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干ばつ・台風と南大東島〜状況改善に必要なほ場試験〜

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

今月の視点
[2006年6月]

【調査・報告〔生産/利用技術〕】

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
九州沖縄農業研究センター
  研究管理監 杉本  明
バイオマス・資源作物開発チーム   研究員 寺島 義文
沖縄県農業研究センター・作物班   主任研究員 宮城 克浩

はじめに
1.2005年南大東島における台風・干ばつ被害の概要
2.12月収穫後の株出し栽培と2月収穫後の株出し栽培との生育の差異
3.有望系統RK95-1の有用性
4.RK95-1を用いた収穫早期化を通した収量安定
5.厳しい環境条件下における安定的砂糖生産
おわりに −栽培改善に向けたほ場試験の計画−


 はじめに

 2004年、南北大東島は厳しい干ばつと台風に見舞われた。北大東島では10アール当たり収量2.32トン、甘蔗糖度12.5%、南大東島は10アール当たり収量が3.15トン、甘蔗糖度が12.4%であった。2005年も厳しい気象災害を受けた。このことは、この地域にとって、台風・干ばつはもはややむを得ぬ気象災害ではなく、営農・企業活動の実施に際してあらかじめ想定すべき環境条件と考えるべきであることを示している。筆者らは(独)農畜産業振興機構の依頼を受け、2002年に南西諸島各地のさとうきび生産地域における少収ほ場の現地診断を実施し、さとうきびの収量構成要素に沿って、それぞれの地域における少収の主因とその対策の基本的方向について言及した。また2004年の気象災害発生後に再度同地を訪ね、台風・干ばつ被害の実態と被害緩和に向けた対策の概要について報告した。それらの中で、大型ハーベスタを用いた短期収穫のために強いられる広畦栽培の問題点、普及品種の問題点、栽培型の問題点を述べ、同島に特徴的な幕上(島の外縁を形成する地域で干ばつ・台風の影響を強く受ける)、幕元(幕上に接する一段下がった地域で幕上との境に防風林があることが多い。水供給もよく島内では最も生育環境の良い地域である)、幕下(幕元に接し、島の中心部に続く低地部分で幕上と比べると水供給等の環境がよい)の自然環境の特徴に触れて、品種の変更、作型の変更を中心に、それぞれに相応しい栽培のあり方を提案した。
 2005年は、繰り返された厳しい自然環境条件の中における、新たな技術としての有望系統の生育状況、植え付け時期や収穫期の違いによる春植、株出しの生育の違いについて調査した。その結果に基づく新技術開発の具体的方向を報告する。

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1.2005年南大東島における台風・干ばつ被害の概要

 2005年も、気象災害が大きかった。9月4日に最大風速32.8m/sec、最大瞬間風速55.6m/sec、の台風があった。台風はこの1個のみであったが、6月26日〜8月4日の間、その間の雨量が9.5mmと厳しい干ばつが発生した。筆者らが調査に訪れた10月18日には既に緑が回復していたが、茎は短く、収穫時までに収穫し得る立毛への生長が期待できるほ場は多くはなかった。しかし、全体的に生育不良な中にあっても、灌水したほ場の生育は優れ、幕元のほ場も生育は良かった。さらに春植や株出しに比べ夏植の生育は良かった。幕上のほ場でも無灌水のほ場の生育は悪く、幕外で無灌水の場合には収穫不能と思われるほ場も多く見られた。灌水の有無が生育良否の分かれ道と見られることから、この地域にとって干ばつ被害の回避がいかに重要であるかが分かる。
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2.12月収穫後の株出し栽培と2月収穫後の株出し栽培との生育の差異

 沖縄本島や種子島におけるこれまでの試験で、秋収穫後の株出し栽培は、冬収穫後の株出し栽培に比べ温度条件が緩和されるので萌芽が良く、原料茎数が多いために多収であることが報告されている。一方、沖縄本島におけるNCo310を用いた試験からは、12月収穫後の株出しは萌芽が悪く原料茎重も少ない事が知られている。夏植は春植や株出しに比べ台風・干ばつへの抵抗性が高いことが経験的に知られている。
 写真1に、幕下に設置された試験ほ場におけるRK95-1の12月収穫後の株出し栽培と2月収穫後の株出し栽培の生育状況を示した。同一のほ場であるが、茎の伸長には大きな差異が認められた。2月収穫後の株出しは伸長不良で少収が必至であるが、12月収穫後の株出しは伸長も良く茎数も比較的多く、干ばつの影響はほとんど認められなかった。12月収穫の株出しの場合は、2月収穫後の株出しと比べて生育開始が早いので、冬・春季の生育が順調であれば台風・干ばつの影響は少ないはずである。すなわち、低温条件下の12月収穫でも、萌芽が順調であれば、12月収穫後の株出しは春収穫後の株出しより台風・干ばつ発生条件下の生育が良好なはずである。第2表に示すように、RK95-1は大東島以外の冬収穫で株出し多収である。このことは、同系統の低温下での萌芽が概して優れる事を示唆しており、写真に見られる12月収穫後の株出し栽培の良好な生育状況は納得のいくものと考えられる。
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3.有望系統RK95-1の有用性

