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最終更新日:2010年3月6日
[2009年5月] |
砂糖は脳のエネルギー源 |
埼玉医科大学 名誉教授 野村 正彦 |
朝飲む一杯のコーヒーに砂糖を入れると、その甘味がコーヒーの美味しさを一層引き立ててくれます。砂糖入りのコーヒーが気持ちを和ませてくれるだけでなく、脳の働きを助けてくれます。脳の求める唯一のエネルギー源であるぶどう糖が最も効率よく含まれているのが砂糖です。
人間は、他の生物が作り上げた物質を食物とし食べることによってすべてのエネルギーを得ており、他の生物に依存して生きていると言えます。従って、すべての生物は人間が生きていくためにはなくてはならない存在です。3大栄養素と言われる、炭水化物、たん白質、脂質をはじめとする栄養は、すべて人間以外の生物が作りあげたものです。それは植物であれば、花であり、果実であり葉っぱであり、根っこを構成しているものです。動物であれば、生体を構成する全てを食物として食べているのです。
ここで、3大栄養素の一つである炭水化物について考えてみましょう。身近には糖質とも呼ばれ、脂質やたんぱく質よりも早く食物からエネルギーに変換されるので、人間の体内では最大のエネルギー補給源となっています。日本人の主食であるご飯であれ、またパンであれ、めん類であれ、食事の中心的な食べ物は、主に炭水化物から成り立っています。砂糖はこの炭水化物の一種です。砂糖と言えば心地よい甘味を持ち、誰もが大好きで満足感を味わえる食べ物です。この砂糖の代謝と脳に対する働きについて考えてみましょう。
脳は、単位重量あたりで比較すると、他のどの臓器よりも多くの量の血液、酸素を必要とします。脳がいかに大食漢であるかを図1に示しました。体重の2%の重さの脳が、心臓から出る全血流量の15%を必要としています。これは非常に大きな値です。従って、寸時も血液の流入を減らすことはできません。呼吸によって吸い込む全酸素量の20%の酸素が脳に運ばれないと、脳細胞は死んでしまいます。
図1 人体における脳の活動の割合 |
脳はその活動を行うためにエネルギー源として糖質が必要です。脳にとって唯一エネルギー源であり利用可能なぶどう糖がこれを担っています。砂糖は、ご飯やパンなどの成分であるでん粉に比べて構造が簡単で、ぶどう糖と果糖に分解されやすいので、すばやく脳内に取り込む事ができるのです。
以上の要点をイラストにし、図2に示しました。脳は糖と酸素の大食漢ですから、絶え間なくこれらを供給し続けなければなりません。それがないと、脳は糖が無いぞ、酸素が無いぞとすぐに働きが悪くなり、脳虚血を起こしてしまいます。これらの事実から、脳が健康の働きを保つために、ぶどう糖と酸素を与える必要性を理解できると思います。
図2 ぶどう糖が不足した場合の脳の反応 |
砂糖には、もう一つの大事な働きがあります。それは心を安定させる効果です。砂糖を口にすると、快感中枢が刺激され、脳内でエンドルフィンという人の心をくつろがせるホルモンが分泌されます。また、肉、卵、ミルクなどのたんぱく質に含まれるアミノ酸の一種トリプトファンは、血液を通して脳内に入ると、セロトニンという精神を安定させる神経伝達物質を作りますが、トリプトファンが脳内に入るにはぶどう糖を必要とします。
こういった理由により、砂糖は、あの甘い幸福感をもたらしてくれるのです。一口味わうコーヒーの中の砂糖の甘さ! ちょっとつまんだチョコレートの甘み! これらは、口の中での満足感以上に、精神的満足感が一杯になって幸福な気分になります。
近年甘いものを食べるのを控えなさいと、グルメの番組や、栄養関係の雑誌で、記事に取り上げる風潮があります。しかし本当にそうでしょうか。例えば、血糖値が高くて、甘いものはおろか、糖質も食べるのを控えなさいと言われなければならない人がいます。これは、いま日本人の中で増え続けている『糖尿病』と呼ばれている患者さんです。しかし、全ての人が、糖尿病であるわけではありません。むしろ、健康を考えるには、バランスの良い食事を満遍なく取ることが大事です。どのような食べ物であっても取り過ぎはよくありませんが、砂糖だけを悪者のように扱い、これを制限することには首をかしげざるを得ません。
3大栄養素と言われている炭水化物・たん白質・脂質をはじめ、すべての栄養素を過不足なく取ると言う生活の基本があって、はじめて健康な生活があるのです。
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