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海外でのサトウキビ研究

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

今月の視点
[2003年8月]
 さとうきび栽培から砂糖製造までのあらゆる技術に関する研究情報や意見交換を行うことを目的に発足したISSCT(国際甘蔗技術会議)は、3年毎に大会が開催されます。また、この大会とは別に、専門性の高い分野についてはワークショップが開催されています。今年5月に育種・遺伝資源ワークショップが行われ、また、南アフリカ糖業研究所の視察も行われました。それらの概要を紹介していただきました。

九州沖縄農業研究センター さとうきび育種研究室長  杉本 明
国際農林水産業研究センター沖縄支所 育種素材開発研究室長  松岡 誠
農業生物資源研究所 遺伝資源研究グループ 遺伝子多様性研究チーム長  門脇 光一


I はじめに   II 室内検討   III 現地調査   IV おわりに



I はじめに

 1924年に発足したISSCT(International Society of Sugar Cane Technologists)は、さとうきび栽培から砂糖製造に至る研究情報の公開と意見交換を主目的とする国際学会であり、大会は3年に1度、主要なさとうきび生産国の持ち回りで開催され、大会とは別に専門分野のワークショップが開催される。本年5月4日〜9日には、その一つである育種・遺伝資源ワークショップが南アフリカ共和国ダーバンで、南アフリカ糖業研究所(SASEX)の労により開催された。
ワークショップ参加者
ISSCT第7回育種・遺伝資源ワークショップ
参加者
 ワークショップには19ヶ国54名が参加した。南アフリカ共和国の参加者が12名と最も多く、アメリカから9名、オーストラリア、アルゼンチンが各4名、その他、主要な砂糖生産国から1ないし数名が参加した。日本からは3名が参加した。砂糖の大生産国であるインド、中国からは参加者がなく、台湾からの参加者もなかった。ワークショップはダーバンの海岸沿いにあるホテルの会議室で開催された。参加者の宿泊も同じホテルで、ワークショップの開催期間(6日間)中は2回のエクスカーションを除きホテルに缶詰状態であった。5月4日に受付けと歓迎会があり、翌日9時から、ワークショップ組織委員長・南アフリカ糖業研究所育種責任者のK.Nuss氏の歓迎挨拶、ISSCT上級委員のT.Murry氏によるISSCT活動の紹介、ISSCT育種・遺伝資源委員N. Berding氏の開会挨拶を経て参加者からの発表が始められた。発表者には質疑応答を含め20分が与えられ、セッション毎に4〜5名の発表終了後、20〜30分程度の討議時間が設けられた。一般発表の外、参加各国におけるさとうきび育種へのバイオテクノロジーの利用状況の紹介時間が設けられ、日本の状況については杉本が報告した。ポスター発表も設けられ、各課題10分程度の発表が行われた。  日本人3名の講演は大会2日目のバイオテクノロジーセッションで行われた。このセッションで3名が行った講演の概要を示す。
 門脇は、サトウキビ葉緑体の全ゲノムの構造を決定したことを報告した。高光合成植物の光合成関係遺伝子の細胞質側の遺伝子が明確になったこと、遠縁育種の両親の遺伝的関係を量的に把握することが可能になるなど、遺伝子基盤の整備に貢献する成果で、参加者の賞賛をかちえていた。
 サトウキビの遺伝子組換え体は、これまでは遺伝子銃により作成されるのが通常の手法であった。松岡は、超音波処理を利用し、微生物アグロバクテリウムを用いた安定した形質転換手法の開発について報告し注目された。南アフリカSASEXのバイテク研究者からは超音波処理の時期、回数、その効果に関しての質問も寄せられた。高額機器を使う必要がないこともあり、本手法は今後広く活用される可能性がある。
 杉本は突然変異誘起を併用した種間交雑による高バイオマスサトウキビの作出について報告した。バルバドス、モーリシャス、アメリカからの、誘起突然変異の一般的傾向についての経験を踏まえた助言と共に、オーストラリアの研究者からは種属間交雑による高バイオマス系統の作出自体について質問が出された。
ワークショップ参加者の国別内訳(計54名)
国名 参加者数 国名 参加者数 国名 参加者数 国名 参加者数
アルゼンチン4 バルバドス2 ブラジル3 コロンビア1
エクアドル2 フィジー1 フランス1 グアテマラ1
インドネシア1 イラン2 日本3 モーリシャス1
オーストラリア4 レ・ユニオン2 南ア共和国12 スワジランド1
タイ3 アメリカ9 ジンバブエ1   
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II 室内検討

