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紅茶と砂糖

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2001年11月]
 現在、世界のお茶の生産は約290万トン、そのうち紅茶は約77%を占めており各国で飲用されています。これほど飲用されているにもかかわらず一般に普及したのは19世紀頃からと比較的最近のことだそうです。また、お茶と砂糖との関わりは17世紀のイギリスにおいて貴族や上層階級の人々によって、当時貴重品だったお茶と、同じく貴重品だった砂糖を入れることによって2重のステイタス気分を味わって飲用されていたようです。
 紅茶の歴史、効能、日本市場の概要について紹介していただきました。

日本紅茶協会 常務理事 清水 元


1.お茶の起源と世界への普及
2.お茶と砂糖の出会い
3.紅茶の効能について
4.紅茶市場の概要
5.おわりに



(1) お茶とは
 「チャ」 は椿や山茶花の仲間で、ツバキ属ツバキ科の永年性常緑樹で、学名は 「カメリヤ・シネンシス」 という。お茶はこの新芽や若葉および柔らかい茎などを主な原材料として酸化発酵、そして乾燥の工程を経て作られた世界的な飲料である。茶は製茶法からみて、その発酵の程度の違いにより、発酵させないもの 「不発酵茶 ― 緑茶」、発酵させているもの 「発酵茶 ― 紅茶」、半分程度発酵させているもの 「半発酵茶 ― ウーロン茶」の3つに区分される。

(2) お茶の歴史
 中国でのお茶の起源は、紀元前2700年頃の中国の神農 (シェンナン皇帝) に関する伝説で、彼は道教の始祖、漢方薬の創案者で、生水は万病のもとだから、「煮立てて飲むべし」 という事で、庭で大きな釜を使い、生水を煮立てていたところ、近くの樹枝から偶然にも数枚の葉が湯に落ち、その結果、その葉からいつもとちがう優雅な香りと素晴らしい味を発見した、これが野生の茶樹の発見と言われている。
 また、6世紀初め、「ダルマさん」 で有名なインドの達磨大師は仏教の教えを中国に広めたが、面壁九年の修行のため瞑想を続け、その5年目に眠気をもよおし、そばの木の葉 (茶) を噛んだ処、眠気が去り9年間不眠の苦行を成し遂げたという伝説もある。この様に茶と人との関わりは古く、茶の木も古くから中国に自生していたようだ。その原産地は中国西南部の雲南省あたりを中心とした広い地域とする説が有力である。
 茶の飲用の歴史について簡単に振り返ってみると、中国では3世紀後半から自生の茶を飲用するようなり、その後四川省では茶が栽培され、飲用の習慣も徐々に広まり、唐の時代以前には茶が商品化され、茶と塩が重要な物々交換の品目となった。また茶の渋みを取り除く工夫もなされ、天日で乾かし、火で炙あぶる等の製法が工夫され、次第に貯蔵、保存も可能になるに従って、「薬用から飲料へ」 と発展していった。
 最初は原始的なバラ茶 (散茶) であったが、その後は主として固形茶が作られた。中国特有の釜炒茶の誕生は10世紀宋の時代で、その後明の時代にはウーロン茶の原形が作られた。
 一方 「紅茶」 の登場はそれほど古い時代ではない。緑茶王国、中国の福建省のウーロン茶が、「原形」 と考えられ、中国の国内ではあまり普及することはなかったので、生産量もごくわずかであった。
 日本には9世紀初め最澄らが茶の種子を持ち帰り、比叡、近江に植えたと伝えられている。そして都永忠 (35年滞唐) がわが国で本格的に茶を栽培した最初の人といわれている。わが国において権力者層のあいだで喫茶が流行したのは12世紀 (鎌倉時代) で禅僧栄西の力によると言われている。

