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お砂糖豆知識[2008年1月]

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最終更新日:2010年3月6日

ALIC砂糖類情報
お砂糖豆知識

[2008年1月]


「甘み・砂糖・さとうきび」(16)

多段階利用に向けて 〜さとうきびおよびさとうきび食品の機能性

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター
研究管理監 杉本明

はじめに

 さとうきびアラカルトで始めた連載が16回を迎えた。これまで、砂糖、さとうきびを対象に、歴史、作物の特性、栽培の現況、栽培技術の現在、未来型生産技術等々について紹介してきた。14回に、現在のさとうきびの苦況克服への道として、新しいさとうきび産業のあり方、南西諸島の厳しい自然環境に適応性の高いさとうきびの栽培技術として、「秋収穫栽培技術」、高バイオマス量サトウキビを用いた「砂糖+ワン」生産の概要を紹介した。前回は、その理解を進めるために、現在のさとうきび利用の中心である分蜜糖と黒砂糖製造の概要を紹介した。今回は、さとうきび産業の発展の姿としての多段階利用を想い、その基礎となる、さとうきびの機能性、食品としての利用の概要を紹介したい。

1.さとうきびの多用途利用から見た副産物の特性と利用の方向
  さとうきびはC4型光合成をする作物として、十分な水分供給を伴う場合には既存作物中でも最も高い生産力を発揮する作物である。ブラジルにおけるエタノール生産、そして調味料の生産、搾汁残さの熱源、木質資源としての利用が良く知られる。最近はさとうきび、さとうきび食品、その残さ中にある各種機能性成分の存在が知られるようになった。このような特性、効率的な原料生産と多様な利用の可能性から、さとうきびは将来の技術開発によって持続的な経済効果が期待される有力なバイオマス資源作物の一つと位置づけられる。さとうきび産業の持続的な発展には、現行の砂糖生産に加え、上述のような潜在的機能を掘り起こし、それを積極的に利用して砂糖以外の製品開発、用途開発に繋げること、すなわち、「さとうきびの多用途利用」、そして「多段階利用」に進むことが必要である。そのような観点から、以下に、現在の製糖産業の副産物である、バガス、糖蜜、さらに、フィルターケーキの中に含まれて排出される茎皮ワックスの有用性を紹介する。
 (1) バガスの利用:製糖工場の搾汁工程で排出される繊維系の残さをバガスという。繊維47.7%、水分50.0%、糖分はおよそ2.3%である。①バガスからはキシリトールの製造が行われる。甘味度は砂糖と同程度、溶解時には吸熱反応を生じ、口の中で冷涼感を得られる。う触(むしば)抑制作用があり最近ではガムの甘味料として利用されている。②炭の製造も可能である。10トンのバガスからは1トンの練炭、活性炭の場合1トンの製造には14トンのバガスが必要となる。バガスの炭化は沖縄でも試みられている。保水能の高い炭が得られることが明らかにされ、肥沃度の低い南西諸島の土壌を改良するための資材として活用することが期待されている。また、③嫌気条件下でバガスを発酵させると二酸化炭素とメタンガスの混合気体(Biogas)を生成する。通常はコークスや石炭を用いて作る発生炉ガスの原料にも用いられる。④もちろん、繊維系製品の原料としても重要であり、パルプ・紙の主要原料でもある。さらに、⑤バガスに含まれるキシランの脱水反応で得られる無色の液体は、溶剤、合成樹脂(フラン樹脂)等の原料となるフルフラールも知られている。⑥ポリオール分を誘導し生分解性ポリウレタンを得る研究も進められている。
 (2) 糖蜜の利用:糖蜜が大量に利用され始めたのは第1次世界大戦以降、パン酵母の原料がコーン等から糖蜜に転換したことに始まる。①アルコール原料としての利用は、第1次世界大戦を契機にアメリカで工業用アルコールの需要が高まりその原料として糖蜜が利用されたことに始まる。1960年ごろ〜80年ごろまでは利用が激減したが、1980年代からは再び糖蜜によるアルコール生産が増加した。特筆すべきは1970年代にブラジルで始まったガソリン代替としてのガスホールである。1938年頃からはアセトン・ブタノールの原料として飛行機、自動車産業の発達に貢献した。燃料用エタノール原料としての利用の現状は紙面・画面を通して伝えられる通りである。②1960年代には日本でアミノ酸発酵工業が生まれ、1970年代にはその安価な原料として糖蜜が利用され始めた。糖蜜はアミノ酸発酵工業の発展と共に価値が高まり、1970年代以降最大の製糖副産物となった。現在世界で生産されるグルタミン酸、リジンの約半分は糖蜜が原料である。③糖蜜に含まれる機能性成分が注目され始め実用技術開発の試みへと進もうとしている。大産地では①、②と共に残さゼロに向けた利用形態として拡大すると思われることから、早急な実用技術開発が求められる。
 (3) 茎皮ワックス:砂糖以外の成分利用の比較的珍しいところにワックスがある。茎の表面に薄く付着する透明なロウ様物質が、Wax Ester(66%)、Free Acids(27%)、Free Alcohol(5%)、炭水化物(2%)、Fat(Oils、Glycerides、Sterols、Ester)からなるワックスであり、食用、石鹸、塗料などの原料になる。良く知られるワックス成分はオクタコサノールである。1949年から約20年間にわたる研究により、持久力増強、ストレス抵抗性などの効果が確認された。沖縄でも関心を持たれ、黒砂糖が示す高コレステロール血症改善効果が黒砂糖製造中に茎皮から混入するワックスによる可能性があることに言及され、さとうきび茎皮からワックスが抽出・純化されて、高コレステロールラットによってその機能が確認された。皮膚刺激性も低いために、化粧品素材としての実用化も期待される。

