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南大東島におけるハリガネムシの交信かく乱法による防除

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

今月の視点
[2001年9月]
 さとうきびの生育を妨げる害虫の1つにハリガネムシがあります。ハリガネムシはさとうきびの地下部分の芽や茎の成長点を好んで食害し、さとうきびの不発芽、欠株、株出しの不萌芽の原因となり収穫に甚大な影響を及ぼします。事業団助成事業によりハリガネムシを交信かく乱法によって防除する大規模な試みが南大東島で行われました。この取り組みの様子を紹介していただきました。

沖縄県農業試験場 サトウキビ害虫研究室 室長  新垣則雄


1. はじめに 2. 南大東島
3. ハリガネムシによる被害 4. 性フェロモンによるハリガネムシの防除
5. なぜ島全体で交信かく乱を実施するのか?
6. 交信かく乱法の実施にあたって 7. はたして交信かく乱は起こるか?
8. 交信かく乱の効果 9. 今後の展開



 南大東島は島の作物のほとんどがサトウキビの 「砂糖の島」 である。この島で本年 (2001年) から、性フェロモンを利用した新しい防除技術によるサトウキビ害虫ハリガネムシの防除事業が実施されている。南大東島は面積3,057haと小さな島であるが、この 「交信かく乱法」 による害虫防除法は、その実施規模において、著者の知る限りわが国最大である。また、これまで交信かく乱法による害虫防除は、蛾など鱗翅目 (りんしもく) に限られており、ハリガネムシが属する甲虫目での大規模な交信かく乱による防除実験は世界的にも初めての試みである。これまでサトウキビ害虫の防除は、農薬によってなされてきた。しかし、性フェロモンは環境に優しい防除手段であり、環境への負荷が少ない。この事業は、ハリガネムシの密度を徹底的に激減させ、安定的にサトウキビの生産が図られることを目標としている。この始まったばかりの新しい害虫防除事業を紹介しよう。

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南大東島
写真1 南大東島
 まず南大東島の紹介から始めよう。南大東島は沖縄本島のはるか東400kmの太平洋上に位置している。那覇から南大東島まで、飛行機 (39名乗り) での所要時間は約1時間。周囲が20.8kmで、珊瑚環礁が隆起してできた島である (写真1)。かつての環礁の外側礁嶺部分は島を取り巻く丘陵となり、かつての礁湖の部分が平地となっている。海岸線から内側に環状に露出した岩石地帯を利用して、2重または3重の防潮風林が設置され、耕地を取り囲んでいる。最も内側の防潮風林の内側を幕下、外側を幕上と区別している。中央部には47haもある大池をはじめ、多数の池沼が散在している。島の総面積は3,057haで、その約6割が農耕地 (1,839ha) となっている。人口は1,400名程度であり、サトウキビ栽培と製糖業がこの島の唯一の産業である。年間約7千トンの砂糖と2千トンの糖蜜を生産している。農家1戸当たりの平均耕作面積は8.2ha、中には50haを所有する農家もいて、わが国では珍しい大規模経営である。「沖縄の北海道」 と称する人もいる。このため機械化が進み、植え付けから収穫にいたるまですべて機械で行われている。沖縄県において、サトウキビ収穫用の大型ハーベスターやプランターなどの機械導入も、ほとんどの場合、この島から始まっている。この島の人々は、あたかも100年前にこの島に上陸し、開拓をしてきた先人たちのパイオニア精神を引き継いでいるかのように、新しい技術を取り入れることに対し、柔軟で、積極的である。


