、砂糖(ブドウ糖)の摂取はセロトニン生成物質の吸収を促進するとされている1)。このように、脳生理学的研究は砂糖が持つストレス低減効果の脳内メカニズムを明らかにし始めた。こうした知見をふまえると、砂糖は「こころの栄養」といえよう。
 一方、砂糖に対しては「太る」「糖尿病になる」という誤ったイメージが流布している。このため、砂糖摂取は「健康に良くないのでは」いう懸念を生じさせ、ひいては情動ストレスを増加させることも考えられる。
 このように、砂糖についてはストレス緩和というポジティブな影響と同時に、ストレス喚起というネガティブな影響も想定されるが、その真偽は明らかではない。これまでの研究は、砂糖に起因する神経伝達物質の働きなど、豊富な知見を提示してきたが、その多くはラットなど動物を被験体にしている。砂糖がはたして情動ストレスを緩和するのか、あるいは喚起するのかを解明するに、人の日常的な行動を検討したものはごくわずかである2)。
 そこで、本研究では、一般の人々を対象に実証的研究を行い、砂糖を摂取することが情動ストレスを緩和するか、あるいはストレスを喚起するのかどうかを明らかにする。そのためには、実際にどの程度砂糖を摂取しているか測定する必要があるが、正確な摂取量を測定することはほぼ不可能である2)。そこで、予備調査によって「甘いもの」として認知されている食品を調査し、本研究においてそれらの「甘いもの」を日常生活においてどのくらい食べているかを測定し、それをもって砂糖摂取量とする。また、あわせて、砂糖に起因する健康懸念として想起される事柄を予備調査し、一般にそれらの事柄がどのくらい心配されているかを本調査で測定する。情動ストレスについては、鈴木の研究2)を参考にCMI健康調査票を用いて測定する。

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2.調査方法

予備調査
 調査回答者 東京都内の大学生23名。
 砂糖摂取に関する項目 「甘いものが食べたいと思ったとき、スーパーやコンビニでどんな商品を買うか」を尋ね、自由記述で回答を求めた。得られた回答を表1に示す。
 これらの商品のうち回答数の少ないものは、類似しているものと同一のカテゴリーに含めた。その結果、「カップデザート(例:プリン、ヨーグルト、ゼリー、杏仁豆腐など)」「チョコレート」「アイスクリーム」「ケーキ・クッキー」「缶入り飲料(例:コーヒー、ジュース、ココアなど)」「アメ・ガム」「和菓子(例:羊羹、大福、団子など)」「菓子パン」の8つのカテゴリーに分類された。これらのカテゴリーを「日常食べる甘いもの」とみなし、本調査の項目として採用した。

表1 甘いものが食べたいときに買う商品

 健康懸念に関する項目
 「砂糖についてどのようなイメージを持っているか」を尋ね、自由記述で回答を求めた。得られた回答をマイナス、プラス、中立の3つに分類した(表2)。

表2 砂糖に関するイメージ

 マイナスのイメージに関する回答は26個と最も多かった。続いて、プラスのイメージに関する回答が18個であり、中立的な内容の回答が4個であった。マイナスのイメージを詳しくみると、太ると回答した者が圧倒的に多く、次に病気に関する回答が多かった。予備調査では、砂糖に関してはマイナスのイメージが先行すると考えられたので、本調査においては、砂糖摂取による健康懸念に関する項目として、肥満項目と病気項目を測定することとした。


本調査

 調査回答者と手続き 全国の10代から50代までの男女を対象に、約1週間の間隔で2回の縦断調査を実施した。具体的には、Web調査会社に消費者モニターとして登録している20万人のうち、10代から50代までを5世代に分け、各世代において120名(男性60名、女性60名)を無作為に抽出した。これら合計600名に対し、第1回の調査依頼をメールにて送信したところ、555人から回答が得られた。第1回の調査回答者を対象に、再び第2回の調査依頼を送信した。2回とも回答が得られた433名について、分析データとして使用した。その内訳を表3に示す。

表3 調査回答者の年代と性別

 調査項目 (1)砂糖摂取 予備調査から得られた8つのカテゴリーについて、最近1週間のうちにどのくらい食べたかを、「1:全く食べなかった」「2:週に1、2回食べた」「3:週に3、4回食べた」「4:週に5、6回食べた」「5:毎日食べた」の5段階評定で回答してもらった。
 (2)健康懸念 予備調査の結果をふまえ、肥満に関する2項目(「自分が太っていないか気になる」「やせるためにダイエットするかどうか悩んでいる」)と病気に関する2項目(「体の調子が悪いのではないかと不安を感じることがある」「食生活が原因で病気にならないか心配だ」)を作成した。これらの項目について、自分にどのくらいあてはまるかを「1:全く当てはまらない」「2:あまりあてはまらない」「3:どちらともいえない」「4:少しあてはまる」「5:非常にあてはまる」の5段階評定で回答を求めた。
 (3)情動ストレス 調査回答者の精神的健康状態を測定するため、CMI健康調査票を用いた3)。これは、来院患者の精神面と身体面の両方にわたる自覚症状を調べるものであるが、本調査では精神的自覚症の項目を用いた。精神的自覚症は、不適応12項目、抑うつ6項目、不安9項目、過敏6項目、怒り9項目、緊張9項目の合計51項目からなる。これらの項目が自分にあてはまる程度について、「1:全く当てはまらない」「2:あまりあてはまらない」「3:どちらともいえない」「4:少しあてはまる」「5:非常にあてはまる」の5段階評定で回答してもらった。

