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現在の子どもの生活実態とその対応について

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2001年12月]
 近年、子どもの生活実態は豊かな社会の中で、飽食、ストレス、運動不足等から生活習慣病の代表である肥満が急激に増加してきています。特に食生活においては朝食の欠食、外食の習慣化、ダイエット志向、幼児の孤食化等の問題点が多々あります。このように豊かな社会が生み出した子どもの生活習慣病を防ぐため、日常的な身体活動の増加のほか、規則正しい健康的な生活リズム、食生活のリズムを保ち、1日30品目を目安としたバランス良い食品の摂取が必要とされています。
 現代の子どもの生活実態や食生活、今後の対応について紹介していただきました。

東京女子医科大学名誉教授 和洋女子大学教授
医学博士 村田 光


はじめに
I 今の子どもの生活実態
  1.生活習慣病は豊かで、自由で、平和な生活の落とし穴
2.生活習慣の問題点
 1) 運動不足の子どもたち    2) 疲れている子どもたち
 3) 学校の成績を心配する子どもたち  4) 食生活の問題点
II 具体的な対応について



 第2次世界大戦が終わってすでに50年あまりがたった。この間のわが国の復興は信じられないほどの目覚ましさであった。「であった」 というのは、最近の社会経済的状況はわが国の繁栄にややかげりが見えてきている点を考慮したものである。しかし、戦中、戦後の社会状況を体験した筆者が思うことは、現在の日本の豊かで、自由で、平和な状況がぜひとも維持されるべきであることで、この状況を失ったとしたら、今問題になっている子どもの生活習慣病は消し飛んでしまう代わりに、極端なことをいえば 「食べるものがない」 といった悲惨な状態にもなりかねないと危惧している。
 後で説明するように豊かで、自由で、平和な都市型文化生活には生活習慣病といわれる健康障害が必然的に生じてくるのである。
 これからは生活習慣病を予防しながら、豊かで、自由で、平和な都市型文化生活を享受することの大切さを子どもたちに教えなくてはならないのである。




1. 生活習慣病は豊かで、自由で、平和な生活の落とし穴

 豊かで、自由で、平和な社会・経済的な状況は子どもたちの死亡率、特に乳児死亡率を低下させ、子どもたちの体格をよくすること、すべての子どもが高等教育を受ける機会を均等にするなど子どもたちが好ましい養育環境で生活できる状況を生みだした。反面、このような状況は、(1) 好きなものを好きなときに食べる、(2) 体を動かす必要もないし、動かす時間もない、(3) 社会全体が夜型生活習慣になり、子どもたちが睡眠不足になる、(4) 高学歴社会になり、これは受験勉強を控えて、子どもたちに大きなストレスを与えるといった結果を生みだしている。このような生活習慣の影響を受けて生活習慣病の代表である肥満が小児期にも急激に増加していることを図1に示した。今では学齢期の子どもの10人に1人が肥満している状況になっている。
 生活習慣病は豊かで、自由で、平和な社会・経済的状況で必然的に起こる落とし穴だということをよく認識しておかなくてはならない。

図1 肥満傾向児の頻度推移
肥満傾向児の頻度推移グラフ
(文部科学省学校保険統計調査報告書)

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2.生活習慣の問題点

1) 運動不足の子どもたち
 日本学校保健会の 「児童生徒の健康サーベイランス事業報告」 によると、昭和56年に比較して平成4年では調査前日に学校以外で運動をしたものの割合が減少傾向を示している。この傾向は学年が進むにしたがって強くなり、最近になると小学生で50%、中学生で30%、高校生にもなると10人から20人に1人ぐらいしか、学校以外では運動していないといえる。
 平成10年度の日本学校保健会 「児童生徒の健康状態サーベイランス報告書」 によると、部活動やその他の自由時間で行った運動の1週間総時間数の中央値は、小学校3〜4年生男子で10時間00分、女子で7時間30分、小学校5〜6年生男子で10時間30分、女子で7時間00分、中学生男子で12時間00分、女子で8時間50分、高校生男子で11時間00分、女子で7時間00分であった。これは学校での部活動や休日の運動やスポーツ活動を含めた時間数であり、最も多い中学生男子で1日にすると1時間42分、もっと少ない小学校3〜4年と高校の女子で1時間である。これが中央値であるから多くの児童生徒は日常的に体を動かしていないといってよいであろう。
 また、図2に示したように運動やスポーツをしない理由としてテレビやテレビゲームをして外で遊ばない、勉強などが忙しくて時間がない、場所がない、仲間がいないといったことをあげている。

