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鹿児島県(沖永良部島、種子島)における機械化の現状

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2006年8月]

【調査・報告〔生産/利用技術〕〜地域の実情に適応した機械化の推進〜】
(前)鹿児島大学農学部
  教授 宮部 芳照

1.はじめに
2.調査結果
3.考察


1.はじめに

 近年、さとうきび栽培は、ハーベスタ、プランタ、中間管理機械等の各種農作業機械が急速に導入され、それに見合った省力化が進められてきた。しかしながら、これらの各種農作業機械は、それぞれ構造、機能、性能に特徴をもち、これらの機械導入が、その地域の実情に適応した機械として、また、地域の機械化システムを構築するうえで、十分機能しているかどうか実態を把握する必要がある。このため、本調査は例えば、地域の栽培面積、地形、気象・土壌条件、基盤整備、労働力構成等に対する適正な機械の導入や機械の開発、改良に関する問題点を明確にし、地域特性に合った効率的な機械化一貫体系の確立に資することを目的として実施した。
 調査方法は、各地域とも現地聞き取り調査を行う前に、「さとうきび栽培の機械化に関するアンケート調査票」を地区糖業振興会事務局を通じてできるだけ広範囲に配布し、その結果をもとに、次に示す地域の現地調査を行った。

沖永良部島(鹿児島県大島郡和泊町、知名町)
 :農業開発組合(1個所)、営農集団(4個所)、個人農家(5個所)、製糖会社(1個所)
種子島(鹿児島県西之表市、熊毛郡中種子町、南種子町)
 :農業管理センター(1個所)、農業公社(1個所)、営農集団(3個所)、個人農家(3個所)、製糖会社(1個所)


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2.調査結果

1 沖永良部島
 沖永良部島は、鹿児島市から南南西へ532kmにあり、耕地面積4,500ha(耕地率48.6%)、年間平均気温22.3℃、降水量は年間1,860mmで亜熱帯性気候であり、全島がほとんど隆起珊瑚礁からなる。農家戸数1,980戸、農家一戸当たり耕地面積230a(農業従事者数2.4人)で、土地利用作目は、表1に示すように、さとうきびのほか、ばれいしょ、石川さといも、いんげん等の輸送野菜、飼料作物、ソリダゴ、キク、ユリ等の花きが主なものである。さとうきび、野菜、畜産との複合経営が行われており、奄美群島で唯一葉たばこの栽培が行われている。また、平成16年度のさとうきび収穫面積(923ha)、栽培戸数(1,288戸)生産量(48,907トン)等は表2に示すとおりである。

表1 沖永良部島の主要農産物の土地
  作付け利用状況
(H16年 単位:ha)

表2 沖永良部島のさとうきび栽培の推移

表3 さとうきび栽培関連用機械の稼働状況(H16年度)

 平成16年度の収穫調製用機械(装置)の稼働状況は表3に示すように、ハーベスタ稼働台数30台、集中脱葉装置1基、植付け機械類307台、株出し管理用機械類11台、そのほかの栽培管理用機械類は同表に示すとおりである。特徴は、ほ場内で脱葉作業を行わず、製糖工場敷地内で一括して脱葉する集中脱葉装置の稼働と農家や営農集団等が個々に工夫製作した簡易型プランタの稼働が多いこと、株出し管理用機械、特に株揃え機の導入が少ないことである。
 次に調査結果をもとに、採苗、植付け作業、中間管理作業、収穫調製作業、そのほかに大別して機械化の現状と問題点について述べる。

