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経済学を生かしたさとうきび増産策〜南北大東島〜

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最終更新日:2010年3月6日


はじめに

 南北大東島はさとうきびの大規模経営で有名である。しかし、土壌条件が悪く(強酸性かつ保水性に乏しい土壌)、加えて台風・干ばつ被害が大きく、単収が低い。大型機械化一貫作業体系で労働生産性は高いが、土地生産性は低く、全要素生産性は高いとはいえない。大規模経営ではあるが、これでは優良農業地帯の事例にはなれない。大型ハーベスターの導入が最適技術の選択であったかどうかも検証が必要である。
 単収アップによるさとうきび供給力を向上させるには、水源(溜池)や農地防風林の整備のほか、農家が栽培管理の基本を守る必要があるが、そのためにはインセンティブ・システムの導入など何らかの工夫が必要なのではないか。
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 南大東島 


低い生産性

 南大東島はさとうきびモノカルチャー経済である。野菜や畜産はゼロに近く、さとうきび依存度の大きい島である。建設業は農業に次ぐ産業であるが、基盤整備事業など農業関連や公共事業であって、やはりさとうきびが基幹産業と言えよう。
 農家の経営規模は、1戸当たり経営耕地面積が約8ヘクタールと大きい。しかし、生産性が低い。表1に示すように、2004年度の土地生産性は、生育期の干ばつ、度重なる台風襲来の被害もあり、10a当たり3,153kgである。これに対し、沖縄本島(南北大東島を除く)5,335Kg、宮古5,158Kg、八重山5,378Kgであり、南大東島は県下の他地域に比べ4割も生産性が低い。
 これは自然災害の大きかった2004年度のみの現象ではない。図1に示すように、1976年以来、ほとんど恒常的に沖縄本島より単収が低い。後述するように、沖縄本島では優良農家は7〜8トン、中には10トン以上、さらには18トンというケースもある。これに対し、近年の南大東島は4〜5トンで推移している。

表1 沖縄県さとうきび農業の統計概要(平成16/17年期)

図 1 さとうきび単収の推移の比

 南大東島の単収が低い理由は何か。南西諸島のさとうきびの単収低下の要因は、土壌条件、台風、干ばつ、潮害、病虫害、管理不足などであるが、台風襲来、干ばつは県内各地も共に被害がある(ただし、島が小さいので、沖縄本島より気象災害を受けやすい)。南大東島の固有の事情は、保水性に乏しい土壌条件のほか、経営規模の大きさに伴う大型ハーベスターの導入と管理不足であろう。(注1)

(注1)さとうきびは土壌条件として、強酸性を嫌う。アルカリ性の粘土質で、保水性の良い土壌がよいとされる。南北大東島は強酸性、かつ保水性に乏しく干ばつを受けやすい土壌であり、土壌条件としては二重の意味でさとうきびに向いていない。しかし、輸送問題の制約と、他作物よりは台風や干ばつの被害が比較的小さいということで、さとうきびが基幹作物になっている。沖縄の中では、沖縄本島南部(ジャーガル土壌)がアルカリ性の粘土質で、保水性も良く、さとうきび栽培に最も適している。
 1972年(昭47)5月の沖縄の日本本土復帰を契機に、南大東島の農業には大きな変化が生じた。ひとつは、復帰後、海洋事業や土木事業が増え、そこへの転職で、農家の離農が増えた。それに伴い、さとうきび農家の規模拡大が進んだ。もうひとつは、本土復帰以前、南大東島には台湾から農業労働者が600人くらい来ていたが、同じ1972年に日中国交回復が実現し(9月)、台湾との外交関係が断絶されたのに伴い、この台湾労働者たちが引き揚げていった(注、昭和47/48年期は労働者不足のため、159日間の異例な長期の製糖を続けたが、やむなく約4,000トンの未収穫きびを残したまま、6月30日収穫を打ち切った)。一方で規模拡大が進んでいたので、当然、労働力不足となり、さとうきびは栽培管理不足が生じた。単収の低下要因が発生したのである。(注2)