2.さとうきびの機能性と加工食品、その作り方
  砂糖は、それ自体が「薬」として利用された歴史や、機能性成分の大部分が糖蜜にあって主力製品である白砂糖には少ない事等から、さとうきびに含まれる機能性成分への注目度は他の作物と比べて低く、研究も遅れていた。しかし、今後に予想されるさとうきびの高付加価値利用には機能性の解明と機能性成分を利用した商品開発が不可欠であるため、最近は機能性の解明と成分同定、機能性を活用した商品開発に関する研究が活発になっている。ポリフェノール類が健康の維持・増進に寄与する機能性成分として注目されるが、さとうきびにも多様なポリフェノール類およびその誘導体が多いこと等が明らかにされている。さとうきび、および、さとうきび加工品の機能性とその成分を表1に示した。

表1 さとうきびの機能性


さとうきびおよびさとうきび加工製品の機能性、栄養成分の概要は下記の通りである。
(1) 黒糖:黒糖には血漿インシュリンの上昇阻害、およびラット空腸からのグルコースの取り込みを阻害する機能性成分の芳香族配糖体が含まれている。黒糖にはほかにも、カルシウム、カリウム、マグネシウムなどのミネラル、さらに、ビタミンB群やナイアシンなどのビタミン類が含まれている。その摂取不足が骨粗鬆症など引き起こし問題になっているカルシウム、高血圧予防に効果のあるカリウム、心臓疾患の予防に必要なマグネシウム等を豊富に含んでいる。黒糖の抗酸化能の成分がフェノール化合物であることも知られている。黒糖の製造法は前号で述べたのでここでは省略する。
(2) さとうきび酢:南西諸島の島々では、搾汁液や黒糖の再融解液から食用酢(さとうきび酢)が製造されている。さとうきび酢にはさとうきび由来のビタミン、ミネラル、さらにポリフェノール類など栄養成分や機能性成分が含まれており、各種機能性が期待される。米等を主原料とした米酢、玄米酢、穀物酢より強い抗変異原活性(発癌物質が遺伝子に作用するのを抑制する活性)があることが明らかにされているほか、血圧上昇に関与しているアンギオテンシンI変換酵素の阻害活性もあり、我が国の三大死亡原因である、脳血管疾患、心疾患、ガン予防等への活用が期待される。さとうきび酢は甘い黒糖香を有しており、調理素材、調味料としての利用の他に飲料製品の原料としての用途も期待できる。さとうきび酢は下記の方法で比較的簡易な設備で製造することができる。
1)酵母によるアルコール発酵を経由する場合:①蔗汁を加熱により殺菌し、室温まで冷却後、酵母を適量加える。②約2週間でアルコール発酵が終了するので、6%のアルコール濃度に調製する。(アルコール濃度は蔗汁ブリックスの約60%となる。)③調製後、7日間培養した酢酸菌を調製した液の約5%になるよう添加する。④1〜2ヶ月静置すると酢酸発酵が進み、概ね5%の酸度のさとうきび酢ができる。
2)酵母によるアルコール発酵を経由しない場合:①蔗汁を加熱により殺菌し、冷却後、6%のアルコールを加える。②アルコール添加後、7日間培養した酢酸菌を全体量の約5%になるよう添加する。④1〜2ヶ月静置すると酢酸発酵が進み、概ね5%の酸度のさとうきび酢ができる。
(3) 黒糖焼酎、ラム酒:黒糖焼酎は黒糖を主原料に米麹を用いて作る奄美大島地区の特産品である。ラム酒はさとうきびに対応した独特の麹を用いて作る世界の名酒である。ラム酒は原料によって大きく2つに分けられる。糖蜜を発酵させ蒸留し熟成させるものが一般的だが、蔗汁から直接作られる場合もある。マルテイニーク、グアドループの誇る名産ラムも蔗汁自体を用いている。色によっても分類され、ホワイトラム(透明)、ゴールドラム(褐色)、ダークラム(濃い褐色)が知られる。オークの樽で短期間熟成され、樽熟成のままだとゴールドラム、熟成後活性炭等で濾過するとホワイトラムになる。ダークラムは内側を焦がしたオークの樽で3年以上熟成されたものを言う。糖蜜を用いる場合、糖蜜のブリックスを20%程度に希釈し、それに酵母を適量加えアルコール発酵させる。それを単式蒸留器を用いて蒸留し、オークの樽で熟成させるとラム酒のできあがりである。
(4) 乳酸飲料:最近、さとうきびがGABA(γ−アミノ酪酸)を多く含むことが注目されている。黒糖にも多いが、乳酸発酵によりGABA含量が増えるという結果が得られ、GABA含量の高さに着目した乳酸飲料の開発が試みられている。GABAを増やす乳酸菌を用いて、10mg/100ml以上GABAを含有する乳酸飲料が製造でき、抗酸化性も期待できるため、商品としての完成が待たれる。さとうきびの乳酸飲料製造例の一つを下記に示す。①蔗汁30%、牛乳70%の割合で混合し、70℃で60分以上加熱殺菌する。②室温まで冷却後、脱脂粉乳培地で前培養した乳酸菌を2%添加し、30℃で48時間培養すると美味しいさとうきび乳酸飲料ができる。