 基調報告として、さとうきび品種の移譲と権利の保護について、レ・ユニオンにあるさとうきびの育種機関における、経済用栽培のための育成品種の海外への移譲と代金等の取り決め、その実情について報告があった。その後、8つのセッションにおける発表が順次行われた。各セッションの概要は以下の通りである。
(1) セッション1
 主に交配の効率化について論議を交わした。各国が、出穂の誘起・時期の操作、交配の効率化に大きな努力を払っている状況が良く反映された論議であった。
(2) セッション2
 エクアドル、およびスマトラの育種計画、新形質さとうきびとしての高バイオマス・高繊維分さとうきび開発について論議した。バルバドス(熱帯雨林の好適環境)で、育成系統の乾物収量がヘクタール120トンを越える成績を示したことが報告された。2酸化炭素排出削減義務の増大、化石エネルギーの枯渇の中、高バイオマスさとうきび開発についての報告が増えることを予想させる発表であった。
(3) セッション3
 種間交雑の有効性とQTL解析による量的形質についての遺伝解析、マイクロサテライトマーカーによる雑種性確認等について論議を交わした。バルバドスのRao氏によって報告された来歴・近縁度の評価からオーストラリアのJackson氏によって報告されたQTL解析に至る経過に、さとうきび育種における遺伝学的知見の急速な蓄積を見ることができた。
(4) セッション4
 DNA解析によるさとうきびの遺伝的背景の解明、アグロバクテリウムを用いた効率的な形質転換技術、突然変異を併用した種間交雑による高バイオマスさとうきびの開発、病害虫抵抗性のためのRFLPマーカー、について情報を交換した。
(5) セッション5
 主として、循環選抜の有効性について情報を交換し論議を深めた。各特性値について、循環選抜を確実に実施することの重要性が浮かび上がった。
(6) セッション6
 普及対象地域の環境要因と遺伝子型との相互作用、選抜における競合の影響の評価等、多様な生態地域を対象とした優良系統の選抜精度向上への取り組みが検討された。日本の育種においても重要なことばかりであった。
(7) セッション7
 グアテマラにおける緑葉(火入しない)収穫に適する品種特性や、ジンバブエの少雨環境に適応性の高い茎数型品種を重視した育種計画を紹介し、次に育種操作の妥当性・有効性を評価するための指標について新しい考えを紹介、検討した。育種操作の妥当性の評価については日本でも育成系統の上位15系統を対象に実施しているが、このセッションで紹介された指標は興味深いものであった。
(8) セッション8
 育種における労力・経費の節減に向け、エルダーナ抵抗性系統や可製糖率の評価における近赤の利用と周辺システムの整備、第1次選抜における仮植の省略と植え付け密度の工夫等を検討した。また遺伝力評価の最適評価時期についての南アフリカ共和国での事例を検討した。実生選抜の工夫については、アメリカ農務省の試み、南アフリカ糖業研究所における実生選抜の省略等の試みがあり、経費節減の目的と共に、育種操作全体に及ぼす選抜精度向上の面からの検討が必要であることを痛感した。
(9) ポスター発表
 大会3日目の午後にポスター発表12課題のうち6課題について、各10分間の発表が行われた。自家受粉による純系作出の試み、病害防除のための種苗の温湯処理、また、育種現場における交配・選抜手法、統計処理法の改良に関する成果が報告された。
(10) ワークショップまとめ
 アメリカ農務省の担当者から、マイアミに設置されたさとうきび遺伝資源のワールドコレクションの現状について、予算不足等からコレクションが危機的な状況にあり、早急な対策が必要であると報告された。遺伝資源の維持は重要であり、各国の分担保存となる場合には、日本としても、その一翼を担う必要があると思われる。その他、次回開催について、育種・遺伝資源ワークショップと分子生物学ワークショップとの共催案が出され、育種・遺伝資源委員会で継続審議することになった。
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III 現地調査

