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お砂糖豆知識[2007年8月]

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最終更新日:2010年3月6日

ALIC砂糖類情報
お砂糖豆知識
[2007年8月]

「甘み・砂糖・さとうきび」(11

さとうきびの品種改良〜〜日本で育成した品種の来歴と特徴〜

独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 
九州沖縄農業研究センター 研究管理監 杉本明

はじめに

  前号で、さとうきびの品種改良の特徴と概要を紹介した。高次倍数性で染色体数が多いこと、異数性であること、雑種であり実用栽培では茎節部の腋芽を苗として用いる栄養繁殖であることが品種改良技術の特徴に繋がることを示した。日本で普及した歴史的な品種の特徴にも触れた。ここでは沖縄で始められた日本のさとうきび品種改良の成果、育成品種の来歴と特性を紹介する。

二つの育成地とその特徴

  日本にはさとうきびの品種改良を行う試験場(育成地)が二つある。種子島(独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構九州沖縄農業研究センター、かつての農林水産省九州農業試験場)と糸満(沖縄県農業研究センター、1昨年までは那覇市にあった。かつての沖縄県農業試験場)である。二つの育成地にはそれぞれ特徴があり、育成された品種にもそれなりの特徴がある。種子島の育成品種{系統名(品種になる迄の名)の最初には、例えばKF○○−○○、KN、KR、KYのようにKが付く(KFは現在KTnに代わっている。○○には実生選抜実施年の西暦と系統番号が入る)。Kは九州が育成地であること、F(台湾)、Tn(台南)、N(ナタール)、R(琉球)は交配・採種した地を表している。かつてはH(ハワイ)もあったが、今はない}には早期型の高糖性を示すものが多く、沖縄の育成品種(系統名の最初にRが付く。例えばRK○○−○○等々がある。アルファベットの意味は種子島の場合と同じである)には台風や干ばつへの抵抗性を示すものが多い。種子島には降霜等で生育期間が短いことや窒素分の多い比較的肥沃な土地で糖度が上昇しにくいと言う条件があるからであり、沖縄、特に現地選抜圃の置かれている宮古島では台風や干ばつが頻発するからである。

育成品種の特徴と利用上の要点

  (1)第1期の育成品種:NCo310以上の多収性を具える品種の育成を目的とし、高緯度地域での作物栽培における立性の草型を優位とする多収性理論に沿った育種操作が目立った段階である。沖縄、台湾、南アフリカ共和国、ハワイでの交配により種子を得ている。多父交配が目立つのも特徴である。普及に移された品種は以下の通りである。

  RK65―37 ;沖縄で育成した第1号品種。日本復帰以前の品種であるため、農林登録はされず、Ni1(さとうきび農林1号)とする品種名、農林番号は付けられていない。台湾育成のF146を母親に、多父交配を実施して得た実生を供試し、沖縄農試が1965年に実生選抜(第1次選抜)を開始して育成した品種である。高緯度地域における優れた受光態勢、立性の葉が個体群の光合成には有利であるとの考えに基づき、母親には立葉で多収性のF146を用いた。沖縄地域への適応性を効率的に付与するために、父親には複数の品種・系統を用いた(多父交配)。短く直立した葉、直立性の茎が特徴である。昭和55/56年期、沖縄本島に38ha程度普及したが、茎が細く硬く人力収穫に不適であったこと等の欠点があり、大面積に普及するには至らなかった。 

  Ni1 :さとうきび農林1号。系統名はKR66―303。RK65―37と同様F146の多父交配によって沖縄で採種された種子を供試し、種子島の育成地が1966年に選抜を開始して育成した、日本のさとうきび農林登録第1号品種である。立葉品種の優位性が発揮され、当時の普及品種NCo310に比べて高糖多収性を発現したため、昭和55/56年期には種子島での普及面積が733ha、同地域の23.9%に達したが、さび病に感受性でその後は減少した。

  NiN2 :系統名はKN69―12。NCo310を父親、インドで育成されたCo331を母親に、ナタール(南アフリカ共和国)で交配した実生を用い、1969年に選抜を開始して育成した品種である。NCo310と比べての多収性が最大の長所である。昭和55/56年期には奄美大島で22ha(3%)に普及したが、葉焼け病に弱い等の欠点があり、それ以上の広がりには至らなかった。