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 ハリガネムシとは農作物に被害を与えるコメツキ類幼虫の総称である。南大東島に生息しているのはオキナワカンシャクシコメツキである (写真2)。もともとは分布していなかったが、苗の移動とともに昭和初期に南大東島に侵入し、甚大な被害を与えるようになった。幼虫は針金のように細長く、赤茶色で、その姿から 「ハリガネムシ」 と呼ばれている (写真3)。生息場所が土中のため農薬を直接虫に触れさせることも難しく、「難防除害虫」 とされている。ハリガネムシの幼虫はサトウキビの地下部の芽や茎の成長点を好んで食害する。このため、サトウキビ苗の不発芽、欠株、株出し不萌芽の原因となる。これらの被害はすべて減収につながる。株出し不萌芽になれば、植え替えによる更新を余儀なくされるため、耕起、植え付けに至る労力、苗への投資などもさることながら、収穫回数の減少が農家に与える経済的な被害は莫大である。南大東島においては年間約1億円が農薬代金として消費されているが、その65%はハリガネムシ防除薬剤に当てられており、農家にとって生産コストに占める農薬代金のウェイトは高い。
 オキナワカンシャクシコメツキは、一世代に2年を要する。成虫は3月上旬から6月上旬にかけて地上に出現する。防除の難しい幼虫のステージではなく、この飛び回ることのできる成虫を防除しようとするのが今回の試みである。
ハリガネムシ成虫
写真2 ハリガネムシ成虫
ハリガネムシ幼虫
写真3 ハリガネムシ幼虫
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 昆虫の性フェロモンとは、昆虫の雌と雄が交尾をしようとするときに、お互いにとり交わしている 「ことば」 である。同じ種の雌が 「ことば」 を発すると、雄はそれを受けてその雌を探し出し、交尾することができる。一般に多くの昆虫では、匂い物質が 「ことば」 として使用されている。近年、多くの害虫について、性フェロモンの化学構造が明らかにされてきた。オキナワカンシャクシコメツキの性フェロモンもその化学構造が明らかにされている。
 性フェロモンを利用した害虫の防除法には、「大量誘殺法」 と 「交信かく乱法」 がある。「大量誘殺法」 は、野外の多くの雄を誘殺して、雄の数を減らすことで、雌の交尾率の低下を期待するものである。このためには誘引源やトラップ、取り付け用具などの資材を必要とし、その設置、維持管理にも多くの労力が必要となる。
 一方、「交信かく乱法」 とは、雌が放出する性フェロモンと同じ匂い物質を大量かつ継続的に空気中に放出し、性フェロモンを頼りに雌を探す雄の行動を邪魔し、交尾をできなくするものである。交信かく乱に使用される性フェロモンは、それを一定量徐々に放出するように工夫された細いチューブに液体状で封入されている (写真4)。交信かく乱にはチューブを支える支柱だけあれば十分であり、トラップや取り付け用具などの資材を必要としない (写真5)。広い面積を処理するには簡便で、かつ防除効果も高いと期待される。現在、性フェロモンの害虫防除への応用については、交信かく乱法が世界的な主流となっている。
フェロモンチューブ
写真4 フェロモンチューブ
チューブの設置
写真5 チューブの設置
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 交信かく乱による防除を成功させるための一番の条件は施用面積である。施用面積が小さいと、フェロモンが満たされてない場所での交尾の成立や、無防除区からの交尾雌が侵入してきて産卵をすることが考えられる。広い面積をまとめて処理することは、防除対象以外の場所も含めて処理することを意味する。南大東島ではサトウキビ畑以外に保安林やススキ原野などがある。このような広い面積を対象とした処理は農家個人単位では困難である。したがって、役場や農協、製糖工場などを中心とした地域の相互協力が必要である。島全体を防除区とすると、周囲を海で囲まれているため、外からの侵入はないし、十分な濃度のフェロモン量を施用すれば、高い防除効果を得られることが期待される。沖縄本島中部の東に位置する伊計島で、1年前に行われた性フェロモンによるハリガネムシ防除データを参考にして、南大東島のサトウキビ栽培地域で、交信かく乱に必要なチューブの本数を、90万本と算出した。