(1) 採苗、植付け作業
(1)2芽苗の採苗はほとんどが人力調製であり、押し切り式カッタでの採苗量は約1,650本/1人・8時間(約5a植付け分)で重労働である。また、採苗の際の脱葉作業に時間がかかり、ハーベスタ調製苗、ドラム脱葉機調製苗も芽子の損傷が発生する。採苗作業をシルバーセンター(注1)へ頼んでいる所もあるが、特に春植えの場合は収穫時期と重なるため人力不足になる。
(2)種苗価格が高く(2芽苗7円、側枝苗15円)、5円位の発芽確実な苗の要望が強い。また、栽培面積の拡大を図ろうとすると、適期植付けが困難になる。
(3)簡易型プランタ(自家製、2条植え、オペレータ1名、後部植付け作業者2名)は、作業機体の振動が大きく、また、苗の積み込み、搬入に多くの労力を要する。
(4)簡易型プランタ(自家製、1条植え、オペレータ1名、後部植付け作業者1名)は、側枝苗植付け用への改造も検討されている。
(5)全茎式プランタは、機体の重量面から40ps以上のトラクタ使用でないと作業が不安定で植付けむらを生じ、労働強度も大きい。
(6)全茎式プランタは、苗数の適正確保の点からトラクタPTO(注2)駆動に問題がある。
 (注1) シルバーセンターとは会社などで定年を過ぎた60歳以上の人たちのなかで、社会に参加したいという人たちが、集まって組織された団体。
 (注2) トラクタPTOとはトラクタの仕事・作業をするための機能を持った部分の動力を走行用エンジンから取り出す装置。

(2) 中間管理作業
(1)中耕、防除作業の機械化については、特に問題ない。株揃え機、株出し管理一行程作業機での適期株出し管理作業が収量アップにつながることは実証済みであるが、作業機の導入が少ない。また、株センター割りも株揃え、根切り、排土作業と同様な効果がある。
(2)全島が隆起珊瑚礁で覆われ、表土が浅く(約40〜50cm)、保水性に乏しい土壌環境下では、干ばつの影響を受けやすいため、灌漑施設の充実が必要である。また、地域によって灌水料金に差がある。
(3)石れきが多く、機械故障の原因になっている。

(3) 収穫調製作業
(1)ハーベスタのほ場収穫ロス(ヘッドロス+排出口ロス)は10%未満と考えられるが、補助者が回収しており、あまり問題にならない(補助者の回収次第で減らせる)。
(2)ハーベスタの踏圧、畦越え時のクローラの安定性、必要な広幅枕地(4畦以上必要な機種あり)については、特に重量級ハーベスタでは重要な問題である。
(3)ハーベスタのオプション装着の対応性にメーカー間で差があり、現場の要望を取り入れた改造が望まれている。
(4)ハーベスタ乗り入れ段差の大きなほ場が多く、機械作業を前提にしたほ場整備が必要である。
(5)ハーベスタの足回り部と原料送り込みコンベア部に耐久力不足の機種がある。また、日本製はモデルチェンジが早いため、新部品への交換が困難である。
(6)ハーベスタのラジエータ部へのハカマ付着によるオーバーヒートの危険性のある機種があり、早急な対応が望まれている。
(7)集中脱葉装置は、1日の原料処理量180トン(最大330トン/日、最小108トン/日)、期間中の総処理量11,250トンであるが、装置の老朽化が進み、保守管理費が高く、脱葉率(約30%位)も低下してきている。トラッシュの処理は堆肥化して農家へ安価配布している。
(8)精脱装置は、1日の原料処理量225トン(最大330トン/日)、期間中の総処理量29,250トンであるが、脱葉賃を600円/トンに設定しており赤字運営である。

