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おせち料理と砂糖

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2006年1月]

【今月の視点〔砂糖/健康〕】

女子栄養大学部短期大学部 栄養学研究室   助教授 松田 早苗

はじめに
おせち料理について
おせち料理に使われる砂糖の量は?
砂糖の調理性
おわりに

はじめに

 師走に入り、お正月を迎える支度で慌しくなってきました。最近では、おせち料理を手作りでという家庭も少なくなってきているようです。年中無休のコンビニエンスストアーや元日から営業するスーパーマーケットが増えたこと、また、核家族が増え、材料を買いそろえるよりも購入したほうが得ということもあり、高級レストランや料亭、ホテルのおせち料理が飛ぶように売れています。
 今年、施行(平成17年7月15日)された食育基本法によると、食育は心身の健康増進のため、食に関する適切な判断力を養い、健全な食生活を実現すること、食に関わる人々への感謝の念や理解を深めること、食文化や地域の特性を生かした食生活への理解を深めることとあります。おせち料理こそ日本の伝統的食文化と言えます。おせち料理は砂糖を多く使用するのが特徴です。生活習慣病予防や虫歯予防のため、料理の甘味を控える傾向にはありますが、伝統的食文化を見直すとともに、おせち料理を通して砂糖を栄養学的、調理学的側面から考えてみましょう。

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おせち料理について

 元来、五節供(1・3・5・7・9の各月)の料理を「おせち」と呼んでいましたが、今日ではお正月料理のことを指すようになりました。
 おせち料理は、お重の前に祝肴をいただき、初の重、二の重、三の重、与の重と続きます。祝い肴には田作り、数の子、黒豆をいただきます。田作りには五穀豊穣、数の子には子孫繁栄、黒豆には豆々しく元気を意味しており縁起をかついだ料理です。初の重には紅白かまぼこ、伊達巻、梅花かん・牛乳かん、栗きんとん、きんかんの甘煮、たたきごぼうを詰めます。初の重には甘味のものが多いのでほかの濃い味の料理をすっきりさせてくれます。二の重には冷めてもおいしい焼き物として鶏肉のみそ松風焼き、さわらの西京焼き、小鯛の南蛮漬け、いかのウニ焼き、あんずの甘煮を詰めます。三の重には煮物を詰めます。富貴寄せのように縁起のよい切り方をした材料を各々煮て合わせる方法と大切りにした野菜を煮えにくい順に鍋に加えて一緒に煮しめていくお煮しめの方法があります。お煮しめは素朴な煮物ですが、家族が仲良く一緒に結ばれるようにという祝いの心がこめられているのです。与の重には酢の物を詰めます。ナマコの粕漬け、ヒラメの昆布巻き、新巻鮭のかぶ巻き、さらに、なます、炒めなます、菊花かぶなど生野菜を取るようにします。このように4つのお重に詰められた食品や調理をみると、栄養バランスだけでなく、甘・辛・酸など味のバランスも良いということに気づきます。改めておせち料理が素晴らしい日本の伝統的食文化であることに驚かされます。

おせち料理
金時豆
伊達巻
紅白かまぼこ


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おせち料理に使われる砂糖の量は?
 おせち料理で砂糖を使わない料理はありません。おせち料理のレシピより、砂糖の使用量をみてみると、田作り30g、黒豆150g、伊達巻30g、梅花かん・牛乳かん200g、栗きんとん200g、きんかんの甘煮60g、たたきごぼう20g、鶏肉のみそ松風焼き15g、小鯛の南蛮漬け60g、あんずの甘煮50g、富貴寄せ50g、新巻鮭のかぶ巻き15g、なます40g、炒めなます40g、菊花かぶ15gと合計約1000gの砂糖が使用されています。これでも昔のおせち料理のレシピに比べると砂糖の量は少なくなっていますが、1年のうちで最も砂糖を利用しているといえるでしょう。

砂糖の調理性

(1) 甘味度
 砂糖、麦芽糖、乳糖などの二糖類や、ブドウ糖、果糖などの単糖類は甘味を呈しますが、デンプンなどの多糖類は甘味がありません。砂糖の甘味度を100とした時、果糖は120〜150、ブドウ糖は50〜70、麦芽糖は33〜60、乳糖は16〜28です。砂糖は果糖に次いで二番目に甘い糖質です。甘味度は、温度による影響を受けます。ブドウ糖や果糖は高温になるほど甘味度が低下します。果糖を例にとると、砂糖の甘味度を100とした時、温度10度では砂糖の甘味度の1.4倍なのに対し、60度では0.8倍と低下します。一方、砂糖は温度による影響を全く受けず変化がありません。このことは冷たい状態でいただくことの多いおせち料理にとっては、砂糖は好都合な甘味といえるでしょう。

