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和菓子産業の現況

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最終更新日:2010年3月6日

 菓子産業は日本の加工食品全体の中で1割を超える規模を有し、平成17年度における生産金額は2兆3,385億円に及ぶ。
 生産金額はバブル崩壊後の消費低迷の影響により減少傾向にあり、ピーク時1993年と比較すると▲2,351億円(▲9.1%)である。
 和菓子の平成17年度の生産金額は3,930億円で菓子産業におけるシェアは16.8%で第1位であるが、生産のピーク時1993年と比較すると▲857億円(▲17.6%)と減少の幅は菓子産業全体と比べて大きい。
 一方、和菓子と対極にあると思われる洋菓子の平成17年度における生産金額は3,687億円で、シェアは15.7%で第2位、減少の幅は1993年と比較して▲561億円(▲14.1%)である。
 和菓子と洋菓子の生産金額の減少幅が菓子産業全体と比較して大きいのは、売り上げ減少の主たる要因が贈答品需要の低迷と法人需要の減少によるものであり、和洋菓子の売り上げに占める贈答品需要の割合が大きいことを示しているとみられる。
 和菓子の減少幅が一見して大きいように感じられるが以下の理由により今後の低迷にはつながらないと考えられる。
 (1)バブル経済崩壊後の加工食品全体の生産金額の減少は大きなものがあり、それと比較して和菓子は生産金額の減少は小さいと考えられる。
 (2)贈答品の需要減少に歯止めがかかっていることに加え、一般消費は1回当たりの購入金額は減少傾向にあるものの客数は増加傾向を示している。
 (3)平成17年度から18年度にかけて、売上増加の企業が増えており、生産金額がプラスに転じる兆候がみえること。
などである。
 今後の見通しと業界事情の変化はおおむね以下のように推移するとみられる。
 ア)菓子産業全体の市場は成熟しており、今後大きな伸びは期待できず、品種間競争や企業間競争は激化してくると考えられる。
 イ)和菓子業界の中では、品質重視と販売重視(低価格志向)、多店化と個店主義などの二極化が進む傾向が強まる一方、異業種の参入に対抗するために高品質化や個性化を目指す傾向が強まる。
 ウ)和菓子は、消費者の生活文化に密着した需要が根強いことに加え、主原料である豆類の健康性への理解度が深まってきており、摂取機会の増加傾向は維持され、自家消費は堅調に推移するものとみられる。



和菓子産業の構造

 和菓子業界の構造は極めて零細性が強く、製造直販の企業が圧倒的に多いことが目立つ。
 零細性という面からみると、実に95%の企業が、従事者数10人未満の企業であり、大型店の占める割合は少ない。
 零細性の強い製造直販という業態である理由は、和菓子の持つ商品特性など種々の理由が考えられるが、地域密着型の経営が多いことも大きな要因のひとつで、同時に、それが安定した業績を保っている理由のひとつとして見逃せない面を持っている。
 地域密着型の経営がなされているのは(製造直販型の経営がなされているのは)、販売商品に生ものが多く、流通菓子のような展開がしにくい点が挙げられ、その結果、それぞれの店がその規模に応じた地域固定客をつかんでいるためといえる。
 また、歴史のある企業(店)が多く、独自の売れ筋商品を育ててきたことや、それが各店の個性化にもつながって安定した客筋をつかんできたことも一因といえよう。
 零細性は強いが、経営基盤が安定していることも、ひとつの特長といえる。
 これは、ほとんどの企業(店)が、土地建物を自己所有し、自分の生活とも密着して和菓子店経営を行っていることによるもので、営業規模、内容の割には資産状態は良い店が圧倒的に多い。
 零細企業と大企業との売上構成比は統計上明らかではないが、およそ50%程度の売り上げを零細店で占めていると考えられる。



