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宮古島のバイオ燃料推進の可能性について 〜全島E3化に向けた課題と今後の見通し〜

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最終更新日:2010年3月6日

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[2008年9月]

【調査・報告】

調査情報部調査課 課長代理 天野寿朗


1.はじめに

 宮古島で行われているさとうきびを原料とする燃料用エタノールによるE3(バイオエタノールを3%混合したガソリン)導入は、地球温暖化対策といった環境面のみならず、この地域の基幹作物であるさとうきびの生産振興という点からも重要である。平成16年度から19年度までの実証試験を拡大・発展させるため、平成20年度から23年度までの広域実証事業として、宮古島バイオエタノール実証事業がスタートしている。

  本稿では、現地で関係者からの話などを含め、宮古島の全島E3化に当たっての課題、さらなる発展の見通し、また、宮古島のみならず日本におけるバイオ燃料推進の今後の方向性について報告する。
  当該実証試験のこれまでの取組としては、環境省より地球温暖化対策技術開発事業を受託した株式会社りゅうせき(以下、「りゅうせき」)が、宮古島の製糖工場で発生する糖みつを利用してエタノールを製造するにあたり、①高生産性発酵、②省エネルギー濃縮脱水、③高効率廃水処理、④有価成分の回収利用、⑤蒸留廃液の効率的な処理などの生産プロセス技術開発を行い、E3燃料を島内の車両に供給し、実車走行を行い、その適用性などを実証する事業を行っている。なお、詳細については、砂糖類情報2007年5月号の「沖縄産糖みつによるバイオエタノールの製造とE3実証試験」(/japan/view/jv_0705a.htm)を参照されたい。

2.全島E3化に当たっての課題

 宮古島におけるE3化の実証事業は、ガソリンとエタノールを直接混合する「直接混合方式」によるバイオエタノール混合ガソリンを推進するものであるが、現在直面している中で早急に解決すべき課題は以下のとおりである。

(1) 石油業界はETBE方式を推進

  E3などの直接混合方式ではなく、ETBE方式(注1)によるバイオエタノール混合ガソリン推進の立場をとる石油連盟から、現時点では協力が得られていない。この理由として、石油連盟がE3などの直接混合方式のバイオエタノール混合ガソリンについて、①水分が混入するとガソリンとエタノールで相分離が発生し、燃焼に支障をきたすこと、②相分離後のエタノールにより金属・樹脂など自動車部品が劣化すること、③エタノールを直接混合することによってガソリンの蒸気圧が上昇すると、光化学オキシダントが多く発生するため、光化学スモッグの発生が拡大すること、などを挙げ反対してきたことがある。
  このため、島内のすべてのスタンドがE3化に追随していない状況であり、今年の初めには、平成20年度からの実証事業である「バイオエタノール・アイランド構想」が頓挫したとの報道もなされた1)。実際に現在、宮古島でE3を供給しているのは、島内19か所の給油所のうち2カ所(りゅうせき油槽所、JA系のスタンド)で、供給対象も官公庁車両約300台にすぎない。
 
(2) 世界の主流は直接混合方式

  しかし、今後の見通しは決して暗くはないと思われる。この理由としては、ETBE方式と比較して直接混合方式の優位性が明白になってきたことが挙げられる。実際に、バイオエタノール混合ガソリンの世界的な流れは、直接混合方式であり、ETBE方式ではない。全世界で消費されているバイオエタノール混合ガソリンは、直接混合方式が実に9割以上を占めており、ETBE方式は、EU加盟国の一部で実施されているにすぎない。
  また、海外では、石油連盟が主張する直接混合方式の悪影響は、報告されていない。むしろ、天然ガス由来のイソブチレンを原料として使用するETBE方式は、直接混合方式と比較してコストが高くなること、その安定確保が課題となることなどの問題が挙げられる。しかも、直接混合方式はエタノールそのものの有害性が取りざたされることがない一方で、ETBE方式はその安全性が実証されていないことから、豪州や米国の一部の州では使用が禁止されている。わが国においては、経済産業省が環境影響調査を行っているところであり、現在は結果待ちの状態である。
 