(4) その他
(1)ハリガネムシによる欠株を減少させる必要がある。特に夏植えの被害が大きく、羽化するタイミングを見計らった適期防除が必要である。
(2)農業開発組合(第3セクター)のハーベスタ稼働実績は、受託組織間の作業調整の問題や受託作業量の減少で、現在、受託収穫作業は行っておらず、所有地のみの収穫を行っている。また、ハーベスタも古く(平成7年導入)、現在4台が稼働している状況である。
(3)連作障害の回避のためには、夏植えとたばこの組み合わせやユリ等の花き類との輪作が必要である。他作物との競合状態は、現在、ばれいしょ作との競合が最も大きく、年によっては数十ha規模の移行がある。また、ばれいしょ作は、後作としてさとうきび(春植え)が作付けされるため、ばれいしょ堀取り期の天候不順の影響によっては、さとうきびの適期植付けができず、単収低下を招いているケースがある。また、花き類やさといもとの競合は少なく、他島で大きな飼料作物との競合については、本島では大きな競合品目とまでに至ってない。
(4)ハーベスタによっては、原料収納袋の中で梢頭部やトラッシュが偏在するものがあり、コアサンプリングの位置によってはトラッシュ率、糖度にかなり影響する場合がある。また、小区画ほ場内でもトラッシュ率に数%の差が生じることもある。
(5)品質取引用コアサンプリングで原料茎の糖汁の流出もあり、平成19年産からグラブ式専用フオークを導入したい。その際、製糖工場への原料茎搬入は現在、ハーベスタケーン(60%)、無脱葉原料茎(全茎無脱25%)、クリーンケーン(15%)、の3種類あり、特に無脱葉原料茎のトラッシュ査定に次の不安要素が残る。
 (a) 強風下でトラッシュ飛散がないか。抜き取り時に付着トラッシュの脱落はないか。
 (b) サンプリングから選別工程までの間でトラッシュ状態が維持できるか。
 (c) コストアップにつながらないか。以上について現地テストを是非行う必要がある。
(6)製糖工場の年内操業について12月中旬操業を検討しているが、一定量の原料搬入の確保が可能かどうか不安要素もある。
(7)製糖工場でのバガス(期間中550トン)、ケーキ(1,400トン)の処理法については、バガス:ボイラー燃料用、きのこ床用、家畜敷きワラ用として要望が強い。ケーキ:きのこ床用、ハカマ堆肥用。糖蜜:家畜飼料用として有効利用している。


2 種子島
 種子島は、鹿児島市から約115kmの距離にあり、西之表市、中種子町、南種子町の1市2町からなっており、耕地面積8,890haで水田1,910ha(水田率21.5 %)、畑地6,980ha(畑地率78.5%)である。気候は亜熱帯性で温暖多雨、年間平均気温は約19℃、降水量は年間2,000〜2,500mmで台風の通り道になっている。農家戸数は4,500戸、農家一戸当たり耕地面積203aであり、表4に示すように、中種子、南種子町は基本的にさとうきび、澱粉用かんしょ、水稲に葉たばこ、肉用牛を加えた土地利用型の複合経営が中心である。そのほか、茶、ソラマメ、ばれいしょ、花き(スプレイ菊、レザーリーフファン)、果樹(ポンカン、タンカン、マンゴウ等)も栽培されている。平成16年度のさとうきび収穫面積2,548ha(前年比98%)、生産量166,800トン(同105%)等は表5に示すように一進一退の状況にある。

表4 熊毛地域の主要農畜産物の生産状況
  (H16年 単位:ha、トン)

表5 種子島のさとうきび栽培の推移
(単位:戸、ha、kg/10a、トン)

 平成16年度の収穫調製用機械の稼働状況は表3に示すように、ハーベスタ稼働台数70台(農業公社13台、生産者組織57台)、脱葉調製機械類350台、植付け機械類47台、株出し管理用機械類34台、そのほかの栽培管理用機械類は同表に示すとおりである。特に、機械収穫による面積割合が表6に示すように、約60%(内、精脱17.4%)を占め、年々増加傾向にあるが、株出し管理用機械の導入が少ない。
 次に各作業別の機械化の現状と問題点について述べる。

表6 ハーベスタ収穫面積割合の推移  (単位%)



(1) 採苗、植付け作業
(1)プランタ植付け作業前の種苗きびの確保が人力によるため手間がかかる。2芽苗準備の刈り取り、脱葉、切断作業で10a当たり苗(3,400〜3,500本)の確保に3日間(1日8時間)を要し、高性能採苗調製機の早急な開発が望まれている。
(2)2芽苗プランタの植付け深さ、施肥位置が畦高さにより不安定になり易く、植付け深さの調節が難しい。