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 なにせ前例のない壮大な計画である。どのようにして島中のサトウキビ畑や保安林に、90万本のフェロモン・チューブを張り巡らせるか、人員をどう配置するか、チューブをどのように配布するのかについても、参考となるマニュアルがない。これらについては南大東村の関係機関と、いくどとなく話し合いをもち、アイデアを出し合い、調整が行われた。その結果、
1) サトウキビ夏植畑では、フェロモン・チューブ10mを単位として、ヘクタール当たり20本、収穫後の畑では8本を設置する、
2) 畑では支柱を用いてチューブを地面から30〜40cmの高さで畝に沿って設置する、
3) このチューブは、トラクターによる管理作業の邪魔にならないように畝上に設置する、
4) 保安林では、80mのチューブを100mに1本程度を林縁に取り付ける、などがとり決められた。これらのチューブの取り付け方をまとめた啓蒙普及用のパンフレットも作成され、農家に配布された。
 そして、いよいよ、2001年の2月中旬にチューブの設置は行われた。設置に当たって、農家への取り組みを強化するために、2月17日に南大東島で 「ハリガネムシ防除推進大会」 が開催された。これには沖縄県農林水産部、沖縄県糖業振興協会、南大東村、JA、製糖工場など各機関の多くの関係者が参加し、防除への協力と取り組みを訴えた。ふれあい広場でのハリガネムシ防除推進大会や、農家圃場でのハリガネムシ交信かく乱剤設置式が行われ、テレビや新聞などのマスコミも、この式典の様子を取材し、翌日のニュースで報道した。
 交信かく乱が起きているかどうか、あるいはその程度を評価するために、島の24ヵ所のサトウキビ畑周辺に、モニタリングのフェロモントラップを設置した。このトラップにはフェロモン・チューブが取り付けられており、うまく交信かく乱が起こっていれば、このトラップでは雄成虫が捕れなくなるはずである。もし、処理区内のトラップで雄成虫が捕れるのなら、交信かく乱が不十分だと判断できる。また、防除をしてない海岸部のススキ原にも島の東西南北の各4地点にそれぞれ4〜5個の合計18個のモニタリングトラップを設置した。ハリガネムシはサトウキビと同様にイネ科のススキでも生息しているが、この南大東島の海岸部のススキ原にどの程度ハリガネムシがいるのか、十分な情報がなかった。
 実際に農家の方々がちゃんとチューブを設置してくれるかどうか多少不安ではあった。3月末の調査で南大東島を訪れた時に、いたる畑でチューブが設置されているのを見て安堵した。高齢のためチューブの設置が難しい農家などに対しては、数名単位で組織された班のメンバーが協力して設置したそうである。

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 さて、90万本のフェロモン・チューブの設置は完了した。甲虫の交信かく乱などは世界的にも前例がない。蛾類での交信かく乱による防除の成功例はいくつかあるが、それでも150ha程度がこれまでの最大面積である。3,057haの島まるごとを防除するため、伊計島でのデータに基づいてはじき出した90万本というチューブの本数で果たして妥当だろうか?
 3月末に南大東に調査にいき、空港のロビーで、JA 組合長の野原さんと出会った。「トラップにはほとんど虫が入ってないようで、うまくいっているようだねー」 と声をかけてくれた。普及員の比嘉君によれば、島の24ヵ所に設置してあるトラップに、1ヵ所 (6) を除いて、全く虫が入ってないとのことであった。朗報であった。ハリガネムシの交信かく乱は確かに起こっていたのである!