(3) 石油業界の協力が不可欠

  海外では、本来は石油会社であるはずのChevron社、BP社などがセルロース系エタノール開発に支援金を支出しているという事例がある。また、石油メジャー各社は将来の販路確保のためにも、バイオテクノロジー企業などとの技術開発の提携によって、バイオエタノール製造の参入の機会をうかがっている。
  米国の石油会社は日本とは事情が異なり、いわば「総合エネルギー企業」としての性格が強い。このため、石油だけでなく他のエネルギー販売も扱うため、バイオ燃料の開発も自らの商売になることによるものである。バイオガソリンの使用が義務化されている州において、エタノール混合率が引き上げられれば、低コストでのエタノールの調達が企業戦略として重要となる。
  日本の場合には、将来的にこの動きが当てはまるのかどうかは定かではないが、バイオ燃料を取り巻く一つの動きとして、無視できないことは確かである。年々、地球温暖化対策を求める声が高まっていることや、世界的な原油価格高騰なども追い風となって、バイオエタノール推進の流れは止められないものとなっていることから、ETBE方式ではなく、バイオエタノール使用量の増加が期待できる直接混合方式による供給に、石油業界としても協力が求められることになろう。
  それに伴い、石油業界も直接混合方式が不利益をもたらすという発想から転換し、バイオエタノール推進にかかわることによって自らも利益を得るという“Win―Winの関係”へと導くことができれば理想的であろう。

3.宮古島のバイオエタノール生産の拡大に向けて

 宮古島における平成19年度の糖みつの生産量は約7,000トンであり、E3であれば全島の自動車が必要とする原料の倍以上の分をカバーしている(表1)。関係者の話によると、現状のさとうきび生産体制であれば、E7〜E8に相当する量のエタノールの供給が可能とのことであるが、バイオエタノールのさらなる供給を目指すとなれば、今後必要とされることは何であろうか。


表1宮古島事業の概況
資料:株式会社りゅうせき


(1) 夏植えから株出しへの転換によるさとうきび増産が必要

  今後、安定的なバイオエタノール供給を目指すとすれば、バイオエタノールの原料となる糖みつの安定確保が課題であるが、糖みつは、それを必要とする飼料会社など既存の販売先(顧客)があるので、バイオエタノール製造向けばかりには回せない。そのため、さとうきびを増産して糖みつの生産を拡大させる必要がある。
  宮古島では、「さとうきび増産プロジェクト」(沖縄県および鹿児島県の南西諸島において、さとうきびの増産を目的として、経営基盤の強化、生産基盤の強化、技術対策などの基本方針を策定し、生産目標および必要な取組の計画を設定するとともに、毎年その経過の検証を行う)として、地下ダムを活用したかんがい、可動式誘殺灯を活用したアオドウガネ土壌害虫の防除、ハリガネムシ新薬剤施用による栽培実証ほ場の設置などの技術対策が行われている2)
  これらのほかに、さとうきびの増産のためには、栽培面積の拡大が求められる。そのためには、株出し面積の拡大が必要である。現在、宮古島におけるさとうきび栽培は、夏植え90%、株出し10%であり、ほとんど夏植えだけ耕作を行っているのが実態である。しかし、株出しが収穫まで1年であるのに比べ、夏植えは収穫までに1年半かかることから、十分な生産量確保には及ばず、製糖工場も今のままの夏植え一辺倒ではだめと考えるようになっており、夏植えから株出しへの転換がさとうきび増産のために必要とされる。
  また、さらなる栽培面積拡大を目指すには、我が国の農業全般にも関わる課題の一つでもある休耕地の利用も必要であろう。
 
(2) コスト低減および製造体制の強化

  バイオエタノールの供給拡大を目指すには、製造コストなどの低減が必要となる。りゅうせきによると、将来的にはエタノール製造コストを現在の1リットル当たり150円から100円に下げることを目標としている。
  併せて、その製造体制を強化することも必要となる。そのためには、製糖会社との融通システム(出役、運転員の派遣)の構築が有効である。これにより、製糖期以外は製糖会社から工場の従業員が派遣可能となり、製造体制の強化が可能となるわけである。
  また、現在、りゅうせきでは、環境省委託事業として来年3月末までにエタノール製造設備を増強予定であり、供給拡大の体制は着実に構築されつつある。

