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精製糖工場における省エネと二酸化炭素の削減について

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最終更新日:2010年3月6日

はじめに

 1973年に発生した第一次石油危機、1978年の第二次石油危機を境に世界各国は、エネルギー源を石油だけに依存する危険性とその脆弱性に気付くと同時に、石油に代わるエネルギーの開発や社会全体の省エネルギー化(省エネ化)のための具体的な方策を提示し、重要な課題として取り組まなければならないことに気づかされた。そして、1970、1980年代は、石油資源の枯渇、石油開発コストの高騰、石油資源ナショナリズムの先鋭化などを受け、代替エネルギーの開発やエネルギー使用の効率化などに関心が向けられていた時代であった。
 しかし、それが1990年代になると、化石燃料の燃焼により排出される二酸化炭素などの温室効果ガスによる地球温暖化が重要な課題となってきた。地球温暖化による自然環境への影響、生態系への影響、さらには人類生存への影響などが次々と明らかになるにつれて、排出された二酸化炭素が地球温暖化に最も影響を与えることに気づかされたため、世界各国は、協力して温室効果ガス、特に二酸化炭素の排出削減に精力を注いでいる。
 日本も世界の流れと軌を一にして、1970、1980年代は、石油代替エネルギーの開発やエネルギー使用の効率化などの政策を重要課題として遂行してきた。1990年代になると、新たな課題として温室効果ガスの排出削減に取り組む必要性があることが認識され、現在では幾つかの政策が実行に移されている。
 省エネと排出二酸化炭素の削減は、表裏一体の関係であり、省エネ、即、排出二酸化炭素の削減となる方程式が描かれるので、省エネへの努力は排出二酸化炭素の削減への努力ともなる。そこで、ここでは1970年代からの日本の産業界のエネルギー使用実態を追いながら、1990年代の地球温暖化への関心の高まり、それに並行して、精製糖工場における省エネ化への努力と二酸化炭素の削減への対応を見ることにする。



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1.日本におけるエネルギー使用の状況とその経緯

 エネルギー資源は「化石燃料」と「非化石燃料」とに分けられる。化石燃料は石炭、石油、天然ガス、LPガスであり、石油代替エネルギーとしての非化石燃料には、原子力、水力、地熱、新エネルギーなどがある。太陽光発電、風力発電、廃棄物発電などは、新エネルギーに属し、現在、実用化あるいは実用化に向けて研究・開発の途上にあるエネルギー資源である。一方、風力、水力、バイオマスなどのエネルギー資源は、次々に再生されるので、「再生可能エネルギー」とも呼ばれている。
 日本のエネルギー資源のほとんどは、海外からの輸入に頼り、国内で確保できるのは、水力、地熱、風力、天然ガスの約4%で、この数字は主要先進国(G7)の中で最低である。また、日本で自給できるエネルギーは、原子力を含めても約20%で、主要先進国の中でイタリアに次いで低い水準である。日本における供給総エネルギー、すなわち一次エネルギーは2004年度では5,509.1×1012キロカロリー(Kcal、原油換算59,587万KL)であったが、最終的に利用されるエネルギー(最終エネルギー)は、3,828.2×1012Kcal(同41,406万KL)で、残りの29%、1,641.5×1012Kcal(同17,238万KL)が石油、石炭、あるいは天然ガスなどから電気などに変えるエネルギー転換部門などで生ずる転換損失、輸送中の損失、自家消費などであった。部門別のエネルギー使用の実態を2004年度で見ると、電力を含めて最終エネルギーの44.9%が産業部門に、17.9%が民生業務部門に、次いで14.7%が運輸旅客部門に、13.1%が民生家庭部門に、残りが運輸貨物部門に使用されていた。
 エネルギー使用の最大部門である産業部門は、その約9割が製造業であった。製造業におけるエネルギー消費の年次的経緯を見ると1965〜1973年の8年間の平均伸び率は11.8%、次の1973〜1986年の13年間はマイナス1.8%となり、減少に転じたが、その後はほぼ横ばいないし、微増となっている。しかし、製造業の工業生産指数(IIP)当たりのエネルギー消費原単位は1973年度を100とすると、図1に示すように年を経るごとに減少を続け、1990年には55.6となったが、その後はエネルギー使用量と同様に、横ばいないし若干の増加に転じている。


