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鹿児島県(与論島)における機械化の現状

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2007年6月]

【今月の視点〜地域の実情に適応した機械化の推進〜】
 
(前)鹿児島大学農学部 教授宮部 芳照

Ⅰ.はじめに

  さとうきび栽培は、植え付けから中間管理、収穫調製までの各種農作業に対し種々の農業機械が急速に導入され、それ相応の省力化が進められてきた。しかしながら、各地域に導入された機械が、はたしてその地域の特性、実情に適応した機械として導入されているかどうか、また、地域の機械化システムを構築するうえで十分機能しているかどうか、実態を把握する必要がある。このため、本調査は機械導入の前提となる、地域の栽培面積、ほ場区画・形状、土壌条件、基盤整備、経営形態、労働力構成等に対する適正な機械の導入や機械の開発・改良、また、各機械の組み合わせ体系はいかにあるべきか等について検討し、各島の地域特性に合った効率的な機械化一貫体系を確立することを目的として実施した。昨年度(沖永良部島、種子島)に引き続き、本年度は与論島(鹿児島県大島郡与論町)において調査を実施した。調査方法は、現地調査を行う前に、「さとうきび栽培の機械化に関するアンケート調査票」を大島地区糖業振興会事務局、町役場を通じて、あらかじめ各地区14個所に事前配布し、その調査結果をもとに調査先を決定して現地調査を行った。調査先は、営農集団(2個所)、個人農家(3個所)、製糖会社(1個所)、堆肥センター(1個所)である。


Ⅱ.栽培の背景

  与論島は、琉球列島のほぼ中央、奄美群島最南端の島で、鹿児島市から約590kmの位置にある。総面積は20.82km2、周囲23.7kmで、島の約53%が農耕地を占めており、さとうきび栽培農家は920戸、農家一戸当たりのさとうきびの平均収穫面積は59aと小さい(表1参照)。全島は、ほとんど隆起珊瑚礁からなり、平坦地が多い。気候は、亜熱帯性気候であり、年間平均気温22.9℃、年間降水量1,570mmである。主要作目は、さとうきび(545ha)、畜産(肉用牛等の飼養頭数4,775頭)、さといも、いんげん、にがうり、おくら等の輸送野菜(72.8ha)、飼料作物(300ha)、ソリダゴ、キク、ユリ等の花き(6.5ha)が主なものであり、さとうきび、肉用牛、野菜、花きを組み合わせた複合経営である(表2参照)。生産額は、さとうきび生産が平成11/12年期(912百万円)までは第一位を占めていたが、平成14/15年期(599百万円)から畜産部門が逆転し、平成17/18年期では畜産部門1,061百万円に対し、さとうきび部門は438百万円までに減少した(表3、図1参照)。特に平成18/19年期(今期見込み)の生産量は、主に干ばつの影響もあり、20,500トンまで落ち込み、前年比で97%、産糖量も2,460トンで熊毛、奄美両地域の中で唯一、前年比マイナスを示した島である。今後のさとうきび増産計画は、平成19/20年期の生産量31,700トン(平成17/18年期比で51%増)、平成22/23年期33,300トン(58%増)、平成27/28年期34,600トン(65%増)を目標にしている(表4参照)。また、平成17年度に島内唯一の堆肥センターが稼働し、家畜排泄物の有効利用が可能になったことで、土づくりによる生産物の品質および生産量の向上を目指している。

表1 与論島の経営規模別さとうきび農家戸数


表2 与論島の主要作目の生産実績(平成17/18年期農協共販)


表3 与論島の主要作目の生産額推移
(百万円)

図1 与論島の主要作目の占める生産額構成割合(単位%)


表4 与論島のさとうきび生産実績と増産計画

表5 与論島のさとうきび栽培関連用機械の稼働状況(17/18年期)