4.バイオ燃料推進の効果およびその方向性

 バイオ燃料推進にはさまざまな効果が期待され、また、その達成のためには、支援策なども求められる。

(1) 地球温暖化対策〜CO2排出量の削減効果〜

  沖縄県は、自然環境・景観を資源とする観光立県として、環境保全・改善が大きな課題となっている。
  しかし、現状では、沖縄県における二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出量は、1990年度からの10年間で31.4%増加しており、全国平均の8%と比較して突出している。これは、県内の鉄道が未発達であるため自動車が増加していること、電力用燃料を重油から石炭に転換したことなどが、その主な要因とされている。そのため、沖縄県地球温暖化対策地域推進計画においては、2010年度までにCO2排出量を現状の8%削減することが目標とされている3)
  宮古島におけるE3によるバイオエタノール混合ガソリンによるCO2排出量削減効果は図1のとおりである。これによると、ガソリンと比較した場合のCO2排出量は、実証事業運転時は51%、広域事業運転時は24%と、ブラジル産エタノールの13%には及ばないものの、確実に削減効果が認められる。


資料:株式会社りゅうせき
図1 バイオエタノール混合ガソリンによるCO2排出量削減効果


(2) バイオ燃料推進のための支援策など〜税制優遇措置および混合率上限の引き上げ〜

  わが国のエタノール混合ガソリンの普及推進において、今後必要とされる支援策は何であろうか。
  税制面で優遇措置を行うことによって、ブラジル産バイオエタノールとのコスト差の縮小につながる。実際に、政府・与党による平成20年度税制改正では、バイオマス由来燃料を混和して製造された揮発油について、バイオマス由来燃料に含まれるエタノールに相当する揮発油税および地方道路税を軽減する措置を講ずるという「バイオ燃料促進税制」が創設されることが、今年の1月に閣議決定されている(注2)
  また、現在のE3から、米国など海外ですでに主流であるE10の導入により、さらなるバイオエタノールの供給が期待される。わが国でも2020年を目途に、E10導入を検討中の段階であり、揮発油等の品質の確保等に関する法律(品確法)施行規則に定めるエタノールを含む含酸素化合物の混合上限規定を見直すこととしている。また、国土交通省でもE10対応車の技術基準等の整備の検討を行っており、新車はすでにE10対応可能なものも販売されている。宮古島の実証事業においても、E10対応車やFFV(フレックス車)の走行試験の実施も盛り込まれており、将来的にE10導入が本格化されれば、さらなる効果が期待されるであろう。 

(3) 循環型農業によるさとうきび生産〜蒸留残渣液を処理し、肥料として畑に還元〜

  宮古島には河川らしい河川が存在せず、また、宮古島の地質は、表土80センチメートル、その下は隆起サンゴ礁の透水性の高い琉球石灰岩からなるため、降水量の約4割が地下に浸透する。このため、農作物の生産に使用される化学肥料も地下に浸透し、ひいては地下水の汚染につながる。したがって、化学肥料の使用量を減少させることは、宮古島の生活用水である地下水を守るという環境保全面から、大変重要である。
  糖みつを原料としたエタノール製造においては、蒸留・濃縮の過程で、エタノール1リットルに対し15リットルもの蒸留残渣液が発生する。この大量に発生する蒸留廃液の処理をどうするかということは環境保全面で大きな課題である。また、蒸留残渣液には15万ppm程度のBOD(生物学的酸素消費量)(注3)があるため、蒸留残渣液を直接海洋に流すことができないことから、何らかの対策が求められるところである。
  そのため、一連の実証事業では、エタノール製造過程で発生する蒸留残渣液をさとうきび畑に還元する実験を行っている。BODの値を下げることによって河川放流可能なシステムも開発しており、関係者の話によると、宮古島における実証実験では、すでに技術的な面はクリアしているとのことである。実際に、海外の先進地域ではその有機物利活用として肥料、飼料に循環活用する仕組みがすでに構築されているところもみられる。元来、土地が肥沃ではない宮古島は化学肥料の使い過ぎで地力が落ちていることもあり、循環型農業によって化学肥料使用量の減少が期待できることにより、この問題の解消につながる。これによって、ひいては、さとうきび生育効果、除草効果なども期待できる。
  さらに、昨今のリン酸アンモニウム、塩化カリウムなどの国際価格の高騰を原因とする肥料価格の上昇によって、多くの農家の経営が圧迫されている現状をかんがみると、循環型農業の推進による肥料コストの減少は、さとうきび農家の経営改善にも有効である。
  以上のことから、エタノール製造過程における蒸留廃液処理システムの開発による循環型農業の実現は、環境保全のみならず、さとうきび生産の振興にもつながるといえる。