3.多段階利用に向けたさとうきびの新しい加工技術・システム
  中米に登場したケーンセパレーション(器官分離総合利用方式)と呼ばれる処理方式は、処理工程の始めでさとうきびを表皮、外皮部、柔組織部に分離し、各部分を別々の工程に送る新しい加工システムである。このシステムで製造された搾汁液は外皮由来の成分を含まないため青臭みがなく、ジュースをそのまま清涼飲料の原料にすることが可能である。濃縮シロップとして流通させることもできる。固化させた糖も味がまろやかで色も薄褐色になり、風味や色調の点で従来の黒糖では困難であった分野にも用途が広がることが期待できる。バガスの多面的利用も可能となる。柔組織のバガスは外皮を含んでいないので、食物繊維などへの利用も容易である。食物繊維は、生活習慣病予防の観点から十分な摂取が必要であり、食餌形態の西洋化により摂取量が不足している日本において今後の需要拡大が予想される。表皮からは、ケーンワックスなどの有用成分も効率的に抽出可能となる。さらに、外皮バガスからはボードや活性炭、衣料用繊維等が製造できる。
 従来の製糖技術が、単一商品の低コスト生産を目的に、大ざっぱな物理的処理によって得られる純度の低い蔗汁を高度な化学処理によって結晶ショ糖に純化していくことを特徴としているのに対し、ケーンセパレーションシステムは、目的とする製品に対応した原料組成に近づけるための高度な物理的分離操作を原料処理工程の冒頭に置き、その後の処理工程は比較的簡潔であることを特徴としている。物理的分離の特徴からライン当たり処理量が少ない等の特徴があり、今のところ広い普及は見られない。しかし、現在は、早期型高糖性品種や高温期収穫適性を具える品種が開発され、収穫期間長期化のための原料生産技術が進歩している。このような技術によれば、精密な処理に伴うライン当たり処理量の低下を収穫期間の長期化、操業日数・時間の長期化で補うことが可能である。限られた面積における持続的農業の基幹作物として求められるさとうきびの高付加価値型利用技術、そして、残さゼロ型生産を指向する技術、すなわち、日本におけるさとうきび産業の目標である「周年収穫・多段階利用」に向けた原型の一つとして期待される技術と言えよう。

おわりに


 砂糖生産に関する広く深い世界、多くの情報を「豆知識」として伝えるのがこの連載の主旨である。昨年から始めたこの「甘み、砂糖、さとうきび」も、多様なさとうきび利用の現在を伝えることで始め、さとうきびの誕生、作物としての生育特性、世界各地の圃場の姿、南西諸島における生産の現状と続けてきた。南西諸島における生産の現状を紹介した以降は、様々な現状の紹介という主旨を、地域の苦況の克服、持続的な未来構築に向けた技術のあり方の紹介へと移し、視線を技術の特徴とその評価に向けてきた。最後の数回は技術の将来に触れた。連載の主旨からの逸脱とも言えるが、いずれの脱線も、普段は見えにくいさとうきびの秘められた力、表面に出ない豊かな力、約束される未来に繋ながる力を伝えたいという思いによるものである。どの回も、粗い内容、拙い文章であったことを反省している。粘り強くお付き合いいただいた読者諸氏に心から感謝申し上げる。
 なお、この稿の大きな部分は農文協「食品総攬」のさとうきびに関する記述部分(石井・吉元・杉本)に依り、表1、サトウキビ酢、ラム酒の分類と作り方、乳酸飲料に関する記述等は九州沖縄農業研究センター氏原主任研究員からの情報に依ったことを付記する。