ホーム > 砂糖 > 視点 > 社会 > 砂糖及び甘味資源作物政策の今後の展開方向について
最終更新日:2010年3月6日
1.はじめに |
2.政策展開の基本的考え方 |
3.甘味資源作物の価格形成や取引における市場原理の導入 |
4.甘味資源作物及び国産糖製造事業の経営安定対策 |
5.国内生産のコスト是正のあり方 |
6.制度・施策の推進に関する留意事項 |
7.その他 |
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現行糖価調整制度の枠組みは維持
てん菜糖で約2.8倍、甘しゃ糖(粗糖)で約10.1倍といったように、国産糖と輸入糖との間には依然として大幅な内外価格差が存在しています(図2)。今後とも国産糖の生産を維持して砂糖の安定供給を確保していくためには、内外のコスト格差の是正とこれに必要となる財源を確保しつつ、輸入糖と国産糖との調整を行う現行の糖価調整制度の枠組みは維持していくことが適当と考えられます。
一方で、現行制度を安定的に運営していく上では、調整金収支が赤字とならないように輸入糖と国産糖の一定の供給バランスを保つことが不可欠ですが、近年国産糖の増産により調整金の収支構造が悪化している現状(表1)に対応して、国民負担の増加につながらないように、その枠組の維持と需要に応じた砂糖生産の促進のための制度面での見直しを行う必要があります。
国民負担の軽減
糖価調整制度は実需者が負担する仕組みですが、最終的には砂糖や最終製品を通じて消費者・国民が負担していることからも、生産者・国産糖製造事業者・精製糖製造事業者がコスト削減を進めることによって、国民負担を軽減していくことが不可欠です。
国民の理解と納得
上述したように、砂糖や甘味資源作物生産は国民負担の上に成り立っていることから、消費者・国民の視点に立った分かりやすい制度づくりや、政策の決定・実行の過程において客観性と透明性を高めること、また、砂糖業界全体でコスト削減を図ることによって、国内砂糖生産に対する国民の理解と納得を得ることが重要です。
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また、現行政策の下では、当該年に生産された甘味資源作物の全てについて同一の取引価格が設定されるため、生産コストの削減のためのインセンティブが十分に働かず、また、需要を上回る生産をもたらす一因となるなどの問題が発生しています。
このため、甘味資源作物の最低生産者価格制度は廃止して、市場の需給事情を反映した取引価格が形成される制度へ移行する必要があります。
移行に際しては、生産者と国産糖製造事業者との間で価格の決定方法や代金の決済方法といった取引内容を取り決めておくとともに、価格形成については、諸外国における取引の例に倣い、需給事情や生産者と国産糖製造事業者の合理化・生産性向上努力が取引価格に反映し得る仕組みとして、取引価格における生産者と国産糖製造事業者との分配比率を決めておくことが適当です(図3)。
この場合、公正かつ適正な価格形成が図られるよう、必要に応じて、生産者と国産糖製造事業者だけでなく、第3者も入れた検討の場を設けることが重要です。
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○ 甘味資源作物の経営安定対策
〈てん菜〉
生産の8割以上が集中している十勝・網走地域では1戸当たりの作付面積約8ha(EUの平均作付面積は5ha強)となるなど一定程度構造改革が進展しているてん菜については、担い手の経営判断、生産性向上などに向けた創意工夫の発揮に基づく営農を推進する観点から、麦・大豆など他の輪作作物に対する支援と一体的な対策(品目横断的政策)として確立することが必要です。
〈さとうきび〉
一方、さとうきびについては、食料・農業・農村政策審議会の「中間論点整理」においても、地域の生産実態を踏まえた対応が必要とされていることを踏まえて、経営の安定と安定的かつ効率的な生産を図るための品目別政策を講じることが必要です。
また、さとうきびについて国民の理解と納得を得て政策支援を行うためには、地域のさとうきび生産の振興に関して責任を有する県・市町村などが、島ごとのさとうきび生産のあり方を検証して、中長期的な生産見通しを作成するとともに、その実現に向けた取組を強化していくことが必要です。
さらに、政策の実施に当たっては、高齢化などに伴う栽培管理の粗放化が進む中で、さとうきびの安定的生産の確保を図るため、地域の担い手を中心とした生産組織や農作業受託組織の育成、法人化の推進を促進していくことが必要です。
○ 国産糖製造事業の経営の安定に対する支援
原料作物の取引に市場原理を導入する際には、そのメリットを発揮させるとともに、関連産業も含めたコスト削減の推進に資するよう、政策支援を生産者だけでなく国産糖製造事業者に対しても行うことが必要です。
この場合、国産糖製造事業者に対して政策支援を行うに際しては、最大限の合理化が実施されることを前提とすることが必要です。
また、広く消費者・国民の理解を得るためには、支援の要件とすべき合理化の態様が明確にされていることが必要であり、事業者において、生産性や財務内容の健全性の向上、経営内容の透明化などを図ることが強く求められます。
このような観点から、現行制度では一律・平均的な合理化目標価格の下でコスト削減の推進を図ってきましたが、今後は、事業者ごとに実現性のある意欲的なコスト削減目標を設定して、継続的な合理化努力を行う事業者にインセンティブが働くような仕組みが必要です。
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○ 原料作物の生産コストの削減
〈てん菜〉
