オリゴ糖について (2) |
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日本甜菜製糖(株)総合研究所 主任研究員 名倉泰三 |
〜腸内の細菌と健康の話〜
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<赤ちゃんとビフィズス菌>
私たちのお腹には、100種類以上のたくさんの細菌が住んでいます。その数は100兆個、重さにすると1kgにもなり、細菌を一列に並べていくと地球を2周するほどの長さになります。地球上でこれほどまで細菌が集まって生きている場所はありません。それではお腹の細菌はいつどこからやってきたのでしょうか。その多くはお母さんからもらったもので、産道を通るときに始まり、お乳を飲むなどお母さんと一緒にいることで、お母さんの体についている細菌が赤ちゃんの体に入っていきます。生まれて最初に住み着くのは、大腸菌や腸球菌です。しかし1週間ぐらいでビフィズス菌が増えて、大腸菌や腸球菌は減っていきます。ビフィズス菌は母乳に含まれるオリゴ糖を食べて、どんどん増えます。赤ちゃんのウンチの臭いが酸っぱければ、まず安心です。なぜかというと、ビフィズス菌がオリゴ糖を食べて、酢酸や乳酸を出している証拠だからです。離乳食を食べるようになると、ウンチの臭いも少し大人っぽくなり、これ以降は少しずつ大人の腸内細菌に近づいていきます。
<大人の腸内細菌と健康>
大人では、バクテロイデスやクロストリディウムなどの悪玉菌が多く、ビフィズス菌は1〜2割ぐらい、少ない人だと1%にも満たなくなります。このような悪玉菌は、免疫がしっかりしていればすぐに悪さをしませんが、体に有害な物質を少しずつ作ります。これは、肌荒れの原因だけでなく、長い時間をかけて大腸ガンなどの病気を引き起こします。老人になると、腸の動きが悪くなるので、さらに悪玉菌が多くなります。腸に悪玉菌が多いと、ウンチの色は黒く、有害物質に由来する刺激臭がします。余談になりますが、雑誌などで「宿便」という言葉を見聞きしたことがあるかと思います。腸壁に古い便がこびりついて、体の調子を悪くするというものですが、実際は、便秘の方でも大腸の表面は粘液できれいに覆われていて、「宿便」は見あたりません。しかし、「宿便」を「悪玉菌の多い腸内環境」と捉えると、その概念は、現在の科学にも通ずるところがあります。
腸のビフィズス菌はオリゴ糖を食べることで、いつでも元気を取り戻します。また、オリゴ糖から作られる酸は、悪玉菌を弱らせる働きがあり、さらに腸の動きを活発にするので、便秘に効果があります。毎日の食事には、オリゴ糖や食物繊維の多い根菜類や野菜を摂ることが大切です。ヨーグルトなどの発酵乳製品も効果があります。逆にお肉など消化の悪いタンパク質を毎日たくさん食べると、悪玉菌の栄養になり有害な物質をどんどん作るので、要注意です。外食の多い人や咀嚼の難しいお年寄りの方は、オリゴ糖の入った健康食品を利用するのも手です。オリゴ糖を食べてしばらくすると、お腹が張ったり、おならが増えたりします。これはオリゴ糖が腸で働いて、一時的に炭酸ガスが増えるためで、有害菌が作るメタンガスと違って臭いがありません。ビフィズス菌が元気になってきたサインとも言えます。多くの人で、次第におならの回数は減ってくるようです。
甜菜から作られるオリゴ糖の一つ、ラフィノースを摂取した時の効果を、グラフで示しました。1日5gのラフィノースを食べると、ビフィズス菌がぐっと増えて、便の中の有害悪臭成分アンモニアが減ることが分かります。このアンモニアは悪玉菌が作ったものですが、便として排泄されるだけでなく、一部は体内に吸収されてしまいます。普通は肝臓が無毒化してくれますが、肝機能が弱った人ではこのアンモニアが体内を巡り、肝性脳症と呼ばれる昏睡状態に陥ります。この治療にもオリゴ糖が使われていて、腸内のアンモニア発生を抑えることで、症状が回復します。
腸内細菌は生活習慣病のような大人の病気だけでなく、子供で増えているアレルギーのような免疫の病気にも関係していることが分かってきました。次号では、腸内細菌と免疫の関係、さらにはオリゴ糖のアレルギー効果について、最新の研究を交えてご紹介したいと思います。
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甜菜から作られるオリゴ糖(ラフィノース)を1日5g摂取した時の効果
名倉ら:腸内細菌学雑誌1993年13号よりデータ引用 |