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石垣島におけるさとうきびの持続的振興に必要な技術開発の方向

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2007年8月]

【今月の視点】
 
独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 
九州沖縄農業研究センター 研究管理監
杉本  明
沖縄県農業研究センター 宮古島支所 作物園芸班 班 長 宮城 克浩

1 はじめに

  2005年期、石垣島は4度の台風に見舞われ、さとうきびの生育は悪く、ヘクタール当たりの収量は夏植え61.85トン、春植え41.49トン、株出し36.37トンで夏植えに比べて春植え、特に株出しが少なかった。2006年も4回にわたり台風に見舞われた。特に9月15日から16日にかけて石垣島を襲った台風13号は、最大瞬間風速67メートルの猛烈な風による茎の折損や葉の裂傷等の被害が発生し、収量および糖度に甚大な影響を及ぼした。この地域にとって、台風はやむを得ぬ気象災害ではなく、生産の安定には対処すべき環境条件であることを示している。
  石垣島は肉用牛を中心とした畜産が盛んな地域である。2005年期の農業産出額は肉用牛が71億円(58.7%)で最も多く、さとうきびにとって飼料作物との圃場競合は生産の安定にとって大きな課題である(図1)。機械による収穫率は、大型ハーベスタが12%、中型ハーベスタが42%であり、沖縄県下では大東島に次いで中・大型ハーベスタの普及が進んでいる地域である。


図1 2005年農業産出額による八重山の農業生産の特色
注)資料:沖縄総合事務局2006年11月2日発表
(平成17年農業産出額)



  このような状況下において、さとうきびの持続的生産に必要な栽培技術開発の方向(当面の対策と将来の方向)を探るために、石垣島の農家圃場を踏査し、生育状況について観察調査を行うと共に、生産者および製糖工場への聞き取り調査を行った。その結果から、さとうきびの持続的生産振興を制限している問題の所在を、(1)降雨によるハーベスタ稼働休止・工場操業の休止、機械・施設稼働率の停滞、(2)収穫面積割合が低いことによる生産量の停滞、(3)採草地・牧野とさとうきび圃場との競合と両立の方向、の3つに整理した。これらの問題解決の鍵となる技術が、九州沖縄農業研究センターおよび沖縄県農業研究センターで技術開発を進めている、夏植え1年型秋収穫株出栽培である。石垣島には沖縄県農業研究センター石垣支所および石垣島製糖工場のさとうきび現地選抜試験圃場が設置され、安定多収生産に有効な系統の特性評価が行われている。

  本稿では試験圃場での系統の生育特性について紹介し、これら系統の活用をも含めた安定多収生産のための新たな技術開発の方向について提案する。

2 問題の所在と解決の方向


(1)降雨によるハーベスタ稼働休止・工場操業の休止、機械・施設稼働率の停滞
  石垣島のさとうきびの収穫および製糖工場の操業は1月〜3月が基本である。現在の品種を前提にした場合、それより早すぎる収穫は製糖歩留まりの低下を招くので好ましくない。また遅い収穫は、翌年の収穫に必要な肥培管理の遅延を招き、収量の低下につながるためにこれも好ましくない。
  2006/2007年期の操業は4月8日に終了した。4月にずれ込んだ理由は、降雨、とりわけ2月から3月にかけての多雨によるハーベスタ収穫作業の中断であるとされる。今期は降雨により15日間、原料搬入不足のため操業がストップしたとのことである。雨天でのハーベスタ収穫は、作業性の低下、土砂混入等による原料品質の低下とともに、重量機械の踏圧による土壌物理性の悪化、株を痛めることによる株再生の阻害等の悪影響も大きいことから、生産者は雨天時の中型・大型ハーベスタによる収穫作業を敬遠する。