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 防除前年の2000年 (図1) と交信かく乱を行った2001年 (図2) のトラップデータを比較して、交信かく乱の結果を説明しよう。2000年の (図1) は、114ヵ所に設置されたトラップによるハリガネムシ雄成虫捕獲数に基づいて作図したものである。一見してこの年は多数のハリガネムシが捕獲されていることがわかる。とくに外側と内側の保安林に挟まれた、いわゆる幕上地帯、なかでも北東側は発生がとくに多い。そのなかにはトラップ当たり、1,000頭を超える圃場もみられる。内側保安林に囲まれた地帯、いわゆる幕下地帯では発生が少なく、池の周辺では特に発生が少ない。これらの理由として、幕下の池周辺では、地下水位が高く、大雨時に冠水することが頻繁に起こるため、土壌害虫が生息しにくいと考えられる。それに比べて、幕上地帯では土壌層が比較的深く、排水も良好なため、ハリガネムシの生息に好適なことが挙げられる。
 一方、交信かく乱を行った2001年 (図2) は、24ヵ所に設置してあるトラップで、ほとんど捕れてない。まったく捕れてない (0頭)、あるいは1〜2頭しか捕れてないトラップが16ヵ所もある。その他のトラップでもほとんどが10頭以下である。例外的に、北側に設置したトラップ(6)の1ヵ所だけ、多く捕れている。そこは高台であるため、フェロモンが滞留しにくく、交信かく乱が起こりにくいのかもしれない。
 対照的に、防除してないススキ原では、相変わらず多数のハリガネムシが捕獲され、最高で500頭近くも捕獲されているトラップもある。
 実際に雌の交尾率が低下しているかどうかを確認するために、4月10〜11日に南大東島で成虫の採集を行った。2日間の延べ人数20名で、あちこちのサトウキビ畑を駆け回り、成虫を探し回った。しかし、幕下部ではごくわずかの成虫しか採れなかった。唯一よく採れた場所が、幕上の南海岸近くの畑であった。そこは無防除のススキ原が近いこともあり、交尾率が低下しているかどうか心配ではあった。合計42頭の成虫が採集され、雌が22頭で、そのうち約6割は未交尾であった。同じ時期に、防除をしてない宮城島 (前述の伊計島の隣島) で採集した23頭の雌はすべて交尾していた。これらのことから、南大東島では、交信かく乱は明らかに雌の交尾率を低下させており、このことにより次世代の密度が減ることが予想される。

2000年
2001年
図1 2000年、南大東島における性フェロモントラップによるハリガネムシ成虫の捕獲数(トラップ当たり) 図2 2001年、南大東島における性フェロモントラップによるハリガネムシ成虫の捕獲数(トラップ当たり)
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 成虫の発生が終了した6月初旬に、チューブを撤去し、今シーズンの防除事業は終了した。今年の交信かく乱による防除結果を受けて、南大東島関係者と話し合いをもった。その中で、この交信かく乱による防除で、ハリガネムシはサトウキビ栽培地域では確実に減少するだろうが、同時にハリガネムシの発生源であるススキ原も防除しない限り、根本的な解決にはならない。今年は初めての試みであり、さしあたりほ場における効果を調べたかったため、チューブの設置はほ場と保安林の設置に留め、またサンゴ石灰岩が風化され、岩肌が露出したススキ原の広がる海外部についてはアプローチが難しいため設置を見送った。今後も知恵をしぼりながら、ススキ原にもチューブを設置する手段を検討していくことにしている。来シーズンはススキ原も防除するために、さらに60万本追加して文字通り "島をまるごとかく乱しよう" という結論に至った。島全体で150万本の設置ということになる。このように、この新しい技術による防除は、幾多の問題を抱えながらも、この島の人たちのパイオニア ・ スピリッツによって着実に前進している。

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最後に

 この紙面をお借りして、このハリガネムシ防除事業にご理解をいただき、予算措置に尽力していただいた農畜産業振興事業団に感謝したい。また、本事業が円滑に進むようにご支援いただいた沖縄県農林水産部糖業農産課、同営農推進課、南部農業改良普及センター、病害虫防除所、沖縄県糖業振興協会の皆さんに感謝したい。そして、毎週のトラップ調査や成虫捕獲など苦労の多い仕事を担当していただいた南大東村役所、大東糖業、JA 南大東村の皆さんや南部農業改良及センター南大東村駐在普及員に深謝する。

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「今月の視点」 
2001年9月 
糖尿病と砂糖
東京逓信病院 内科部長 宮崎 滋

南大東島におけるハリガネムシの交信かく乱法による防除
沖縄県農業試験場 サトウキビ害虫研究室 室長 新垣則雄

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