(注2)労働力不足・大型ハーベスター普及の以前と以後で時代区分して、南大東島と沖縄本島(離島を除く)の単収を比較すると、1962〜75年度の14年平均では南大東島の単収は6,351kgで、沖縄本島の7,686kgに比べ83%水準であったが、大型ハーベスター普及後の1976〜2004年度の29年平均では南大東島は5,239kgで、沖縄本島の6,903kgの76%に低下した。なお、図1に見るように、沖縄本島の単収が低下するとき南大東島も連動しているが、南大東島の方がより大きく減収している。これは南大東島は自然災害の影響をより受けやすいと言えよう。

 労働力不足の打開策として、一時、韓国からの労働者導入もあった(第1回1974年1月、2回目の1975年1月には351名来島)。しかし、ソウル―那覇間の航空機利用で費用が高くついたのと、台湾労働者と違いさとうきび作の未経験者であったので、これも4年間で終わった。
 こういう状況下で、労働節約の技術革新が求められ、ハーベスターの導入、収穫の機械化が始まった。当時、日本にはハーベスターは無かったので、オーストラリアから導入したため、「大型ハーベスター」(ホイールタイプ)である。大幅な省力化になるので、ハーベスターは急速に普及した。最初にハーベスターが導入されたのは1970年、そして1972年度のハーベスター普及台数は5台であったが(収穫方法のハーベスター比率15%)、毎年2台づつ増え、1976年度には13台となり、この年、収穫方法は手刈とハーベスターが半々、翌77年度にはハーベスター比率63%となり、現在はほとんど100%ハーベスター収穫である。

大型ハーベスターの弊害と管理不足

 大型ハーベスターは弊害も出てきた。労働生産性は向上したものの、土地生産性を低下させる要因になったのである。
 大型ハーベスターは次のように単収の低下をもたらすようだ。
 (1)収穫時のブロアーロス(10〜20%ロス説あり)。(2)機械収穫による株の欠損(何回も踏みつけられることによる株の欠損、特に畦畔(まくら地)はダメージが大きい)。(3)畦幅がもたらす減収(適当な畦幅は、手刈が100〜110cm、ハーベスターでは小型が120cm、中型が140cm、大型が150cm以上といわれている)。
 (4)踏圧による土壌への影響(大型ハーベスターの踏圧で硬くなった土壌は欠株、萌芽の遅れの原因になる)。(5)株出管理作業の遅れがもたらす減収(収穫後1週間内の処理と20日後の処理では収量差20%)。また、こうした単収低下に加えて、大型ハーベスターは雨の降った日は畑に入れず、収穫できない。大東糖業は平成16/17年期に原料切れ回数(休業)が42回もあった(小型のキャタピラー付きハーベスターは雨が降っても収穫できる)。
 このように、大型ハーベスターの導入は、省力化にはなったものの、他方で栽培管理上の問題を引き起こして、単収の低下を招いたのである。南大東島は土壌条件がさとうきび栽培に適していないというだけではなく、小面積の故に土地生産性も同時に重視しなければならない南大東島にとっては、こうした機械化体系の問題もあると考えていいのではないか。
 一方、同じ南大東島にあって、比較的に単収の高い農家もある。例えば、北地区のG農家(18ha)は昨年の単収は6トンあった(南大東島平均3.15トン)。G農家は早く植えて早く管理作業を実施し、5〜6日に1回、灌水している(貯水池から畑までパイプで水を引き、点滴チューブによる点滴)。堆肥は工場のバカスを利用している。台風がない場合、この肥料と灌水の実施で単収6〜7トンは可能と言う。旧東地区のH農家(14ha)は昨年は台風、干ばつにもかかわらず、単収は5.5トンあった。H農家は水やり、防虫害、除草の管理に熱心で、3日に1回灌水している(ただし、灌水といっても水不足のため枯らさない程度の点滴灌漑である)。植付け時に糖みつも入れている。点滴できる畑は平年作が期待でき、降雨がある場合、7〜8トンは採れるという。ちなみに、北大東島のS農家(兼業)はボーリングで地下水を汲み上げ水が潤沢にあるため(4日に1回たっぷり灌水)、コンスタントに単収7〜8トン採っている。さとうきび栽培は水やりが決定的に重要なようだ。
 つまり、十分に栽培管理すれば、土壌条件の悪い南大東島においても、7トン程度の単収は可能であろう。それが現実には4〜5トン水準に低下している。