物財費、人件費、農地価格が割高であることなどを要因として、大規模畑作が大宗を占める北海道においても、てん菜でEUと3倍程度の生産コスト格差が存在していると見込まれますが、今後ともてん菜を安定的に生産していくためには、可能な限り生産コスト格差を縮小することが必要です。
このため、新たな食料・農業・農村基本計画に示された生産コストの1割程度の低減に向け、市場原理導入と経営安定対策への転換により、担い手の経営判断に基づく需要に応じた生産やコスト削減に向けた取組を促進するほか、
ア 競争原理の徹底を図るよう、工場ごとの原料集荷区域制は廃止し、生産者と国産糖製造事業者の間で適正な原料調達範囲を設定していくとともに、
イ 高性能機械化体系の確立、直播栽培技術の改善などにより労働生産性の向上を図る
ことが必要です。
併せて、てん菜糖の増産と砂糖の総需要量の減少が続く中で、国民経済的な視点で見れば非効率な面があるてん菜原料糖が、今後とも増加基調となることが見込まれることから、諸外国の取組も踏まえつつ、バイオアルコールなどの他用途への転換などを検討する必要があります。
〈さとうきび〉
さとうきびについては、島嶼地域という制約があるものの、今後とも安定的に生産していくためには、可能な限り生産コストの低減を図ることが必要です。
このため、新たな食料・農業・農村基本計画に示された生産コストの2割程度の低減に向け、土づくりや適切な肥培管理などの着実な実施はもとより、
ア 地域の担い手を中心とした生産組織や農作業受託組織の育成・法人化の推進による担い手の生産規模の拡大、機械化一貫体系の確立を進める一方、
イ 早期高糖性品種の育成・普及、収穫作業の平準化による適期植付、早期株出管理の実施などを通じた単収の向上・安定化を図る
ことが必要です。
○ 国産糖の製造コストの削減
〈コスト削減の進め方〉
砂糖の製造コストを低減していくためには、原料作物の生産費の低減による原料費の削減を図るほか、生産者、国産糖製造事業者および関係行政機関などの共同した取組により、
(1) 歩留りの向上
(2) 適正な操業度の確保
(3) 集荷製造経費の縮減
を推進することが必要です。
なお、集荷製造経費の一層のコスト削減を図るため、原料集荷区域制の廃止に併せ、
ア 国産糖製造事業者の負担となっている原料輸送費の負担のあり方
イ 国産糖製造事業者の農務部門のJA、市町村などへの移管
について検討を深める必要があります。
〈てん菜糖製造事業者〉
てん菜糖製造事業者は3社8工場体制で、1工場当たりの平均処理量は3千t/日強と、てん菜糖の主要生産国に比べ1/4〜1/2程度の規模となっています(表3)。
集荷製造経費については、おおむね適正な操業度の確保の下で、歩留りの大幅な向上、機械設備の高度化による人件費の削減などにより合理化が進められた結果、ここ10年間で30%以上低減していますが、今後も、内外価格差の縮小と国民負担の低減に向け、原料調達面で生産性の高い経営の育成・確保を図るほか、各事業者が定めたコスト低減目標の下で、原料輸送の効率化、農務・製造・工場管理の各部門の合理化、新技術の導入などの取組を行うことが必要です。
また、産地間で操業度に格差が認められることから、工場体制については、地域の畑作農業の状況などを踏まえながら、そのあり方を検討していくことが必要です。
〈甘しゃ糖製造事業者〉
甘しゃ糖製造事業者(分みつ糖)は15社17工場体制で、ほぼ1島1工場体制となっています。また、1工場当たりの平均処理量は900t/日弱で、甘しゃ糖の主要生産国に比べ1/10〜1/5程度の規模となっています(表4)。
集荷製造経費については、原料処理量が低下する中で、製造設備の高度化による人件費の削減などにより合理化が進められた結果、ここ10年間で20%程度低減しています。島嶼という制約から、コスト削減には一定の限界があるものと考えられますが、今後も、内外価格差の縮小と国民負担の低減に向け、各事業者が定めたコスト低減目標の下で、操業度の向上、歩留りの向上、農務・製造部門の合理化などの取組を行うことが必要です。
特に、甘しゃ糖については、平成6年より品質取引を導入し高糖分品種への転換が進んでいるものの、さとうきびの品質の顕著な向上は見られず、歩留りは低迷していることから、刈り取り後の早期出荷など適切な栽培・集出荷管理を実施しうる体制の確立が必要です。
また、工場の操業度は、収穫量の減少に伴い低下していることから、甘しゃ糖製造事業者だけでなく、地元市町村や生産者においても、甘しゃ糖工場の安定操業などに向けた取組が必要です。
さらに、これまでは操業度の低下に対処し、各事業者の自主的判断を基本として工場・企業の再編が進められてきましたが、今後の工場体制については、地域のさとうきび生産、甘しゃ糖製造の振興に責任を有する県、市町村などが、島ごとのさとうきび生産を検証し、その検証結果による今後の生産の見通しや地域の意向などを踏まえながら、そのあり方を検討していくことが必要です。
○ 国産精製糖の製造コストの削減
精製糖製造事業者は、現在、20社14工場体制となっており、最近4年間で7工場を統廃合するなど、合併や共同生産工場化などによる合理化を推進していますが、輸入精製糖との間において、依然として大きな製造コスト格差が存在しています。また、わが国の精製糖工場は諸外国の精製糖工場の1/6〜1/2程度の規模となっており、稼働率も8割程度となっています(図4)。
糖価調整制度の下では、精製糖について粗糖に比べて割高な調整金および関税を賦課し、実質的に精製糖が輸入されないようにすることにより、輸入粗糖からの調整金収入を確保しつつ、国産糖および国産精製糖の安定生産が確保されるように措置していますが、今後WTO交渉など国際環境が厳しくなる中、より一層の合理化による精製糖の製造販売経費の削減を図ることが必要です。
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