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お砂糖豆知識[2007年2月]

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最終更新日:2010年3月6日

ALIC砂糖類情報
お砂糖豆知識
[2007年2月]

「甘み・砂糖・さとうきび」(5)

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター
研究管理監 杉本明
〜南の国の緑の宝 さとうきびの生育特性〜


はじめに
 はるか昔、北インドに生まれたさとうきび野生種は、雨や風、人の動きと共に、メコンの流れに沿い、半島を南下し、旅の途中で先住植物と活発に遺伝子の交換をして、スラウェシ・ニューギニア島周辺で甘味たっぷりの作物へと変貌を遂げた。それは、さとうきびが、ススキに似た細く短い茎、たいていは甘味のないごく普通の草である野生種から、ロバスタム種(力強いという意)、分げつが多く、茎は長く、旺盛な生育・株再生力を持つ祖先種を経て、緑葉豊かで姿麗しく、茎は太く長く、噛めば滋養豊かな甘汁が溢れ出る作物、オフィシナルム種(薬を意味する)に変貌する旅、すなわち進化の旅であった。旅の終焉で人間の食生活に出会ったさとうきびは、それ以来、歴史の表舞台を歩き続けている。
 FAO生産年鑑2004年によれば、さとうきびは、収穫面積で20,399千ha(作物中第14位)、生産量は1,332百万トンである。茎自体が目的収穫物であり長く太いこともあり、生産量は他の作物と比べて飛び抜けて多い。ブラジル、インドの二カ国で世界のおよそ49%、3位は中国南部諸省、さらに、タイ、パキスタン、キューバと続く。さとうきびは熱帯・亜熱帯の大作物、「南の国の緑の宝」である。この稿では、さとうきびが果たすべき任務に繋がり、実用栽培にも濃い影を落とす、さとうきびがそもそも備えている生育特性の特徴に触れようと思う。

1.砂糖(ショ糖)の合成・消費・蓄積
 植物は光合成により葉中でショ糖(砂糖)を合成する。さとうきびは合成したショ糖を茎内柔組織細胞の液胞にまで運搬する。ショ糖は細胞に取り込まれる前に、酵素の働きでブドウ糖と果糖に分解される。分解された糖は再度合成されて液胞にショ糖として蓄積される。茎の伸長・肥大や分げつ等、個体の生長にはエネルギーが必要であるため、個体は蓄積したショ糖を再度ブドウ糖・果糖に分解してエネルギー源として消費する。生長が旺盛な間はショ糖の蓄積は少なく、外部から測定できる糖度も低いのはこのためである。しかし、ひとたび、低温や乾燥、窒素の不足、甘蔗齢の増加等によって個体の生長が停滞すると、生葉が健全な働きをしていれば、ショ糖の蓄積が消費を大幅に上回るため、糖度は急速に上昇する。かといって、ショ糖蓄積量の増加、糖度上昇は生育停滞期ばかりにあるわけではない。普通は、さとうきび茎内に蓄積されるショ糖の方がエネルギー源として消費される量より多いので、個体は茎の生長中も少しずつショ糖を蓄積する。その量には品種や生育環境の影響が大きい。

2.特徴的な生育特性
 (1)C3、C4、CAM型光合成:光合成に際しての、空気や光の取り込み方、使い方などの特徴で作物を分類すると、さとうきびはC4型光合成をする植物(以下C4植物)の仲間に入る。イネやムギはC3型光合成植物(以下C3植物)、サボテンやパイナップル、アロエ等はCAM型光合成植物(以下CAM植物)と言われる。C4植物は、熱帯・亜熱帯や乾燥地域の気象環境に適応し、高温・強日射・乾燥等の条件下でC3植物と比べて高い光合成能力を発揮する。さとうきびの他で有名なのはトウモロコシ、ソルガム等である。ススキの仲間もC4植物である。C4植物の特徴は、生物の時間に習ったことであるが、C3植物の光合成における二酸化炭素還元回路(カルビン・ベンソン回路)に加え、二酸化炭素を効率的に利用するためのいわば濃縮回路(C4ジカルボン酸回路)を持つ点にある。それを支える葉の構造もC3植物とは異なる。光合成能力を十分に発揮する温度も異なり、C3植物の最適温度が10〜25℃であるのに対し、C4植物では30〜40℃である。作物生産上重要な一日当たりの乾物生産力はC4植物の方がC3植物より高い。さとうきびが熱帯多雨条件下で高い物質生産能力を発揮することの根拠となる特性である。
 ちなみにCAM型光合成とは、気孔から水分が蒸散することを避けるため、気孔を開くことが必要な二酸化炭素の取り込みを夜に行ってC4化合物を液胞中に蓄積し、熱い午は気孔を閉じ、太陽エネルギーの吸収と貯蔵したC4化合物を用いた炭水化物の合成を行うことを特徴としている。小雨、乾燥を反映した生理機構として自然の舞台装置の巧みさに驚かされるとともに、おのずと納得するところである。