資料:資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」、経済産業省「鉱工業指数年報」
(注)1.原単位は、製造業UP(付加価値ウェイト)1単位当たりの最終エネルギー消費量で、1973年度を100とした場合の指数である。
   2.鉱工業生産指数は売値の影響を受けるため、販売価格が低下している場合には、生産量の減少以上に小さくなる点に留意する必要がある。また、このグラフでは評価されていないが、製造業では廃熱回収等の省エネ努力も行われている。
   3.「総合エネルギー統計」は、1990年度以降の数値について算出方法が変更されている。
図1 製造業のエネルギー使用量の推移


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2.温室効果ガスとその影響について

(1)地球温暖化と温室効果ガスの影響
 現在、国際的に大きな関心の的となっている地球温暖化は、大気中に存在する二酸化炭素やメタン、あるいはフロンなどの温室効果ガス濃度の上昇に起因している。温室効果ガスは、太陽光のエネルギーにより大気中で生成した赤外線を地球外に放出させずに吸収して、再び放射して地表面の平均気温を生命活動の維持に適した温度に保つ働きをする。しかし、温室効果ガスの濃度が増加すると、この働きがさらに強まり、結果として温室効果により地球の平均気温の上昇をもたらす原因となる。これが地球温暖化のメカニズムとして知られている現象で、地球温暖化の速度にブレーキを掛けるのは、温室効果ガスである二酸化炭素、メタン、フロンなどの排出量の削減を何処まで実現できるかに懸かっている。温室効果ガスは、一度大気中に排出されると、回収するのが非常に困難であり、これを防ぐには、温室効果ガスの排出を抑制する以外に方法がない。
図2 温室効果ガス排出量の推移

 温室効果ガスの大気中への排出は、近年に始まったものではなく、古くは18世紀後半から始まった産業革命の時代にまで遡る。産業革命から現代までの大気中の温室効果ガス(二酸化炭素)の排出量の推移を図2に示したが、産業革命初期、1751年から1850年までの二酸化炭素排出量は、それほど多いものではなく、全て石炭の燃焼により排出され、11〜198百万トンで推移した。そして、35年後の1885年に排出量が十億トン台となった後は、急激な増加を示し、第一次世界大戦中は一時、減少した。大戦は1918年に終了するが、1923年に3,557百万トンとなった後は、世界経済恐慌により二酸化炭素排出量は微増となり、第二次世界大戦直前の1938年では、4,187百万トンであった。第二次世界大戦後、1946年頃から戦後復興の中で燃料の使用が増大し、排出量も1945年の4,253百万トンを底に増加に転じ、日本で「もはや戦後ではない」と言われた1956年には7,982百万トンとなり、1968年には、石油からの排出量が石炭の排出量を初めて上回った。そして、第一次石油危機の発生した1973年には、16,999百万トンとなり、その後も年率で平均1.97%、7.25〜−3.11%の範囲で増加している。
 気候変動に関する政府間パネル(IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change、地球温暖化の実態把握とその精度の高い予測、影響評価、対策の策定を行うことを目的として、世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)の協力の下に1988年に設立された国連組織)の2000年の報告書によると、二酸化炭素の排出がこのままの状態で続くと、2000年には大気中の濃度が約370ppm(0.037%)、2100年には、1,000ppm(0.1%)を超え、地球の平均の地上気温は1990年から2100年までの間に1.4〜5.8℃の上昇があると予測している。そして、この平均気温の上昇は、海水面の上昇をもたらす以外に、生態系、食糧生産、水資源などにも深刻な影響をもたらすと予測されている。例えば、生態系への影響は、水温の上昇によりおこる珊瑚礁の白化、ぶな林の分布域の減少のような植生の変動、草原の分布と種の変動、降雪量の減少と高標高域への降雪地域の移動、湿地の減少による湿地生物の棲息域の減少、沿岸域では、海水面の上昇による水没面積の増加、食糧生産への影響では、穀物生産量の減少、人への健康面の影響では、直接的には暑熱や熱波の増加による熱中症、間接的にはマラリヤ、デング熱、西ナイル熱ウイルスなどを媒介する動物などの生息地域の拡大、伝染病の増加など、地球上に生存する人や植物あるいは動物の存続が危機にさらされる事態に遭遇すると考えてもおかしくない状況の到来が予測されている。