(3) お茶の欧州への伝来
 16世紀の大航海時代は、キリスト教を世界に広めるためと、コショーに代表される香辛料の獲得が目的でアジアを中心とした世界にヨーロッパ人たちが進出した。先発のポルトガル人は15世紀からセイロン、ジャワ、中国へ進出したが、茶と茶器を中国人から知らされていたし、王室を中心に時には嗜たしなまれていたものの 「茶」 の取引きについては特段の興味を持たなかった。一般的な茶のヨーロッパへの伝来は17世紀初めオランダ人が長崎平戸から日本茶、広東省マカオから中国茶を買い付け、本国に送りつけたのが始まりである。(当時のオランダでは音を立てて茶を啜すする習性まで日本から伝えられた事になっている)。17世紀初めオランダは 「連合東インド会社」 を設立し東方貿易に力をいれ、1630年フランス、ドイツ、イギリス、アメリカ (ニューアムステルダム) へお茶を売り込んだ。
 イギリスはオランダ経由で茶を扱っていたが、その後 「イギリス東インド会社」 を設立し中国茶の貿易に力を注いだ結果、やがてオランダから商圏を奪うことになる。
 イギリスでは東インド会社が中国茶を定期的に輸入するようになり、中国茶の輸入量が急ピッチで増えていき、富裕階級のステイタスとなっていた。中国茶の中でもウーロン茶は緑茶のような刺すような渋みもなく、肉食主体の食生活において、脂肪・蛋白質の消化を促進し、口中の油脂分を切ってくれることをイギリス人は体験的に知るようになった。このためイギリス人は「緑茶」からはなれて、「ウーロン茶」 または 「ウーロン茶の中でも、より強く発酵した茶 (工夫茶コングーチャ:今日の紅茶により近いもの)」 に対する興味、関心を増していった。この工夫茶は 「伝統的な中国製法による手間をかけて作られた紅茶」 と言う意味でこれが紅茶の始まりである。イギリスでは工夫茶の人気が高まり、中国からの輸入が増えていった。

(4) アッサム茶の発見
 その後イギリスは、自国の支配下であるインドで、チャを求めて赴いたイギリスのブルースが1823年アッサム地方で野生のチャの樹を発見した。このアッサム地方の茶は、中国茶と比べ酸化酵素の活性が強く香りも高い。味も濃厚で、イギリスが必要とする発酵茶として紅茶に適しており、研究を重ね、栽培と生産に成功した。中国からの輸入に頼らざるを得なかったイギリスはアッサム茶の発見と栽培の成功によって、インド産の茶だけで自国の需要を賄えるほどになり、紅茶が 「国民的飲料」 となって19世紀には大きく広まっていった。

(5) お茶の伝播ルートは2つ
 世界中でお茶の呼名は大きく分けて2つあり、それは 「チャ」 と 「テー」 のいずれかである。中国からの伝播ルートの違いよるもので、陸路か海路かによって2つに分かれる。
 「陸のティーロード」 と呼ばれる陸路では広東語系の 「チャ、ツァ、シャ」 などの発音で呼名が伝播し、ロシア、蒙古、朝鮮、日本、北アフリカ等へ伝わった。
 一方 「海のティーロード」 と呼ばれる海路では福建省のアモイや門南語といわれる方言から 「テ、テー、テイー」 などの発音による呼名が伝播しオランダ人が海路でヨーロッパに伝え、さらに東インド会社を通じイギリスが世界に広めた。このうち海路による伝播先であるポルトガルだけは広東省マカオの言葉を使用して 「チャ」 と呼んでいる。




(1) コーヒー・ハウス
 ヨーロッパにおけるお茶の普及は、17世紀中頃以降富裕階級の社交場としてロンドンを中心に発展したコーヒー・ハウスから始まりゆっくりと普及していった。当時は砂糖もお茶と同じく希少で一般の人々にはあまりにも高価で、上流階級や王侯貴族のものでしかなかった。多分その頃にコーヒー・ハウスでもお茶にハチミツ、もしくは砂糖が入れられるようになったと思われる。
 コーヒー・ハウスはその後100年はどの間大いに流行したが、緑茶よりも紅茶が一般的な 「国民的飲料」 となるにはさらに150年くらい後のことになる。
 イギリス人がお茶に砂糖を入れるという事を考えはじめたかという理由は17世紀の初め頃、砂糖もお茶も薬種商などで扱われる貴重な 「薬品」 であったことによる。お茶や砂糖を消費することは、貴族や上流階級といった高貴な身分の人々の 「ステイタス・シンボル」 であったようだ。
 この時代にはアジアやアメリカ、アフリカなどから珍しい商品が続々と輸入されはじめたので、貴族や上流階級など、富裕な人たちは、競ってこうした 「舶来品」 を入手することに血道をあげた。特に神秘のアジアから来たものは希少で高価だっただけに何でも 「ステイタス・シンボル」 になりやすかった。アメリカ大陸からのタバコでさえもはじめは上流階級のしるしとして利用されたくらいである。とりわけお茶や砂糖はその典型であった。従ってお茶に砂糖をいれれば二重の物質的な贅沢が味わえるわけで、これこそ最高の 「ステイタス・シンボル」 になったはずである。