現地調査での検討風景
ワークショップ現地調査での検討風景
 大会2日目の午後と大会4日目に現地調査の機会が得られた。2日目には、ダーバン近郊のMt Edgecombeにある南アフリカ糖業研究所本部(SASEX)を見学した。同研究所は南アフリカのさとうきび生産・製糖企業団体が運営する研究所で、政府の試験研究機関ではない。担当業務は広く、さとうきび生産に関する研究から、普及、教育事業までにわたっている。 研究部門は「農業機械・工学・土木」、「作物生理・栽培」、「バイテク」、「土壌肥料・作物栄養」、「害虫防除」、「病害防除」、「育種」の各部に分かれている。現地調査ではバイテク、病害虫防除、育種の3研究室を訪問して、情報を交換した。
 4日目にはダーバンの北方、車で約1時間ほどのさとうきび栽培地帯にあるKearsney 支場を訪問した。南アフリカ糖業研究所は土壌や気象条件などが異なる6ヶ所の大生産地帯に支場を配置し、各地域に適した品種の選抜を行っている。Kearsney支場は6支場の一つで、海岸から遠くない内陸部の緩やかな丘陵地帯におかれ、少雨条件下に適応性の高い品種の選抜を主任務としている。ここでは毎年、約150交配から得られた5万個体を選抜に供試している。この地帯は冬季に気温が低く(最低気温は10度以下にまで下がる)、著しく乾燥するということである。訪問した5月初旬は秋であるにも関わらず、畑はかなり乾燥していた。
ダーバン周辺のさとうきび収穫風景
ダーバン周辺のさとうきび収穫風景
 年間約1600組合せの交配を実施しているだけに、日本の育種操作に比べ、全て規模が大きく、圃場・施設・機械等も充実し、個別の方法についても進んだ点が多かった。交配関連業務は特に充実し、施設は大きく、出穂・開花制御のための施肥や日長に関するきめ細かな処理にも多くの考慮が払われていた。ここでは第1次選抜を実生選抜ではなく栄養系で実施している。重要なことであるが、日本では圃場・施設の制限で実施していない。黒穂病抵抗性の検定は大量処理のために胞子懸濁液中の振とう法で実施され、エルダーナ抵抗性の選抜には人工接種法が採用されている。優良系統の選抜・地域適応性の検定等も質・量共に充実している。育種の効率化に欠くことのできない遺伝学上の研究がDNAマーカーの利用等を交えて精力的に実施されているほか、組み換え体作出も積極的に行われ、既に屋外での検討段階に達していた。
 育種目標については疑問もあった。南アフリカのさとうきび栽培は厳しい少雨・乾燥条件の中、狭畦・多茎栽培、
南アの新品種N27
NiN2を種子親とし作出した南アの
新品種N27 (K.Nuss氏と杉本)
或いは、灌水により多収を、成熟促進剤の散布で高糖度を実現している。これらが可能なのは、低賃金労働の存在(95%が人力収穫である)と、さとうきびが基幹作物であることによる産業上の特権的地位によると思慮される。世界的に食料不足が叫ばれる中、年間総雨量が700mm程の地域でさとうきびが持続的農業の基幹作物としての地位を継続的に保つためには、さとうきびは天水栽培を基本に、最小限の灌水によって栽培する必要があると思われるが、その最大の技術的要素は乾燥地適応性の付与であろう。Kearsney支場では無灌水での系統の生育状況を観察したが、大部分は短茎、細茎であった。このような自然環境条件下での栽培は、今後、世界のさとうきび生産の主流になる可能性が高いと思われる。研究者達は高い可製糖率を前提にした耐乾性の獲得を戦略化しているが、果たしてその方向で厳しい自然環境の克服が可能か否か、日本で開発中の乾燥地向け株出多収の系統が適応しうるのか否か等、品種育成に携わる一人として興味が尽きなかった。同国では、1940年代に育成されたNCo376が今なお主導品種であったが、大規模かつ優れた育種技術による継続的な新品種誕生のなかで、今なお古い品種が主導していることは、耕作者の求める特性と品種生産者の目標とする特性とのずれを示すものと考えられる。日本の品種改良についても一考を要する事柄であった。
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IV おわりに
−研究の傾向と問題点(不良環境適応性)−