(2)温室効果ガスと「京都議定書」
 地球温暖化の防止への努力が始まったのは、1992年に国連気候変動枠組条約(UNFCCC:United Nations Framework Convention on Climate Change)が採択されたのが最初である。同条約は1994年に発効したが、この条約の目標に合わせて、温暖化防止の具体的行動を示したのが、1997年に京都で開催されたUNFCCC第3回締約国会議で討議され、採択された「京都議定書」である。この「京都議定書」には、先進国の温室効果ガス排出量について、法的拘束力のある数値約束を各国ごとに設けることが盛り込まれている。それによると、先進国やポーランド、ロシア、チェコなどの市場経済移行国41カ国は、全体で第一約束期間の2008〜2012年の間に二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素(N2O)、ハイドロフルオカーボン(HFCs)、パーフルオカーボン(PFCs)、六フッ化硫黄(SF6)などの温室効果ガスを1990年の排出量(但し、HFCs、PFCs、SFは1995年を基準とする)より5%以上削減することで、合意がなされた。これを基に各国に削減量が割り当てられ、日本は6%、米国は7%、EUは全体で8%を減らすことになった。しかし、ただ単に各国が独自で温室効果ガスの排出量を削減するには限界があり、このため、「京都議定書」の中に、排出権取引、先進国同士で実施した削減プロジェクトで得た削減量を配分する対策、先進国が途上国で行った排出量プロジェクトや吸収プロジェクトで得た削減量や吸収量を自国の削減量に組み入れる仕組みなどの“京都メカニズム”と呼ばれる方法も盛り込まれた。また、2001年には、森林管理による排出二酸化炭素の吸収量の上限値が定められた。
 これにより、地球温暖化防止のための世界の国々の目標と義務が定められ、この目標に向かって種々の政策の実行が各国に果たされ、日本も目標を達成するために、多くの政策が実行に移されている。

(3)世界の温室効果ガスの排出状況
 地球温暖化防止のための基本的対策がこれまでに世界各国の合意の下に実行に移されて来ているが、実際にこれらの対策が温室効果ガスの排出削減に有効に作用しているか否かは現状を見ると、明らかでない。世界の燃料からの二酸化炭素の排出量を見ると図3に示すように、直近の2003年と1990年の比較では、1.14倍となっている。しかし、その内訳を見ると、先進国は、2002年と1990年では、0.98倍であったのが、その他の中進国や発展途上国では、エネルギー消費の急激な増加から、1.39倍も増加している。
 表1には、主要国の二酸化炭素排出量の推移を示したが、それによると、主要国の排出量は1990年よりも一時的に下回った年もあったが、2003年ではドイツと英国を除き、上回っている。このことは、第一約束期間の2008〜2012年の年平均温室効果ガス排出量を1990年の値以下にするという国際的な約束が、いかに困難な“約束”であるかを物語っている。
 主要国の2002年の全ての温室効果ガス排出量が1990年に比較して、どの程度、達成できたかを図4に示したが、それによると、世界最大の排出量国である米国はプラス13.1%、同様にカナダは20.1%、スペインは40.5%など、反対にそれを下回った国は、ドイツの18.8%、ロシアの38.5%、イギリスの14.5%であり、その中で「京都議定書」の削減約束の値を下回ったのは、主要国の中ではイギリスのみであった。
(注:米国は、「京都議定書」を批准していない。)