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工場の利益と農家の利益の調和を求めて

 いま、南大東島の一番の課題は、農家サイドにおいては、大型ハーベスターの弊害をどう乗り越えるかということである。先述したように、大型ハーベスターの踏圧で硬くなった土壌は欠株、萌芽の遅れの原因になる。また、株出し管理の処理時期が遅れてしまうと収量が低下する。さらに、硬い土壌を砕くためサブソイラ工程が余分にかかる(クローラータイプ〔キャタピラー式〕は230馬力でも踏圧が弱くサブソイラ不要。ただし、いま普及しているホイールタイプのほうが踏圧は強いが収穫の生産性は高い)。
 その対策として、農家は次の二つのことを検討している。ひとつは、ハーベスターの中小型への転換あるいはクローラータイプへの転換である。もうひとつは、製糖時期を早めて2月中旬、遅くとも2月下旬までに終わらせ、早期に株出し管理を行うことである。しかし、まだ実現の目途が立っていない。
 製糖会社は工場の効率を重視する。クローラータイプに転換すると、収穫の生産性が落ち、原料の工場搬入に支障をきたす懸念がある(中小型のハーベスターに転換するとこの懸念はさらに高まる)。そこで、生産性の高い現状のホイールタイプに固執する。生産性が高いので、朝刈り取り、昼には工場に搬入でき、新鮮原料と言うメリットもある。工場側にとって、生産性の高いホイールタイプの大型ハーベスターはメリットが大きい。しかし、上述のように、ホイールタイプの場合、踏圧が強い。踏圧された硬い土壌はサブソイラを使って土を砕けばよいのであるが、サブソイラは農家の負担である。逆に、ハーベスターを小型のクローラータイプに転換すると、特別仕様の伴走車が不要となり、投資した工場は損をする。
 つまり、農家の理想と工場の理想は違う。その結果、労働生産性は向上しても、土地生産性は低下している。小型ハーベスターに転換した場合、この問題はもっと先鋭化する。土地生産性(単収)は向上するが、収穫の労働生産性は低下し、工場側にとってはデメリットが発生しかねない。
 また、製糖期間を前倒しすると、農家は栽培管理作業を早期に始め、翌年の単収を高めることができるが、工場側は今期の生産が減少する。この解決には早期高糖型品種への転換などが挙げられるが、さとうきび振興対策協議会などを利用して工場と農家の間でもっと話し合いをし、調整を図りながら解決策を探る必要がある。