  NiF3 ;系統名はKF71―130。アメリカ合衆国フロリダで育成されたCP52―68を母親、CP57―621を父親に、1971年に実生選抜を開始して育成した品種である。両親共に早熟性品種であり、本品種も早熟性である。茎が太く1茎が重い典型的な茎重型多収性が特徴であり、石垣島から種子島まで広範な地域に適応する優良品種である。昭和60/61年期には種子島で467ha(15.5%)まで普及を広げた。しかし、葉焼け病に弱いこと、強風で茎が折損しやすく、茎数が少ないために台風時の折損による収量減が大きいこと、条件によっては株出しが不安定であること等からそれ以上の普及拡大には至らなかった。

  NiF4 ;系統名KF71―194。F146を母親、CP29―116父親に、1971に実生選抜を開始して育成した品種である。F146の高糖多収性とCP29―116の早熟性が結合し、優れた早期型高糖性と多収性を発現した。沖縄、鹿児島両県で奨励品種に採用されて各地に普及し、平成5/6年期には徳之島での普及が1,280ha(30.6%)、伊江島でも100ha(20.3%)に達した。根腐れ病の発生、株出し収量が不安定であること等によりそれ以上は広がらなかった。際だつ早期型高糖性が特徴で、寡照・暖冬の低糖度条件下でも高糖性を発現しうる優れた品種であり、石垣島ではこの品種を用いた11月収穫の導入が提案される等、新しい技術開発を示唆した品種である。早期型高糖性品種の母本としても活用されている。美味しい黒糖の原料としての砂質土壌での栽培は現在も見られる。

  NiF5 ;系統名KF72―127。南アフリカ共和国育成のN10を母親に、多父交配で得た種子を用い、1972年に選抜を開始して育成した品種である。葉焼け病、黒穂病に抵抗性、分げつが多く株出し多収の優れた品種であり、大面積普及が期待された。奄美大島で、平成1/2年期に242ha(30.6%)に普及したが、黄さび病感受性を欠点とする本品種の普及開始期が黄さび病の激発期と重なって被害が多発したため、それ以上は普及しなかった。

  Ni6 ;系統名RK78―16。F153の多父交配で得た実生を供試し、1978年に選抜を開始して育成した沖縄県としては最初の農林登録品種である。干ばつに強く株出し萌芽性の優れるIRK67―1(特性がF153に酷似している)の茎伸長を改良した類型の多収性品種である。沖縄県下、干ばつが頻発し、株出し収量の低い地域への普及が期待されたが、黄さび病の多発により、平成10/11年期、南・北大東島における34ha(2.1%)を最大にそれ以上の普及には至らなかった。

  NiN7 ;系統名RN79―421。NCo310の兄弟品種であり、沖縄県の奨励品種でもあったNCo376を母親、CP57―614を父親に、南アフリカ共和国で交配採種した実生から選抜・育成した品種である。高糖性を特徴としたが普及はわずかであった。普及の最大は平成10/11年期八重山地域離島における59ha(11.7%)である。

 (2)第2期の育成品種:第1期の成果が蓄積され、品種育成に大きな進展が見られた時期である。茎中のショ糖含有率(甘蔗糖度)の高低により売買価格が異なる、いわゆる品質取引への対応の必要から高糖性を重視した育成が行われた。種子島では「NiF8」、沖縄では「Ni9」に代表される優良品種が育成されている。

  NiF8 ;系統名KF81―11。早期高糖性のCP57―614を母親、多収性で栽培特性の優れるF160を父親に、台湾で交配採種した実生を供試し、1981年に選抜を開始して育成した優良品種である。高糖性、新植での多収性、肥沃土壌での2回程度の株出多収性、黒穂病、モザイク病、さび病類等の主要病害への抵抗性、中茎・直立性・易脱葉性で機械収穫適性が高い等、優れた農芸特性を具える。風折抵抗性も比較的高く、種子島から石垣島まで広域に適応するため、沖縄、鹿児島両県で奨励品種に採用された。日本の育成品種第一の傑作で、広域に普及した。平成18/19さとうきび年期の場合、種子島ではほぼ全面積を本品種が占める(98%)。奄美大島地域では2,701ha(58.3%)、沖縄本島北部571ha(42.6%)、宮古島2,370ha(75.8%)、石垣島592ha(40.8%)と主要地域での普及率が高い。目立つ欠点はないが、小雨地域や肥沃度の低い土壌における旺盛な生育、多回株出しにおける多収性は望み難い。

