砂糖は、代表的な甘味料。戦後の物の無い時代、甘いものは大変なご馳走でした。また、食べ物が不足していただけに、味覚的にも大変貴重な一品でした。戦後だけではなく、夏目漱石の小説「吾輩は猫である」の中にも、姉妹が砂糖の取り合いをする場面があります。それは、主人夫婦が寝ている間に起き出した姉妹二人が、食卓に置かれている砂糖つぼから、まず姉が自分の皿にさじですくった砂糖を移すと、妹もそのまねをします。姉がさらに、自分の皿に砂糖を移すと、妹もまたそれに倣います。最後に砂糖つぼが空になったころ、主人が起きてきて、二人の皿からすべての砂糖を取り上げ、元のつぼに戻してしまいます。猫は、姉妹が砂糖を皿に山盛りにし、争っているうちに肝心の砂糖をなめ損なった様子を見て、猫より知恵がないと批評しています。ちなみに、食卓に砂糖つぼが置いてあったのは、当時、パンに砂糖をつけて食べる習慣があったからです。
砂糖は、さとうきびやてん菜から糖分を抽出し精製した甘味料で、その主成分は、炭水化物の一種、ショ糖です。精製度の高い砂糖は、ほぼエネルギーの塊で、精製度の低いものは、原料に由来する栄養素を含んでいます。
特に消化吸収に優れ、素早くエネルギーになるため、疲労時に摂取すると、素早い回復効果が得られます。また、煮物などにツヤをだしたり、ケーキをふんわり仕上げ、舌触りを良くしたりするほか、食品の保存性を高めます。
砂糖は精製度の高いものほど甘味は上品で、逆に低くなるほど風味が複雑で味が濃厚になります。ですから、コクを出したい料理には黒砂糖を用い、あっさりした料理に仕上げたい時には上白糖と、砂糖も使い分けるとよいでしょう。そして、煮物のときは砂糖を先に入れると、材料にうま味を含ませることができます。
日本料理が中国料理やフランス料理と違うところは“煮物”や“和え物”などに砂糖をふんだんに使うことです。
「守貞漫稿」によれば、幕末期の江戸では、菓子店、料理屋、てんぷら屋、うなぎ屋などで大量に砂糖が消費されていたと記されています。
かつての江戸前料理の口取りのだし巻き卵などは、触れると指に吸い付くほど、ふんだんに砂糖を用いていたと言われています。
また、梅干を砂糖でくるんで食べる習慣もあります。私も、砂糖を食べたいばかりに苦手な梅干にたくさんの砂糖をつけて食べた経験があります。
砂糖は消化・吸収のよい糖質性エネルギー源で、とくに脳の栄養に欠かせません。一方、梅干は、梅干の酸味成分が消化液の分泌を高めるので、梅干と砂糖を一緒にとると、砂糖が速効的にエネルギー化するので疲労回復のためにも役立ちます。
ハイキングや登山の折には、リュックに必ず砂糖類を常備したいものです。
しかし、砂糖に限らず、エネルギー源になるもののとり過ぎは血中の中性脂肪の増加、肥満や糖尿病、ビタミンB1の不足を招く恐れがありますが、砂糖を日常生活に上手に利用することは、生活に楽しみと、心に癒しを与えることになります。