ホーム > 砂糖 > 視点 > 産業 > 沖縄産糖みつによるバイオエタノールの製造とE3実証試験
最終更新日:2010年3月6日
京都議定書で課せられている温暖化ガス削減目標(1990年比6%削減)を達成する手段の一つとして、カーボンニュートラルな燃料であるバイオエタノールを混合したガソリンの導入は、その効果の大きさなどから極めて大きな社会的意義がある。ちなみに、海外では、積極的にバイオエタノール燃料の導入が進んでおり、わが国においてもガソリンにバイオエタノールの混合燃料の普及が検討されている。
エタノール3%ガソリン混合燃料は既販車への影響はないとして、わが国でも燃料規格で認められている。また、国内の自動車メーカーの普通自動車は、国内販売車についてもすでにE10対応車に切り替えており、バイオエタノール混合ガソリン導入の環境は整えられつつある。課題はバイオエタノールの調達で、将来的に安定供給する国産バイオエタノールを確保することが極めて重要である。わが国においては、産地でエタノールを製造し、使用する地産地消型が最もCO2削減効率が高く、地域の活性化にもつながる方策と考えられる。
当社では地球温暖化対策技術開発事業を環境省より受託し、宮古島においてバイオエタノールを効率よく生産するプロセスを開発し、ガソリンにバイオエタノール3%を直接混合し、E3燃料を製造、公用車に供給して実車走行を行っている。本稿ではその概要について紹介する。
沖縄のさとうきび産業と糖みつ
(1) 沖縄のさとうきび産業
さとうきび産業(製糖業)は沖縄の基幹産業であるが、甘味資源の国の支持のうえに成り立っている。近年、生産者と作付面積が減少し、地力の低下による単位面積当たりの収量が低下する傾向にある。台風の到来が多く土壌が良くない地理的条件において代替作物の少ない沖縄、特に宮古島においては今後もさとうきびは基幹作物とならざるを得ない。沖縄県全体の約1/3のさとうきびを産出している宮古島ではさとうきび生産と製糖業はまさに一大基幹産業である。
(2) 沖縄産糖みつの特徴
糖みつは、さとうきび搾汁液から砂糖をできるだけ多く回収するため、外国産糖みつに比べ糖分濃度が低い。土壌由来の無機塩類は、15%程度と東南アジア産の3倍程度もあり、発酵阻害要因となっている。さらに回収工程で生じた黒色色素は分解処理が困難なものであるため、無償に近い状態で飼料会社に引き取られているのが現状である。
エタノール生産プロセス技術開発
当該事業では、商用化普及のためのモデル事業を確立することを目的に、バイオエタノールの生産プロセスを開発し(図1)、エタノール生産量日産1,200L(1トン/日)の実証試験プラントを建設、その技術検証を行った。実証試験プラントは、沖縄製糖(株)宮古工場内に建設して試運転を実施し、純度99.5vol%以上のエタノールを生産、それをE3燃料実車走行試験に100%供給し、実証事業を継続実施している。3企業、1大学、2国公設研究機関の技術開発協力を得て実施しており、本事業の全体概要と開発課題をまとめると図2のようになる。
図1 エタノール製造プロセス |
図2 プロジェクトの概要と課題 |
(1) 高生産性発酵プロセスの開発
低品質の沖縄産糖みつに適した耐塩性凝集性酵母を開発し、それを使用した高効率の発酵システムを開発する。
(2) 省エネルギー濃縮脱水プロセスの開発
従来法に比べてはるかに省エネルギーとなる、蒸留と膜脱水を組み合わせたハイブリッドシステム(日本特有のナノテクノロジー)を開発する。
(3)高効率廃水処理プロセスの開発
生産システムの洗缶廃水をメタン醗酵と物理・化学的処理、生物的処理を含めて検討実証し、河川放流可能なシステムを開発する。
(4) 有価成分の回収利用技術の開発
糖みつの醗酵、蒸留廃液からの生理活性の高い有価物の回収とエネルギー回収を含めたバイオマス有効利用技術の開発をする。廃水処理の負荷低減とエタノール製造コストの削減にもつながる探索研究を行う。
(5) 蒸留廃液の効率的な処理プロセスの開発
生産されるエタノール量の20倍程度の高BODの蒸留廃液が発生する。海外の先進地ではその有機物利活用として肥料、飼料に循環利用する社会的仕組み作りが出来ており、宮古島もその実施体制の構築を図る。
E3等実証試験事業
商用化・普及を前提としE3製造・供給設備を、(株)りゅうせき宮古島油槽所内に設置した(図3)。E3製造設備によりE3をドラム缶(200L)に自動制御で充填する。ガソリン基材を未納税移出で受入れ、製造E3に対して揮発油税等を納付している。製造E3は、第三者機関で分析し、品質の確保を行っている。実車走行車試験は沖縄県および宮古島市の公用車300台に対し一般給油所1箇所の給油設備を借り上げ2箇所のE3給油設備で対応している。19年度は、1,000台程度を目標に普及・拡大のモデル作りを図る。
図3 E3製造・給油設備 |
宮古島広域実証事業
平成20年度以降に1府4省の国の事業として本事業の成果を反映して宮古島全域でE3燃料の普及を想定した広域事業が検討されている。その後の地域事業化を目指すためにも図4に示す事業体スキームの構築とそれを支援する国の社会制度も含めた課題解決が不可欠となる。
図4 宮古島における広域実証事業のスキーム |
ページのトップへ |