(2) 中間管理作業
(1)ハーベスタ収穫直後の株揃えは、確実に単収アップにつながる。農業公社では市販機でなく、自作の株揃え機で株出し管理の受委託作業を行い良好な結果を得ている。
(2)株揃え+マルチング効果は既に実証済みであるが、株出し管理一行程作業機の価格が高すぎる。
(3)株出し管理機による増収効果は十分認められるが、機体重量が重く作業がし難い。

(3) 収穫調製作業
(1)ハーベスタのほ場収穫ロスは約300〜500kg/10aと考えられ、補助員(2〜3人)が回収している現状である。
(2)ハーベスタのベースカッタによる割れきび発生の防止のため、切断刃の形状と取り付け角度の調整方法を検討して欲しい。
(3)ハーベスタ機体の前後バランスが悪く、不安定になりやすい機種がある。安全性の面からの再検討が望まれている。
(4)ハーベスタのほ場乗り入れ段差の高い所が多い。枕地手刈り面積を広く要し、作業効率が悪い。段差を少なくし、農道回行が可能なほ場の整備が望まれている(西之表市のほ場整備率、約40%)。
(5)補助員がハーベスタ収穫時に原料収納網上に乗り、トラッシュを除去する危険な場面が見られる。安全意識の徹底が乏しい。
(6)耐用年数が過ぎたトラクタ、ハーベスタ類を所有する公社や営農集団が多く、自己資金での更新ができない状況にある。以前から指摘されていた問題であるが、機械・施設の買い換え資金の積立てに関しては緊急な重要課題になっている。
(7)精脱装置(現在、2機稼働)の原料総処理量は、90トン/日(最大115トン/日、最小50トン/日)、期間中の総処理量10,000トンであるが、装置の故障が多く、部品交換にメーカーの対応が遅い。装置自体の改良が望まれている。
(8)梢頭部等のトラッシュは畜産農家へローテーション提供を行っている。さらに多くのハカマを畜産農家へ提供するためには、新たな簡易型ハカマ回収機の開発が望まれている(市販の牧草用集草機はあるが、畦高が障害になり利用し難い)。また、バガスは敷きワラとして畜産農家で有効利用されているが、大規模きび作農家への還元について強い要望がある。

(4) その他
(1)農業公社のさとうきび関係受委託作業実績は、平成16年直営分では、さとうきび植付け作業4.0ha(前年比25%)、管理作業6.7ha(同76%)、収穫作業249.7ha(同96%)である。また、再委託分では、収穫作業470ha(同90%)であり、受委託実績減少の主な原因は不作による収穫面積の減少によるところが大きい。
(2)農業公社の受委託組織における刈り取り料金の設定は(全面委託6,500円/トン、刈り取り委託4,000円/トン、精脱またはトップ落とし2,500円/トン)であり、それぞれ4〜5年前に500円/トンアップした経緯もあるが、料金を下げて欲しいとの強い要望がある。また、生産組合は再委託分の刈り取り班化への傾向がみられる。
(3)品質取引用標本サンプリングは、製糖工場への一日当たりトラック搬入台数(400台/日)が多いため、品質取引に2系列を設置しているが、今期よりグラブ式専用フォークを導入し、電気系統やそのほかの故障の心配が無くなった。ほかに1台稼働中のコアサンプラも経年劣化が進んでいるため、近々グラブ式へ更新予定である。現在、機械収穫原料が約6割搬入されるため、標本トラッシュ除去に多くの労力(4名×2系列)を要しており、この工程の機械化、省力化の早急な検討が望まれている。
(4)製糖工場でのバガス、ケーキ、糖蜜類の期間中総処理量は、バガス約37,400トン、ケーキ約5,950トン、集塵灰約3,400トン(原料処理量170,000トン、バガス産出率22%、ケーキ3.5%、集塵灰2%)である。バガス産出量の約9割が工場ボイラーの燃焼に使用され、約1割が畜産農家の敷料として還元している。これは堆肥として畑還元され、一部は堆肥センターの材料として利用されている。ケーキと集塵灰はほとんどが各堆肥センター、精脱組合へ堆肥材料として利用されている。また、糖蜜は約2万円/トンで商社へ売却している。
(5)1個人農家の単収アップの事例:
 新植:土作り[ハカマ焼却(夕刻、ほ場周囲に散水しておく、病害虫・雑草防除)―サブソイラ(深耕約60cm)―マニュアスプレッダ(堆肥投入)]―適期植付け[簡易型プランタ植付け深さ(深め、約30cm)―培土機(培土深く)]
 株出し:ハーベスタ刈り取り直後―株出し管理機(株揃え、根切り、排土、施肥、施薬)―トラクタ(株踏み)―サブソイラ(深耕約60cm)
 *毎年、1筆毎の単収、肥培管理等をこまめに記録して翌年の栽培に生かす。