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TFP概念の導入

 経済学には、TFP(全要素生産性)という概念がある(Total Factor Productivity)。機械化によって労働生産性は上昇するが、逆に資本生産性が低下し、総合生産性は上昇しない、むしろ低下するケースもある。経済学では、これは技術進歩と呼ばない。
 農業部門ではよくあることであるが、小零細な経営体が個別にトラクターやコンバインを導入、保有し、数百万円も投入した機械が2〜3日しか稼動しないという状況が多い。これでは、労働は楽になっても、償却コストが増大し、所得は増えない。「機械化貧乏」の状況である。大事なことは資本、労働などの全生産要素のトータルでみた生産性上昇が重要なのである。
 南大東島のさとうきび〜製糖産業はTFPではなく、部分生産性が優先している可能性がある。農家は栽培管理上の都合を優先し、小型ハーベスターへの転換を望んでいるが、会社側は工場の稼働率(原料手当て)を優先し、小型ハーベスターへの転換が図られていない。こうした状況下では、工場の生産性は向上しても、農家の生産性は低下しかねない。これでは、地域という単位でみた総合生産性は低下する危険がある(少なくとも、さとうきび供給量は増えない。これは工場側にとっても損)。つまり、さとうきび生産から製糖工場までを一貫体系で捉えたとき、総合すると利益を損じている危険がある。
 いま、南大東島で発生している状況は、これに近い。TFPの考えに沿って、全要素生産性を引き上げるべきではないか。そのためには製糖会社と農家の意見調整、相互理解が大切である。それ故、町・農家・製糖会社から成るさとうきび振興対策協議会がより機能することが重要である。
 農家と製糖会社の拮抗を止揚するものとして、品種で解決する方法がある。現在、南大東島ではF−161が導入されている(普及率80%)。ところで、台風襲来が多いという条件下では、理想的な作型は夏植えである(現状6%)。南大東島は比較的に経営面積が大きいので、土地効率ではなく、危険分散(台風被害)のほうが安定収入を狙えるのではないか。夏植えにすると、台風被害が少なく、単収は10トン、2年に1回の収穫であるから、年5トンの安定収入になる。現状より、単収は高くなる。ところで、F−161は夏植えには向かない。そこで、夏植えに向き、また管理作業も前倒しできる早期登熟の品種を導入すればよい。いま農家は早期登熟品種である農林15号に注目している。F−161が50%、夏植えの農林15号等が50%という品種構成になれば、単収と危険分散の両方が狙える。
 早期登熟品種を導入することで、前倒しが可能になれば、農家は来期の収量に期待をつなぎ、工場はブリックスを確保できる。
 このように、TFPの考えで地域全体の利益を向上させようという合意さえあれば、新品種の導入を始め、農家、会社の双方にとって利益をもたらす(すくなくともマイナスは発生させない)道はある。

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サンクコスト(埋没費用)

 大型ハーベスターは歴史的な役割を果たした。1972年の日中国交回復後、台湾労働者が引き揚げたため、労働者不足になった。そこで、収穫の機械化を図るため、ハーベスターの導入になった。当時、日本製ハーベスターはなかったので、オーストラリアから導入したのである。もし、このハーベスターの導入がなければ、収穫労働の厳しさからさとうきび農業からの撤退が相次ぎ、無人島化していたかも知れない。その意味では、大型ハーベスターは歴史的な役割を果たしたと言えよう。
 しかし、先述のとおり、大型ハーベスターは矛盾も大きい。そこで、土地生産性を重視する立場にたって、大型ハーベスターを止めれば、コストが発生する。大型ハーベスターはどこも引き取り先はない。つまり、それに投資したコストは回収することが不可能である。こうした状況をサンクコスト(sunk cost埋没費用)という。
 また、大型ハーベスターは畑の中を伴走車を伴って走っているのであるが、この伴走車は特注仕様のもので(製糖会社の投資)、転用は利かない。もし大型ハーベスターを止めると、この伴走車も不要になる。まさしく回収不能なサンクコストである。製糖会社が大型ハーベスターにこだわるひとつの理由である。撤退を妨げるサンクコストである。
 小型ハーベスターへの転換が単収を高め、生産量を増やし、全要素生産性の向上、地域全体の利益になるのであれば、大型ハーベスターの中止に伴うサンクコストを製糖会社だけに負担させるではなく、国や地域の支援があってもよいのではないか。

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単収向上のための奨励金

 近年、大東糖業(株)は原料不足で赤字経営に陥っている。原料さとうきび6万5000トン、歩留まり12%なら黒字と言われるが、平成16/17年期は4万2000トン、17/18年期は3万1000トン(予想)と落ち込み、実質赤字である。
 南大東島の糖業の課題は、さとうきびの単収向上による増産である。そのためには、栽培管理に対する農家の積極的な取り組みを引き出すことが大切である。インセンティブの仕組みを導入してはどうか。単収向上に伴い買い上げ価格を段階的に引き上げる傾斜的価格にする。原料供給の増大によって稼働率が上昇すれば、製糖工場のコストは低下する。このコストダウン分をインセンティブの原資にすればよい。
 例えば、考え方として、次のような仕組みにする。さとうきびの基準価格をトン当たり2万円とし、10アール当たり単収が1トン向上する毎に1,000円加算する。単収7トン農家は、現行制度の価格2万円のとき、10ヘクタール規模でさとうきび代金は1,400万円である。しかし、奨励金が3,000円加算されると、価格は2万3000円となり、さとうきび代金は1,610万円となる(注、試算は考え方の例示であって、原価計算等に基づくものではない)。