  Ni9 ;系統名RK80―1010。NCo310の改良(多収条件下での枯死茎発生の抑制、耐病性の向上等々)を目的に、NCo310を母親とした多父交配によって得た種子を供試し、沖縄農試が宮古島の現地育種圃場で1980年に選抜を開始して育成した品種である。根系が比較的深く、新植、株出し共に多収で、干ばつや台風の影響が比較的小さいため、沖縄県内において、NiF8の生産が不安定な地域を中心に普及した。平成14/15年期には、石垣島で928ha(64.2%)、宮古島225ha(7.1%)、沖縄本島中南部1,325ha(23.2%)、北部114ha(8.6%)、南大東島107ha(8.0%)、北大東島で188ha(43.9%)と普及したが、普及面積が拡大して株出し圃場が増えるに伴って黒穂病が多発したため、今では普及面積が減少している。

  NiTn10 ;系統名RF84―106。導入品種として奄美大島地域を中心に広く普及している多収性品種F177を母親、NiF4を父親にして得た実生を用い、1984年に選抜を開始して育成した品種である。F177の多収性に早期型の高糖性を付与することを目標としている。狙い通りの早期型高糖性を発現したが、普及は一部の地域に留まっている。平成16/17年期には沖縄本島中南部に434ha(25.5%)普及している。

  Ni11 ;系統名RK85―1049。やや低糖度だが多収で病害抵抗性が優れる導入品種F172を母本、茎は細いが早期型高糖性に優れるKF71―299を父親として交配・採種し、沖縄農試が1985年に宮古島の現地圃場で選抜を開始して育成した品種である。目的としたF172への早期型高糖性の付与が実現したが、母親と同様、葉鞘に毛群があり、今のところ普及は一部地域に留まっている。平成14/15年期には石垣島に33ha(2.3%)程度普及している。

 (3)最近の育成品種:「NiF8」を代表とする高糖多収性優良品種が普及しても栽培面積、生産量、単位収量が減少する3重苦の状況下、現在、新しい生産技術の必要性が検討されている。糖度安定に有効な早期型高糖性、秋収穫栽培の確立に必要な極早期型高糖性、株出しにおける可製糖量(単位面積当たり砂糖収量)を重視した選抜等、これまでにない育種操作が試みられ、特色のある品種が育成されている。

  Ni12 ;系統名KY87―110。NiF3の株出し改善と一層の早期型高糖性の付与を目的に、NiF3を母本に、種子島の育成地が石垣島で自然受粉を実施して得た実生を用い、1987年に選抜を開始して育成した品種である。母親の早熟性を受け継ぎ、極早期型の高糖性が特徴である。種子島の普通期収穫(1月)での砂糖生産力はNiF8に及ばないが、NiF8の甘蔗糖度が基準に達しにくい12月上旬の収穫でも甘蔗糖度が基準糖度に達し、砂糖収量はNiF8と比べて明らかに多い。株出し萌芽性が優れるため、ハーベスタ収穫での多回株出しについてもNiF8の弱点を補うことができる。しかし、12月初頭の収穫適性については、その活用に必要な植付けの団地化や収穫のシステム構築がなされず優位性を発揮できていない。また、風折抵抗性が弱いことと生育の揃いが優れることが災いし、台風時に茎の折損が多発する例が多く、普及は一部に留まっている。種子島で、33ha(1.3%)と全体的な普及率は低いものの、株出し萌芽性の高さが評価されて大規模経営農家に受け入れられ、経営の一助となった。

  Ni13 ;系統名RK89―1010。F175を母親、RF79―247を父親に用いて得た実生を供試し、宮古島の現地選抜圃場で1989年に選抜を開始して育成した品種である。耐倒伏性で、夏植えで高糖多収であるが、発芽および耐干性にやや問題があり、今のところ、石垣島で39ha(2.7%)と普及は一部の地域に留まっている。