図3 世界の燃料からの排出二酸化炭素の推移


表1 主要国の燃料からの排出二酸化炭素の推移

図4 各国の約束値と排出状況

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3.日本における温暖化対策

(1)日本における温室効果ガスの排出状況
 「京都議定書」において、1990年の日本の温室効果ガスの総排出量は、1,261,442千トン(1990年を基準年とする二酸化炭素の1,144,130千トン、同メタンの33,382千トン、同N2Oの32,744千トン、1995年を基準年とするHFCsなどのフロン類51,186千トンの合計)とされ、これを基準として第一約束期間での5年間の割当量が求められた。その結果、第一約束期間の割当量は、二酸化炭素換算で、この基準の値の6%減の5,928,770千トンであり、2008〜2012年の間の5年間で、この値を達成することが目標となっている(それ故、単年度が第一約束期間の5,928,770千トンの1/5をオーバーしても、5年間全体でこの数値を達成できればよいことになる)。
 この目標を達成するために、国内における対策として、政府は2002年3月に「地球温暖化対策推進大綱」を決定し、“環境と経済の両立”、“ステップ・バイ・ステップのアプローチ”、“各界・各層が一体となった取り組みの推進”、“地球温暖化対策の国際的連携の確保”をベースとして、省エネ法の改正、エネルギー需要面の対策、原子力発電の推進、新エネルギーの導入促進、燃料転換などの政策を実行している。また、民間においても産業界の自主的な排出二酸化炭素の削減努力を社団法人日本経済団体連合会を中心とした「環境自主行動計画」“フォローアップ”という形で検証を行うことにより、地球温暖化をくい止めるための努力を行っている。
 具体的な削減目標として政府は、表2に示すように温室効果ガスのうち、約9割をしめるエネルギー利用に伴う二酸化炭素の排出量を1990年比で0.6%増とし、温室効果ガスの排出量を全体で0.5%削減し、森林などの二酸化炭素の吸収源の整備により3.9%の削減を行い、さらに残りの1.6%は排出権取引などの“京都メカニズム”を利用して達成することを目指している。ところが実際は、2004年の温室効果ガスの排出量を見ると1,285.8百万トンであり、1990年度に比較して11.97%増となっており、基準年と比較しても7.44%増である。温室効果ガスの中で最大の排出量を占める二酸化炭素の総排出量に占める割合は、1995年では91.4%であったが、その後、徐々に上昇し、94.9%となっている。その上、排出総量も徐々に上昇し、1990年度と2004年度では、12.36%増となっている。
 二酸化炭素の排出量の内訳を見ると、燃料からの二酸化炭素排出量は、総排出量の93.04%であり、工業プロセスからの比率が4.14%となっている。


表2 温室効果ガスの抑制・吸収量の目標
※1:2002年度実績(+13.6%)から経済成長等による増、現行対策の継続による削減を見込んだ2010年見込み
※2:削減目標(▲6%)と国内対策(排出削減、吸収源対策)の差分

(2)排出二酸化炭素と産業部門との関係
 燃料の消費量と同様に、化石燃料の燃焼による二酸化炭素の排出量は、1990年には、温室効果ガスの92.57%を占め、その量は1,059,076千トンで、その内、エネルギー転換・産業部門が706,741千トンと全量の66.73%であったが、徐々に、民生用である家庭・業務その他部門がその割合を増し、2004年ではエネルギー転換・産業部門が770,297千トンで、全体(1,196,376千トン)の64.39%となっている。そして、エネルギー転換・産業部門は、この部門だけの増加率を見ると8.99%増と、家庭・業務その他部門(21.64%増)のそれよりも12.65%下回っている。しかし、排出量の変化を各部門での変化と年次別の変化を総合して見ると、図5に示したように、1990年の総排出量を100とすると、エネルギー転換・産業部門の2004年は1990年の7.65%増の72.73%であり、家庭・業務その他部門が2.73%増で、16.11%であった。このことから、エネルギー転換・産業部門の二酸化炭素の排出量への寄与は年を経るごとに高くなってきているのが現状である。


