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サイトカイン産生量を指標とした砂糖の腸管免疫系への影響

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2005年12月]

【調査・報告〔砂糖/健康〕】

千葉大学大学院薬学研究院   教授 戸井田敏彦
助手 酒井 信夫

1.はじめに
2.調査方法
3.調査結果
4.考察

 本調査では、砂糖摂取が免疫系に及ぼす影響について確認するため、砂糖水を投与した実験動物(マウス)と水を与えたマウスとの対照実験を行い、さらに、関節炎のマウスに対しても同様の実験を行った。
 その結果、砂糖水を投与したマウスは、アレルギー性疾患に対する抑制効果、そして、関節炎などの炎症に対する軽減効果のあることが示唆された。  今後は、実験例を増やし、アレルギー性気管支炎といったヒトの免疫性疾患に対する砂糖の薬理的効果について明らかにしていきたい。

1.はじめに

 サイトカインとは、免疫の反応などによって細胞から体液中に分泌されるたんぱく質であり、ヒトの免疫系のバランスを調節する作用がある。
 一方、プロバイオテックスと呼ばれる我々の腸内に生息する、身体に良い影響を与えるビフィズス菌などの善玉菌や、そのような善玉菌などの生育を助けるプレバイオテックスと呼ばれる物質(オリゴ糖など)の免疫系への作用、すなわち腸管粘膜内に存在する免疫系の細胞のサイトカイン産生能に作用し、免疫系に影響を与える仕組みが急速に明らかにされつつある。
 これらを踏まえた上で、日常的に口にしている砂糖の免疫系に及ぼす影響について、昨年度より調査を開始したが、用いた実験動物の母集団が小さかったために統計的な優位差は見出されなかった。そこで、今回は昨年度よりも実験動物の数を増やして調べるとともに、免疫系への影響を確認するためのもう一つの評価系として炎症抑制効果を採用し、実験的に関節炎を誘導したマウスに対する経口投与した砂糖の効果を調べた。

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2.調査方法

実験動物
 動物は全て免疫応答が敏感な雌のマウス6週齡(日本SLC)を用い、1週間以上動物舎で予備飼育した後、実験に用いた。予備飼育から実験中を通して23±2℃、湿度55±5%に保った快適な環境で飼育し、食餌(CRF―1、オリエンタル酵母)、0.1%砂糖および水は全て自由に摂らせた。

免疫計画
 ニワトリ卵白のアルブミン(OVA)20μgおよび免疫応答を高めるALUM2mgを400μLの生理食塩水に溶かし、マウスの腹部に投与(1次免疫)した。14日後にさらにマウスの免疫系を刺激するために同量のOVAを投与(2次免疫)し、翌日にはマウスから脾臓を取り出した。本調査では1次免疫の7日前から0.1%砂糖を自由に与え、予防効果についても調べてみた。効果を確認するための対照群のマウスには砂糖水の代わりに水を与えた。

脾臓細胞の採取・培養法
脾臓細胞の培養培地調製
脾細胞の採取

 OVAをマウスに与えると、OVAがマウスにとって異物であるので抗体ができる。そこで、この抗体がマウス血液中に上昇したのを確認した後、マウスから脾臓を取り出した。取り出した脾臓をシャーレの中で脂肪などを除き、脾臓細胞だけを取り出した。取り出した脾細胞をチューブに移し、1600xg、4℃、5分間遠心分離でさらに余分な血液などを除いた後に、計算板で生きた脾臓細胞数を数え、5x106cells/mLになるように調製した。

サイトカインの定量
 各種のサイトカインの測定は、市販の測定キットを用いて行った。

脾細胞培養
 一定数のマウス脾臓細胞を2mL/wellで24穴プレートに加えた後、OVAを最終濃度100μg/mLとなるように添加し、37℃、CO2濃度5%の条件下にて培養した。72時間後にwell中の脾臓細胞及び上清をチューブに回収し、1600xg、4℃、5分間遠心分離で上清を採取し−80℃で保存した。

実験的な関節炎の誘導
 2型コラーゲンに対する抗体を用いたマウス四肢の関節炎の誘導は、市販の関節炎誘導モノクローナル抗体を用いた。すなわち、2型コラーゲンに特異的な4種のモノクローナル抗体の混合品2mgをマウスの尾静脈に投与し、その3日後に50μgのリポ多糖をマウスの腹部に注入して関節炎を誘導した。

関節炎治療効果の評価
・肥厚度測定法
 抗体を投与する6日前より、投与してから24日までの31日間の調査期間中、マウスの四肢の関節の厚さは、専用の四肢容積測定装置で測定し、四肢の厚みの合計を関節炎の指標とし、調査群、対象群のマウスの平均値をとり、比較した。

