大会に先立ちグアテマラの砂糖産業を紹介する3日間のプレツアーが開催された。分野別に3つのコースがあり筆者らは栽培や機械化を中心にした見学コースに参加した。4つの製糖企業が運営するプランテーションを訪問し、圃場での作業状況、工場での機械類のメンテナンスや研究エリアなどを見学した。ここでは、主に機械化の視点からグアテマラにおけるサトウキビ栽培作業体系について見聞したことを紹介したい。
特徴や印象を初めに述べると、まず(1)耕起、砕土などの耕耘作業を除くほとんどの作業で人力による作業が残っている点があげられる。労働力の確保がそれほど大きな問題にはなっていない現状がうかがえる。特に収穫については、全体では十数%の機械化であり、ここ4〜5年の間に急激な進展を見せているパンタレオンプランテーションでも20%程度の機械収穫率であった。(2)耕起、砕土作業については、土壌が火山灰土系ということもあるだろうが、ディスクプラウやディスクハローなど欧米で一般的な大型の耕耘作業機が使用されている。ボトムプラウや日本で多用されているロータリ系の作業機は全く見られなかった。そのほか、(3)土壌保全を目的にした減耕起植付けが行われるようになっていること、(4)病害虫防除は天敵などを利用した生物学的防除が主流になりつつあること、(5)収穫期前期に航空機による登熟促進剤の散布が行なわれていること、さらに(6)圃場で使用する作業機や工場の機械類のメンテナンスを行うために各工場に機械整備センター(メカニカルショップ:写真2)が設置されていることなどが大きな特徴である。
以下、ラ・ユニオンプランテーションで行われている作業体系について順を追って紹介する。
写真2 メカニカルショップ
1.植付け準備(圃場の準備)
(1) 芯土破砕
サブソイラにより芯土破砕を行う。250PS級のトラクタを用い、耕深45cmで圧密の程度によって1〜2工程の処理を行う。作業能率は1.65ha/hr程度である。土壌へのささりがよくなるように放射線状の形状をしたブレードが使用されている。
(2) 耕起
ディスクプラウにより1〜2工程の耕起作業を行う。ディスクプラウ(写真3)は81cmのディスクを16−24枚装着しており耕深は20cm程度である。300PS級のトラクタが使用される。作業能率は1.10−1.91ha/hrである。
(3) 整地
ディスクハローにより1〜2工程の整地作業を実施する。61cmのディスクを64−66枚装着した最新の作業機を300PS級のトラクタで使用すると作業能率は2.3ha/hr程度になる。
(5) 作溝
作溝作業は1.50〜1.75mの畦幅で170PS級の車輪トラクタで行う。最新のガイドマーカを備えた3連式作溝機を使うと1.5ha/hrまで作業能率が向上する。
写真3 農業機械の展示におけるディスクプラウ
2.苗準備
植付けには全茎苗、長茎苗、1芽苗が用いられる。全茎苗は古くから行われてきた苗切り方式であり、現在は半自動植付機の苗として使用されている。長茎苗は最も広く普及している方式である。蔗茎を60cm程度に切断し30本づつ束ねる。1芽苗は1芽づつ5cm程度に専用のカッターで切断する。
3.植付け
これまでは全茎苗を使うのが慣行で、1ha当たり12tの苗を使用し、植溝の底に全茎苗を置床し1m程度の長さに切断する。最近はより高精度、高効率を目標にした以下の3つの方法に代わってきている。
(1) 長茎苗による植付け
畦の9〜12mおきに長茎苗1束(30本)を配置する。植溝1m当たり12芽を配すると、1ha当たり7.75tの苗が必要になる。現在は最も一般的な方法となっている。
(2) 減耕起植付け
土壌保全に焦点をあてた減耕起植付け法が行われるようになった。15%程度のコスト低減にもつながるという。基本的には耕起作業を行わずに収穫から20日後に畦間に作溝作業を行い、上述の長茎苗と同じ方法で植付ける。前作の古株は植付けから5〜7日後にグリホサート系除草剤で枯死させる。
(3) 機械による半自動植付け