  Ni14 ;系統名KY88T―520。KF78―81を母本に用い、自然受粉で得た種子を供試し、現地選抜圃の置かれた徳之島で1988年に選抜を開始して育成した品種である。夏植で高糖多収であるが、分げつが少なく、低肥沃度土壌等では株出し収量が低い等の弱点を持つ。黒穂病に弱いため、黒穂病発生がほとんど無い種子島のみを普及対象とした。蔗汁の質が優れるが、株出し収量が低い等の利用により今のところ普及は進んでいない。

  Ni15 ;系統名RK90―0039。母親はF161、父親はRK86―68である。高糖多収、広域適応性を具える優良品種で、沖縄県内で急速に普及を伸ばしている。現在の普及率は、石垣島280ha(22.8%)、宮古島614ha(20.6%)、沖縄本島中南部279ha(10.7%)、同北部130ha(10.7%)等々である。日本の育成品種としてはNiF8に次ぐ傑作であると言えよう。

  Ni16 ;系統名KR91―138。RF78―209が母親、CP70―1133が父親である。既存の普及品種が少収である条件下で多収性を発現する品種の育成を明確に目的意識とし、砂糖含有率の高さよりも、株出し多収性、面積当たり砂糖生産量を重視して選抜・育成された株出し多収性品種である。NiF8等の既存品種が多収となるいわゆる多収圃場では倒伏が激しく、地域適応性検討試験等では高い評価は得られなかった。しかし、伊江島での圃場試験で、干ばつ年の生育の良さが当時の担当者の目にとまり良い評価を得て品種登録に至った。台風時に折損茎が多発する欠点があるが、少収地域での株出し多収実現に向け今後の普及拡大が期待される。

  Ni17 ;系統名RK91―1004。母親はNiF8、父親はRF79―247である。早期高糖性の株出し多収品種である。台風時の茎の折損が少ないことに加え、潮風害で損傷した葉の回復が比較的早く台風年の糖度低下が小さい等の利点を持つ。黒穂病に弱いため奨励品種採用を危ぶむ声のあるなか、久米島や奄美地域の島々等、現地の強い要望を受け登録に至った品種である。台風被害が比較的小さい品種として久米島、奄美大島地域の島々を普及対象としている。鹿児島県奄美大島以南の鹿児島県、および沖縄県久米島に普及を広げている。黒穂病に感受性であること、干ばつ時の生育阻害が大きいことが欠点である。

  NiTn18 ;系統名KF92―93。KF81―39が母親、台湾の育成品種ROC11が父親である。Ni16とともに、既存品種の収量が低い条件での株出し多収性発現を目的に育成した品種である。初期生育が旺盛で、分げつ、茎伸長共に優れ、収穫後の萌芽も良好なため、新植・株出共に既存品種中では最も多収である。低温条件下の萌芽も良く、種子島の試験では無マルチ条件でもマルチ処理をしたNiF8より多収である。Ni16の場合と同様、NiF8の収量が低い場合にその優位性を発揮する。NiF8が多収の条件の場合、茎が伸びすぎて倒伏が激しいとの理由で公立試験場の評価は低かった。繊維分は高く、甘蔗糖度に比較して可製糖率が低いことも評価の低い理由の一つであるが、NiF8が少収の条件下では、倒伏が少なく、多収性を発揮した。台風や干ばつへの抵抗性は強くないため、沖縄地域における特性の発現は種子島における優位性より小さい。既存品種中では群を抜いた多収性が特徴である。

  NiTn19 ;系統名KF93T―509。F172を母親、RF81―208を父親として得た種子を供試し、徳之島の現地選抜圃で1993年に選抜を開始して育成した品種である。茎の伸長が遅く、糖度上昇時期も遅いために、やや低糖度になることが多い。種子島では明らかな低糖度である。石垣島での評価が高く、多収性、株出し多収性、黒穂病抵抗性が認められて品種登録に至った。台風時の折損も少ないため普及の増加が期待される。茎が細く、人力収穫には適さないこと等が欠点である。