目視による評価法
 抗体を投与する6日前より投与してから24日までの31日間の調査期間中、マウスの四肢を観察し、下記の基準に従って可能な限り客観的にマウスの四肢関節炎の評価を行った。採点法は、それぞれの肢について0〜4点を付け、四肢の合計をとり、各群の平均により比較を行った。以下に各点数の症状を示した。
0:症状なし、正常
1:1本の指が赤く腫れている
2:2本以上の指が赤く腫れている
3:指と踵が赤く腫れている
4:肢全体が赤く腫れて、関節の動きが悪い


図1.培養系に添加した砂糖のマウス脾臓細胞によるサイトカイン産生への影響

3.調査結果

 3−1 砂糖のマウス脾臓細胞サイトカイン産生に及ぼす影響
 図1に示すとおり、水だけを与えた対照群のマウス脾臓細胞と比較して、砂糖水を与えたマウスの脾臓細胞は、Th2型のサイトカインであるIL―5の産生を統計学的に有意に抑制することが明らかとなった。また同じTh2型のサイトカインであるIL―10の産生も、統計学的には有意差はないものの抑制する傾向を示した。このことは、砂糖の摂取が脾臓細胞、特に幼若なT細胞の分化を誘導する可能性を示すものである。
 従って、砂糖の投与により免疫系が活性化し、アレルギー性疾患に対しても効果を示す可能性があるものと考えられる。

3−2 実験的な関節炎の治療に対する砂糖の影響
 関節炎の形態を観察して評価する方法によりスコアを付け、四肢の合計を関節炎の治療効果とし、各群の平均により比較を行った。本調査の評価に用いた関節炎の重篤度を図2に示す。

0:症状なし、正常
1:1本の指が赤く腫れている
2:2本以上の指が赤く腫れている
3:指と踵が赤く腫れている
4:肢全体が赤く腫れて、関節の動きが悪い


図2.関節炎の評価

 関節炎を誘導する1週間前から誘導後24日目まで、マウスの肢踵の浮腫を計測したところ、図3に示すように砂糖の投与群は生理食塩水を投与した対照群と比較して、誘導後8日目頃より肥厚が抑制されはじめた。また、同期間、関節炎を誘導させない未処置マウス群に、砂糖及び生理食塩水を同様に経口投与したが、当然のことながら肢、踵、関節などの厚さに変化は認められなかった。
 一方、図4に示すように、四肢の関節炎を観察しスコアを与える評価法では、砂糖の投与群は生理食塩水投与の対照群と比較して、統計的に有意差はなかったものの、炎症誘導7日目頃より関節の肥厚が抑制される傾向が認められた。
 このことから、砂糖を経口投与することによって関節炎などの炎症軽減効果があると考えられ、実験例をさらに増やして検討すると明確になるものと考えられる。


図3.実験的関節炎に対する経口投与した砂糖の効果
赤線、関節炎マウスに食塩水を投与(5匹のマウスを使用);青線、関節炎マウスに砂糖を
投与(5匹のマウスを使用);水色、正常マウスに食塩水を投与(5匹のマウスを使用);
黄線、正常マウスに砂糖を投与(5匹のマウスを使用)。




図4.実験的関節炎に対する経口投与した砂糖の効果
赤線、関節炎マウスに砂糖を投与(5匹のマウスを使用);青線、関節炎マウスに食塩水を投与
(5匹のマウスを使用)


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4.考察
 関節炎などの炎症性の病気に悩む患者数は増加の一途をたどり、世界で慢性関節リウマチの患者数は700万人、喘息の患者数は3400万人にのぼるといわれている。現在汎用されているステロイド系の医薬品は使用が難しく、専門医の指導を受けなければならないので、使いやすく効き目が高く、かつ副作用のない安全な抗炎症治療剤の開発が待たれている。しかし、喘息、アトピー性疾患などの免疫性疾患はその発症機序について不明な点が多く定説はないが、体質という科学的根拠に乏しい個人個人の生まれつき持っている違いを指摘する専門家もいる。今回、砂糖の経口投与によるヘルパーT細胞の分化誘導、すなわち全身性免疫系への効果を調べ、対象群と明らかな差異が再度確認された。今後マウス脾臓細胞膜に存在するであろう砂糖の受容体を確認すること、およびその作用メカニズムについて興味が持たれる。
 一方、2型コラーゲンに対する抗体を用いて誘導した関節炎のモデルマウスを用いてアレルギー反応に対する砂糖の抗炎症について評価したところ、関節の腫れに対して非常に弱いが抑制効果が認められ、砂糖の抗炎症作用が示された。アレルギー反応は、からだの中に入り込んだ外来異物、すなわち抗原と、これに対する抗体が結合して体の中で沈着し、これを取り除こうとする免疫系が活性化することによって誘導される反応であり、アレルギー性気管支炎、全身性エリテマトーデスなどが代表的な病気として知られている。本調査で確認された砂糖の経口投与による抗炎症効果は、これらの疾病に対しても効果を示す可能性があることから、今後、さらに免疫系に対する砂糖の効果を明らかにしていきたいと考えている。
 これまで砂糖の薬理的効果については1983年にin vitroで酵素活性を安定化する作用の報告以外見当たらず、今回の結果、特に免疫系を担当するT細胞のサイトカイン産生に及ぼす砂糖の効果は、今後の研究の進展が大いに期待される。