図5 燃料からの二酸化炭素排出量の部門別・年次別推移

 一方、「環境自主行動計画」に参加しているエネルギー転換・産業部門の35業種業界における二酸化炭素排出量の状況は、2005年度について見ると、1990年度比でマイナス0.6%となっている。このことは、「環境自主行動計画」の排出量に関しての要因分析で、景気回復に伴う生産活動の活発化および原子力発電所の停止による二酸化炭素排出の増加よりも、参加35業界の二酸化炭素削減への努力が勝っていたことによるとしている。すなわち、第一の生産活動の変化がプラス10.1%、第二の二酸化炭素排出係数の変化がプラス0.2%であったのに対し、生産活動当たり排出量の変化がマイナス10.9%であったことにより、1990年度比マイナス0.6%を実現できたのであるとしている。しかし、現状の二酸化炭素の排出量の状況から見ると、産業界としては今後、政府や環境団体から京都議定書の第一約束期間の割当量の達成のために、製造業を中心として、二酸化炭素排出量のさらなる削減に努力するよう求められることが予測される。



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4.精製糖工場における省エネ化と排出二酸化炭素

(1)省エネ化について
 1979年当時の精製糖工場におけるエネルギーの使用状況は、図6に示すように原単位エネルギー使用量(溶糖量当たりのエネルギー使用量)で見ると、化石燃料は131.1リットル/トン-原料糖(L/t-R)であり、電力は73.7キロワット時/トン-原料糖(KWh/t-R)で、総エネルギー使用量は、原油換算で148.5L/t-Rであった。そして、精製糖工場におけるエネルギーの使用形態は、買電と自家発電により供給される電力と蒸気であり、買電を除き、いずれも化石燃料をボイラーで燃焼させて得られる蒸気を源として、濃縮や煎糖に利用され、電力は遠心機やポンプなどの動力源に多く用いられている。エネルギーの精製糖工場での部門別の使用実態を見ると、表3に示すように、1979〜1984年当時の化石燃料で得られた蒸気は、濃縮・煎糖部門で全体の65〜68%を占め、次に多いのは、15〜16%の溶糖・清浄部門であった。また、1979〜1984年当時の原単位使用量を見ると、濃縮・煎糖部門は72.5〜90.1L/t-R、で、溶糖・清浄部門は15.8〜21.7L/t-Rであった。一方、1979〜1984年当時の電力使用量は清浄部門が23%、分みつ工程が18〜20%、原単位使用量では清浄部門が24〜25KWh/t-R、分みつ工程が18.3〜21.3KWh/t-Rであった。


