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菓子製造における砂糖の優れた特性

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

今月の視点
[2007年6月]

【今月の視点】

 
明治製菓株式会社 大阪工場製造部 技術グループ長麻原 英二

 本稿は、当機構大阪事務所の主催により平成19年1月24日に開催した砂糖に関する地域情報交換会において、明治製菓株式会社大阪工場製造部技術グループ長の麻原英二氏が行った講演の内容を、当機構で取りまとめたものである。

 砂糖の持つ他の甘味料より優位な性質など、菓子製造における砂糖の優れた特性と使用実態を、菓子製造部門の現場の技術者というユーザーの視点から紹介する。


1.菓子の歴史(表1)

  世界では、ローマ時代に菓子製造という職業が初めて成立した。その後、十字軍によって砂糖がヨーロッパにもたらされてからは、砂糖が菓子作りにおいて重要な位置を占めるようになり、ルネッサンス時代に菓子製造が広がった。さらに、ルイ王朝時代のフランスではパイなどの現代の菓子に近いものが作られるようになり、その後、菓子は大量生産の時代に入っていった。

 一方、日本では、縄文・弥生時代の「焼き米」、「干しいい」など、主食が発展したようなものが菓子の原型と考えられており、でん粉から作った水あめなどを利用した唐菓子を経て、カステラ、ボーロなどの輸入菓子が南蛮貿易の形で入ってくると同時に、砂糖が使用されるようになった。その後、京菓子などの和菓子が発展し、やがて、チョコレートやキャンディーなどを大量生産する技術が日本にも持ち込まれた。

表1 菓子の歴史

2.菓子に対する意識

  図1にあるように、菓子を製造するに当たって当社で実施した「菓子に対する意識調査」においては、“疲れを取りたい時”、“癒されたい時”、“元気を出したい時”、“楽しみたい時”、“エネルギー補給として”で、チョコレートが高得点を取っている。これは、砂糖の甘さがチョコレートのカカオマスが持っている苦味を調和するためだと考えられる。砂糖に関して調査をしても恐らく同じような結果になるのではないかと思われる。
  また、“食事までのつなぎとして”では、ビスケット・クッキー類が突出しているが、これは、おなかがすいたら、ガムやチョコレートではなくて、おなかに入って長持ちするビスケットなどが好まれると推察される。

 新製品を作るに当たっては、どのような目的で食べられるのか、すなわち、おなかを満たしたいのか、それともリラックスしたいのかということも考慮される。このほか、いままでと違った風味、食感、口溶けやアレルギーなどの要素についても考慮される。

図1 菓子に対する意識調査

3.砂糖の持つ様々な特性

  砂糖は菓子作りに優れた様々な特性を持つことから、他の甘味料と比較して多くの種類の菓子に使われている。

 砂糖の持つ主な特性を整理すると次のとおりである。

(1) 吸湿性が低い
  菓子を作る上で、グラニュー糖のように「吸湿しにくい原料」というのは非常に使いやすく、日が経つにつれて水を吸ってしまうような原料は、製造工程上でも非常に使いにくい原料である。

(2) 温度が変化しても甘味度が変わらない
  砂糖は甘さが温度によってさほど変わらない性質がある。図2に示したように砂糖は温度が変化しても甘味度は一定であるが、果糖(フラクトース)は、温度が低いほど甘味度が増している。このように外気温によって実際に味が変化する原料はチョコレートには使われない。

図2 各種糖類の甘味度と温度の関係

(3) 褐変が起こりにくい
  菓子を作っている途中で、褐変やメイラード反応などにより色が変わりすぎるのは問題があるが、砂糖は色の変化が起こりにくい性質を有している。

(4) 親水性により食品の保存性が向上
  砂糖には食品の水分を抱え込む親水性と呼ばれる性質がある。砂糖の濃度が高いほどこの親水性により食品の水分活性が低下し、「自由に行き来する水」が少なくなることによって、防腐効果が高くなる。

 図3は、「自由に行き来する水」が少ないというグラフである。もし、砂糖が水に全然溶けなければ、砂糖を使用しても、全部水が蒸発してしまうが、砂糖は、周りで水分を保持する性質があるので、砂糖を使用することにより食感が維持される。

図3 砂糖の水分活性

 逆に、「自由に行き来する水」が多いと、微生物の繁殖などにより保存性が悪くなるという問題が起こる。パンなどに糖類を入れれば入れるほど「自由に行き来する水」が減るので、保存期間が延びる。しかし、でん粉がアルファ化して、そこにまた「水が自由に行き来」をすると、老化を早めることになる。


4.それぞれの菓子における砂糖の特性

(1) チョコレート
①製法
  ソリッドと呼ばれる板チョコレートの製法は次のとおりである。

 はじめにカカオ豆を洗浄してからローストして香り出しをし、さらに皮を取り除いて砕き、すり潰し、カカオマスという別名ビターと呼ばれるものに変えていく。この後、カカオマスに、砂糖、ココアバター、粉乳を入れる。また、カカオマスと砂糖の口当たりが滑らかになるまで、すり潰しをかける。

 カカオマスには酸味や渋みなども含まれているので、それを何時間も練り上げながら味を調えていく、コンチングという作業がある。その後、融けたチョコレートの形状を整えて、冷やして固めて包装する。

②砂糖を使用する利点
  チョコレートの製造において、砂糖がないと油の固まりになってしまう。また、常温でしっかりとした形状を保つには、砂糖も入っていたほうがいいと考えられる。