図2 子どもの運動不足の理由
子どもの運動不足の理由グラフ

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2) 疲れている子どもたち
 平成4年に小・中・高校生を対象に行われた東京都教育委員会の調査で、「ここ1ヵ月ぐらいの間で体の調子が悪かったことは何か」 という問いに対して、眠たい、横になって休みたいと答えたものがそれぞれ60%と40%に達している。同じく平成10年度の日本学校保健会の 「児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書」 によると、眠たいと訴えているものが、小学生3〜4年生男子31.9%、女子34.7%、小学校5〜6年生男子30.8%、女子37.4%、中学生男子55.7%、女子では65.7%に達し、高校生男子61.4%、女子65.3%になっている。
 その理由は図3に示したように、ここ30年ほどの間に起床時間は30分ほど遅くなっているに過ぎないが、就寝時刻は1時間から2時間遅くなっていて、高校生では0時を回ってから床についている状況である。これが平均値であることを考えれば、高校生の半数が0時を過ぎて寝ていることになり、これでは日中眠たいと訴えるのは当然のことだといえよう。

図3 小・中・高校生にみられる起床時刻と就寝時刻の年次推移
小・中・高校生にみられる起床時刻と就寝時刻の年次推移グラフ

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3) 学校の成績を心配する子どもたち
 平成4年度の東京都教育委員会の調査によると、心配事の第1は小学生で自分の体、中学生で学校の成績、高校生で将来のことである。そしてこれとほとんど変わらない頻度で心配だと訴えているのが、小学生が学校の成績、中学生が友達のこと、高校生が学校の成績である。
 このことを受けてと思われるが、受験準備のために学習塾に通っている小・中学生が多くなっている。平成4年の東京都教育委員会の調査では、小学生の44.3%、中学生の58.3%、高校生の13.8%が学習塾に通っており、平成8年度の日本学校保健会の調査では小学校3〜4年生男子で31.1%、女子で26.4%、小学校5〜6年生男子で41.0%、女子で41.5%、中学生男子で52.4%、女子で47.1%、高校生男子で22.3%、女子で10.0%という数字である。現在の子どもたちは勉強や習い事で忙しいのである。



4) 食生活の問題点
(1) 朝食の欠食
 平成10 (1998) 年に行った日本学校保健会の調査では、朝食を食べないことの方が多いとほとんど食べないを合わせると、小学生3〜6年生で3〜4%、中学生で7〜10%、高校生で10〜14%であった。問題は朝食を食べない理由であり、これを図4に示した。「食べる時間がない」 と 「食欲がない」 という回答が90%近くを占めていることからも現在の児童・生徒の生活がいかに夜更かし型になっているかが分かる。
 東京都教育研究所は平成12年4月に朝食抜きは学校でも落ち着きがなく、キレやすいと報告している。

図4
図4

(2) 外食の習慣
 昭和63 (1988) 年と平成6 (1994) 年の国民栄養調査によると1歳から6歳までの子どもを連れた所帯、7歳から14歳までの子どもを連れた所帯、それに15歳から19歳までの子どもを連れた所帯に対する調査によると3日間のうち1回でも夕食を外食で済ませた割合は、それぞれ11.2%と14.3%、11.3%と11.0%、16.5%と20.3%になっている。
 そしてそのとき食べたものは、そば・うどん類、すし、どんぶりもの、カレーライス類、マカロニ類、パン類が60%から70%を占めている。これでは夕食という食事の中ではメインを占めるものであるにもかかわらず、その栄養バランスに問題があることは明らかである。これからは家族の食事の場として外食がますます重要な位置を占めるようになるのであるから、外食産業側も子どもの栄養を考えた食事のサービスをしなくてはならないし、食事を食べる側もこのようなサービスを外食産業に要求する運動を起こさなくてはならないといえる。
(3) ダイエット志向
 最近の子どもたち、とくに中学生以上の女子のやせ願望とダイエット志向は大きな問題である。図5に日本学校保健会が行った調査成績を示した。女子についていえば中学生の約30%、高校生の約50%が実際にダイエットを実行し、中学生の約50%、高校生の約40%がダイエットをしたいと思っているのである。また、男子でも中学生の約9%、高校生の約14%がダイエットを実行し、中学生の約20%、高校生の約24%がダイエットをしたいと思っているのは驚きである。