 インセンティブ・システムが導入されれば、農家の意欲が向上し、水やりの回数が増え、増産につながる。工場にとっては原料供給が増大し、稼働率が向上、コストダウンする。上述のインセンティブは、この状況を改善するのに有効と考えられる。
 現在、さとうきびは品質取引になっており、糖度向上のためのインセンティブの仕組みがある。確かに、これは歴史的な役割を果たしたと思われる。しかし、近年、大きく問題になっているのは、原料さとうきびの供給不足である。この新しい課題に応えるための仕組みの工夫が必要であろう。農水省もさとうきび増産運動を展開しているが、作付面積を増やすことには制約があるので、単収の向上を図るしかない。同じ地域条件の下でも農家間に単収格差があり、栽培管理の水準を上げることで単収向上の余地がある以上、上述の単収向上のためのインセンティブは効果があると思われる。

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農家の最適規模の検証

 表2は、農家の規模別にさとうきびの単収を比較したものである。区分間の傾斜を考慮していえば、7ha未満では3,000kg以下、7ha〜20ha規模は3,300〜3,500kgである(15ha以上階級のうち、T農家〔43ha〕を除いた6戸平均は3,428kg)。経営規模43haのT農家は2,000kgである。つまり、単収の高さからみると、最適規模は7〜20haである。それ以上の大規模農家は管理に手が回らなかったり、意欲が低く、単収が極度に低い。地域の関係者の見方によると、50ha規模のT農家は大規模の故、低単収でも粗収入が3,000万円前後あるので、栽培管理に積極的でないという。

表2 南大東島さとうきび農家の規模別分布(2004/05)
(収穫面積別、農家戸数、単収kg/10a)

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 北大東島 

大規模精密農業への道

 農家K氏のほ場「品種実証展示圃」では、実際の農家栽培でありながら、さとうきびが立派に成育している。一見して、周辺の農家のほ場と違う。F−161品種で単収6〜7トンも採っている。地域の平均は3〜4トン水準であるから、2倍の高収量である。同じ品種、同じ気象条件の下でも、これだけ違う。栽培管理の違いが原因である。
 さとうきび増産には、栽培管理の基本を守った精密な農業になる必要がある。
 株出し管理や灌水など、管理水準の向上が必要であるが、片手間では不十分になりがちである。栽培管理に十分な時間が避けるのは農業中心の生計のときであり、そのためにはある程度の経営規模の大規模化が必要である。そのことは小規模層では単収が低いことに示されている(表2参照)。
 一方、農業保護が強い場合、超大規模農家はモラルハザードが発生しやすく、技術革新に取り組む努力が弛緩する危険がある。表2に示したように、7〜20ha規模の生産性が一番高い理由はここにある。従って、国際化時代の今日、規模拡大(規模の利益の追求)は重要であるが、先に提案した「傾斜価格」などの工夫が必要である。こうして初めて、規模拡大と精密農業が共存する。伝統的な日本農業論にある大規模“粗放”ではなく、大規模精密農業になって初めてコストダウンが実現する。

 南大東島と北大東島の距離はわずか8Kmである。小型飛行機(39人乗り)で空に上がったと思ったら、眼前に北大東島が見えた。わずか5分弱の距離。北大東は南大東より小さい。上空から見ると、ほ場も小さく見える。
 南北大東島を比較すると、総面積は南大東30.57km2、北大東11.94km2、耕地面積は南大東1,600ha、北大東540ha、人口は南大東1,400人、北大東520人である。北大東は南大東の約3分の1である。北大東は、比較的起伏がある。
 農業を比較すると、農家1戸当たり耕地規模は南大東8haに対し、北大東は5haと相対的に小さい。しかし、ばれいしょなど換金作物を導入しているため、北大東のモデル農家の粗収入は5haで700万円、将来目標は1,000万円と高い。