Ⅲ.さとうきび関連機械の保有(稼働)状況

  平成17/18年期の収穫調製用機械の稼働状況は、ハーベスタ(小型)保有台数6台(稼働台数6台)、刈り取り機3台(稼働0台)、ベビー脱葉機217台(稼働104台)、ミニドラム脱葉機8台(稼働0台)、脱葉搬出機3台(稼働2台)、搬出機60台(稼働49台)、運搬機55台(稼働55台)である。栽培管理用機械関係では、サブソイラ2台、マニュアスプレッダ2台、動力噴霧機32台、中耕(カセット)ロータ4台、簡易型プランタ5台、株揃え機1台、株出管理一行程作業機1台が稼働している。60a程度の小規模な農家では、依然として簡易なベビー脱葉機が好まれて使われているのが特徴である(写真1参照)。また今後、株出し面積割合を高めていく目標を掲げているが、株出し管理作業用機械の導入台数は少なく(表5参照)、その達成のためには、さらに台数を増やす必要がある。


写真1 活躍するベビー脱葉機


  次に、採苗、植付け作業、中間管理作業、収穫調製作業、その他の4つに大別して機械化の現状と問題点について述べる。


Ⅳ.機械化の現状と今後の検討課題

  さとうきび関連機械を中心に採苗、植付け作業、中間管理作業、収穫調製作業、その他の4作業に大別して機械化の現状と問題点を把握し、今後対応すべき検討課題を指摘する。これらの課題に対しては、早急な対応を求めるものである。

1 採苗、植え付け作業
(1) 種苗(2芽苗)の採取は脱葉、切断作業ともに各農家のほとんどが人力で行っており、収穫時期と重なっている。特に、押し切り式カッタでの切断作業は、長時間(約200本/人ー時間)を要し、重労働で手間のかかる作業である。この解消のためには、ハーベスタ調製苗やドラム脱葉機調製苗の採用も検討すべきである。その際、芽子の損傷を最小限に押さえる適正な脱葉チェーン、ロール周速度の検討が必要である。

(2) 植え付け作業は各農家の栽培面積が狭隘なため、機械化への投資がこれ以上にできないのが現状である。既存のハーベスタ営農組合を中心とした農作業受託組織に調苗や植え付け作業を委託している農家が増えつつある。これは、採苗、植え付け機械の稼働効率を高めることにもつながり、さらに受託組織間の調整、連携が必要である。

(3) 個人農家で植え付け作業を人力や耕うん機体系で行っているほ場では、深植30cm、平培土植え付けで発芽率が良く、新植時や株出し初年度は茎数も確保され、単収増あるいは維持につながっているところもあり、これはさらに実証する必要がある。

(4) 簡易型プランタ(2条植え、補助者2名)は、苗の搬入、積み込みに多労を要している。これに対しては、特に植え付け後部の振動軽減と苗排出部の改良をはかり、植え付け深さ、施肥位置の安定性を高め、植え付けむら、欠株防止に対処する必要がある。

(5) 植え付け作業時の40cm以上の深耕と有機物還元(最低限、4トン/10a堆肥投入)は、表土保全、地力対策にも不可欠であり、これがまた、干ばつに強い保水力の向上につながる。今後は、春植え面積の拡大(平成18/19年期の約80haを90ha台へ拡大)と早期植え付けをさらに推進し、さとうきびの特性に合わせた地域やほ場選定をよりきめ細かに行う必要がある。

(6) 与論島規模の面積の島では、省力化した調苗生産システムを早急に開発し、島内1個所位に優良種苗をまとめて生産配布できる種苗供給施設の設置が必要と考える。

2 中間管理作業
(1) ハーベスタ収穫後、1週間以内の早期株出し管理作業は増収効果があるということの農家の認識は高いが、これはさらに啓蒙する必要がある。

(2) 手刈りほ場の株揃え作業は、逆に単収減につながり、稚けつ(芽)は残した方が良いという考え方のもとで、これが株揃え機の導入が伸びない一因になっている。この点は、早急な実証が必要である。

(3) 株出しほ場では、雑草防除を含め中耕作業すら実践していないほ場が多く見られる(表6参照)。また、株出し4回以上の多回株出し面積の割合が、県全体の2%台(平成10/11〜17/18年期)に比べて、約20%の大きな面積割合を占めており、これが欠株、単収低下につながる大きな要因になっている。もちろん、新植面積の拡大も必要であるが、一方ではハカマすき込み、中耕・培土、根切り等の管理作業をさらに徹底させるべきである。

表6 与論島の管理作業の実施状況
(単位 ha)


(4) 株出し面積割合は、県全体の55〜60%(平成10/11〜17/18年期)に比べると高い割合を占めている(表4参照)。今後、株出し面積割合を75%台で推移させるためには、株揃え機(平成18/19年期、5台)等の株出し関連機械の導入をさらに増やす必要がある。

