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高濃度の砂糖を用いた新しいガン治療法の開発〜砂糖に関する学術調査報告から〜

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2006年11月]

【調査・報告〔砂糖/健康〕】

東京大学 国際・産学共同研究センター   教授 畑中 研一

【目的】
【概要】
【結果と考察】

【目的】

 高濃度の砂糖がガン細胞の増殖に及ぼす影響について調べ、毒性の低い(あるいは無毒な)抗ガン剤を用いた治療法の可能性について調査する。
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【概要】

 高濃度の砂糖(ショ糖:スクロース)によって起こるバクテリアの増殖抑制効果(防腐作用)を用いて品質の安定性を増すこと(いわゆる砂糖漬け)は広く行われているが、これを医療に応用した例はない。
 本学術調査では、B16メラノーマ(注1)などのガン細胞培養系の培地中にさまざまな濃度のショ糖を加え、ガン細胞の増殖の様子を時間経過とともに観察する。高濃度のショ糖を含む培地中では、膜浸透圧の関係でガン細胞が破壊されると予想できるが、正常細胞も破壊されるので、ガン細胞を破壊する濃度と細胞に毒性を示さない濃度を調べることによって、局所投与の可能性を模索する。
 通常の抗ガン剤治療では、薬剤の毒性が高いために副作用(特に肝機能障害)を考慮しながら投与している。薬剤の体内分解性が低いために肝臓などに蓄積するものと考えられる。これに対して、本研究で用いる「高濃度のショ糖」はガン細胞を死滅させた後、正常な組織に達するころには拡散されて濃度の低下が起こり、無毒になると思われる。さらに、低濃度となったショ糖は体内で速やかに分解されるため、肝機能障害を考慮する必要がない。
 砂糖のほかに、食塩、酸、香辛料なども高濃度にするとバクテリアの増殖を抑制する。しかし、体内での分解性という点においてショ糖が最も副作用のない(毒性の低い)薬剤であると言うことができる。
(注1)C57BL/6系統マウス由来の黒色腫(悪性黒色腫と呼ばれる黒色をした皮膚がん。

【結果と考察】

 先ず初めに、マウスのガン細胞であるB16メラノーマの培養系にショ糖を濃度が100mM(注2)、1M、飽和(約2M)となるように加えて、2時間培養後の細胞形態を観察すると、ショ糖濃度が100mMではショ糖を加えていない場合と比べて変化がなかった。これに対して、ショ糖濃度が1Mと飽和の溶液を用いた場合には、細胞形態に著しい変化が見られた。そこで、以下の実験では、ショ糖濃度が1Mと飽和の溶液を用いることとした。
 図1に示すように、B16メラノーマ細胞の培地に濃度が1Mとなるようにショ糖を加えて、細胞の時間変化を観察すると、1時間後に脂肪顆粒のような突起を多数出芽し、2時間後、3時間後には培地中の水分を含んで膨潤する。さらに、24時間後には細胞がバースト(破裂)してネクローシス(外的環境要因による受動的な細胞の壊死)を起こす。これに対して、飽和のショ糖溶液中では、脂肪顆粒と思われる突起の出芽も見られず、24時間後においても細胞がシュリンクして(縮んで)いるようには見えるが、ネクローシスが起こっている細胞は1Mの場合よりも少ない。すなわち、B16メラノーマ細胞に対して毒性を示すショ糖濃度には(1M付近に)最適値があることを示唆している。

図1 B16メラノーマ細胞に高濃度のショ糖を投与した場合の経時変化
 
 
図2 HeLa細胞に高濃度のショ糖を投与した場合の経時変化
 
 
図3 Caco2細胞に高濃度のショ糖を投与した場合の経時変化

 次に、HeLa細胞(ヒトの子宮頸部ガンから得られた細胞株)を用いて同様の実験を行った。結果を図2に示す。1Mのショ糖に対してはB16メラノーマ細胞と同じように2時間後、3時間後に膨潤し、24時間後にはバーストしている(B16よりはバーストしている細胞が少ない)。ところが、飽和のショ糖溶液を用いると、HeLa細胞は早い時間に外部刺激(ショ糖)に対して反応を始めるが、24時間経っても生き続けている。このことは驚くべき事実であり、ヒトのガン細胞がマウスのガン細胞に比べて外部刺激(この場合はショ糖)に抵抗性がより強いことを示しているのである。図2から分かるように、1Mのショ糖に対しては1時間では反応せず(コントロールと変わらず)、2時間後に反応を始める(遅い反応)であるが、24時間後にはネクローシスに至る。これに対して、飽和のショ糖に対しては1時間後には反応が始まっている(速い反応)が、ネクローシスには至らず、外部刺激に対して細胞が順応しているかのごとく生育し続けている。

図4 HepG2細胞に高濃度のショ糖を投与した場合の経時変化

 さらに、ショ糖刺激に対する応答がガンの種類によりどのように変わるのかを調べるために、Caco2細胞(ヒト由来大腸ガン細胞株)とHepG2細胞(ヒト由来肝臓ガン細胞株)を用いて同様の実験を行った。結果を図3および図4に示すが、HeLa細胞の場合と同様の傾向であった。すなわち、1Mのショ糖に対しては遅延応答し、最終的にネクローシスに至る。これに対して、飽和のショ糖に対しては即座に応答が起こるが、ネクローシスには至らずに細胞が生き続けている。
 以上のように、濃度が1Mのショ糖溶液に24時間さらされたガン細胞はほとんどがネクローシスを起こして死滅することが分ったが、予備的に行った正常細胞を用いた実験でも1Mのショ糖溶液によってネクローシスが起こっていた。したがって、1Mのショ糖溶液をいかにしてガン組織に長時間留めるかが今後の課題と言えそうである。

(注2)1M(mole/L)は、1lの溶液中に1moleの溶質(ショ糖では約342gに相当)が溶けている濃度。

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