 ワークショップは成功裏に終わった。日本のさとうきび研究を世界水準で推進するためにも、継続的して参加して積極的に発信していく必要があることを痛感した。本ワークショップへの参加を義務として自らに課していくことを同行の氏と確認した。
 筆者の一人杉本は、発表の外、二つの任務を帯びてこのワークショップに参加した。その第一は、参加者との情報交換を通し、海外の育成地への交配委託の可能性を拓くことであった。この点については、バルバドス、ブラジル、グアテマラ等、出穂に好適な自然環境条件を持ち、技術的にも水準の高い国々の研究者の積極的な関心を得ることができた(現在ブラジルから杉本宛に委託交配に関する提案書が届いている)。もう一つ、重要な任務は、南アフリカ共和国糖業研究所への謝意の表明であった。日本のさとうきび育種は、同研究所から長期にわたり交配種子の無償供与を受けており、それらの種子から、これまでにNiN2、NiN7の2品種が育成されている。秋収穫用有望系統KN91-49も同研究所の交配によるものである。初日に、同研究所の育種責任者であり、ワークショップ組織委員長のNuss氏に謝意を伝えることができた。Buterfield氏、Brunkhorst氏はじめとする同研究所の育種研究者とは、休憩時間、研究所訪問の機会に謝意を伝え、南ア交配実生集団の特性、多収・低糖・葉焼け病感受性等の長所・短所について情報を交換することができた。研究者達はこぞって支援の継続を約束し、短所の是正にも触れてくれた。一方、同研究所交配による日本の育成品種NiN2が、同研究所の新品種N27の種子親となったことについてはNuss氏から謝意が表され、同品種を前に記念写真を撮った。国際交流の重要性を示すと同時に、日本の育成水準の高さを証すものでもあり、喜ばしい事実であった。この場を借りて、南アフリカ糖業研究所の研究者、交配支援の労を執られた両国の関係者にお礼申し上げる。
 厳しい少雨・乾燥条件下にある南アフリカ共和国のさとうきび育種の実際を見学し、ワークショップ参加者から世界各国におけるさとうきび品種育成の現状を聞くことができた。議論・研究・実践の中心は、可製糖率を高めるための育種の効率化、或いは高可製糖率を中心とした他の重要特性の効率的な付加であった。私たちが育種目標の中心に据えている不良環境条件下における多収性の発現や地力改良型栽培技術等々は話題にならなかった。関心の大部分は作物育種の王道としての主産物(砂糖)の生産性向上にあった。地球環境の悪化、食糧需給の逼迫、さとうきびの作物としての特性等を考慮すると、そろそろ、地球環境の維持、経済活動の持続的発展の基盤整備の面からのさとうきびの新しい役割が生まれてきそうである。帰路、飛行機の窓から、乾いた大地を眺め、その思いが強くなった。
ダーバン周辺のさとうきび圃場
ダーバン周辺のさとうきび圃場
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「今月の視点」 
2003年8月 
海外でのサトウキビ研究〜ISSCT第7回育種・遺伝資源ワークショップ〜
 九州沖縄農業研究センター さとうきび育種研究室長 杉本 明
 国際農林水産業研究センター沖縄支所 育種素材開発研究室長 松岡 誠
 農業生物資源研究所 遺伝資源研究グループ 遺伝子多様性研究チーム長 門脇光一

【てん菜生産地から】平成15年てん菜生産振興方針 〜 北海道 〜
 北海道農政部農産園芸課


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