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和菓子の商品構成と需要期

 商品構成は、極めて多岐にわたっており、必ずしも各和菓子店が、その全てを取り扱っているとはいえない。
 商品を分類すると生菓子から干菓子まで幅広く、また同じような和菓子であっても、材料配合、仕込加工、成形加工、熱加工、仕上加工などの工程により種々の和菓子が生まれるわけで、その種類と数は、とても数えきれないほどに細分化されている。
 和菓子店の経営としては、この分類の中の相当数の品揃えをすることが必要になっているため、一部の専門店や、独自の考え方を有して自店製造の商品以外は販売しないという考えを貫いている少数の企業(店)を除くと、仕入品も販売している店が多い。
 仕入品は主に、米菓類、飴類、おこし類などで、仕入品の売上構成比は平均で、約30%と推測される。
 需要期は春と秋、年末年始などであるが、和菓子業界の大きな特長の一つとして、生活の中の年中行事との結びつきが強いことが挙げられる。
 日本の生活文化の中で伝えられてきた年中行事だけに、長い歴史を持つ和菓子との結びつきが特別に強く、これは非常にめぐまれた状況といえる。
 1月/年始、成人の日、2月/節分、3月/雛節供、彼岸、卒業、4月/入学、入社、転勤等、5月/端午節供、6月/和菓子の日、7月/中元、盆、8月/旧盆(帰省)、9月/十五夜、秋彼岸、10月/十三夜、11月/七五三、12月/歳暮、年末、など主だったものを挙げるだけでも、毎月必ず何らかの年中行事があり、これらの年中行事日は、全て和菓子需要期になっている。
 また、需要期とは異なるが、需要機会という意味で、“人生儀礼”との結びつきの強さも特筆される。
 人の一生には、生を受けてから死すまでに数々の人生儀礼というか行事があるが、それらとの結びつきも極めて強い。
 出産、宮参り、初節供、誕生祝、七五三、入学卒業、結婚祝、年祝に始まり、葬礼、法要から、病気見舞、上棟祝、竣工祝、その他ありとあらゆる祝事や仏事に和菓子を利用する機会が多く、業績安定の一因とみることができる。



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和菓子の商品特性

 商品特性は以下に記するように数多いが、大きな特長として、商品の寿命が極めて永いことがあげられる。
 現在売られている和菓子の多くが、江戸時代にすでに製造販売されていたことを考えると、昨今の商品寿命のサイクルが短い商品と比較して驚くほど長いといえよう。
 歴史の中で育まれてきたものとはいえ、これほどに永く和菓子が利用されているのは、特筆すべきことで、その時代、時代に和菓子が生きて受け継がれてきていることを示すもので、商品特性の第1番目に数えられるべきものであろう。
 その他の商品特性を挙げると、

(1) 季節感のある商品
 日本人の深層心理に少なからぬ影響を持つといわれる季節感を有している。
 季節感を有していることについては、2点考えられる。
 その一つは、意匠(デザイン)、形に季節感を感じさせるものがあるという点である。
 これについては後述するが、さらに一つは、どのような売筋商品であっても、その季節以外には販売しないということが挙げられる。
 桜餅はあくまでも春の和菓子であり、柏餅はどんなに求めたくても秋には売られていない。
 いわば、その季節季節によって売られるべき商品が異なってくるということで、都会から草木が少なくなり、冷凍技術の向上や収穫技術の向上により魚介類や野菜類が季節の変化なく年中店頭にならぶ現在では貴重な特長といえる。

(2) 手づくりの魅力と創造的意匠
 和菓子の意匠は、前述の季節感を表現することに加えて、芸術的な表現で具象する手づくりの魅力も特長的である。
 特に生菓子の中の“煉り切り”などの商品では、実に匠みに季節を取り入れた意匠となっている。
 これらの意匠は、伝承的部分もあるが、つくり手の創造性による面も大きく、これが商品としての和菓子の奥行きの深さとなっている。
 本来ならば手づくりの魅力というのは、とりたてて取り上げるほどのことではないかもしれないが、流通機構が整備され、大量生産、販売、消費の時代といえる今日では大きな特長ということができる。
 和菓子の主流の一つである生菓子は、最も量産しにくいものである。
 中には機械を導入して量産態勢を整えている企業(店)もあり、大量販売店などでパック詰めの和菓子を販売している場合もある。
 しかし、これらと手づくりの和菓子とは、明らかに一線を画しており、一般的な評価もそのように固まっている。