  問題の解決策として二つ考えられる。その一つはハーベスタの軽量化による接地圧の低減と、もう一つは降雨時の収穫回避である。
  ハーベスタの軽量化には、種子島や沖縄本島北部地域等で普及している小型ハーベスタの利用が有効であろう。小型ハーベスタによる収穫は、茎が太くて長く、倒伏した夏植えのさとうきびには不適であるが、短期の在圃期間を前提とする作型、すなわち春植えや春植え株出し、夏植え株出しで、短い茎を特徴とする圃場の立毛を収穫するには適している。大型・中型ハーベスタより狭い畦幅での栽培・収穫が可能であるため、単位面積当たりの茎数増による生産安定への寄与も期待されることから、検討の必要性が高い。

  今期のような多雨による収穫の遅れ、それに伴う翌年の収穫に必要な管理作業の遅れによる低収量の改善には、早期収穫、すなわち種子島や沖縄本島南部等で模索されている秋収穫の導入が有効であろう。第1表に石垣島の夏植え栽培における秋収穫時の調査成績結果を示した。10月収穫でも基準甘蔗糖度を大きく超える系統があり、秋収穫が実用的な技術であることを示唆している。石垣島を対象とした奨励品種NiTn20(農林20号)は、すでに実用可能な品種であり、沖縄本島南部地域を普及対象としたKN91―49、南北大東島を普及対象としたRK95―1は、沖縄県の奨励品種に認定されていて、現在、品種登録申請を行っている系統である。これらの系統の活用も可能であり、さらに第2表に示したような有望系統も育成されつつあることから、夏植え・秋収穫に向けた一刻も早い取り組みが必要である。気象的にも比較的高温の秋に収穫したさとうきびは、株再生の向上も期待される。このように、収量安定型の株出し栽培に向けた作期移動、すなわち、夏植え型1年秋収穫株出し栽培の導入は、当面の対策としても有効であると思われる。近い将来、収穫期間を10月〜3月までに拡張することができればハーベスタの稼働率向上も期待される。

写真1 小型ハーベスタによる収穫風景

写真2 9月上旬植えのRK95―1
写真3 RK95―1の9月上旬夏植え用苗切り 跡の株出し

第1表 石垣島における夏植え型1年秋収穫試験の収穫調査成績(10月収穫)
注)2002年度沖縄県農業研究センター石垣支所の夏植え型1年秋収穫試験結果による。

第2表 石垣島における有望系統の夏植え秋収穫の収穫調査成績(10月収穫)
注)沖縄県農業研究センター石垣支所の奨励品種決定試験結果による。


(2)収穫面積割合が低いことによる生産量の停滞
  石垣島のさとうきび栽培面積は、およそ2,400ヘクタール、種子島と同程度であるが、種子島が15万トンを原料生産の最低ラインとするのに対し、石垣島では生産量が10万トンを超えることが少ない。それは単位収量の差異によるが、圃場のさとうきびは長く、それほどの少収には見えない。当たり前のことではあるが、その差異は収穫面積の違い、すなわち種子島が1年1収穫栽培であるのに対し、石垣島では実質的に2年1収穫栽培となることによる差異である。

  今回の調査で観察した夏植えの立毛は、いずれも長く、倒伏が激しく、収穫にも困難が伴うことが予想された。増産の基本は単位収量の向上である。その初めの一歩は栽培面積と収穫面積の一致、すなわち栽培期間を16か月から12か月に短縮することであり、1年型の新植・株出し栽培への移行である。1年型の新植・株出し栽培として、現在は春植え・株出しが導入されているが、石垣島での普及は少ない。夏植えに比べて春植え、株出しが台風や干ばつに弱く収量が少なく不安定であること、植付けと収穫が重なるために作業上の困難が伴うこと、等がその背景であろう。単位収量向上の要点は、新植の栽培期間が1年であって、夏植えに準ずる植付け作業配置への適性と気象災害回避適性、春植え並みの株出し適性を具える作型の開発・導入である。(1)に記した夏植え型1年秋収穫株出し栽培は、栽培開始が新植および株出しのいずれにおいても常に夏または秋であるため、夏植えの利点が発揮される可能性が高く、その要求に最も近い技術として早い機会の導入を目指し、具体的な検討を進めるべきであろう。