(2) キャサリンとお茶
 イギリスの宮廷貴族に最初に喫茶の習慣を広めたクイーンとして有名なキャサリンについて、お茶と砂糖の興味深い話がある。
 17世紀中ごろ、王制復古を成し遂げた国王チャールズ2世の許にポルトガルのブラガンサ家出身のキャサリンが王妃として迎えられた。彼女は当時ポルトガルの貴族や上流階級の間で、すでに定着されていた 「喫茶の習慣」 を身につけていて、嫁入り道具には、中国製の茶器や茶箱ごとの中国茶が含まれていた。また持参金として英王室が求めた船一杯の銀塊の代わりに、当時これと同じくらい貴重であったポルトガル植民地・ブラジル産の砂糖を持ってきた。
 そして彼女はイギリス王室でお茶に砂糖を入れて飲む習慣を広め、普及させたのであった。18世紀には西インド諸島でイギリスが砂糖のプランテーションに成功して、砂糖の生産は急増した。その後お茶と砂糖は、安くなり、大量にイギリスに入ってくるようになった。今日もイギリスは1人当たりの砂糖の消費量は世界平均の約2倍となっておりかなり多い。

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 紅茶は毎日の暮らしの中で、あわただしい日々にゆとりと楽しみを与えてくれるものとして愛飲されているが、このほかにヘルシーな飲み物として注目されている。紅茶の茶葉には3大成分と呼ばれるカフェイン、カテキン (タンニン)、アミノ酸 (たんぱく質) が含まれている。中でもカフェインには大脳の中枢神経に作用する働きがあり、疲労回復に効果がある。また、強心作用や利尿作用があり促し、血液循環、新陳代謝を活発にすることで注目されている。紅茶がマラソンランナーのドリンクベースに使われているが、それは、紅茶に含まれているカフェインが長時間の持久性運動に有効であることが明かになったからである。最近の研究で、運動前にカフェインをとることによりグリコーゲンの消費を節約し、脂肪を効率的に燃やすことが分かってきた。これがスポーツドリンクとして紅茶がとみに脚光を浴びている理由である。
 また、カテキンは茶のコク、渋みの源で紅茶の色と香りを決定する第1因子である。このカテキンとアミノ酸の働きがあいまってカフェインの胃への刺激を和らげる。さらにカテキンは、近年の実験や研究で様々な薬効があることが明かにされている。血中コレステロールを減少させる効果、老化防止効果、抗ガン作用、風邪のウイルスを抑えて予防する効果等がある。この他の成分として微量のフッ素が含まれている。フッ素は歯磨粉の成分にも使われており、歯の健康を保ち、虫歯を予防する効果がある。
 このように紅茶は、単においしい飲み物というだけでなく、非常に健康的な飲み物であるということが分かる。

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(1) 紅茶の生産量
 世界のお茶の生産は ITC (International Tea Committee)の世界統計によると、2000年の生産量は290万トンで、うち紅茶は222万トン(お茶全体の77%)、緑茶、中国茶が68万トン (同23%) となっており、紅茶の生産が大きな割合を占めている。
 お茶は世界約40ヵ国で生産され、ほとんどの国で飲まれており、世界で最も普及している飲料である (表1)。
 一方、日本の紅茶生産量は九州、静岡、中四国等でわずか9トン程度の量が生産されているに過ぎず、日本で消費される紅茶のほとんどが輸入である。

表1 世界の茶生産統計
(単位:1,000トン)
  1985 1990 1995 1997 1998 1999 2000
『紅 茶』 1,857 2,021 1,949 2,103 2,315 2,176 2,225
『緑茶・中国茶』 432 517 572 614 647 668 678
合 計 2,289 2,538 2,521 2,717 2,962 2,844 2,903

※主要国別「紅茶生産量」
  1985 1990 1995 1997 1998 1999 2000
インド
 北東インド
 南インド
 インド合計
506
142
648
537
175
712
560
187
747
597
206
803
660
201
861
596
201
797
610
204
814
スリランカ
 高 地 産
 中 地 産
 低 地 産
 スリランカ合計
79
56
80
215
76
53
105
234
74
51
122
247
84
57
136
277
77
52
150
297
81
53
148
282
83
56
165
304
ケニア 147 197 245 220 294 249 236
インドネシア 98 126 111 118 129 128 131
四大生産国合計
(世界合計中の
シェア)
1,108
(60%)
1,269
(63%)
1,350
(69%)
1,418
(67%)
1,581
(70%)
1,456
(67%)
1,485
(67%)

※その他の紅茶生産国
中国、トルコ、イラン、マラウイ、バングラデェシュ、アルゼンチン、ロシアなど18ヶ国。
(“ANNUAL BULLETIN OF STATISTICS” by International Tea Committee, London.)