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南大東の2倍の土地生産性

 北大東島は、耕地面積540〜550ha(耕作放棄地なし)、農家戸数110戸、1戸当たり約5.3haである。最大規模で15ha、小規模で1〜2ha、典型的農家は5〜6haである。さとうきび専作では所得の確保が厳しいので、換金作物としてばれいしょを導入している。
 北大東島の農業はモノカルチャーではない。さとうきび畑の休閑地利用(輪作)と高付加価値化を目指し、数年前からばれいしょの導入が始まり、2005年現在、バレイショ栽培農家は26戸、生産量800トンに成長している。
 典型的な農家の姿は、経営耕地5ha、さとうきび中心であるが、5年に1回更新し、この休閑地1haをばれいしょ80アール、カボチャ20アール栽培する。ばれいしょ畑は借地が多い。ばれいしょの価格は1トン当たり15〜17万円、単収10アール当たり2.0〜2.3トンで、1ha当たり粗収入は300万円超である。さとうきびの粗収入は単収5トンで100万円であるから、土地生産性は粗収入ベースでさとうきびの3倍以上も高い。生産性が高いため、北大東農協の野菜部会は、将来、ばれいしょ栽培面積を50ha(現状37ha)、全耕地の1割に拡大することを目標にしている。
 北大東村の試算では、モデル農家の粗収入は、換金作物(ばれいしょ等)1haで300万円、さとうきび4ha(単収5t/10a)で400万円、経営規模5haで合計700万円である。経営耕地1ha当たり140万円である。これに対し、さとうきび単一モノカルチャーの南大東島の現状は1ha当たり60万円(単収3t)〜80万円(同4t)である。1ha当たりでみれば北大東のモデル農家は南大東の2倍の高生産性である。経営面積が相対的に小さいことが、高付加価値化への取組みを導いた。面積が小さいという制約が、逆にプラスに作用したのである。
 北大東村の長期的な目標は、1,000万円農家である。水の整備でさとうきびの単収を7t/10aに引き上げ、さとうきびの1ha当たり粗収入140万円をめざす。水源確保のため、溜池を整備中であり、粗収入1,000万円は7〜8年後の目標である。
 さとうきび栽培の一番のポイントは水遣りである。島内の農家S(6.3ha)は地下水をボーリングし水を確保して、4日に1回たっぷり灌水することで、例年、単収7〜8トンを達成している。兼業農家であるため、管理に十分手が回らない状況であるが、もっと早く更新できれば単収10トンは可能という。現在、北大東で普及している灌漑は点滴チューブによる方式である。これはイスラエルから導入した技術であるが(平成12年度事業)、水を効率的に使用できるので、水不足地域に向いている。
 北大東島は、さとうきび自体の高付加価値化も検討している。分蜜糖工場の原料として出荷するのではなく、地元で加工して出したい(含蜜糖生産)と希望している者もいる。黒糖(含蜜糖)を生産できるようになれば、そこから色々な地域特産物を作れる。しかし、現状では、分蜜糖工場の原料不足があるので実現できないでいる。
 北大東島の諸指標は,長期にわたって“不変”である。人口は500人で推移している。農家の経営規模もほとんど不変である。さとうきび一辺倒であったため、人口扶養力が一定だったからであろう。こういう状況に対して、いま北大東村役場は長期的視点から、農業を複合化して、人口700人に向けた発展戦略を描きたいとしている。