(5) 株出し管理機の機体後部が長いため、株自体が切り取られてしまう場合がある。また、機体重量が重いため、作業がしにくい。これに対しては、機体の軽量化と株揃え高さ、根切り深さの調整を簡易にする必要がある。また、ロータリカルチについても畦幅可変の調整方法を容易にする必要がある。

(6) 地力対策が不十分であり、夏場の干ばつに弱く、これが単収低下の一因になっている。貯水池は島内に大小16個所あるが、水利用料金が高く、また農家の畑かん利用に対する意識も低い。今後、地力向上対策として、堆肥代(1万円/トン)、水代(40円/トン)の低廉化をはかり、有機物の還元(耕畜連携による堆肥の投入)と灌水の徹底をはかるべきである。

3 収穫調製作業
(1) 農家の収穫面積が小区画、小規模(平均59a)であり、ハーベスタ収穫面積の割合は、県全体の57%(平成17/18年期)に対して19%と少ない(表7参照)。これに対しては、狭隘なほ場でも使用可能なターンテーブル付きハーベスタの開発や50psクラスの小型ハーベスタの開発が急務である。また、農道とほ場との段差解消を含めたほ場の区画整備も進めなければならない。


表7 与論島のハーベスタ収穫面積割合の推移
(単位%)


(2) ベビー脱葉機主体の脱葉作業が収穫面積の4%を占めているが、これによる小区画ほ場での脱葉作業能率は、約1.5トン/2人ー8時間であり、小型脱葉機として十分な機能を果たしていると考えられる。また、中耕・培土等の耕うん機作業体系を進める中で、収穫搬出作業等の自家労働力で対応しきれない作業については、部分委託による機械化作業でカバーしていくことが重要である。

(3) 梢頭部のカット作業は、ハーベスタやベビー脱葉機利用の収穫作業体系ともに、ほとんどの農家が梢頭部と引き換えに畜産農家に無償委託している。しかしながら、ハーベスタ収穫地域では、梢頭部カットが間に合わない事態が生じているところがある。これに対しては、畜産農家との間で綿密な刈り取り作業計画を立てる必要がある。

(4) ベビー脱葉機のベルト、ブラシ類の部品交換が簡単に行えず、手間がかかり過ぎる。これに対しては、交換部品や調整金具の取り付け位置の改良が必要である。また、機械設計者は、これまで以上に現地に出向いて農家の意見を聞き取り、設計に生かすべきである。

(5) ハーベスタの引き込み、オーガー部への土の付着、雑草の巻き付きが、特に雨後の作業時に多い機種がある。これについては、オーガーの角度、ピッチ、回転数の検討が必要である。

(6) ほ場内で梢頭部込みでハーベスタ収穫を行う(いわゆるグリーンケーン刈り)を希望する農家が多いが、梢頭部の選別精度を高める必要がある。そのためには、梢頭部の風選行程で、茎切断長と風量、風力との関係を再度見直し、切断用対向羽根の打撃力(スロワー力)を利用した機構の採用も検討する必要があると考えられる。

(7) 脱葉、搬出作業の省力化を目的としたさとうきび出荷体系の改善策として、集中脱葉施設(いわゆる集脱方式)の採用が検討されている。ハーベスタ収穫作業が困難な小区画、傾斜地の多いほ場では、ハーベスタの導入はコスト面も含め限界があるため、与論島では、ハーベスタ収穫と併せた集中脱葉方式の採用も検討に値すると考えられる。その際、運搬コストの低減化をはかることと有機物のほ場還元が最も重要な課題になる。

4 その他
(1) 製糖工場からのバガス(原料処理量25,000トンに対して、5,750トン(23〜24%)産出)は、現在、ボイラー用燃料に全量処理しているが、将来、繊維食物としての価値も探る必要があろう。ケーキ((1,250トン(5%))の処理は、農家に全量販売し、ほ場に直接散布しているが、将来、堆肥の発酵材料的利用法も検討する必要がある。糖みつ((750トン(3%))は、現在、精製糖会社に販売しているが、島内での畜産飼料用添加剤としての有効利用法も検討する必要がある。