(2) 紅茶の輸入について
 2000年の日本における輸入量は17,950トンとなっており、ここ5年間の平均輸入量は17,293トンとなっている。輸入先国別にみるとここ5年間の平均輸入量が多い国としては、スリランカが7,693トン、インドが4,075トン、インドネシアが1,663トン、ケニアが878トンとなっており、この4ヵ国で82.8%を占めている。
 財務省の通関統計によると、紅茶の輸入形態は3kg以下に小売容器に包装したものとバルクで輸入したものの2つに分類されているが、ここ5年の平均輸入量を見ると、バルクが87.5%、小売容器に包装したものが12.5%とバルクでの輸入が圧倒的に多くなっている (表2)。

表2 日本の紅茶の輸入量
(単位:kg)

(3) 国内消費量
 明治年間より飲まれはじめた紅茶はしばらくは “よそゆき” の飲み物だったが、1961年になってティーバッグが発売されて以来飛躍的に消費量が伸張した。1971年には輸入が自由化され、1980年代後半に缶入りの液体飲料が発売されると、紅茶の消費はこれを契機にさらに拡大した。
 12年の市場別構成率は、缶、ペットボトル等のドリンクが47.8%、スーパー、コンビニエンスストア、食品店等の量販用が41.2%、喫茶店、ホテル等業務用が8.3%、贈答用が2.7%となっている。紅茶の市場は今後も健康志向の観点で注目され、安定した需要が期待されている (表3)。
 ちなみに日本人1人当たりの紅茶の消費量は約150gだが、緑茶800g、ウーロン茶200gを加えると1.15kgとなり、お茶の消費量は世界でも多く、お茶飲み国民といえる。世界一のお茶消費国はアイルランド2.78kg、続いてトルコ2.69kg、イギリス2.46kgとなっている。
 カテゴリー別市場規模は、平成12年の紅茶 (ティーバッグ、リーフティー) が420億円、液体紅茶1,845億円、インスタントティー75億円で、合計2,340億円となっている。
 上述の紅茶製品の内訳はティーバッグが72%、リーフティーが28%とティーバッグが圧倒的に多くなっている。ティーバッグは簡便性の評価に加え、製造技術開発、原料茶の品質改善等が進み、今後も世界的規模でその消費量が増大する見込みである (表4)。

表3 紅茶の市場別需要量の推移
(単位:トン)
年 次 量販用 贈答用 業務用 加 工 用 合 計
インスタント
ティー
ドリンク  計 
昭和55年 3,950 2,350 1,020 60 120 180 7,500
60年 3,900 1,400 1,150 650 700 1,350 7,800
平成元年 4,450 1,200 1,350 550 4,450 5,000 12,000
2年 4,450 1,150 1,400 550 6,450 7,000 14,000
3年 4,600 1,150 1,450 300 7,500 7,800 15,000
4年 4,800 1,000 1,300 200 7,000 7,200 14,300
5年 5,100 900 1,300 200 6,000 6,200 13,500
6年 5,300 800 1,300 200 6,900 7,100 14,500
7年 6,500 800 1,200 500 8,000 8,500 17,000
8年 6,000 700 1,300 200 8,900 9,100 17,100
9年 6,300 650 1,350 200 10,100 10,300 18,600
10年 6,600 500 1,400 200 9,300 9,500 18,000
11年 6,750 450 1,400 200 7,400 7,600 16,200
12年 6,900 450 1,400 8,000 8,000 16,750
(注) 1. 加工用は原料茶
(注) 2. 日刊経済通信社調

表4 紅茶のカテゴリー別トータル市場規模
(単位:上段 トン、下段 億円)

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 現在私たちがごく日常的に飲んでいる 「砂糖入りお茶」 の始まりは前にも述べたが、17世紀中頃で、当時お茶も砂糖もともに貴重品であったことから、「貴重なお茶に貴重な砂糖をいれて飲む」 という贅沢な習慣が上流階級や王侯貴族の 「ステイタスシンボル」 として広まり、やがて一般人にも普及し今日に至ったことを思うと、この 「一杯の紅茶」 に秘められたロマンを感じ、一層深い味わいをもって飲んで頂けるのではないかと思う。
 世界中で紅茶はティーバッグ換算で、毎日約30億杯も飲まれている (他に緑茶、ウーロン茶等9,000万杯)。世界人口約60億人とすると約半数の人が毎日飲んでいることになり、まさに国際的飲料である。主要生産国インド、スリランカ、ケニア、中東各国など紅茶消費量の多い国では濃い紅茶にたっぷりの砂糖を入れて飲んでおり、今も紅茶と砂糖は深い関係にある。
 今後も紅茶は健康的な飲み物としてだけではなく、慌しい現代生活の中で、くつろぎの時間と 「癒し」 を提供してくれるものとして愛飲されていくことだろう。
参考文献 「新訂 紅茶の世界」 荒木安正

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「今月の視点」 
2001年11月 
紅茶と砂糖 日本紅茶協会 常務理事 清水 元

てん菜の低糖分対策 (社) 北海道てん菜協会

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