図5 体重を減らす努力の経験について
体重を減らす努力の経験についてのグラフ

 このような状況の中、小学校高学年にも、甘いものや脂っこいものを控える傾向が見られている。砂糖を含んだお菓子やケーキは食べ過ぎることは問題であっても、運動や勉強をしてかなりのエネルギーを消耗したときなどには、エネルギー補給として効果的である。脂質についても 「脂」 を控える必要はあっても 「油」 は必須脂肪酸を摂取する意味でも必要量は食べなくてはならないものである。
 要は、食べ過ぎはよくないが、小学校高学年から高校生にかけての思春期・成長促進期にある子どもたちは各種栄養素について、その所要量はぜひとも摂取するという原則は守らなくてはならないのである。
(4) 幼児の食生活
 東京都衛生局が行った平成6 (1994) 年の幼児栄養基礎調査では、夕食の世話は保育園児で約90%、幼稚園児で約98%について母親が行っていた。働く母親が多くなっている中で食事の面で母親に負担がかかっていることがうかがえる。
 幼児が家族と朝食を食べる割合を図6に示した。昭和62 (1987) 年と平成6 (1994) 年を比べると家族がそろって朝食を食べる割合が減り、子どもだけで食べる割合が増加している。幼児の4人に1人が朝食を子どもだけで食べていることになり、こういった弧食化がもたらす影響を注目していく必要がある。
 同じ平成6 (1994) 年の東京都の幼児に関する調査で1日に食べた食品数と栄養素の充足率を示したのが図7である。これをみると厚生労働省が提唱している1日30品目以上、少なくとも25品目以上の食品を摂取することで主な栄養素が充足されていることが分かる。このことからもいろいろな食品を子どもが摂取できるよう親がしつけることが望まれる。

図6 一緒に食事をする家族
一緒に食事をする家族のグラフ

図7 摂取食品数別栄養素等充足率
(調査対象の平均栄養所要量=100%)
摂取食品数別栄養素等充足率グラフ

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1. 日常的な身体活動を増加させる

 生活習慣の柱は食事、運動、休養といわれているが、食事については1日中 「飲まず、食わず」 では過ごせないので、誰でも食事に関心が集まるし、休養に関しても1日中 「休まず、眠らず」 ではくたびれてしまうので、食事同様誰でも休養に気を遣うのである。ところが運動 (身体活動) は1日中しなくても、食事や休養のようにどうしても運動しなくてはならないという心や身体の状態にならないのである。このことについて詳しく解説する紙面的余裕がないので結論から言えば、日常的な身体活動を増加させるように働きかけることについては、食事や休養に比べてその動機付けが難しいのである。しかし、現在の子どもの運動不足は深刻であり、これを解決するためには遊びとしてのスポーツを普及させる必要がある。そして、子どもたちがいっている 「時間がない」、「場所がない」、「仲間がいない」 といった問題に対して社会全体が対応することが重要である。

2. 健康的な生活リズムの確立

早寝早起きの習慣、朝食・昼食・夕食といった3食の食生活リズムを規則的なものにすると同時に、1日30品目を目安にした多くの食品を食べることが重要である。これには家族全体がこのような生活習慣を身につける努力が必要であるが、「言うはやすし、行い難し」 の社会状況があるため、結局、子どもに夜型生活、朝食の欠食、摂取する食品の片寄りといったしわ寄せが行くことになる。子どもに関わりを持つすべての人が現在の子どもの生活状況を真摯に受け止めなくては、この問題は解決しないといえよう。

3. 豊かで、自由で、平和な社会・経済的状況の持つ問題点

 一橋大学の中村教授は国民総生産高が1人当たり10,000ドルを超えると個人、個人が勝手な考えで行動し始めるという罠にはまり、その結果様々な弊害が現れると言っている (岩波書店:岩波市民講座 経済発展と民主主義)。簡単に言えば 「贅沢さ」 がもたらす弊害である。子どもの生活習慣病もこの弊害の1つであるが、子どもの場合は本人の責任というよりも大人社会の変化の弊害である。現在の社会はこのことを自覚すると同時に、「贅沢さ」 と 「豊かさ」 の違いを見極め、「豊かさ」 を失うことなく、「贅沢さ」 がもたらす弊害 (生活習慣病もその1つ) を克服する術を考えなくてはならない時期なのである。

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