平成17年3月25日、今後10年程度の政策展開の基本方向を示した新たな食料・農業・農村基本計画が閣議決定されました。
その中で、これまでの食料・農業・農村を取り巻く情勢の変化や施策の検証結果を踏まえて食料自給率目標を設定するとともに、目標の達成に向けて生産および消費の両面において重点的に取り組むべき事項を明らかにしております。また、具体的な施策の展開方向として、(1)担い手の明確化と支援の集中化・重点化、(2)経営安定対策の確立、(3)環境保全に対する支援の導入、(4)農地・農業用水などの資源の保全管理施策の構築などの新たな政策の方向性が示されたところです。
今後、関係者の理解を得ながら、新たな基本計画に基づいて各般の施策を具体化していく考えです。そのポイントを紹介します。
日本の食料自給率はここ6年間40%で横ばいです。国民の多くが日本の食料事情に不安を抱いている中で、消費者のニーズに応じた国内農業生産の拡大を通じて、安全な食料の安定供給の確保を図ることが急務です。しかしながら、国内の農業生産の担い手は減少、高齢化が急速に進展しています。将来にわたる食料の安定供給のためには、しっかりした担い手の確保が重要な課題です。
その一方で、豊かな自然環境や美しい景観などに触れ合うことのできる個性的・特徴的な農村に対する国民の関心が高まっています。国民共通の財産である農村の振興を図るに当たっては、地域の個性・多様性を重視して、価値観を共有する都市住民などの参画を得ていくことが必要です。
食料自給率目標はどうなるか
消費・生産を取り巻く課題を克服し、元気で多様な農業者が支える食料自給率について具体的な目標を定め、関係者が一体となった取り組みを推進することでその向上を図ります。基本的には、5割以上を目指すことが適当であると考えますが、計画期間内における実現可能性を考慮して、平成27年度の目標を45%(15年度40%)とします。また、カロリーベースを基本としつつも、カロリーの比較的低い野菜や果実、飼料の多くを海外に依存している畜産物の生産活動をより適切に反映する観点から、生産額ベースの食料自給率目標も併せて設定することとし、その目標を76%(15年度70%)とします。
なお、砂糖関係の食料自給率目標に関しては次のようになっています。
(1) 平成27年度における望ましい食料消費の姿
砂糖:19kg
(2) 平成27年度における生産努力目標
てん菜:366万トン(精糖換算64万トン)
[農業者その他の関係者が積極的に取り組むべき課題]
・高性能機械化体系の確立、直播栽培の改善等により、生産コストを1割程度低減
・需要動向に応じた作付指標の作成とこれに基づく計画的生産を推進
さとうきび:158万トン(精糖換算20万トン)
[農業者その他の関係者が積極的に取り組むべき課題]
・担い手の生産規模の拡大、機械化一貫体系の確率等により、労働時間を2割程度低減
・優良品種の育成・普及、収穫作業の平準化による適期植付、早期株出管理の実施等を通じた単収の向上・安定化により、生産コストを2割程度低減
(3) (1)の望ましい食料消費の姿及び(2)の生産努力目標を前提として、諸課題が解決された場合に実現可能な水準としての平成27年度における食料自給率の目標
砂糖:34%
担い手の明確化とは何か
これまで地域の農業者により行われてきた食料の生産や集落の維持が、農業者の減少や高齢化、農地面積の減少などが進んだために困難になってきています。このまま放っておけば、食料の安定供給や農村社会の維持・発展ができなくなります。これを解決するため、地域の皆さんで合意して担い手を明らかにし、面的にまとまりのある農地を利用・集積することなど将来の集落について合意形成する必要あります。具体的には、市町村が地域の農業経営者の意欲や能力を尊重して認定する「認定農業者制度」の活用、個別経営のみならず、小規模な農家や兼業農家なども担い手となる営農組織を構成する一員となることができるよう集落営農の育成と法人化を推進します。
我が国農業の脆弱化の進行は著しく、(1)過去10年間で農業就業人口は約2割減少、(2)農業就業人口に占める65歳以上の割合は約6割まで増大、(3)過去10年間で農家1戸当たりの平均経営耕地面積の拡大はわずか0.2ヘクタールとなっています。このように稲作などの土地利用型農業では規模拡大が遅れており、力強い我が国農業を作っていくために構造改革を進めることが重要です。このため、効率的かつ安定的な農業経営が生産の相当部分を占める力強い我が国農業を作っていけるよう、農業経営に関する施策を担い手に集中化・重点化していきます。
経営安定対策の確立、品目横断的政策とは何か