3.考察

 今回、さとうきび関連機械を中心にした現地調査を行ったが、その中で新たに開発が望まれる機械や既存機械の構造、機構に関する具体的な改造点およびそのほかの問題点について、2島の調査結果をもとに、以下にまとめて指摘する。これらの問題点等については、早急な対応が必要である。また、最後に今後の機械化の方向について述べる。


1 既存機械の構造、機構に関する具体的な改造点および問題点について
(1) 採苗、植え付け作業
(1)栽培面積の拡大と適期植付け作業の機械化体系の確立には、高性能な採苗調製機の開発が急務である。また、ペレットプランタ(オーストラリア製)の導入についても検討が必要である。
(2)ハーベスタ調製苗、ドラム脱葉調製苗の芽子の損傷を防ぐために、品種に合った適正なロール周速度、催芽法を検討する必要がある。
(3)簡易型プランタ(2条植え、オペレータ1名、植付け補助者2名)の特に植え付け後部の振動軽減が必要である。
(4)簡易型プランタはシュータ部の改造により側枝苗植え付け可能な兼用型にする。
(5)全茎式プランタは機体重量を小型軽量化し、30psクラストラクタでも安定した植付け精度が得られるようにする必要がある。
(6)2連カルチを使用する農家には、全茎式プランタのロータリ部の装着は必要ない。
(7)全茎式プランタの駆動源は苗数の確保、欠株の防止の面からグランドPTO駆動(車速に比例したPTO回転速度を得る形式)への変更を検討する。
(8)2芽苗プランタの植付け深さ、施肥位置が確実に畦高さの変化に対応できるように地輪コールタの改良が必要である。
(9)2芽苗プランタの苗排出を良くするため、シュータ部の形状、ゴムカーテン装着による苗の誘導法について検討する。

(2) 中間管理作業
(1)株出し管理機の機動性を高めるため、機体重量を軽量化する必要がある。
(2)隆起珊瑚礁等の表土の浅い地域では、灌水効果を高めるため、頭上灌水法より耕土中灌水を取り入れた灌漑施設の充実を図る必要がある(沖永良部島)。

(3) 収穫調製作業
(1)ハーベスタのベースカッタによる割れきび発生を防止するため、三角切断刃の刃縁形状を例えば、平滑刃縁から鋸歯刃縁等への改造を検討する必要がある。
(2)ハーベスタのベースカッタ取り付け角度の調整方法を簡易にする必要がある。
(3)ハーベスタの運転席の位置が片側寄りにある機種は、ベースカッタが死角になるため、安全性、作業性の面から運転席位置の検討が必要である。
(4)ハーベスタ機体の前後バランスが特に原料茎1トン満載時に不安定であり、安全性の面からの検討が必要である。
(5)重量級中型ハーベスタによる踏圧軽減と畦乗り越え時のクローラの安定性についてさらに高める必要がある。
(6)ハーベスタの操作レバーの集中化を図り、操縦性を高める必要がある。
(7)精脱施設(種子島)の原料茎繰り出し装置とドラムパーカ部によるきび切り口の傷みが多く、品質、収量に大きな影響があると考えられるので、スパイラル方式等への改造が必要である。