(4) 観光資源としての可能性も〜経済効果のみならずバイオ燃料推進の世論形成も期待〜

  宮古島におけるバイオエタノール推進には、さとうきびそのものの生産振興のほかにも、製造設備の見学などを「観光資源化」とすることで、今後の活路を見出すような可能性が期待されている4)
  宮古島市は、環境問題の改善を進めるための構想として、今年の3月に「エコアイランド宮古島宣言」を打ち出している。この宣言の具体的な施策には、宮古島の自然とエコ関連施設の見学を合わせたエコツアーの実施(民間の旅行会社に委託)や、地場の食材を使用した伝統食作りの体験など、“観光客を環境客に”という宮古島市長の言葉のとおり、環境保全活動と結び付けた観光メニューが用意されている5)
  もともと観光資源に恵まれている宮古島ではあるが、このエコツアーには、さとうきび生産現場、製糖工場、エタノール製造施設、ガソリンとのブレンド施設といった一連の施設の見学が観光コースに組み込まれている。これが観光資源として発展することによって、現地での観光客による消費の増大という経済効果も期待できることから、島全体の活性化につながる。
  しかし、観光資源化のメリットはそれだけではない。これまでも多くの見学者(海外からの視察団、衆参両院議員、地方議会議員など)が各施設を訪れているが、この一種のグリーンツーリズムが今まで以上に商業ベースで発展すれば、さらに多くの参加者の「自分たちが参加することで、島の環境保全、地域振興に係わっている」という意識と、この実体験を通した一連の見学施設に対する理解の向上によって、バイオエタノール推進に対するより大きな世論形成につながることが期待される。


図2 宮古島バイオエタノール推進のイメージ

5.おわりに

 さとうきびの糖みつを原料としたバイオエタノールは、とうもろこしを原料とするバイオエタノールと違って、懸念されているような食料とのバッティングを起こさない。また、耕地面積当たりのエタノール収量も他の作物と比較して優位性がある。昨今はセルロース系などの非食料系の原料が注目されつつあるが、原材料の調達が困難、糖化酵素のコストが高いなどといったことがネックとなり、現時点では解決すべき課題も多い。これらの事実を勘案すると、他の原料と比較して、現状ではさとうきびの糖みつを原料とするバイオエタノール製造が現実的なものであると言える。
  なお、今年の4月に、南西石油(沖縄県西原町)がブラジルのペトロブラス社の傘下となったことから、沖縄は、アジアにおけるバイオエタノール貿易の中継基地としての役割を果たすことが期待されている。また、これを契機として、日本へのバイオエタノール輸入が拡大することが予想される。単に輸入拡大が進むだけでは国内で製造される燃料用バイオエタノールのシェアを奪われてしまう可能性も否定できないが、輸入増加によりエタノール市場そのものが拡大し、施設整備が進めば、それだけ国内産原料のバイオ燃料供給のチャンスも生じるであろう。
  バイオエタノール構想への取組は、宮古島という限られた地域だけのものではなく、地球規模で全人類が抱えている課題の解決につながるものである。また、地産地消のモデルケースとなることで、当該技術の他の島での普及への可能性も期待が高まる。

参考資料

1) 読売新聞2008年1月22日
2) 沖縄県農林水産部糖業農産課「沖縄県におけるさとうきび増産に向けた取組について」『砂糖類情報』 2008年1月号、2008年、p5―6
3) 株式会社りゅうせき資料「沖縄産糖蜜からの燃料用エタノール生産プロセス開発及びE3等実証試験概要」
4) 沖縄振興開発金融公庫「バイオエタノールの現状―JETRO・ブラジルバイオエタノールミッション報告―」『公庫レポート』 2008.3、2008年、No.108、p56
5) 日本トランスオーシャン航空機内誌『CORALWAY』 2008.5/6月号、2008年、No.116、p23―24

(注1)
ETBE(Ethyl Tertiary Butyl Ether)方式
石油製造過程の副産物であるイソブテンとバイオエタノールから製造されるガソリンの添加剤 であるETBE をガソリンに混合する方式。

(注2)
同税制は2013年度末までの措置であり、その実施は「揮発油等の品質等の確保等に関する法律」 の一部改正の施行に合せて行われるため、2008年10月以降の適用開始となる見込みである。

(注3)
BOD(Biochemical Oxygen Demand)
河川水や工場排水中の汚染物質(有機物)が微生物によって無機化あるいはガス化されるとき に必要とされる酸素量。この数値が大きくなれば、水質が汚濁していることを意味する。

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