表1 糖の甘味度

(2) 溶解性
 砂糖は、水に溶けやすく、また、砂糖溶液の温度を上昇させるとさらに多量に溶けるようになります。砂糖溶液を煮つめていくと濃度が高くなり、沸点が上昇し、粘度も高くなります。沸点は100〜180度と幅広く、温度によって砂糖溶液の状態や性質も異なります。沸点103〜105度に加熱するとシロップに、沸点170〜190度に加熱するとカラメルになります。また、沸点106〜107度において砂糖溶液を過飽和状態にて攪拌を行うと小さい結晶が生じ、フォンダンや金平糖に利用されます。また、沸点115〜120度では大きい結晶が生じ、砂糖衣(炒り豆、かりんとう、あられ)に利用されます。

表2 砂糖と加熱温度

(注)※抜絲:鍋に水を入れ、砂糖を加え弱火で混ぜながら熱し、泡が立ち、ねばりが出て糸を引くようになったら、低温からじっくり揚げたさつま芋を入れ、手早く混ぜ酢を加える。糸を切り、飴を固くして、歯切れを良くするためとやけどを防ぐために、御椀に水を入れてそえ、水に芋を付けて食す。

(3) 吸湿性
 砂糖には吸湿性があり、空気中に放置しておくと湿気の多い日は湿ってきます。一見、好ましくない性質のように思えますが、食品や料理の乾燥を防ぎ、しっとり感を持たせる効果があります。おせち料理の錦卵は、茹で卵を白身と黄身に分け、各々に砂糖を加え蒸して作ります。砂糖を加えなければ、ぱさついてぼそぼその感じになりますが、砂糖を加えることでいつまでもしっとりとした仕上がりになります。和菓子に利用されるあずきあんも、砂糖をたくさん使うほどしっとりさを長持ちさせることができるのです。

(4) 防腐性
 濃度40%以下の砂糖溶液は、微生物の栄養源となり繁殖を促しますが、濃度40%以上の砂糖溶液では浸透圧が高く、防腐性を有します。砂糖溶液の濃度40〜60%では細菌類、濃度60〜70%では糸状菌や酵母の発育を阻止します。ブドウ糖は砂糖より低濃度で防腐性の効果を示します。果糖はさらに低濃度で微生物の繁殖を阻止することができます。この防腐性を利用したのが、ジャム、マーマレード、砂糖漬けです。おせち料理に砂糖を多く用いるのも冷蔵庫がなかった時代に、7日間〜10日間日持ちさせなければならなかっのですから防腐のための工夫と考えられます。

表3 糖類の微生物に対する最少発育阻止濃度

(5) αデンプンの老化防止作用
 αデンプンは、低温で保存するとβデンプンに戻ります。このことを老化といい、食品の食味が損なわれます。お団子は時間がたつとβ化が進み固くなりますが、お団子と同じ原料のもち米粉で作るぎゅうひは固くなりません。これは、ぎゅうひにはぎゅうひ粉の2倍という多量の砂糖が用いられているからです。砂糖を加えることにより、砂糖の親水性、保水性によって水分が失われず、β化を防ぐことができるのです。このように砂糖には老化防止作用があるのです。同様にスポンジケーキは、小麦粉1に対して砂糖が1の割合ですが、カステラは、小麦粉1に対して砂糖が2の割合で作ります。カステラの方が、長時間軟らかく、しっとりしているのも砂糖による老化防止作用によるものなのです。

(6) 気泡の安定性
 おせち料理に淡雪かんをいただくご家庭もあると思います。淡雪かんは、卵白を泡立てて作ります。卵白には、表面張力を小さくするタンパク質が含まれていて、空気をたくさん取り込むことを、可能にしています。これを卵白の気泡性といいます。また。卵白には、空気に触れると変性して膜状に硬くなる成分が含まれています。これを卵白の空気変性といいます。砂糖は、水を引き付ける作用が強いので卵白の気泡の安定性を高めます。しかし、砂糖には、卵白の空気変性により生ずる膜状の成分を阻害する作用もあります。そのため卵白を泡立てる際には、砂糖を加えるタイミングが重要になります。まず、卵白のみでしっかりと泡立ててから、砂糖を少しずつ加えてさらに泡立てるようにすることによって、砂糖が卵白の空気変性を抑制するのを防ぎます。

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おわりに
 砂糖は、生体には不可欠な食品ですが、摂り過ぎには注意しましょう。甘い食品や料理をいただいた翌日は甘味を控えるようにして摂りすぎを防ぎます。今回、砂糖という側面からおせち料理をみてきましたが、おせち料理は、日本の伝統的な食文化であると同時に、昔からの料理や食材に関する智恵が凝縮され、単においしさだけではなく、保存性、調理性にまで及ぶ科学的な料理であることが分かりました。各家庭オリジナルのおせち料理を作ることによってこの素晴らしい伝統料理をぜひ伝えていきたいものです。

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