 第1表に南大東島の2月収穫後の株出し栽培におけるRK95-1の収穫調査の結果を示した。RK95-1は、試験期間である平成14、15、16年の、いずれの年でも普及品種F161より可製糖量が多かった。第3表に示すように、10月の調査でも可製率が高く、秋収穫への対応も可能である。第2表には沖縄本島における2月収穫後の株出し栽培における収穫調査の結果を示す。株出し多収性を特徴とするNi9と比べて茎数はやや多く原料茎重は重い。可製糖率が高いために可製糖量は明らかに優れることが示されており、この系統が低温期にも萌芽が優れることを示唆している。第4表には干ばつ被害が大きかった2005年の、12月収穫後の株出し栽培(幕下での無潅水による栽培)の結果を示した。幕下での株出し栽培では、無潅水であっても茎の伸長が良く(写真2)、収量はF161で680kg/a、RK95-1で859kg/aと多かった。F161は可製糖率が低かったがRK95-1は13.1%と高く、可製糖量も113kg/aと実用上十分な量に達した。灌水したほ場での生育はさらに良く、多収が得られる見込みである(写真3)。
 このことはRK95-1の南大東島における有用性、すなわち、収穫早期化に必要な早期高糖性と、台風・干ばつに比較的強いと考えられる12月収穫後の株出し栽培に必要な低温期収穫における株出し栽培への適応性が高いことを示唆している。

写真1 RK95-1の株出(左;2月収穫後、右12月収穫後)
   
写真2 春植のF161(左)とRK95-1(右)

第1表 南大東島の2月収穫後の株出し栽培におけるRK95−1の収穫調査成績
 
第3表 南大東島の2月収穫後の株出し栽培の10月調査におけるRK95−1の特性
 
第4表 平成17年の南大東島におけるRK95−1の収穫調査成績(12月収穫)

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4.RK95-1を用いた収穫早期化を通した収量安定

 RK95-1はF161と比べ糖度上昇の時期が早く、12月収穫では可製糖率で13.1%に達する。第2表からも分かるように冬収穫でも萌芽が良好である。南大東島における12月収穫の場合、萌芽が優れ、その後の生育も順調なため、原料茎数が886本/aと比較的多く、原料茎長は230cmと伸長も十分である。原料茎重は859kg/a、可製糖量は113kg/aと良好であった。12月収穫後の株出しは2月収穫後の株出しと比べ、萌芽が確保できる場合は干ばつ・台風の影響を受けにくいことをことを前に述べたが、RK95-1は南大東島におけるこのような栽培法の実現に貢献しうる可能性が高い。しかしながらこの系統は黒穂病に弱いことが知られており、栽培に際しては、無病苗の利用、苗の消毒、発病株の抜き取り等の濃密な管理が必要である。

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5.厳しい環境条件下における安定的砂糖生産

 九州沖縄農業研究センターでは、土壌の肥沃度や保水力が低く干ばつ害が発生しやすい条件下での砂糖安定生産の実現に向け、さとうきび野生種等を用いた種属間交雑を利用して、安定多収さとうきびの開発を進めている。茎が細く茎数が多い多収性系統(大部分は可製糖率が低く繊維分が高い。雑種第1代にはこのような系統が多い)や比較的糖度が高く、茎の太さ等は普及品種に近い系統(戻し交雑第1世代にはこのような系統が多い)等、さまざまな利用の場を想定して多様な系統を作出し、複数の場所で実証試験を進めている。第5表に、そのような系統の、南大東島の3月植における特性を示す。達観による評価であるが、製糖原料用普及品種のF161を上回る生育を示すものが数多く認められる。調査が9月であるためそれ自体は低いが、ブリックスがF161程度で生育の優れる系統も認められる。南大東島には他所では見られない厳しい環境のほ場があり、そのようなほ場では品種にも大きな特性の改変が求められるはずである。この結果は、全体的な生産体系見直しの中で、このようなさとうきびの導入、地域に即した利用のあり方の検討を始めることの有効性を示している。

第5表 種属間交雑で作出した多収性系統の9月の生育特性

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おわりに −栽培改善に向けたほ場試験の計画−

 南大東島の収穫は他地域と同様1〜3月に集中する。他地域と比べ栽培規模が大きいために収穫は大型ハーベスターに依拠している。そのため、畦幅が広く、ともすると茎数が不足して少収に陥りやすい。また、1〜3月収穫後の株出し栽培のほ場は台風や干ばつの影響を受けやすい。これまでの報告で、幕元・幕下・幕上の3地域を明確に分けた栽培技術の導入、株出し多収性を具える品種の普及、秋収穫による収量の改善、収穫長期化・小型ハーベスタ導入を通した畦幅短縮による裁植密度の増加、すなわち、収穫早期化を梃子にした収量改善の方法を提案した。第1表および第4表に示すように、今回の調査では、RK95-1の有用性と、同系統を用いた12月収穫後の株出し栽培の有利性が示され、先に提案した収穫早期化による生産安定の具体的方法の一つと成りうることが示唆されたが、その導入に向けた積極的検討にはその実証、以下に示すほ場試験の実施が必要である。

 1)RK95-1,NiTn20、KY96-189、F161、Ni9(標準品種)等を供試した、幕下における、無灌水での秋(10〜12月)収穫栽培試験。
 2)Ni15、RK95-1、NiTn19、KY96-189、F161、Ni9(標準品種)等を供試した、幕元における無灌水での冬収穫栽培試験。

 試験実施に際しては、ほ場の特性を良く把握し、幕元、幕下、幕上ほ場の特性と対応させて技術を評価することが必要である。
 さとうきび生産は高度に地域システムとして存在する。新しい技術の導入には、灌水施設・貯水量に関する情報を活用した潅水計画、製糖工場の操業計画、原料の運搬日程、ハーベスタの稼働計画等、関係者こぞっての検討にもとずく、植え付けから収穫搬入・株出し処理に至る全体計画の策定が必要である。これらのことは一朝一夕にはできない。技術開発の途上、早い段階から検討を開始することが必要であろう。

写真3 灌水した春植のRK95-1
写真4 随所に設けられた溜池

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