(4) その他
(1)家畜飼料としての梢頭部の有効利用、原料茎へのトラッシュ混入の軽減の面から梢頭部回収機を小型軽量化および伴走専用型に改造し、特に徳之島を中心にした奄美地域の機械化体系の中に組み入れ、畜産農家との連携を強めることも必要である。(写真1)
(2)さとうきび関連機械の中で特にプランタは、機械の複合化が必要な機械であり、例えば、簡易型プランタ(2条植え)は、ばれいしょ等のいも類の植付けも可能な兼用型機種に改造し、種子島、沖永良部島等の複合経営地域の機械化体系の中に組み入れる必要がある。
(3)水流式梢頭部・土砂除去装置は小型化し、土砂汚水処理部を装備して小、中型黒糖工場での梢頭部(トラッシュ)、土砂の除去作業に精度の高い最適な装置として導入が望まれる。(写真2)

写真1 梢頭部回収機
写真2 水流式梢頭部・土砂除去装置

 
2 新たに開発が望まれる機械、装置について
(1)適期植付け、栽培面積拡大のために不可欠な優良1芽苗および2芽苗用高性能採苗調製装置の開発。(写真3)
(2)種苗のハンドリングが容易でかつ植付け作業の機械化を進めやすい1芽苗用オートプランタの開発。
(3)欠株対策用の種苗補植機の開発。
(4)家畜飼料への有効利用促進のために、刈り取り後のほ場畦高さに沿う簡易型ハカマ収集、ラッピング機の開発。
(5)ハーベスタ装着用トラッシユ収集装置の開発。
(6)品質取引用グラブ式フォークサンプラーの開発。(開発実験中、写真4)
(7)品質取引用サンプルのトラッシュ除去装置の開発。
(8)歩行用小型刈り倒し機の開発
(9)ほ場への機械乗り入れ段差を解消する機械搭載用油圧式ターンベースの開発。
(10)さとうきび栽培に適した除草、土壌改良に有効で低廉な簡易型カバークロップ用播種機の開発。(写真5)

写真3 レーザーセンサ利用による優良種苗選別装置の開発研究(1芽苗芽子の判別)
写真4 品質取引用グラブ式フォークサンプラー (開発実験中)
   
写真5 カバークロップ(ヘアリーベッチ)利用によるさとうきび栽培体系の確立に関する研究


3 その他
(1)株出し管理機は低価格化を図り、さらに積極的な導入が必要であるが、生産組合等へのハーベスタ導入事業では、株出し管理機とハーベスタのセット導入を義務づけ、セット技術による単収アップを図ることが重要である。また、低価格な株揃え機の導入も積極的に進める必要がある。
(2)干ばつの影響を受け易い地域では「水は命」であり、灌漑施設の充実と灌水料金の地域格差を解消すべきである(沖永良部島)。
(3)農業公社の受託組織内では、減収につながらないよう一定以上の耕作面積を確保する必要があり、賃耕のみが目的にならないようにすべきである。また、組織内での生産振興意識の共有や協力体制を強める必要がある(種子島)。
(4)農業公社は経営改善を進め、刈り取り料金を下げる努力が必要である。また、直営面積を増やして規模拡大するとともに株出し管理作業を徹底し単収アップを図る必要がある。(種子島)。
(5)さとうきび栽培の機械化は、ハード的にはほぼ完成しているものと考えられる。今後はソフト面での整備が必要であり、単収向上のための施策が重要である。
(6)機械化に関しての不満や問題がある時、全てを直ちに機械メーカーのせいにせず、その機械についてまず改良工夫を加え、利用しようとする意欲ある生産者、組織が多い地域もあるが、「現場が機械を育てる」ことも重要なことである。
(7)製糖施設の老朽化が進み、厳しい設備合理化の中でその努力も限界にきている。さとうきび増産に合った精脱装置の性能向上と設備更新への支援が必要である。
(8)補助事業での機械導入が多いが、機械自体の取得価格が高すぎる。低価格化への努力がさらに必要である。
(9)機械全般にわたり保守点検の管理状態が悪い。特に塩害による腐食防止のためには、作業後の洗車等のメンテナンスが不可欠である。
(10)熟練したハーベスタオペレータが足りない。さらに育成に力を入れるべきである。
(11)堆肥の絶対量が不足している。島の土作りに深刻な影響を与えており、運搬システムを含めた県全体の施策として検討すべきである。
 以上述べたように、さとうきび栽培用機械に関する開発、改造点やそのほかの解決すべき問題が山積しており、緊急を要するものが多い。また、さとうきび生産振興のためには、例えば、高齢化、後継者問題、農地集積、担い手農家育成、品種改良、栽培管理、機械の問題等々、種々の解決すべき難題が残されているが、これらの諸問題の解決には、関連性があるものの一挙には同時解決できない。それぞれの問題を確実に一つずつピンポイント解決して行く努力も重要なことである。
 最後に今後のさとうきび栽培の機械化の方向についてふれる。
 既に、食料・農業・農村基本計画では、機械化一貫体系の確立、収穫作業の平準化、早期株出し管理、優良品種の育成・普及等によって労働時間、生産コストを現在の2割程度削減する。また、さとうきび増産プロジェクトでは、平成27年産までに株出し栽培面積を1割程度増加、同単収を2割程度向上させることを目標に挙げている。そこで、これらの目標実現の方策としては、現在導入されている種々の機械が各地域の特性、実情(地形、気象・土壌条件、基盤整備、ほ場区画、労働力構成等)に合った機械として効率的に稼働しているか、また、機械自体の改造点はどこにあるか等をまず明確にすることが大前提であると考える。その検証結果をもとにそれぞれ必要な機械化体系を作り、以下に示すような特徴ある経営体の育成を目指すべきである。

