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今月の視点
[2001年11月]

てん菜の低糖分対策


 北海道のてん菜は平成10年以降3年連続して低糖分となっています。このため北海道庁が中心となって関係機関・団体の協力のもと、低糖分の要因解析、それに基づく営農技術資料を作成するなど低糖分対策を実施しました。それによると近年の低糖分の主な要因となる夏期の高温、生育後期における多雨に対して土壌管理対策、病害虫対策、栽培技術対策が必要です。今年は褐斑病など病害虫防除に対して早めの対応が取られたことにより、平年を上回る順調な推移を見せているようです。

(社) 北海道てん菜協会


1.低糖分対策実施の背景
2.「てん菜低糖分解析検討会」 の設置
3.近年の低糖分の主な要因
4.低糖分対策のポイント
5.おわりに


1. 低糖分対策実施の背景

 てん菜の根中糖分は、昭和61年の重量取引から糖分取引への移行を契機に、施肥や栽植密度等栽培面での改善や品種改良が進んだことなどから大幅に上昇し、平成12年までの15年間の平均で17.0%となっている。
 根中糖分の上昇に伴って製糖歩留りは、昭和60年以前10年間の平均が14.4%であったのに比べ、61年以降の平均は16.7%と2ポイント以上も上回っており、てん菜糖の製造コスト低減に大きく寄与してきた。
 しかしながら平成10年以降の根中糖分は、3年連続して基準糖度帯 (16.7〜17.0%) を下回る低糖分となり、特に12年産は、糖分取引開始以降、根中糖分は2番目に低い15.7%、産糖量は最も少ない56万9千トンとなった。また、過去の低糖分年においては収量が多い傾向が見られたが、11年産・12年産においては収量が平年並みであったことから、低糖分が即生産者の収入減につながることとなった (図1)。
 原料てん菜の低糖分は、てん菜糖の製造コストに悪影響をもたらすことはもとより、てん菜生産者の収支を悪化させ、耕作意欲の減退から適正な作付面積の確保にも影響し、13年の作付面積が昭和56年以降でもっとも少ない6万5,900haになるなど、てん菜産業の健全な発展が阻害されることも懸念される状態となっている。
 このため北海道庁が中心となって、関係機関・団体の協力のもと、低糖分の要因を解明し、それに基づく営農技術資料を作成するなど低糖分対策を実施することとなった。

図1 糖分取引後におけるてん菜の根重と根中糖分の推移 (全道)
糖分取引後におけるてん菜の根重と根中糖分の推移グラフ

てん菜の収益性の推移 (10a当たり)
(単位:円)
区 分

年 次
生産費 全算入
生産費
粗収益 利 潤 所 得 1日当り
家族労働
報 酬
備 考
S60 (1985) 88,489 104,780 112,778 7,998 45,796 11,082 重量取引
H2 (1990) 78,417 93,595 97,721 4,126 39,563 10,545  
7 (1995) 77,046 91,777 101,773 9,996 47,713 15,866  
10 (1998) 81,625 96,244 99,042 2,798 42,655 14,785  
11 (1999) 80,710 94,816 90,960 △3,856 33,264 11,237  
12 (2000) 80,554 94,639 82,657 △11,982 23,486 6,994  
資料:農林水産省農業経営統計調査

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2.「てん菜低糖分解析検討会」 の設置

 平成13年1月に低糖分対策の実施組織として 「てん菜低糖分解析検討会」 が設置され、北海道農政部農産園芸課をはじめ、国・道の農業試験場、JA 北海道中央会、糖業各社、(社)北海道てん菜協会が参加し、北海道内のてん菜関係者を網羅した構成となった。
 また検討内容は次の3点とした。
 (1) 近年のてん菜生産における低糖分要因の解明
 (2) 平成13年産てん菜の営農に資する営農技術資料の作成
 (3) その他必要な事項
 なお事務局は(社)北海道てん菜協会に置き、営農技術資料作成等の経費は、農畜産業振興事業団の助成事業を活用させて戴いている。
 この検討会は、平成13年度の営農に役立てることが主目的であったことから、3月末までに3回の全体会議を開催したほか、試験場の研究員を中心とした、各糖業がデータを持ち寄っての実務者会議や専門技術員を中心とした技術対策の検討等が短期間で精力的に行われた。