まだ一般的ではないが、機械による植付け作業も行われるようになった。11人の植付作業チームで、80PS級のトラクタと半自動プランタを用いる。このシステムでは、5種類の作業(作溝、施肥、雑草防除、苗切断、覆土)を同時にこなす(写真4)。2連式のプランタの能率は6ha/dayであり、1ha当り8tの苗を使用する。栽植密度は1mの植溝に10〜13芽で、95%の発芽率が得られる。
写真4 反自動プランタによる植付けの実演
4.施肥
施用量は土壌分析やサトウキビの栄養要求に基づいて予想収量、栽植密度、株出回数などを考慮しながら決定される。不整形な圃場、多礫圃場など機械が入りにくい圃場では、人力により施肥される。機械による作業は、130PS級のトラクタを用い、カルチベータにセットされた施肥機を使用する。
5.灌漑
(1) 移動式灌漑システム
スプリンクラを使った灌漑システム。1基のスプリンクラで、1秒間に12.5〜14.0lの灌漑水を半径45mのエリアに散水できる。ポンプユニットを動かさないでスプリンクラの場所を移動することができ、最も普及(71%)している方法であるが、大きな動力や労力を要するため最も高い運転コストとなっている。
(2) センターピボット(回転)式灌漑システム
長い直線状のパイプがゆっくり回転しながら灌漑するシステム(写真5)であり、3年前から導入が始まった。低い運転コストと散水効率により移動式システムなどに置き換わる方法として期待されている。
写真5 センターピボット式潅漑システム
6.雑草防除
主に4種類の雑草(Itch grass,Bermuda grass,Nut grass,Johnson grass)が防除対象であり、手作業、機械、除草剤による防除が行われている。
(1) 手作業による防除(抜き取り)
手で雑草を根とともに抜き取るか、もしくは地際部からナタで切断し圃場外に持ち出して種子が広がらないように焼却する。圃場外持ち出しの能率は3.0〜8.5hr/ha、抜き取りの能率は2.1〜7.7hr/haである。
(2) 機械による防除
機械による雑草防除は100PS級のトラクタで行われ、61cmのディスク4枚を備えた4基のディスクハローを使用する。草丈や土壌状態によるが、8〜11km/hrの作業速度で能率は0.6〜1.2ha/hr程度である。
(3) 除草剤散布作業
(1)10人1組の背負い式スプレーヤによる作業では、能率1〜2ha/day、散布量160−286l/ha。
(2)90PS級のトラクタを用い、80−120l/haを散布する。作業速度は6〜8km/hr、作業能率は0.25ha/hr。
(3)モーターサイクル(ヤマハ製)による防除作業では80l/haを散布する。作業速度11〜12km/hr、作業能率0.25ha/hr。
(4)飛行機を使った航空防除では、100〜120ha/hrを散布することができる。散布量は19−26l/haである。
7.病害虫防除
グアテマラで最も重大な防除対象となる病害虫は、Froghopper(アワフキムシ)、Stem Borers(センコウ虫)、野鼠そして主に3種類の土壌害虫である。
これらの防除には、従来の薬剤による防除に代わって菌類や天敵などを利用した生物学的防除が用いられるようになってきている。また野鼠の防除には猛禽類を利用した方法などが行われている。アワフキムシを防除するための菌類(Metarhizium)の散布には航空機が使用されることもある。また各製糖企業は、これらの天敵を研究・生産するラボを独自で保有している。
8.登熟促進
グアテマラでは、1988年以降サトウキビの登熟促進剤としてグリホサート系の除草剤などが広く使用されてきた。ラ・ユニオンプランテーションでは、1993年には全体の67%で使用されるようになった。登熟促進剤は飛行機やヘリコプターでGPSのサポートを受けながら散布される(写真6)。散布量は11〜27l/haである。
写真6 航空機による登熱促進剤の撒布
9.収穫
機械収穫は95−96製糖年期から始まっており、比較的新しい。さい断式収穫機(ハーベスタ)を使用し、枯葉を焼却した後収穫するバーン方式とそのままの状態で収穫するグリーン方式がある(表2)。パンタレオンプランテーションでは13台の収穫機(Cameco及びAustoft製)が動いている(写真7)。03−04製糖年期には機械収穫率が20%まで増大した。
写真7 ハーベスタによる収穫実演