現在、WTOでは、関税の引き下げや国内の補助金の制限・削減などが議論交渉されており、17年12月に開催が予定されている香港での閣僚会議に向け、今後、交渉の本格化が見込まれています。このように農産物貿易のグローバル化が進む中で、我が国農業の生き残りをかけて農政を転換する必要があります。このため、19年産から担い手に対し品目横断的な政策として直接支払制度を導入します。
品目横断的政策は、複数の作物を組み合わせた営農が行われている水田作および畑作について、品目別ではなく、担い手の経営全体に着目して講じるものです。具体的には、「諸外国との生産条件格差を補うための支援」として、輸入農産物との生産条件格差により、農産物価格が農業経営にとって十分なものとなっていない場合にその格差について経営単位で支払う仕組みを直接支払として導入します。また、販売収入の変動が経営に及ぼす影響が大きい場合に、「収入・所得の変動を緩和するための支援」として、市場で形成される農産物価格が下落した場合に、経営単位の収入・所得の変動に応じて支払う仕組みの必要性を検証します。
環境に優しい農業をどのように進めるのか
農業者が環境の保全に向けて取り組むべき事柄を整理し、自己点検に用いるものとして、農業環境規範を17年3月に策定しました。農業環境規範は、(1)作物の生産と、(2)家畜の飼養・生産から成っており、実践しなければ農業ができなくなるわけではありませんが、国の各種支援策を受ける場合にはその実践を求められます。また、環境の保全が特に必要な地域における先進的な取り組みへの支援を19年度から導入します。
どうして資源保全施策が必要なのか
農地・農業用水などの保全管理は、これまでは地域共同の取り組みにより維持してきましたが、過疎化・高齢化・混住化などが進み集落機能が低下したため、地域共同活動への参加の減少、農地や水路へのごみ投棄など保全管理上の課題が増大しています。国民共有の財産である農地・農業用水などの資源を良好な状態で次世代に継承するための施策を19年度から導入します。具体的には、集落などのまとまりのある地域を対象に、農家や地域住民、都市住民、NPOなどが一緒になって、農地・農業用水や農村環境を保全していく仕組みをつくります。
輸出促進に向けた取り組みはどうなるのか
今後とも増大が見込まれる加工・外食用需要に対応した取り組みを推進するとともに、地域における食品産業関連の産学官の連携の形成や産地ブランドの振興などを通じて、農業と食品産業との結びつきや異業種の知恵の活用を強化します。
農業と食品産業の連携をどのように進めるのか
世界的な日本食ブームやアジア諸国の経済発展による高所得者層の増加の中で、高品質で安全・安心な国産農林水産物・食品の輸出の可能性が増大しています。この機会を好機と捉え、関係者が連携し、通年の販売促進や輸出ニーズに対応した産地づくり、EPA(経済連携協定)などを通じた輸出先国の市場アクセス改善などを総合的に推進します。
基本計画に掲げた施策をどのように推進していくのか
以上の各分野の施策について基本計画にとりまとめても、それだけでは絵に描いた餅に過ぎません。しっかりと施策を推進するために、(1)内閣総理大臣を本部長とする食料・農業・農村政策推進本部を中心として、政府一体となって施策の推進を図る、(2)施策の推進に関する手順、実施の時期と手法、達成目標などを示した工程表を速やかに作成して、それを的確に管理する、(3)政策評価を積極的に活用して施策の効果などを検証し、必要に応じて施策内容の見直しを行って、翌年以降の施策の改善に反映させる、こととしています。
特に、食料自給率向上のための取り組みについては、政府や関係者からなる協議会を設立し、計画的な取り組みを推進していきます(この協議会において、毎年の行動計画を策定し、これに基づく取り組みの進捗状況をチェックしながら進めていくことが予定されています)。
以上、限られた紙面で、基本計画の主要部分のみを説明しました。農水省のホームページでは、基本計画の本体、工程表などの資料、概要などを説明したパンフレット、さらには、基本計画の策定にいたるまでの食料・農業・農村政策審議会における議論(全ての会議資料、議事録)を見ることが出来ますので、是非ご参照ください。
また、食料・農業・農村政策審議会は、6月末をめどに委員の改選が行われることとなっており、委員のうち3名程度は一般公募によることとし、現在、募集を行っています。今回の基本計画策定の議論においても、公募によって選ばれた委員の方々は、消費者あるいは農業者の立場から、議論に大きな貢献をいただいたところです。ご関心のある方は、是非一度、農林水産省のホームページをご覧ください(
http://www.maff.go.jp/)。
食料・農業・農村基本計画のポイント(PDF 2MB)