専門的な言葉の説明
インターフェロン―ガンマ(IFN―γ)
 インターフェロンは人間等がウイルス感染を受けた時などに体の中で作るタンパク質の一種。インターフェロンの種類は、現在までにα(アルファ)型、β(ベータ)型、γ(ガンマ)型の3種類がある。それぞれの性質は少しずつ異なるが、主な作用として抗ウイルス作用、免疫増強作用、抗腫瘍作用などがある。
インターロイキン(IL)
 リンパ球やマクロファージなど、免疫担当細胞が産生するサイトカインの1種。細胞の活性化、分化、増殖、および細胞間の相互作用などに関与している。現在、20種以上が同定され、慢性関節リウマチ(IL―1)、アレルギー疾患(IL―5)など、さまざまな病態との関与が示唆されている。
液性免疫
 抗原が体内に侵入すると、まずマクロファージがこれを食べ無害化するとともに、その抗原の一部を細胞表面に突きだす(抗原提示)。提示された抗原に対応するT細胞がこれをとらえ、B細胞に抗体産出の指令を出す。指令を受けたB細胞は抗体を作る細胞(形質細胞)になって抗体産出を開始し、血液中に放出する。
 この際、B細胞に抗体産出を指令するT細胞をヘルパーT細胞といい、抗体産出を抑制するT細胞をサプレッサーT細胞という。
抗原
 抗原とは、生体内に入ると抗体を作る性質を持ち、生体内または試験管内で抗体と特異的に結合する性質を持つ物質。細菌、毒素、異種タンパク質など生体にとって異物的な高分子物質が抗原として作用する。
抗体
 抗体とは、異物である抗原が体内に入ることによって免疫反応を起こし、抗原と特異的に結合する性質を持つものの総称。
恒常性(ホメオスタシス)
 生物の体内諸器官が、外部環境(気温・湿度など)の変化や主体的条件(姿勢・運動など) に応じて、統一的、合目的に体内環境(体温・血流量・血液成分など)を、ある一定範囲に保っている状態、および機能。哺乳類では、自律神経と内分泌腺が主体となって行われる。その後、精神内部のバランスについてもいうようになった。
サイトカイン
 細胞という意味の「サイト」と、作動因子という意味の「カイン」の造語で、1969年、感作リンパ球を抗原で刺激したときに放出される物質をリンフォカインと呼んだのが、この方面の研究の始まりである。その後の研究によりサイトカインにはインターロイキン(IL)、増血因子、増殖因子などいろいろなものが含まれるようになった。 当初サイトカインの機能は免疫系の調節、炎症反応の惹起、抗腫瘍作用などが中心であったが、最近では細胞増殖、分化、抑制といった生体の恒常性維持に重要な役割を果たす物質であることが明らかになった。遺伝子操作技術の導入により、サイトカインのヒト疾患の病態形式での役割が明らかとされ、その結果、サイトカインを標的とした治療法が考えられている。
細胞性免疫
 侵入した抗原を貪食したマクロファージの抗原提示に始まり、ヘルパーT細胞、サプレッサーT細胞のコントロールのもとに、特定の抗原とだけ反応するエフェクター細胞、あるいはその抗原と直接対抗するキラーT細胞ができて、外敵を攻撃、排除する。
T細胞
 T細胞は胸腺で分化するため、胸腺(Thymus)の頭文字を取りT細胞と命名された。T細胞はその機能によって、免疫応答を促進するヘルパーT細胞、逆に免疫反応を抑制するサプレッサーT細胞、病原体に感染した細胞や癌細胞を直接殺すキラーT細胞などに分類される。
ヘルパーT細胞
 T細胞から分かれてできたヘルパーT細胞は、キラーT細胞やB細胞、マクロファージが活発に働くような物質を出す細胞。キラーT細胞、B細胞やマクロファージに病原菌を殺すように指令を出す。
免疫
 生体が疾病、特に感染症に対して抵抗力を獲得する現象。自己と非自己を識別し、非自己から自己を守る機構で、脊椎動物で特に発達、微生物など異種の高分子(抗原)の体内への侵入に対して、リンパ球、マクロファージなどが働いて特異な抗体を形成し、抗原の作用を排除、抑制する。細胞免疫と体液性免疫とがある。
リンパ球
 白血球の一種。骨髄で作られ、胸腺・リンパ節・脾臓で分化・増殖する。運動性や食作用は弱いが、大食細胞と協同して抗体を産生し(B細胞ともBリンパ球とも呼ばれる)、または細性免疫および免疫機能調節を担う(T細胞ともTリンパ球とも呼ばれる)。


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