3.調査結果

 各変数の平均
 砂糖摂取量、健康懸念、情動ストレスの平均点および標準偏差を表4に示す。
 砂糖摂取をみると、各カテゴリーの平均値は1.5〜2.7の範囲にあり、「週に1、2回」から「週に2、3回」程度は甘いものを食べていることが示された。健康懸念については、肥満項目および病気項目の平均値は6.5前後であり、これらの問題について中程度の懸念を抱いているといえよう。情動ストレスについては、それぞれの症状の項目数が異なるためにそのまま比較することはできないが、どの症状においても中程度の症状を自覚している回答者が多いと考えられる。

表4 各変数の平均値と標準偏差

注)砂糖摂取量は1項目(1〜5点)、健康懸念は肥満
と病気それぞれ2項目(1〜10点)ずつ、情動ストレ
スは不適応12項目(12〜60点)、抑うつ6項目(6〜
30点)、不安9項目(9〜45点)、過敏6項目(6〜30
点)、怒り9項目(9〜45点)、緊張9項目(9〜45
点)の合計51項目からなる。

砂糖摂取と情動ストレスの因果関係
 砂糖を摂ると情動ストレスが低減されるのか、その反対に砂糖摂取によって健康懸念が高まり、結果として情動ストレスが増加するのかどうかを明らかにするため、共分散構造分析を行った4)。
 分析では、図1のような交差遅れ効果モデルを想定した5)。図中の砂糖摂取から情動ストレスへのパスaが有意であれば、砂糖を摂ることが原因となって情動ストレスが変化することを示す。パスaが有意な場合、その係数がマイナスであれば、砂糖を多く摂ることで情動ストレスが低減するというポジティブな影響を意味する。


図1 砂糖摂取と健康懸念、情動ストレスの交差遅れ効果モデル

 一方、砂糖摂取から健康懸念へのパスbが有意であり、かつ健康懸念から情動ストレスへのパスcが有意であれば、砂糖摂取量が健康懸念を経由して情動ストレスを変化させることを示す。この場合、パスbおよびパスcの係数がプラスであれば、砂糖摂取は健康懸念を高めることで情動ストレスを喚起するというネガティブな影響があることを意味する。
 砂糖摂取として「カップデザート」「チョコレート」「アイスクリーム」「ケーキ・クッキー」「缶入り飲料」「アメ・ガム」「和菓子」「菓子パン」の8項目の回答を個別に投入し、情動ストレスとして「不適応」「抑うつ」「不安」「過敏」「怒り」「緊張」の6症状を個別に投入した。すなわち、8×6=48個の交差遅れモデルの分析を行い、パスaおよびパスbの検討を行った。分析では年齢と性別を統制した。また、同時点に測定された変数には共分散を仮定した。
 その結果、砂糖摂取として「菓子パン」を投入し、情動ストレスとして「不安」を投入したモデルにおいて、パスaの係数(−0.35、p<0.06)に傾向差が示された。係数がマイナスであることから、「菓子パンを多く食べる」と「不安が減少する」というポジティブな因果関係が示唆されたといえる。
 これと同時に、パスbの係数(0.30、p<
0.05)およびパスcの係数(0.16、p<0.05)も有意であった。両方とも係数がプラスであったことから、「菓子パンを多く食べる」と「健康懸念が高まる」ために、結果として「不安が高まる」というネガティブな因果関係が示唆されたといえる。
 菓子パン以外の砂糖摂取および不安以外の情動ストレスに関しては、有意なパスは認められなかった。表1では、チョコレートやアイスクリームの回答が多く、その情動ストレス低減効果が推測されるが、それらに関しては効果が認められなかった。一方、表1では回答が少なかった菓子パンにおいて、その効果が示された。これは、〈「甘いもの」として思い出す回数〉と、〈それが実際に食べられるかどうか〉、さらに〈それがストレスを減らす程度〉とは、必ずしも同じではないことを意味するためと考えられる。
 表1で示した調査項目は、普段の生活の中で「甘いもの」と認識されている商品を幅広く捉えるためのものである。その回答では、菓子パンを想起した者は、アイスクリームを想起した者より少ない。しかし、後に1週間にどのくらい食べるかと尋ねた場合には、むしろアイスクリームより多かった(表4)。以上の結果から、菓子パンについては、想起回数と実際の摂取量との関連が弱いと考えられる。菓子パンは食事パンとの類似性が高いため、「甘いもの」としては思い出しにくいのかもしれない。
 また、チョコレートは想起回数および実際の摂取量との関連は高いが、そのストレス低減効果は見られなかった。本調査では、因果関係を検証する方法として用いられる共分散構造分析(端的に言えば、先に存在する要因「砂糖摂取」が、後の「情動ストレス」を変化させるかどうかを調べる手法)を行っており、その結果、想起回数が多いチョコレートは、実際にも多く食べられているが、その量が情動ストレスを変化させるような影響をも持たないことが示された。これより、想起回数とストレス低減効果についても、両者の関連は弱いと考えられる。