図6 年次別エネルキー使用量(原単位)の推移


表3 年次別の部門別エネルギー使用比率の実態

 ところが、第一次石油危機、第二次石油危機に遭遇し、比較的原単位エネルギー使用量の多い精製糖工場では、燃料価格の高騰から製造コストが上昇し、製品価格への転嫁が十分にできない状態に置かれていたため、省エネ技術の開発が重要な課題となった。前述したように、エネルギー消費を減少させるには、濃縮・煎糖部門での蒸気の使用量を減らすこと、分みつ工程での電力使用の平準化と効率化を行うことが必要であった。このため、精糖業界をあげて省エネ化に対応することになり、1979年12月の精糖工業会技術委員会で、省エネ型結晶缶の開発と結晶缶の廃熱回収に取り組むことが決定された。翌1980年9月には、財団法人食品産業センターが補助金を交付することを決めたことに伴い、かくはん機付き結晶缶の開発と結晶缶の廃熱回収システムの開発がスタートした。一方、各企業の技術者たちは競って、省エネ化の技術開発や省エネ型のための設備の導入、設備の更新や改造などを行い、図6のように年を追う毎にエネルギーの使用量は、減少した。
 精製糖工場がこれまでに導入や更新した主な省エネ化設備について表4に示したが、1985年までにほとんどの工場では、かくはん機付き結晶缶の導入、自己蒸発型濃縮缶の設置、結晶缶の自動化などを行い、このため、エネルギー使用量は1985年には1979年に比較して、40.28%減の59.72%まで減少してきている。その後、そのペースは鈍ってはいるが、引き続いて自己蒸発型濃縮缶の設置、さらにはボイラー用のエコノマイザーの設置、分離機などに使用されるモーターのインバーター化などが行われ、エネルギー使用量は徐々に減少してきている。その結果、直近の2005年には、総エネルギー使用量は109.8L/t-Rであり、燃料の使用量は100.6L/t-R、電力は59.3KWh/t-Rであった。1979年とこの値を比較すると、総エネルギー使用量では26.06%減、燃料では26.62%減、電力では19.54%減となり、20年間で総エネルギー使用量が3/4となったことになる。
 精製糖工場は、この20年間の間に考えられるありとあらゆる省エネ化技術のほとんどを実行に移したため、これ以上の省エネ化は、現在の精糖工程を基盤とする限り、非常に困難な状況にある。それ故、精製糖工場におけるさらなるエネルギー消費の削減には、精糖技術のブレークスルーが必要であろう。


表4 主な省エネ設備の更新及び導入の経緯

(2)精製糖工場における排出二酸化炭素の現状
 最初、省エネ化技術の開発は、即、二酸化炭素排出量の削減につながると記したように、20年間の省エネ化の努力は、精製糖工場における二酸化炭素排出量の削減に大きな貢献をすることになった。精製糖業界は、1997年から始まった日本経団連の「環境自主行動計画」に初年度から参加し、毎年、精製糖工場における二酸化炭素排出量をモニターし、2008年度から始まる第一約束期間の割当量を達成できるように、努めている。それによると、精製糖工場で排出する二酸化炭素は、図7に示したように、2005年で418千トンで、1990年度比で72.08%であり、精製糖工場の排出総量は、現在のところ、第一約束期間の割当量を達成できる見込みである。しかし、問題は、この二酸化炭素総排出量の減少が溶糖量の減少による影響であると考えられ、再び溶糖量が増加した場合、再び排出量の増加が推測されることである。


図7 精製糖工場からの二酸化炭素の排出量の推移

 このため、精製糖業界としては、省エネ化装置や設備あるいは新たな精糖法の技術開発が必要になってくる。そこで、今までに行われた精製糖工場における技術の導入・改善の効果を検証することが重要であるが、精製糖業界がエネルギー使用状況調査を始めた1979年以来、溶糖量が年々減少しおり、見かけ上、その影響でエネルギー使用量も減少している状況にあるために、困難が付きまとう。しかし、省エネ化技術の導入・改善の効果を検証することは、今後の省エネ化技術の技術の開発に有意義なことなので、あえて、原単位当たりの二酸化炭素排出量を求め、この原単位二酸化炭素排出量の減少から、精製糖工場での省エネ化技術の導入・改善の効果を検証することにした。それによると、図8のようになる。図示したように1979年度は、第一次石油危機が勃発した時で、省エネ化技術の導入・改善に向かう転換点の年である。この年の原単位二酸化炭素排出量を見ると0.391トン/トン-原料糖(t/t-R)で、工場の省エネ化対策はほとんど行われておらず、工場内は排熱のために、蒸し風呂のような状態であった。ところがこの危機による燃料価格の高騰のため、各社とも精製糖工場の省エネ化を進めざるを得なくなり、1985年までにほとんどの工場で何らかの省エネ化設備の導入や省エネ化のための精製糖工程の改善が行われた。その結果、1986年度には、エネルギー消費量が劇的に減少し、原単位二酸化炭素排出量が1979年度に比べ28.1%減の0.281t/t-Rとなった。しかし、省エネ化設備の導入や省エネ化のための精製糖工程の改善が一段落すると、原単位二酸化炭素排出量は、ほとんど変わらなくなった。