 (2)要水量と根系
 低い要水量;植物の身体(乾物)を作るのに必要な水の重量のことを要水量という。蒸散した水の重量(g)を増加した植物体の乾物重量(g)で除して表すため、数値の低い方が効率的に水を使っていることを意味することになる。C3植物であるイネは682、コムギ557、それに対しC4植物であるトウモロコシは349、ソルガムは304である。その他の作物種も合わせ、C4植物はC3植物より明らかに低い。C4植物には光合成能力が高く物質生産能力が高いものが多いからである。もう一つの理由には乾燥地帯を中心に発達したとされるC4植物が、そもそも節水型生長を特徴とすることがあげられる。
 さとうきびは200程度であり、主要作物中でも要水量が最も低い植物種の一つである。茎の豊富な甘汁を印象に持つものにとってはすぐに納得とはいきにくいかもしれない。しかし、さとうきびの場合、要水量が低いことは、水が不足しても作物が順調に育つことを意味するわけではない。さとうきびの増体に対する水消費の効率性が高いという意味の方が大きい。さとうきびは熱帯多雨条件で旺盛な生育を見せるのが特徴である。インドネシアでは水稲後の作付けとしてのさとうきび圃場を見ることができるが、その圧倒的な生育に驚かされる(写真1)。このように、豊富な水と温度と栄養分の存在下では、数多い茎が丈長く伸び、多収となるのがさとうきびである。いわゆる”バイオマス利用”という言葉のイメージに最適な作物の一つである。そんなさとうきびも、水が不足する条件下での生育は極端に不良である(写真2)。水があれば大きく育ち、水が無ければまともに育ち得ないのがさとうきび、夏の干ばつに負けてしまうのも、貴重な水を使った灌水による栽培が普及し、灌水の有無が生育に決定的な影響をもたらすのも、みなさとうきびの本来の生育特性が表現する姿である。「十分な水」、要水量の低いさとうきびにとっても、これは良好な生育の必須条件である。


 
写真1 ジャワ島東部水田での多収圃場
 
写真2 夏の干ばつで苦しむ立毛(石垣島)

 豊かな根系;さとうきびは栽培作物の中では根系が比較的豊かなことが知られる。高い光合成機能を保つためにも、養水分を吸収する力、すなわち根の量とその活性が重要だからであろう。また、長く太い茎、豊かな葉群をしっかり支えるにも、茎を土につなぎ止める根は重要である。「比較的豊かな根系」、この特性は、東北タイ等、厳しい乾季を持つ地域での産業の成立に表われている。しかし豊かな根系とは、活性が同等であれば消費する呼吸エネルギーが大きいことも意味する。一時的にしろ水が根系の呼吸エネルギー消費に不足する場合はどうなるのであろうか。実際の栽培技術構築に際し興味深い特徴である。
 温度・光と養分がある場合、雨がたくさん降るか、人工的に灌水をするか、豊かな根で土の中の水分を自ら集めてくるか、このいずれかが満足されればさとうきびは多収になる。

 (3)熱帯作物:琉球弧、種子島から波照間島、与那国島に至る島々を訪ねるとさとうきびに会う。ほとんどの島で、夏はさとうきびの緑、冬は銀色の穂波と収穫に勤しむ島人が風物詩である。日本本土で見る機会は少なく、関東地方より北の地域ではまず見ることはできない。さとうきびは昔も今も熱帯作物である。生育適温は30℃より高く、16℃を下がると生長は滞り、12℃では止まる。霜が降りれば葉の細胞は死に、きつい霜では茎自体が枯死し(写真3)、午に温度が上昇すると、貯まったショ糖がアルコールに変わる。そんなわけで産業としてのさとうきび栽培は、南北回帰線の少し外側の無霜地まで、それ以上の高緯度地域では、海抜高度の低い海岸沿いの無霜地のみが適地である。


写真3 霜で枯死したさとうきび(種子島)

 さとうきびにとって、高温・高湿は、出穂・開花・交雑と稔実・種子の発芽と初期生育にも必須である。このことは、技術開発の場、品種改良試験地の設置場所(写真4)等にも大きな影響を与える。穂が出、花が咲き、花粉が散らなければ交配はできない。交配ができない育種場は片肺飛行を強いられる航空機と同じであり、それ自体が品種改良の進行に大きな負荷となる。交配種子の発芽(写真5,6)に必要な温度・湿度は他の生育段階に必要なそれより高い。発芽のためのガラス室に入ると、入った瞬間に汗が噴き出す。それほどにさとうきびは高温・高湿が好きである。