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4.要約
 日常食べる「甘いもの」の量を、「カップデザート」「チョコレート」「アイスクリーム」「ケーキ・クッキー」「缶入り飲料」「アメ・ガム」「和菓子」「菓子パン」の8カテゴリー別に測定し、それらが情動ストレスに及ぼす影響を調べた。共分散構造分析の結果、「甘いもの」として思い出されやすい「チョコレート」「アイスクリーム」ではいかなる効果も認められなかった。しかし、「菓子パン」については因果的影響が検出された。その結果を簡潔に図示すると、図2のようになる。菓子パンは、直接的には情動ストレス、特に不安を緩和するポジティブな影響をもつことが示唆された。しかし、これと同時に、菓子パンは健康懸念の高まりを通して不安を喚起するというネガティブな影響も持つことが提示された。

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5.考察

 本研究は、砂糖の持つ両価的な心理的影響(情動ストレスを緩和するのか、あるいは喚起するのか)を検討した。その結果、砂糖摂取は情動ストレスを低減する原因になることが示唆された。しかし、砂糖摂取によって「太るのではないか」「病気になるのではないか」という健康への懸念が増加することで、情動ストレスが増加するという負の側面を有することも示唆された。
 こうした2つの影響は、ポジティブなパスaとネガティブなパスb・パスcを想定することで明らかになったが、日常生活においてはこのような2つの経路が見えることはない。実際には、2種類のパスの引き算{パスa−(パスb+パスc)}によって、より影響力の強いものが認識されると考えられる。本研究の分析の結果、パスbとパスcが有意であり、パスaがパスb+パスcを下回る傾向であったことを考慮すると、日常的には砂糖のネガティブな影響の方が認識されやすいのかもしれない。
 そうであるならば、砂糖摂取に伴って健康懸念が高まる可能性は非常に高くなり、その結果としてネガティブな影響が強まることも十分考えられる。そうした事態を防ぎ、砂糖のポジティブな影響を最大限に活かすためには、そのネガティブなイメージの修正が鍵となる。砂糖を摂ったからといって、必ずしも肥満につながるのでもなく、病気になるのでもない。むしろ、精神の安定のためには積極的に砂糖を摂ることを勧める意見もある6)。パスbは砂糖に関する誤った知識に起因するものであり、これを是正し、その望ましい効果を広く知らせるために、一般向けの啓蒙活動を推進していくことが望まれる。本研究は、砂糖のストレス低減効果を実証的に示唆した点で、そうした活動の一助になると考えられる。
 この調査で測定された砂糖摂取の回数は「1週間に何回か」という単位である。したがって、日に何個も菓子パンを食べたからといって、ストレスが緩和されるのではない。あくまでも許容量を超えない範囲でという条件がついていることには留意されたい。
 本研究では、菓子パン以外の砂糖摂取はいかなる効果も認められなかった。したがって、砂糖に加えて炭水化物を摂取することがストレス緩和に必要である可能性もある。今後は、砂糖独自の効果と、砂糖および炭水化物の相乗効果の比較を行い、ストレス緩和効果の検討を進めることが望まれる。
 「ストレス解消には甘いものを食べる」という経験の知は、いまや科学的研究の領域になり、その実証的根拠も提示され始めた。これまで、その検討は栄養学や脳生理学を始めとする領域で盛んに行われてきた。その結果、現在までに多様な知見を得ることができたが、砂糖が実際に人々の心理的状態にどのような影響を及ぼすのかどうかは明らかではなかった。砂糖の効果を多角的に理解するためには、新たな学問領域での検討が有効であろう。本研究はその端緒となるものであり、砂糖に関する心理学的知見を新たに提示した点で意義深いものと考えられる。


図2 砂糖摂取が持つ両価的な心理的影響

引用文献
1)砂糖を科学する会 砂糖健康学入門2 http://www.sugar.or.jp/health2/0501.shtml
2)鈴木英鷹 2001 メンタルヘルスと砂糖摂取量 大阪体育大学短期大学部研究紀要、創刊号、31―37。
3)金久卓也・深町建 1983 コーネル・メディカル・インデックス 三京房
4)Finkel, S. E. 1995 Causal analysis with panel data. Thousand Oaks: Sage.
5)安藤玲子・坂元章・鈴木佳苗・小林久美子・橿淵めぐみ・木村文香 2004 インターネット使用が人生満足感と社会的効力感に及ぼす影響―情報系専門学校男子学生に対するパネル調査― パーソナリティ研究、13、21―33。
6)高田明和 2000 「食べ物の西欧化と過食」は本当か 治療、82、104―105。

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