図8 精製糖工場における二酸化炭素排出量(原単位)の推移

 一方、省エネ化と並んで、精製糖工場が取り組んだのは、大気汚染対策の一環として、C、B重油からA重油に、重油から都市ガス(天然ガス)への燃料転換であった。特に、重油から都市ガスへの転換が顕著で、図9のように1990年頃までは化石燃料の中で重油が65%程度、都市ガスが30%程度であったのが、それが1992年度には、重油が59%程度、都市ガスが約37%と、都市ガスの割合が徐々に増加した。そして、この傾向はその後も続くが、この燃料転換は、二酸化炭素排出量の削減には効果的であった。
図9 燃料種の変換の年次的推移

 燃料転換と二酸化炭素排出量の低下との関係は、燃料種により発熱量当たりの二酸化炭素の排出量が異なることで、燃料種を変えることで二酸化炭素の排出量を減らすことができるためである。発熱量当たりの都市ガスの二酸化炭素排出量は2.141トン/107キロカロリー(t/107kcal)であるが、A重油は2.901t/107kcal、B重油は2.951t/107kcal、C重油は2.999t/107kcalであるので、同じ発熱量では、重油よりも都市ガスの方が二酸化炭素排出量の削減に効果がある。このため、重油から都市ガスへの燃料転換が顕著になる1992年度以降は、1992年度の二酸化炭素排出量0.277t/t-Rが1998年度の0.267t/t-Rと徐々に低下することになる。しかし、一時的に、2000〜2001年度にかけて二酸化炭素排出量が上昇するが、この原因は、精製糖工場の集約化による合理化の一時的な影響と事故やトラブルによる原子力発電所の停止による影響である。2000年の二酸化炭素排出量は0.276t/t-Rで、電力からは0.024t/t-Rであるが、一方、原子力発電所の停止が少なく、発電にかかる二酸化炭素の排出量が少なかった1998年度は二酸化炭素の排出量が0.264t/t-Rで、電力からは0.023t/t-Rであった。従って、総エネルギー使用量に対する電力使用量の割合が1998年度は9.412%、2000年度は9.182%で、電力使用量が1998年度の方が0.23%ほど上回っているのにもかわらず、二酸化炭素の総排出量に対する電力からの排出量の割合は1998年度が8.712%であったのに対して、2000年度は8.989%と2000年度が0.277%ほど上回っている。このことは、2000年度が原子力発電所の停止期間の長期化や停止箇所が増えたことにより、火力発電所の稼働率が上がったため、単位電力当たりの二酸化炭素の排出量が多かったことを意味し、これにより、精製糖工場の二酸化炭素の排出量を一時的に、押しあげたことが明らかとなった。



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おわりに

 精製糖工場からの排出二酸化炭素は、年ごとに減少しているが、この原因は溶糖量の減少による効果が非常に大きい。次いで影響を与えたのが、1985年までは省エネ化設備の導入や改善などの効果によるものであり、それ後は重油から天然ガスへの燃料種の転換であった。しかし、2004年度には、精製糖工場で使用される燃料の54.2%が天然ガスであり、これ以上の天然ガスへの燃料転換は実質上、困難である。このため、今までのように二酸化炭素排出量を減らすことが不可能になることが予想される。従って、精製糖工場は、二酸化炭素排出量の削減のために、さらなる省エネ化技術の開発と省エネ精糖システムの技術開発が必要となってきている。


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参考資料

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(15)田中達也他:攪拌機付結晶缶における省エネルギー煎糖法の研究,精糖技術研究会誌,Vol.32(1981)
(16)滝元正恒:真空式排熱回収装置 その特性と実績,精糖技術研究会誌, Vol. 32(1981)
(17)精糖工業会技術研究所:エネルギー関係調査(1979〜2006)



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