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3. 近年の低糖分の主な要因

 「てん菜低糖分解析検討会」がとりまとめた近年の低糖分の主な要因は次のとおりとなっている。

(1) 夏期の高温
 昭和61年〜平成12年の気象と糖分の関係を検討した結果、7月〜10月上旬の積算気温との間に有意な負の相関があり、特に図2のとおり積算最低気温が高くなればなるほど、最終的な糖分が低くなる傾向が明らかに認められる。
 夏期の高温は、干ばつの影響が強く現れ、また、多湿条件を伴うと病害の発生に好適となるため、適切な土壌管理や防除を行うことが重要である。

図2 積算最低気温 (7月上旬〜10月上旬) と根中糖分の関係 (全道)
積算最低気温と根中糖分の関係グラフ

(2) 生育後期の多雨
 生育後期に多雨があると、水分吸収が増加し、根中糖分が低下するが、透水性の劣る圃場では図3のように糖分低下に対する多雨の影響が大きくなる傾向にある。このほか、生育最盛期に干ばつを受けて茎葉が枯死した後、降雨によって地上部の再生長が起こると根中糖分が低下する。
 したがって、多雨や干ばつの影響を軽減するため、土壌の改善が重要である。

図3 降水量 (9月上旬〜10月上旬) と根中糖分の関係
降水量と根中糖分の関係グラフ

(3) 褐斑病の多発生
 褐斑病の被害は根重のみならず根中糖分に対して影響が大きく現れ、発生が多く、写真1 (発病指数5) のように新葉の再生が見られる場合には糖分低下が著しくなる。
 十勝農試で実施している褐斑病抵抗性検定試験における無防除区の発病指数と根中糖分の関係を見ると、図4のように高い相関が認められる。
 平成12年は、高温・多雨により褐斑病の病勢が例年になく激しかったことから記録的な多発年となり、その被害は、根中糖分を全道平均で0.23〜0.58%の範囲で低下させたものと推察され、高温による糖分低下をさらに助長した。

写真1 褐斑病の指数別症状と根中糖分
発病指数0 発病指数3 発病指数5
注) 発病指数0 (褐斑病の発生なし) で平均根中糖分が17.0%となるてん菜に、発病が見られた場合の根中糖分の低下状況。

図4 褐斑病の発病指数 (10月上旬) と根中糖分の関係 (十勝農試)
褐斑病の発病指数と根中糖分の関係グラフ

(4) 黒根病の多発生
 黒根病は、一般に根重への影響が大きいが、内部腐敗 (指数3以上、写真2参照) を生じると根中糖分が低下する。
 平成11年は、7月下旬〜8月中旬の集中豪雨を伴う多雨と夏期の記録的高温によって、黒根病の発生にきわめて好適な条件になったことから全道的に発生が多く、特に道北、道央、道南および十勝地方の一部で多発した。
 本病の多発圃場では、腐敗株の収穫不能による根重低下が著しかったが、収穫対象となった軽症株では根中糖分の低下も無視できなかったものと考えられる。

写真2 黒根病の発病指数別の症状
黒根病の発病指数別の症状

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4. 低糖分対策のポイント

 前述した低糖分対策の結果に基づき、近年の気象傾向である「高温多雨」に対応した土壌管理対策や病害虫対策、栽培技術対策を中心に技術資料を作成し、全道の生産農家をはじめ関係者に配布したが、そのポイントは次のとおりとなっている。

(1) 土壌管理対策
 排水の不良な土壌では多雨による糖分低下が大きく現れるほか、黒根病などの発生を助長したり、防除機が圃場に入れないために病害虫の防除適期を逸することによって、糖分低下を招く。また、根圏域が小さい土壌では、干ばつの影響を受けやすく、その後の茎葉再生による糖分低下が起こりやすくなる。
 高温条件にあっても多雨や小雨の水分ストレスを小さくすることによって、その影響を軽減できる (図5)。
 このため、下層土の透水性を改良し、根圏域を拡大することが重要であり、明渠、暗渠の整備とともに次の対策を積極的に活用すること。
(1) 移植活着後の畦間サブソイラ施工による耕盤層の破壊
(2) 心土破砕耕の施工 (数年に一度) による下層土の膨軟化
(3) 重粘土などでの暗渠は、疎水材 (粗粒火山灰、籾殻など) の利用により効果を高める
(4) 有機物の施用による作土の膨軟化や保水力向上