  石垣島や宮古島の先島地域では、土壌害虫(サキシマカンシャクシコメツキの幼虫:通称ハリガネムシ)による株出し不萌芽が問題となっている。しかし近年、殺虫効果が高く、単位面積当たりの有効成分投下量が少なくて済み、環境にやさしいプリンスベイト剤が開発・登録されたことにより、株出し栽培への移行環境は整いつつある。南大東島で2001年から実施されている、性フェロモンを利用した交信かく乱法によるハリガネムシ防除事業の成果も報告されており、株出し栽培への期待は大きい。

(3)採草地・牧野とさとうきび圃場との競合と両立の方向
  石垣島は南西諸島の中でも有数の畜産地域である。さとうきびと並ぶ面積規模で飼料作物圃場・牧野が広がる。石垣島にとって畜産業は生活を支える基幹産業であり、その振興は、さとうきび産業の振興と共に欠くことのできない重要事項である。すなわち、さとうきび産業と畜産業との連携が、この島における持続的な農業・経済活動の鍵であるとも言える。しかし、現状では両者の連携は強くはなく、圃場の競合も見られる。

  畜産の振興には粗飼料の自給が重要であり、その基礎が高品質飼料の低コスト生産であることは誰もが認めるところであろう。さとうきび産業振興の基礎は、原料の増産・安定化と作物・機械・施設の高度利用による低コスト化である。飼料の増産とさとうきびの増産の両立の鍵は、土地と作物の高度利用、すなわち、さとうきびの飼料化促進にある。その第一歩は梢頭部の飼料利用の促進である。そのためにまず必要な事項が、梢頭部の省力的な収穫・サイレージ調製技術の開発である。倒伏の激しい現在の夏植えさとうきびでは、機械収穫は困難であろう。立毛を適切な高さに揃えることから始めなければならない。風による倒伏はあっても、適切な長さに茎の生長が抑えられれば、その可能性は大きい。畜産経営において梢頭部飼料を導入するには、品質、生産量、供給の向上と安定が必要である。さとうきび生産に求められるのは、ここでもやはり、茎の短茎化と茎数の増加のための在圃期間の短縮、梢頭部の分離収穫技術の開発、収穫期間の拡張とサイレージ調製による供給期間の拡張等々であり、その鍵は夏植え型1年秋収穫株出し栽培技術の導入と定着である。  

  さとうきびの栽培面積と収穫面積の一致による土地の高度利用、さとうきび梢頭部の省力的な収穫・サイレージ調製技術・システムの開発を通した作物の高度利用により、さとうきびと畜産との連携は確実に強まるであろう。その先の技術、飼料作物・牧草収量の向上、収穫機械・施設の共用化の実現によって、石垣島における農業基盤が一層強化されることが期待される。

3 おわりに


  石垣島の農業は、さとうきび、肉用牛を主体とした畜産、水稲、パイナップル、熱帯果樹や野菜など、多くの作目による圃場や労働の競合が厳しさを増している。特に肉用牛の振興が顕著で、2004年以降は、さとうきびの産出額を上回ってトップの地位にある。現在では飼料作物の栽培面積は、さとうきびの収穫面積より多いとのことである。このような状況下において、さとうきびの持続的生産には、畜産との連携強化が必要であり、それには梢頭部の飼料化を可能にする生産技術の開発、園芸の振興を可能にする柔軟な生産技術の開発、さらには石垣島の重要な産業である観光との連携を前提とした環境保全型の生産・利用技術の開発が重要となってくる。

  夏植え型1年秋収穫株出し栽培は、収穫早期化による収穫期間の拡張をとおして、飼料としての梢頭部の長期安定供給、園芸との輪作や労働競合の回避を可能にする新しい技術である。すでに秋収穫が可能な品種は育成されており、一刻も早い現場での活用が望まれる。

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