(3) 健康的な原材料
 和菓子は昭和50年から昭和58年頃にかけての、「甘いものを食べると太る」という糖害論に少なからず影響を受けた。
 現在この糖害論は姿を消しつつあり、むしろ、甘い物も健康にとって必要なものであるという理解も広がりつつあるが、これが和菓子需要を支える一因ともなっている。
 加えて、和菓子の主原料が、小豆、手亡、いんげん等の豆類、米、餅米、穀粉などの穀類、いも、ごま等とそのほとんどが植物性のものであることが、現在の健康志向にぴったりの食べ物として注目を集めている。
 日本型食生活が見直されている中で健康的な食品として、老若男女を問わず受け入れられていると考えて良い。
 その他の特長としては、新規参入と転廃業が少ないということが挙げられる。
 転廃業が少ないということは、そのまま安定した業界ということにつながるが、新規参入が少ないということをどのように考えるべきか。
 新規参入を図るほどの魅力に乏しい業界かというと昨今の異業種参入の現実からみて、そうではないことが明らかである。
 新規参入の困難は、製造技術の習得の難しさによるものと思われる。
 和菓子業界では、一般的に技術者が一人前と呼ばれるのに約十年の修業が必要といわれている。
 技術習得が困難なのは、原材料が多岐にわたっていること、その原材料の配合により多種多様の変化があること、製造する和菓子に驚くほどの種類があることなどによるものである。
 さらに、和菓子は色、形、など意匠の面で美と芸術性を求められることが多く、これらを充分に表現するためには相当の経験が必要であることも原因のひとつとなっていると思われる。
 さて、以上のような和菓子業界であるが、それを支えているのが農産物を中心とした原材料である。



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和菓子にとっての砂糖の重要性

 和菓子の原材料として小豆などの豆類、米や餅米、米粉、小麦粉は無くてはならぬものだが、砂糖のはたす役割も大きなものがある。
 砂糖というとその調味性でいうところの甘味ということが注目されるところであるが、いうまでもなく砂糖の持つ自然の甘味は和菓子にとってなくてはならぬ重要なものである。
 しかし、実はこの甘味以外の砂糖の特性が和菓子にとって大きな役割をはたしているのである。
 そのひとつは保水性である。水分の多いでんぷん質の和菓子は、でんぷんのα化状態が長く持続することが求められるが、そのためには砂糖の保水性は大きな役割を果たす。
 また、着色性という面でも大きな働きを示す。
 糖とアミノ酸の結合したものが加熱されるとメイラード反応(アミノカルボニル現象)を起こすが、焼菓子の焼成などにみられるように和菓子の味を生みだす基となっている。
 他に水溶性、造形性、防腐性などもそれぞれ和菓子に大きな力を与えており、これは他の甘味料での代替は不可能で、正に砂糖なくして和菓子は存在しないといっても過言ではないといえよう。



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砂糖の安定価格による供給

 和菓子業界は砂糖の価格については敏感である。
 砂糖価格はご高承のとおり平成6年から12年にかけて粗糖関税41.5円が段階的に撤廃され価格が引下げられた。
 その時期はちょうど消費低迷の最中であり和菓子業界もその恩恵に浴したわけであり大へんありがたいことであった。
 昨年来から、多くのさとうきびがエタノールの原料として用いられるという思惑などから原糖市場が高騰し、砂糖価格が値上りしたが、粗糖関税の撤廃以前と比較すれば、まだまだ低い水準にあって、その意味では砂糖は使い易い価格であるともいえよう。
 しかし、一方で消費低迷の中で和菓子業界は長く価格の値上げを控えてきたという事実がある。
 その間、小豆など主原料が高騰した時期もあり、人件費も徐々に高めに誘導されている。また、原油高から包装資材の価格上昇も顕著である。
 そうしたことから価格の維持も限界といえる状況にあり、昨今、価格値上げに踏み切った和菓子企業は多い。
 砂糖価格の上昇が直接の引金になったきらいはあるが、決してそれだけが原因ではなく総合的に判断してのことである。
 今回の砂糖の価格上昇は、砂糖メーカーの事情によるものでないことは周知のことであり、やむを得ないものではあるが、現在の消費動向から考えればやはり砂糖価格の上昇は大きな影響をもたらすものともいえる。
 そうしたことから和菓子業界としては、砂糖の安定価格による供給を切望しているところである。



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砂糖は太るの誤解を払拭する

  砂糖が健康の上で必要な食品であることは徐々に理解が広がっているが、まだまだ「砂糖を食べると太る」という誤解が存在することも事実である。
 全国和菓子協会では、平成14年から東京都、大阪市、名古屋市など全国13の主要都市で消費者を対象として「健康と和菓子」のシンポジウムを開催し、「小豆など主原料の機能性と健康性」および「砂糖を食べると太るは誤り」などの啓発に取り組み好評であり、今後も継続的に開催していく方針でいる。
 こうした啓発のための事業は、即効性は期待できないが、継続的に実施することにより、徐々に消費者の理解は深まり、大きな力となることが明らかである。
 砂糖業界関係者においても、こうした啓発活動を行なっていることは承知しているが、消費者の誤解を解くためには、一層の啓発が必要であり、さらなる啓発事業の推進を期待するところである。



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