(2) ハーベスタや株出し管理機械の価格が高いため、作業委託料金(株出し管理作業料金5,000円/10a)等も高くならざるを得ない。現状の経営面積ではコスト低減につながらず、また、このことは、近年の子牛価格の高騰と相まって若者の畜産経営への傾倒にもつながっている。今後、さらに農業機械の低価格化への努力が必要である。

(3) 堆肥センターからの堆肥出荷が作物栽培の時期の違いで大きく変動するため、堆肥品質にバラツキが出やすい。今後は、良質な完熟堆肥の生産と島内外の需給バランスを見極めながら、堆肥センターとしての売り上げを伸ばしつつ、地域の農業生産を支える必要がある(写真2参照)。


写真2 島内唯一の堆肥センター(H17年度完成)
写真3 ほ場を移動するツチイナゴの群れ


(4) 与論島のような小さい島での農作業では、「結い」や家族的農業のあり方にも目を向ける必要があり、地域の環境保全、コミュニティの維持には、小規模な兼業農家の果たす重要な役割も存在すると考えられる。

(5) ツチイナゴの異常発生している地域がある。2月下旬にもかかわらず、ここ数年の干ばつの影響もあり、さとうきびの葉がかなり加害されている。早急な防除対策が必要である。(写真3参照)。

(6) 経営安定対策の中で集落営農を軌道に乗せ、特にトラクタ作業は畜産、園芸農家との連携をはかり、さとうきび関連機械の稼働率を高めることが急務である。

(7) 生産者は、品質取引について糖業者が査定するトラッシュ率に高い関心を持っており、品質査定用サンプリングとトラッシュ査定の精度をさらに高めていく必要がある。

(8) 与論島の製糖工場の原料は零細なさとうきび兼業農家の集合体によって支えられている。新しい農業施策の中で「担い手農家」の位置づけが、さとうきび生産のみからみた場合は、適合しづらい面があり、農家の所得レベルや工場の操業維持を考慮した特別な配慮が望まれる。

(9) 農家の中には、国の新たな経営安定対策である集落営農組織の育成については漠然と分かるが、詳しく理解できないために不安であるという農家が存在する。今後、さらに各集落内で関係機関一体となった活発な営農組織化についての話し合いが必要である。


Ⅴ.おわりに

  与論島は、農家一戸当たりの耕地面積が狭く、小区画ほ場も多いため、大規模な機械化による農作業の省力化には不利な地域といえる。しかしながら、高齢化が進み、コスト削減が強いられる中で安定した効率的な地域農業を構築していかなければならない。そのためには、あくまでもさとうきび作を中心にした農業経営体を作ることが基本である。現在のさとうきび農業は、特に高齢者にとって人力による収穫作業は過重労働であり、また、生産牛の増頭による飼料作物面積の増大、花き、野菜との作付け競合等によって栽培面積は慢性的な減少に陥っている。他方、多回株出しの増加、地力対策を含めた肥培管理作業の不徹底等が単収低下をもたらし、干ばつ被害とも相俟って生産量の減少(今期は2万トンを下回るかもしれない)となり、今までにない非常に厳しい状況にある。これは、まさに島の農業の存亡にかかわる事態である。これらの危機的なさとうきび農業を再生させるには、その一つの方向として、ハーベスタ共同利用組織(既存のものも含めて)を中心にして地域農業を支える担い手農家を育成し、集落営農組織の形成に早急に取り組む必要がある。そのためには、まず、ハーベスタ収穫作業を中心に植え付け準備から植え付け、中耕、培土等の中間管理作業を含めた農作業受委託”連携”組織を中核的なリーダーのもとで確立させる。また同時に、農地の流動化、面的集積を促進しながら、農業機械の共同所有・共同利用を進め、機械化の遅れへの早急な対応を図るべきである。一方では、当然、本島の地理的な条件を考慮して、その中で畜産等との複合経営を進めながら耕畜連携を図る必要がある。これらの方向は、島が小さい故に島ぐるみで取り組めるものであり、これはまた、平成19年度から実施される新たな農業施策である「さとうきび品目別経営安定対策」が目指す方向展開に沿うものであると考える。今後、各地域において、早急に中核になるリーダーを中心に集落営農を組織化し、さとうきびの生産性向上へ向けたさらなる取り組みが、関係者一体となってなされることを期待したい。

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