写真4 ジャワ島東部マランに置かれた品種改良試験場における出穂状況


写真5 さとうきびの穂から取った種子


写真6 種子からの発芽の状況

 これらのことは、栽培の適地とされる地域での肥培管理・作付けのあり方にも大きな影響を与えている。どの生育段階でも基本的には同じであるが、特に、植え付け後の萌芽、収穫後の株再生には高温・多湿が重要である。夏に植えたさとうきびは、雨が降れば勢いよく芽を出して生長する(母茎)。葉が開き、やがて母茎の基部にある腋芽から新しい茎が分げつする。2本、3本、5本と出て伸び始める。一方、冬や春に植えたさとうきびは水があってもなかなか芽を出さない。温度の低い冬のある地域ではビニールマルチ等による保温が必要である。熱帯地域では収穫の後、特段の作業をしなくても土中の腋芽が活発に萌芽して再生するが、高緯度では枯葉を除いて光を当てたり、マルチをしたり、地表近くの茎を切り戻したり、土を剥いだりの作業が求められる。産地で繰り返し言われる株出し収量の改善のための「速やかな株出し処理」とは、そのような地域での特徴的な作業と言っても良い。赤ちゃんに手厚い保護が必要なように、さとうきびの発芽・萌芽にも、それ以降の手当とは異なる特段の配慮{十分な温度・水・茎内の栄養(窒素等)}が必要である。当たり前のようで気づき難いことであるが、これを技術力で乗り越えることこそが生産向上の鍵かもしれない。

 (4)栄養繁殖作物:稲や麦、大豆の場合、田んぼや畑で、販売用や自家用と同じ方法で次世代の種子が生産できるのは、そもそも販売用や自家用に栽培される作物自体が遺伝的に純粋で自家受粉を基本にするためである。親の遺伝子型と同じ種子がとれ、種子をまくと他の条件が同じであれば親と同様な作物が育つためである。それとは少し異なる種子生産の形に、トウモロコシや、多くの野菜に代表される雑種強勢の利用がある。父親と母親、それぞれが持つ異なる遺伝子型を合体させて優良な遺伝子型を作る一代雑種である。圃場のトウモロコシがいかに優良でもその種子を播いて栽培することは普通はない。子が親と同じ優良性を示さないからである。このような場合、両親を別々に栽培して交配し、雑種ではあるが同じ遺伝子型を持つ種子を大量に生産し、それを播いて栽培する。
 さとうきびは、十分な温度と湿度があれば、穂を出し自然に交雑して種子を着けることも多い。しかし、実用上の栽培は、茎の節部にある腋芽を生長させて当代として養生する、栄養繁殖によって行われる。その理由の一つは、実際の生産圃場には、種子の発芽・生長に必要な高温・高湿を備える圃場がないことである。もう一つの理由は、栽培されているさとうきびが雑種であるため、種子が育っても、親と同じものにならないためである。
 さとうきびは条件によっては種子を作るが、種子それ自体が小さく圃場では普通発芽しない、発芽しても極小の単子葉で余程の好条件(高温・高湿)に恵まれなければ育つことはない。運良く育っても親とは異なり親の優良性が受け継がれるとは限らない。これでは種子繁殖による営農はおぼつかない。一方、茎には親の優良性を100%受け継ぐ腋芽があり、腋芽の周辺には根帯がありそこからは根が出る。こんな条件のためさとうきびは栄養繁殖による作物として実用化されるに至っている。トウモロコシは1本の茎から多数の次世代がとれるが、さとうきびは一本の茎から数個(数節)の次世代のみ採取可能である。ここにもさとうきびの実用栽培を規定する大きな特徴が見られる。

おわりに
 C4型光合成、低い要水量と深い根系、熱帯性作物、茎の腋芽を用いて栽培する栄養繁殖性作物であることを、さとうきびの生育特性の特徴として説明した。もちろん最大の特徴は茎にショ糖を貯めることである。これらの特性を特徴とした理由は、それらが現在の作物栽培立地の根拠となっている事項であり、それぞれの地域にある固有の生産上の諸問題、解決すべき生産上の隘路の根拠でもあるはずだからである。
 次回以降、さとうきびの実際の栽培、各地の状況、問題の所在等に触れる予定であるが、その際には、今号で述べた特徴を思い起こして頂きたいと思う。ここで触れたさとうきびの特徴は、さとうきびの成立・進化を経て具わった、作物の存在自体に伴う特性である。普段はあまり意識されないことであるが、余りにも当たり前にみえる作物の基本的特性、このことが栽培技術開発の鍵かとも思う。作物の成立・目に見えぬ本質に届く想像力、想像力が照らし出した、これらの特性の中に、さとうきびの利用や栽培改善の方法、大きな変革のための技術開発の方向が見えてくるはずである。


参考文献:
  乾燥地における作物生産 1989(熱帯農業技術叢書22:65 熱帯農業研究センター)