図5 根圏の違いによる多雨・少雨の影響 (模式図)
根圏の違いによる多雨・少雨の影響 根圏の違いによる多雨・少雨の影響

(2) 病害虫対策
図6 褐斑病の発生推移
(道立農試 発生予察圃3ヶ所平均)
褐斑病の発生推移グラフ
注) 6・6→6月26日〜6月30日 (6月6半旬)
注) 7・2→7月6日〜7月10日 (7月2半旬)
○褐斑病
 平成12年は、7〜9月の高温・多湿が褐斑病の発生に著しく好適な条件となり、特に図6のように7月下旬から発病の進展が急激であった。このような激発年のため、防除間隔 (特に1回目と2回目の間) が薬剤の残効期間より長すぎると、発病を十分抑制できなかった。
 今後は、平成12年の多発生の経験を生かし、次のことに注意して防除を徹底すること。
(1) できるだけ連作を避ける。
(2) 防除開始はその地域の通常の時期 (7月20〜25日) とし、防除時期を失しない。ただし、平成13年は病原菌密度が高まっており、初発の早まることが予想されるので圃場観察を徹底し、初発を確認したら速やかに防除を行う。
(3) 各薬剤の残効期間を散布間隔とし、特に前半の散布間隔を空けない。
(4) 散布後さらに発生の増加が見られる場合には、散布間隔を短くする。
(5) DMI 剤の連用は絶対に避ける。
○黒根病
 平成11・12年は、夏期の多雨による土壌の過湿と高温が黒根病の発生に好適な条件となり、特に排水不良畑で発生が多く見られた。
 また、移植の遅れ、連作、短期輪作が発生を増大させる傾向が現地調査で認められている。
 本病の防除対策は、現在試験中であるが当面次のことを心がける。
(1) 圃場の排水対策を徹底する
(2) 融雪促進と早期移植に努める
(3) 4年以上の輪作に努める

(3) 栽培技術対策
 てん菜は窒素の吸収量が多くなるほど糖分が低下する。施肥量の実態を見ると、図7のとおり、昭和61年に糖分取引が開始されて道の施肥標準近くに施肥量が減少したが、最近は再び増える傾向にあるので見直しが必要である。

図7 てん菜施肥量の推移 (全道)
根圏の違いによる多雨・少雨の影響

 十勝農試における過去14年間の栽培試験では、図8のとおり、多肥による根重増加の効果は見られず、糖分が下がる結果となっており、土壌診断に基づく施肥設計など適正な施肥を徹底する必要がある。

図8 多肥のてん菜収量への影響
根圏の違いによる多雨・少雨の影響
(十勝農試、S62〜H12の14年平均、品種はモノホマレ、
標肥はN15.0・P31.5・K21.0kg/a、多肥は全5割増)

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5. おわりに

 本年夏期の天候は、気温が平年並みに推移し、8月下旬と9月中旬の大雨により、一部地域で冠水等の被害を受けたものの、褐斑病等病害の発生が平年より少ないと言われている。このことは、天候に恵まれただけではなく、生産者や関係の方々の取り組みの成果もあったものと考えている。
 本年褐斑病の初発は例年よりやや早かったが、生産者においては各関係機関からの情報、個々の圃場観察をもとに、例年以上に素早い褐斑病防除対応がみられた。また褐斑病以外の病害防除も手抜かりなく実施され、てん菜は順調に登熟の時期を迎えることができた。 北海道農政部でまとめられている糖分登熟調査によると、本年の根中糖分の増加は平年を上回る順調な推移であったことから (図9) 全道の平均根中糖分は4年ぶりに基準糖度帯以上になることが期待されている。

図9 根中糖分の推移 (全道平均) ―てん菜糖分登熟調査から抜粋―
根中糖分の推移 (全道平均)
注) 平年:平成6〜12年の最高・最低値年をのぞく5ヵ年の平均

 以上、本年実施した低糖分対策の概略について記述したが、原料てん菜の糖分向上は、てん菜産業にとって極めて重要な課題であり、当協会としては、これまでも優良品種の開発・導入などの試験研究や、高品質てん菜づくり講習会の開催など栽培技術の啓発・普及等に取り組んできたが、今後ともこれらの取り組みを一層推進する必要がある。
 特に今回の低糖分解析結果を踏まえ、褐斑病や黒根病などの病害に対する防除対策や耐病性に優れた品種の早期開発に積極的に取り組んでいきたいと考えているので関係の方々の御協力・御支援をお願いしたい。

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「今月の視点」 
2001年11月 
紅茶と砂糖 日本紅茶協会 常務理事 清水 元

てん菜の低糖分対策 (社) 北海道てん菜協会

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