  NiTn20 ;系統名KF92T―519。NiF4を母親、NiF5を父親にして得た種子を供試し、徳之島の現地選抜圃で1992年に選抜を開始して育成した品種である。Ni16、NiTn18と同様、少収条件下でも多収性を発現する品種の育成を目的として、初期伸長性、株出し多収性を重視して育成した品種である。狙い通りの多収性を発現したが、他の例にもれず、育成後期の試験では倒伏が激しいとの理由で評価は低かった。極早期型高糖性による早期収穫用品種の育成を狙いとしたが、出穂が早すぎるとの評価もあった。しかし、沖縄本島南部における少収条件下での早期収穫で、既存品種と比べはるかに高い高糖多収性を発現したことが認められて登録に至った。台風時の折損は多いが、茎数が多く収量が比較的安定していること、黒穂病に強いことから、沖縄地域、奄美地域の12月上旬からの早期収穫用品種としての普及が期待される。

  Ni21 ;系統名RK94―4035。母親はNiF8、父親はNi9である。風折抵抗性が優れ、台風時の潮風害による糖度低下が小さく、台風による気象害の影響が比較的小さい品種である。2005年に沖縄県の久米島を普及対象として奨励品種に採用された。今後の普及が期待される品種である。保水力の弱い圃場においてNi17より収量が多いことから、久米島ではNi17との併用による生産の安定が期待されている。

  Ni22 ;系統名KY96―189。KF89―66を母親に自然受粉によって得た種子を供試し、1996年に選抜を開始して育成した品種である。NiF8の株出性改善、収穫早期化を目的に育成した。早期型の高糖性で、やや細茎だが、茎数が多く萌芽性も優れ、新植、株出し共に多収であることから鹿児島県南西諸島全域を普及対象地域として命名登録した。黒穂病に比較的強く、株出しでは各地で高糖多収性を発揮する。琉球弧全域への普及が期待される。奄美以南の地域では11月収穫を想定して栽培技術を開発することも有用性が高いと思われる。

  Ni23 ;系統名KY96T―537。NiF8を母親、Ni9を父親にして得た種子を供試し、徳之島の現地選抜圃で1996年に選抜を開始して育成した品種である。葉の長さ、葉の幅は中庸、やや立葉、茎の太さも中庸で茎の数も比較的多い。典型的多収品種の一つである。黒穂病に弱く、台風時の折損茎発生が多い欠点を持つが、干ばつ発生条件の下でも比較的多収となる等の長所があるため、既存品種の収量が低い圃場への普及を対象に命名登録された。奄美大島地域での今後の普及拡大が期待される。

  KN91―49 ;やや太茎で高糖多収性のF167を母親、早期高糖性のCP57―614を父親に用いて得た実生を用い、1991年に選抜を開始して育成した早期収穫用の新品種候補である。茎の数はやや少ないが、茎が比較的太く1茎が重く、萌芽も比較的優れるため新植、株出ともに多収である。高糖性で砂糖収量も多い。早期型の高糖性が際だっており、沖縄地域では11月上旬の収穫にも適用できる可能性が高い。冬収穫での萌芽性も優れるため、台風の影響で収穫遅延が余儀なくされる場合にも対応可能である。黒穂病にも抵抗性であり琉球弧全域での利用が可能である。当面は早期収穫に対する要望の高い、沖縄本島中南部を対象に普及を開始する予定である。

  RK95―1 ;母親はRK85―55、父親はRF79―247である。早期高糖性で早期収穫に適した品種である。普及対象地域の南・北大東島の普及品種F161より風折抵抗性に優れ、茎数が多く株出し栽培での収量が多い。さらに、夏植えおよび12月収穫後の株出しの早期収穫における甘蔗糖度が基準糖度以上で、可製糖量も多いことから、株出し栽培の多い同地域における早期収穫用としての活用が期待される。黒穂病に弱いのが欠点である。

  RH86―410 ;母親はハワイの品種H73―6110、父親はNiF4である。生育初期の伸長が優れていて茎長が長く、茎が重い品種である。普及対象地域の宮古島の干ばつ条件下では、普及品種のNiF8に比べて株出収量および砂糖収量が多い。夏植え栽培が多い宮古島の、干ばつ害が発生し易い地域を対象とし、春植・株出し型栽培での普及が期待されている。

