オリゴ糖について (1) |
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日本甜菜製糖(株)総合研究所 主任研究員 名倉泰三 |
〜オリゴ糖とは〜
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オリゴ糖の紹介
スーパーやドラッグストアの店頭では、「オリゴ糖」を配合した色々なお菓子、乳製品、サプリメントを目にすることができます。テレビの健康番組にも良く取り上げられ、お腹の調子を良くする健康食品として、オリゴ糖はすっかり消費者から市民権を得たのではないでしょうか。本シリーズでは、オリゴ糖のイロハから最新の研究情報まで、3回に分けてご紹介したいと思います。
オリゴ糖とは
炭水化物は、私たちが生きていく上で、エネルギー源として欠くことができない栄養素の一つです。炭水化物は、その大きさにより3種類に分けることができます。最も小さい炭水化物の代表がブドウ糖や果糖で、単糖類と呼ばれます。この単糖類が数十〜数千個つながったものは多糖類と呼ばれ、身近なものにデンプンや寒天、食物繊維などがあります。オリゴ糖とは、単糖類が2から10個つながったものを指します。オリゴ糖の「oligo」は、「少ない」という意味のギリシャ語が語源の言葉です。食品に含まれる炭水化物の仲間をまとめると、表1のように様々なものがあります。オリゴ糖の定義では、おなじみの砂糖や麦芽糖などもオリゴ糖の仲間になります。本シリーズではビフィズス菌を増やす働きのあるものをオリゴ糖として、お話しを進めます。
表1 食品に含まれる炭水化物の主な種類
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注目されたオリゴ糖の働き
ビフィズス菌を増やすオリゴ糖の研究は、母乳から生まれました。母乳を飲んでいる赤ちゃんの腸内にはビフィズス菌がたくさんいるのに対して、粉ミルクで育った赤ちゃんには大腸菌が多く、下痢などの病気になりやすく死亡率が高いことが問題となっていました。そこで、ビフィズス菌を増やす成分の研究が行われました。いくつかの成分が候補に挙がりましたが、1950年代後半に母乳にはビフィズス菌のエサとなる炭水化物の量が粉ミルクよりも多いことが分かりました。このエサとして注目されたのがオリゴ糖で、粉ミルクにオリゴ糖を加えることで、乳児のビフィズス菌を増やすことに成功したのです。その後の研究で、乳児だけでなく、大人がオリゴ糖を摂取しても効果が高いことが分かりました。ビフィズス菌は炭水化物が大好きで、大腸にはエサになるものが少ないので、いつもお腹を空かして、オリゴ糖が来るのを待っているわけです。現在の粉ミルクには、十分な量のオリゴ糖が配合されているので、腸内のビフィズス菌の数は、母乳栄養の場合と変わらなくなりました。
表2 現在販売されているビフィズス菌を増やす効果のあるオリゴ糖
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色々あるオリゴ糖
ビフィズス菌を増やす効果のある代表的なオリゴ糖を表2に示しました。作り方や原料にそれぞれ特徴があります。作り方には、(1) 微生物の酵素の働きを利用してショ糖(砂糖)や乳糖、デンプンを原料に合成する方法、(2) 植物の多糖類を酵素の作用により分解する方法、(3) アルカリ条件で糖を異性化する方法、(4) 植物に含まれるオリゴ糖を抽出する方法、の4種類あります。
市販されているオリゴ糖の多くは、技術・コスト的に純度を高めることが難しいため、主に液状品として流通しています。甜菜から作られるラフィノースは、液状品のほか、純度の高い結晶粉末として作られており(写真1、2)、食品用途以外にも移植臓器の保存性向上剤として、医療用レベルの品質で供給されています。
これらのオリゴ糖は、私たちが日常食べている穀類や野菜、果物、ヨーグルトや味噌などの発酵食品にも含まれています。また、ここに挙げたオリゴ糖の多くは、小腸でほとんど消化吸収されないので血糖値の高い方でも心配ありません。それではカロリー値はゼロと思われるかもしれませんが、デンプンや砂糖の半分あります。ビフィズス菌がオリゴ糖を食べると酢酸や乳酸を出し、これが吸収されてエネルギーになるためです。実は、ビフィズス菌の出す酸の働きで、私たちの腸はとても健康な状態に保たれます。一方、ビフィズス菌は食物繊維をあまり栄養にすることはできません。食物繊維の整腸効果は、主に腸で体積が膨らむことと、酸の作用で便通が良くなるものなので、オリゴ糖と組み合わせるとさらに効果が期待できます。次号では、腸内に住む細菌と健康、そしてオリゴ糖の効果について、もう少し詳しくお話したいと思います。
写真1 甜菜から作られるオリゴ糖(ラフィノース)の結晶 |
写真2
左:ラフィノースの結晶粉末(純度99%以上)
右:ラフィノースを含む液状タイプの甘味料
(ビートオリゴ)
甜菜抽出液から作られているビートオリゴには、ラフィノースや砂糖、ブドウ糖、果糖などが含まれています。 |