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さとうきび生産振興への地域全体の取組

 北大東は地域の総産出を最大化しようという意識が強い。先述したTFP概念の実践がみられる。
 北大東は、農業振興促進協議会の下に、役場、議会、JA、製糖工場、農業委員会、生産農家を構成メンバーとする「北大東さとうきび糖業振興会」と、これに連携協力するためにJA北大東支店内に「さとうきび振興対策室」を設置し、取組を強化した。この2年間、台風、干ばつが厳しくなったこと、品種がF−161に集中していることのダブル効果で、単収が去年3トン弱、今年3トン弱と落ち込み、生産が激減したことを受けての動きである。実施体制では、役場が中心になって、各機関が徹底して話し合いを行っている。具体的な取組は、営農パトロール及び営農指導、作業受委託、農機リースが主なものである。
 以前は、製糖工場と農家の意見が噛み合わないところもあったが、いまは工場も一緒になって取り組んでいるようだ。さとうきびは初期管理が大切であり、収穫したら直ぐ植え付けが必要であるが、工場は今期は原料の減少もあって2月初めには製糖を終わらせ、農家の適期作業に協力した。また、受委託は農協が核になっているが、農協のさとうきび振興対策室と工場の農務課が連携して農協のオペレーター不足を補うため、工場の従業員が植え付け作業を支援し農家の適期作業に協力している。
 営農指導の一環として、営農パトロールも実施している。役場、JA、製糖会社の3者で村内さとうきび農家のほ場を見回り、更新の遅れているほ場や品種選好に問題のある農家を指導している。しょっちゅう畑を見て回り、「あの畑は植えつけてないけどどうするの」。農家をサボらせないように管理しているともいえる。
 単収アップへのインセンティブもある。春植で10a当たり6トン以上、夏植9トン以上、株出8トンの農家に対して、賞状と肥料(20kg袋30袋)を与えている。
 また、品種と作型の指導を徹底している。現在、品種はF−161に集中し(75%)、バランスが崩れている(以前の普及品種は農林9号)。4,5年前、農林9号に黒穂病が蔓延したとき、農家が一斉にF−161を導入したのであるが、この品種は根を張らないため台風や干ばつに弱い。この2年の生産激減はF−161への品種集中と台風・干ばつ襲来のダブル効果である。そこで、指導方針としては、まず品種のバランス回復を目指している。
 農林系統は黒穂病は入りやすいが、根が深く台風には強い。黒穂病は全面積農林9号だから被害が拡大したのであって、農林9号が3割位なら管理も行き届き、黒穂病の蔓延も防げる。また、更新を早めれば被害を抑制できる(株が古いほど黒穂病が入りやすい。現状4〜5年更新を3年更新へ)。そこで、農林系統を導入し品種のバランス回復と、早期更新を実施すれば、黒穂病を防ぎ、同時に台風被害も防げるという理論である。また、北大東島は夏植が少ないが、1〜2月に植え付け夏までに育てておけば台風被害も少なくなるので、作型の変更も検討している。

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生産振興に役に立つ公共事業

 さとうきびの栽培管理のポイントは灌漑である。村役場は溜池整備で単収アップを狙っている。畑かん地帯は非畑かん地帯に比べ、単収で2トン/10aプラスである。昨年は台風・干ばつが厳しく、北大東平均の単収は3トン弱であったが、畑かんが整備されている黒部地区(40ha)は4トンであった。
 北大東は現在、4割の地区で水の手当てができるが、現在の水源では施設はあっても水不足のため、週1回しか灌水できない。植物を生かすだけの水であって、生育には不十分。島全体の水収支計画では100%満たすには90万トン必要であるが(合計19個の溜池が必要)、溜池は現在8個、採択済み7箇所、あと未採択4箇所である。既に計画は出来ており、後は財源対策だけである。公共事業が産業振興に直結しているのがいい。灌漑事業(溜池)の補助率は95%、地元負担5%である〈3万トン級の溜池の事業費4〜4.5億円〉。
 もうひとつの対策は、農地防風林の整備である。島が小さいだけに、気象災害を受けやすく、潮害がひどい。北大東は南大東に比しても、防風林は少ない。基盤整備の際、面積確保のため、昔からあった防風林を倒したのである。しかし、この3年位、農家の意識が変わり、農地が減少してもよいと、防風林の要望が出ている。農地減っても単収アップでカバーできるという考えに変わったのである。自分たちで木を植え始めた農家もある。この1〜2年、台風襲来で収穫さえ出来ない畑が出ているからである。生産に役立つ公共事業という意味で、公共事業による防風林整備も課題であろう。

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