和菓子の魅力を表す表現は、「季節感がある」 「手づくりの繊細さ」 「伝承された技術」 など枚挙にいとまないが、その中のひとつに 「五感の芸術」 ということがある。
人間の五感である味覚、視覚、聴覚、触覚、臭覚の全てで味わうことができる和菓子の特性と魅力を言い表して至言である。
通称 「上生菓子」 「煉切」 と呼ばれる菓子に接すると多くの人は、「まあきれい!」 「食べるのがもったいない」 などと言う。
先ずその造形の美しさと可憐さに惹かれるのである。
「煉切」 とは煉切餡を竹べらや布巾などの小道具を利用して手づくりで成形していくもので、「手形もの」 と呼ばれるが、型抜きのもある。
普通の餡では、餡にねばりが無くて形どることが難しいので、その店や技術者によって異なるが、薯蕷(つくね芋)や牛皮、場合によって寒梅粉(米の粉)などを混ぜ入れて煉りあげた 「煉切餡」 を用いてつくられる。
季節の草花や蝶、時には渓流や山を表現して形どる 「煉切」 は、味わって美味しいことは勿論だが、視覚による楽しみがある。
本物の季節に先がけて、間も無く訪れる季節を和菓子で感じることができるのは、美しい四季を持つ日本人ならではのことと言って良い。
一方、次元の異なる視覚の味わいもある。
焼菓子などに良く見られるものだが、なんとも言えぬ美味しさを感じさせる “焼き色” である。
ドラ焼やカステラの表面にある “焼き色” は、小麦粉や米の粉などの主原料が焦げた色ではない。
“焼き色” というと焦げ色と誤解されるが、純粋に焼き焦がした色とは違う。
ドラ焼の表面が焦げ色になるまで焼き焦がしたのでは、それはもう食べられたものではない。
あの、なんともいえぬ美味しさと香ばしさをかもしだす焼き色は、主原料である小麦粉、米粉や卵などの中に含まれるアミノ酸と砂糖が合体することによって生じるメイラード反応がメラノイジンという物質を形成して着色効果を表して、あの美味しそうな焼き色となる。
ひと目見て感じる 「美味しそうな焼き色」 は、砂糖がもたらすものであり、砂糖の持つ甘さ以外の様々な特性のひとつが、見て感じる和菓子の美味しさを生み出しているといえよう。