育種目標の変遷と品種育成の進展

  日本の品種育成は、冬収穫を前提とした、高糖多収性と病害抵抗性を兼ね具えた優良品種の育成に始まり、現在に至っている。その集大成が「NiF8」、「Ni9」および、「Ni15」である。その中には収穫の飛躍的な早期化を可能にし得る早期型高糖性を具える「NiF4」も含まれていた。そのような優良品種が育成されたにもかかわらず、現在、生産の縮小と収量の低下が続いている。そのような中、琉球弧におけるさとうびの安定生産に向けた技術開発の方向について根元的検討が加えられ、育種操作が工夫された。そこで得られた成果が次の二つである。第一に、(1)秋収穫栽培法が提案され、その実用化に向け、極早期型高糖性を具える「Ni22」、「KN91―49」、「RK95―1」が育成された。また、秋収穫の導入による収穫早期化を「収穫期間の長期化」に繋げるために必要な、冬収穫の株出し改善に向けた、(2)既存品種の単位収量が低い条件下でも株出し多収性を発揮する品種として「Ni16」、「NiTn18」「NiTn19」、「NiTn20」、「Ni23」が育成された。高糖性より株出し多収性を重視し、少収条件の圃場を作出して特性評価を行う等の工夫により得られた成果である。さとうきびの育種現場が、冬収穫を前提とした品種育成から、秋収穫用品種、収穫期間の大幅拡張のための栽培技術開発・品種育成へと変化を遂げたことを示している。

  琉球弧における持続的農業の鍵は畜産とさとうきび生産の両立であるが、現在は、畜産振興の基礎となる飼料生産とさとうきび生産が、圃場の使用を巡って競合している。有機物の圃場還元を産業の中で実践しうる畜産は、地力消耗の激しい琉球弧では持続的農業の一つの軸であり、その振興は不可欠である。そこで、さとうきび生産と競合しない飼料生産の実現を目的に、飼料作物の飛躍的な収量向上を可能とする技術開発を試みた。さとうきびの高い乾物生産力に着目し、そこに、一層の低投入栽培適性、多回株出し適性を付与して高収量飼料用サトウキビを開発するとともに、製糖用さとうきびのためのハーベスタを、飼料用サトウキビにも適用して稼働率を向上させ、利用料金を下げてさとうきび生産の低コスト化、省力化に貢献しようとしたものである。その成果が、種子島を普及対象地域とする初の飼料用サトウキビ品種「KRFo93―1」の誕生である。

  KRFo93―1;NCo310が母親、サトウキビ野生種Glagah Kloetが父親のいわばF1雑種である。野生種の特性が導入され、分げつ力、株再生力が高く、株出し多収である。萌芽、初期生育が優れるため、短期栽培で高い乾物生産力を発揮することも特徴である。黒穂病の抵抗性は中で、種子島での発病は見られていない。

おわりに

  今号ではこれまでの日本育成品種の来歴、特徴を紹介した。特性を紹介する中で、日本における品種改良の段階的発展が浮かび上がってきた。多収性発現を目的とした第1期の品種育成から、品質取引への移行に対応すべく行われた第2期の品種育成への発展、それは多収性に対する高糖性優位への流れであったと言える。そうして生まれたのが日本さとうきび育種の最高傑作、「NiF8」(さとうきび農林8号)である。しかし、皮肉なことに、そのような優良品種の普及開始と軌を一つにするように明確になったのがさとうきびの急速な生産減少であった。そのような状況下で始められたのが第3期の品種育成、すなわち、冬収穫を前提とした高糖多収性品種の育成からの脱却であった。そのための新たな試みの一つが、株出しの安定多収化を目標にした秋収穫栽培の導入であり、その成果の第一陣として得られたのが極早期型高糖性を特徴としつつ冬収穫にも対応可能な一連の品種である。同時に、秋収穫栽培の導入を収穫期間拡張に繋げるために必要な冬収穫における株出し多収品種の育成が試みられ、その成果として「NiTn18」等の品種が育成された。さらに、さとうきび生産の持続的振興を耕畜連携の観点から進めるための品種育成が試みられ、飼料用サトウキビ品種KRFo93―1が育成された。現在は、一層の生産安定と高付加価値化が追求され、「多用途利用」に向けた品種育成の試みが始められている。いずれも、さとうきび・製糖産業の新たな展開への育種的試みである。次回はさとうきび品種育成の先にある産業の目標、生産・利用の新しい道を紹介する。