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宮古島におけるさとうきびのバイオマス利用実証研究

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2007年7月]

【今月の視点】

 
琉球大学農学部生物生産学科教授上野 正実

はじめに

  最近、バイオマスというよりバイオエタノールが過熱している。本誌2004年11月号に「今、バイオマスが熱い」と書いたが、バイオマスを巡る情勢は劇的に変化し、予想をはるかに上回る進展があった。京都議定書の発効、温暖化の顕在化、石油の高騰などを受けて「新バイオマス・ニッポン総合戦略」が策定されるなど動きは慌ただしく、今年に入って一層加速しつつある。中でもさとうきびバイオマスのエタノール化は大きな注目を集め、本誌でも相次いで紹介されている。宮古島の事業は規模が大きく、本格的なE3ガソリンの普及に向けた「バイオエタノール・アイランド構想」も準備されている。この流れの中で著者のグループは、農林水産バイオリサイクル研究「宮古島におけるバイオマス循環システムの構築及び実証に関する研究」(農林水産省農林水産技術会議;独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構・農村工学研究所)に取り組んできた(平成16〜18年度)。ここではその取組を紹介し、今後の展望を述べる。

実証研究の目的

  宮古島は亜熱帯気候と平坦な地形を活かしてさとうきびと畜産が盛んな島である。薄い赤土層(島尻マージ)の下に琉球石灰岩層、その下層の泥岩層で形成されて、この地下構造を活かして巨大な地下ダムが造られ、灌漑農業が行われている。地下水は繰り返し利用されるが、汚染すれば最終的には島を取り巻く美しいサンゴ生態系にまで悪影響が及ぶ。水質保全は島の生命線の維持と同義である。灌漑による溶脱で地力低下が懸念され、その抑制が重要な課題である。さとうきびは、収量や品質の年次変動が大きく、栽培体系が夏植に偏向しているなど問題が多い。一方、肉用牛中心の畜産は年々盛んになり、農業所得の向上に貢献している。畜産バイオマスの活用は法規制への対応だけでなく、地下水保全および地力維持の面からも重要な課題である。

  これらの課題の解決、大気中CO2の固定と排出量の削減、さとうきびの安定的増産、畜産振興、園芸・熱帯果樹による高度亜熱帯農業の整備、さらには、「元気で美しい地域社会=バイオ・エコシステム」を実現するには、水利用をキーワードに、さとうきびや畜産に由来するバイオマスの連携的総合利用が効果的である。そこで、炭化、ガス化、堆肥化、メタン発酵など複数の転換技術を組み合わせた総合システムを構築する実証プロジェクトをスタートさせた。宮古島市のほぼ中央に位置する上野野原地区に「宮古島バイオ・エコシステム研究センター」を設置し、システムの構築・実証を進めている。

プロジェクトの概要

  本プロジェクトは、(1)バイオマスの効率的転換技術の確立、(2)転換資材の有効利用技術の確立、(3)物質循環のモニタリングと評価、(4)実用化に向けた社会システムの構築の4本柱から構成されている(図1)。これによって島しょ向きの小型分散システムを開発し、循環型社会構築の準備を進めるものである。

図1 プロジェクトの概要

1.バイオマスの効率的転換技術
(1) 省エネ型高速炭化・ガス化装置
  バガスなどを高効率に炭化する装置で、無酸素状態で原料を加熱することによって得られる。外熱式連続炭化装置、酢液回収装置、二次燃焼装置、前処理装置、搬送装置などで構成され、原料処理量は1時間当たり約200kg、炭化収率は20%程度である。

(2) 小型メタン発酵・発電システム
  畜ふんを主原料にメタン発酵を行うシステムで、原料混合装置、発酵槽、ガスホルダ、発電装置などから構成される。発酵タンクは60m3で、1日の投入量は3トン、発酵期間は20日である。6kWの小型発電機で発電を行っている。糖みつ、泡盛カスなどを用いて発酵速度を制御する技術を実証している。

(3) 高速堆肥化施設
  畜ふん、バガス、フィルターケーキなどを短時間で堆肥化する縦型密閉方式のプラントで、発酵タンク、攪拌装置、送風装置、原料投入および排出コンベアから構成される。原料の投入量は1日1トン、発酵タンクは10m3で、約10日間で一次発酵を終了する。高速化および高品質化のために、糖みつ、酢液および炭を間欠的に散布している。

(4) ガス化装置
  バガスなどを不完全燃焼させて燃焼ガスを発生させる装置で、ガス化炉、ガス清浄装置、貯留タンクなどで構成されている。ガス化炉はバッチ式のダウンドラフト方式で、タールの発生を抑制できる。発生ガスは、炭化装置の立ち上げ加熱に利用している。

2.プラント群の連携運転システム
  島しょ環境は面積規模が小さくその周囲が海であるために、バイオマスの転換による廃棄物が環境の汚染源になる恐れもある。また、面積の限られた島しょでは1種類のバイオマスの賦存量は小さく、また、発生の季節変動が大きい。そこで、複数のプラントを組み合わせて少量多品目バイオマスのカスケード的利用によって廃棄物のでないシステムの構築を目指している(図2)。バイオマスの転換中に発生するCO2については、作物への施用実験を行っている。

図2 プラント群の連携運転

3.モニタリングおよび評価技術
  個々の装置の稼動状態や環境への影響などをモニターし評価するシステムを構築した。各プラントからのデータはセンター内のサーバーに収集・記録される。4ヶ所に設置したWebカメラでプラントの稼働状況がモニターできる。また、7ヶ所に気象ロボットを置いて連続計測を行っている。これらはインターネットを通じて外部からも参照できる。

4.転換バイオマス資材の効果的利用技術
  堆肥、炭、酢液の施用効果を調べるために、試験圃場を設置してさとうきび、ソルガム、野菜類を中心に栽培試験を行った。増収効果とともに内部品質を分析し、土壌の性状や土壌改良効果を評価している。CO2施肥の実験も行い、効果を確認した。

今後の展望と課題

  研究成果の一部は、今年3月に認定された宮古島市「バイオマスタウン」構想に活かすことができた。バイオマスを扱う技術はかなり向上し、バイオマス資材の利用効果も確認できた。3年間の実証期間を終えた今、プラント群はようやく本格的に稼動し、その効果が出始めたところである。この間に宮古島の住民だけでなく多くの見学者を施設に迎え、バイオマス普及・啓発の一助となり得たと考えている。ここで実感したことは、バイオマスの本格活用には解決すべき多くの課題があることである。先進技術を取り入れた「実験室レベル」の研究は盛んであるが、実証・実用レベルにおいては未だに問題が多く、大きなギャップがある。課題をひとつずつ解決して初めて「バイオマス・ニッポン」の展開あるいは島しょ型循環社会の展望が見えてくる。

  バイオエタノールの突出した独走状態は今後も続きそうであるが、これは必ずしも健全な姿とは言えない。バイオマスは「総合的に」活用してこそ効果を発揮する。さとうきびバイオマスの活用が農家や住民のメリットにつながるところまで誘導する必要がある。これには地道な研究開発・実証が求められている。幸い、ポスト農林水産バイオリサイクル研究もスタートする。糖みつの蒸留廃液の有効利用を図るために、計画中の「バイオエタノール・アイランド構想」、宮古島バイオマスタウン構築との連携も今後の課題である。これによって大きな発展が期待できる。



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