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伊江島における砂糖・バイオマスエタノール複合生産実証試験
最終更新日:2010年3月6日
[2007年3月]
【今月の視点】
アサヒビール(株)技術開発研究所 バイオマスグループ 副主任研究員 |
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小原 聡 |
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター
バイオマス・資源作物開発チーム 研究員 |
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寺島 義文 |
はじめに
石油代替となる再生可能エネルギーとして、バイオマスエタノールが注目されている。エタノールはガソリンに混合できる液体燃料であるため、ブラジル、アメリカなど多くの国々で既に自動車燃料用途で利用されている。日本でも2003年に「揮発油等の品質の確保等に関する法律(品確法)」が改正され、ガソリンへの3%エタノール混合が法律上認可された。これによって、エタノール燃料製造に向けた取り組みが日本各地で行なわれている。今回は、筆者らが沖縄県伊江島で現在行なっている、新しいサトウキビ・プロセスによるバイオマスエタノール生産実証試験について紹介する。
エタノール原料としてのさとうきび
さとうきびは、バイオマス生産性が高く、蓄積した糖分は容易にエタノール変換でき、搾りかすも製造エネルギー源やセルロース資源として活用できることから、最も製造コスト(原料費を除く)が安い原料と言える。しかしながら、日本では、さとうきびをエタノール原料とした際に、砂糖生産との食糧競合、原料コスト高という問題が起こる。そのため、さとうきびから高付加価値商品である砂糖を生産した後に残る副産物(廃糖蜜、バガス)を原料としたエタノール生産が取り組まれてきた。
製糖副産物からのエタノール生産における問題点
歴史的に、砂糖生産を目的に品種改良された“副産物が出にくい”さとうきびを原料とし、高度に砂糖生産を優先した“副産物が出にくい”製糖プロセスが開発されてきたため、必然的に現在の廃糖蜜・バガス副生量は少ない。このような状況では、廃糖蜜やバガスからのエタノール生産技術がいかに向上しても大量のエタノール生産は望めず、原料が安価でもスケール的に生産コストの低減に限界がある。
廃糖蜜は、砂糖の結晶回収工程を3回繰り返した後の残渣であるため、最終的に残る糖分が非常に少なく、多くのエタノール生産量を望むことはできない。また、少ない残糖分に対して多くの塩類(ミネラル分)が濃縮されることによって、酵母によるエタノール発酵が阻害される。度重なる結晶化により生じたカラメル状の反応生成物が原因で着色排水の処理も問題となる。余剰バガスが少ないため、バイオマスエタノール製造に結局多くの石油を使うという矛盾も生じる。
新しい生産プロセスへのチャレンジ〜沖縄県伊江島での実証試験〜
アサヒビールと九州沖縄農業研究センターは2002年より共同研究を行ない、上記のような問題点を克服する生産プロセスの開発を行なってきた。従来のようなエタノール生産の効率化のみでは限界があると考え、2つの製品(砂糖・エタノール)を効率的に複合生産するための原料、製造方法を考えた。
[原料]
九州沖縄農業研究センターが開発した高バイオマス量サトウキビ系統群の中から、複合生産が可能な糖収量、繊維収量を持つ系統を選抜して原料として利用する。糖・繊維収量の増加により、砂糖減産を伴わないエタノール増産、バガス燃焼エネルギーのみで石油を使わないエタノール生産が理論上可能になる。
[製造プロセス]
既存の製糖工場に併設する形でエタノール製造工程を新設し、砂糖の結晶化工程を1回のみとし、残った良質な糖蜜からエタノールを製造する。最も収率の高い1回結晶化で終わらせることによって、製糖工程におけるエネルギー効率の向上が図れるだけでなく、残糖量が多く、塩濃縮・発酵阻害物質の少ない、良質な糖蜜がエタノール原料として副生することで、飛躍的なエタノール収率向上が期待できる。
また、砂糖製造工程の圧搾機、ボイラー等をエタノール製造工程でも利用できることから新たな設備投資が削減でき、製糖工程で発生するバガス燃焼エネルギー(蒸気・電気)を共有することにより石油を使用せず、低コストなエタノール生産が可能になる。
[実証試験]
2006年1月より沖縄県伊江島において、パイロットプラント規模での実証試験を行なっている。実証試験は沖縄県、伊江村、JAおきなわ伊江支店など地域の支援、協力のもと、九州沖縄農業研究センターとアサヒビールが主体となって、農林水産省、経済産業省、環境省、内閣府の4府省連携プロジェクトとして実施している。試験内容は、高バイオマス量サトウキビの現地栽培、パイロットプラントでの砂糖・エタノール複合生産、E3ガソリン製造、公用車でのE3ガソリン利用、副産物の総合利用など幅広く行なっている。
実証試験の目的は、伊江島での事業化ではなく、一連のデータ収集やプロセスの問題点抽出などの調査・研究にある。伊江島の小規模な実験施設でエタノール事業を経済的に成立させることは想定していない。一般的に国内でのエタノール事業はコスト的に成立させるのが難しいと言われているが、筆者らのプロセスはさとうきび収量増加と高付加価値商品である砂糖の併産により、原料価格の大幅な下落や食糧自給率低下を伴うことなく安価なエタノール製造が可能であると考えている。このプロセスが成立すれば、畑から生産される原料が増加し、現状の砂糖生産に加えて多様な製品の利益が産み出されるため、地域の総収入は確実に増える。最終的に、農家、製糖工場、エタノール事業がWin−Winの関係を築けると考えている。
一方で解決しなければならない問題も多い。政策的には現状の農業制度といかに調和していくかという点が課題である。技術的には多くの原料処理に伴う圧搾コスト増加、高繊維原料の製糖ロスに対する懸念等が指摘されている。実証試験を通して、本当に問題か否かを見極め、問題であれば技術的に解決を図っていく予定である。
おわりに
現在、伊江島で実証試験中の生産プロセスは、食糧とエネルギーの同時生産という新しい可能性を示唆するものであり、食糧自給に余裕の無い日本でも実施可能なプロセスである。南西諸島におけるさとうきび生産、製糖産業の安定化のために、限られた土地から多くの資源を作り出し、効率的な資源分配によって多様な新規産業を創出する、持続的に発展可能なモデル作りにチャレンジしていきたい。
今後は、経済性や栽培地域の特性(地域の産業形態、土壌、気象等)を考慮しながら、原料開発と加工技術開発の両面からより効率的なプロセス開発を進める予定である。伊江島を「バイオマスアイランド」のモデルとして、世界に発信できる技術にしていきたい。