(1)中規模複合経営個別農家の育成
 さとうきび作と畜産をもとにして、ばれいしょ、かんしょ、花きあるいは葉たばこ等との組み合わせによる輪作体系中心の複合経営形態農家の育成。
キーワード:(地力増進、高精度農業、高糖・高単収、輪作、農作業競合、収穫時期前倒し)
 *実例:家族構成3人(45才)・さとうきび5.2ha、肉牛4頭、かんしょ1ha、ばれいしょ20a、花き5a、年収1,000万円以上(4年株出しで8.6トン/10a確保)の農家が存在する。

(2)営農集団(農業公社、生産組合組織)の育成
 小・中規模経営形態農家の営農集団化を図る。
キーワード:(受委託組織、法人化、集落営農組織、担い手、老齢化、第三セクター)
 集団化の前提になる取り組むべき主な点。
・地域の担い手育成。
・構成員間の統一した目的意識の共有。
・中期的生産目標、実施計画の立案。
・農作業の計画的立案と効率的な農作業受委託システムの構築。
 以上の点を解決し、地域の担い手リーダーを中心にして、農作業の受委託、環境保全とさとうきび増産に向けた取り組みがスムーズに進むことが営農集団化の前提になる。

(3)大規模きび専作農家の育成
 10〜20ha規模のさとうきび専作農家を育成する。大型機械化一貫作業体系のもと、機械稼働効率を最大限に高め、土地・労働生産性の向上を図る。そのためには、「さとうきびあって地域の生存あり」の共通認識のもとで、地域の強い協力を得ながら点在の少ない農地の集積が不可欠である。また、きび作農家はきびのみ(あるいは水稲農家は水稲のみ)の専作を行うことで他作目用多種機械が不要になり機械の費用対効果を高め、これが機械化貧乏の防止にもつながる。
キーワード:(農地集積、点在農地、専作、高性能農業、有機物還元、畜産農家連携)
 *実例:構成員3人(60才)・さとうきび20ha、大型機械化一貫体系のもとで年収3,000〜4,000万円以上の農家が存在する。
 以上、さとうきび作においても、単に大規模経営農家の育成のみを指向すべきではない。現段階では老齢化の進行を考慮し、地域の担い手農家の育成と同時に、それぞれ地域特性を生かした、個性ある小・中規模クラスの複合経営農家の育成にも重点を置く施策が重要であると考える。

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