 また、前述のように、温度が下がるにつれ甘さが増すような果糖は、チョコレート製造には向かない。

 さらに、菓子製造会社では、砂糖を原料とすることを前提に非常に大規模な設備を有しているため、砂糖以外の甘味料に変更するのは困難である。コンチング作業も数トンというかなり大きな単位で行っており、この工程は、砂糖をチョコレート製造に使用することを前提にできているので、砂糖以外の甘味料を使った場合、ポンプが固まったりすることなどにより生産が滞ってしまう。

 また、チョコレートに砂糖をコーティングした糖衣掛けのチョコレートがあるが、これは、チョコレートに砂糖を溶かした糖液を掛け、それを乾燥させて形を整えるというものである。グラニュー糖を長時間この環境下に置いておいて、湿度をどんどん上げていっても、80%ぐらいでもまだ吸湿せず、90%近くなってようやく吸湿する(図4)。糖衣掛けのチョコレートは、このような砂糖の吸湿しにくい性質を利用しているのである。

図4 グラニュ糖の吸湿と相対湿度の関係

 以上のことから、チョコレートの製造において砂糖は不可欠な原料ということが言える。

(2) ビスケットとクッキー
①製法
  ビスケットは、小麦粉、砂糖、ショートニング、乳製品などを一気に混ぜ合わせ、それを成型機にかけた後、オーブンで焼き、包装して製造される。

②砂糖を使用する利点
  ビスケットの場合は、中は白くて外側がキツネ色にこんがり焼けているほうが見た目もよく、実際にその方がおいしい。砂糖ではなく果糖などを使用した場合、加熱されることによって中も最初に色がついてしまったり、でん粉や小麦粉が焼き上がる前に先に色がついてしまう恐れがある。

 また、小麦粉自体はもともと粉っぽいものであるが、油や砂糖などで口溶けを滑らかにすることができる。

 一方、クッキーの場合は、日本には外国にはない独自の基準がある。日本でクッキーと呼ぶことができるのは、糖分と油脂の合計が40%以上という基準を満たしたものである。もともとは、戦後、砂糖と油が貴重であったためこのような基準ができたと思われるが、砂糖が入っているほうがおいしく、高級感があることも確かである。

 クッキーもビスケットも砂糖を使うことにより、風味や焼き色をコントロールしやすいということで、砂糖離れが起こりにくい商品と言える。

(3) キャンディー
①製法
  キャンディーは、原料を型に流し込んだ後、冷やし、固めて包装する。

 通常のキャンディーとは異なるグミキャンディーにも砂糖が多く使われる。グミキャンディーは、グミベースというゼラチンなどの多糖類を煮詰めて、濃縮果汁を混ぜ合わせて作る。グミキャンディーもキャンディーと作り方は同じであるが、ゼラチンが入っているか入っていないかの違いである。

②砂糖を使用する利点
  最近は、甘さやカロリーは不要で、のどに効けばいいというキャンディーも出てきている。また、糖アルコールを使用すると小腸まで分解されずに到達するため、おなかが緩くなることがある。子ども向けのキャンディーでは、そういったことを考慮して主に砂糖を使って作る。ただし、キャンディー自体は、単に加熱して煮詰めた後に冷やして固まればいいので、砂糖以外の甘味料を使うことができる。

 一方、グミキャンディーは食感を楽しむという、キャンディーとは別の食べ方を楽しむものである。砂糖以外に水あめなども使っているが、硬さや食感のコントロールが重要で、これらは水分との関係が強いので、水分を保持する性質の強い砂糖が使われている。

(4) ガム
  現在、ガムは、ミント系のキシリトールを使った商品が多く、リラックス、ストレス解消、眠気防止、また、消臭などを目的としたものが多くなっている。ただし、キシリトールは、おなかが緩くなるということもあるので、キシリトールではなく砂糖を使った子ども向けのガムもある。

 キシリトールは、ヨーロッパでは歴史が長いが、日本では1997年に食品添加物として認可されたばかりで、まだ歴史が短い。歯のう蝕予防効果があるとうたわれているが、溶けるときに熱を奪い、口溶け時の強い冷感が味の邪魔をしたり、また、おなかが緩くなるという逆効果もあるので、砂糖との使い分けをしている。


砂糖のその他の利点

  ほかに菓子に砂糖を主原料として使う大きな理由として、(1)天然の甘味料である安心感、(2)アレルギーの心配がない、などがあげられる。

 現在、生産・流通されている菓子は約200万トンで、砂糖は60万トンほど使われているので、平均すると30%ぐらい砂糖が入っていることになる。この量は原材料としては比較的多いほうである。また、直接原料として使われるほかに、練乳に含まれていたり、カラメル色素として使ったり、シーズニングの中に入っていたりなど、間接的に使われることもある。


今後の菓子を取り巻く環境

  砂糖は菓子の原料として大量に使用されており、砂糖がないから欠品というわけにはいかないので、安定して調達ができること、さらには、菓子の価格水準(どんなにおいしく作れたとしても1個2千円もの価格を設定できない)を考えると、安価に調達できることが必要な条件となる。

 現在の菓子製造を取り巻く環境をみると、砂糖のみならず、カカオ豆、ナッツのような原料から、包装材料まで含めて、全般的に価格が上昇している。原油高の影響や、オーストラリアの干ばつの影響による小麦や粉乳の高騰もある。また、中国における消費量の増加などによる需給バランスの変化といった要因によって原料調達状況が変動している。実際、カカオ、砂糖、粉乳、小麦などの菓子の主原料の供給不足や価格上昇という状況に常に直面している。

 また、環境への配慮の中、燃料用バイオエタノールの生産が振興されている。このような傾向が続けば、より多くのさとうきびがエタノール生産に仕向けられると考えられるため、本当に砂糖がこの先安く安定的に手に入るのかということにも大変関心がある。砂糖の需給については、今後とも注目していきたいと思う。


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