写真1: |
クムパワピー精糖工場遠景
工場の裏手は川である。 |
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写真2: |
クムパワピー精糖工場内
操業への準備が急ピッチで進められていた。 |
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東北タイ、サトウキビ栽培地帯の中心ともいえるウドンタニ(Udonthani)県にあるクムパワピー(Kumphawapi)製糖工場を訪問した(写真1、2)。クムパワピー製糖工場は1963年設立、創業約40年の工場である。クムパワピー工場は、すぐ近くにあるもう一つのカセットポン(Kaset Phol)工場とともに三井グループの傘下にあり、現在の経営陣も日本人である。今回の訪問では工場長の野村建夫氏と事務部長の武居理英氏から説明と案内を受けた。日本の製糖工場の規模と比較すると非常に大きな工場で、一日の圧搾量は14,000〜15,000トン、1998年以降のデータをみると年間の圧搾量は137万〜169万トンとなっている。ちなみに2001/2002年期の圧搾量は169万4千トンで砂糖の生産量は18万6千トンである。我々が訪問した2002年11月上旬には、まだ、製糖は始まっていなかったが、2002/2003年期には165〜170万トンの圧搾を予定しているとのことであった。通常の製糖期は、乾季の11月下旬から翌年の4月一杯くらいで、製糖歩留(搬入した原料すべてに対する歩留、含むトラッシュ)は約11%、タイ国内では比較的良い方である。従業員は300人で操業期間中(11/28〜4/10;2001/2002年期)は600人と約2倍に増やしている。ここで生産した粗糖は日本を含む世界中に輸出しているが、製糖期間終了後には粗糖の精製も行っている。
製糖工程で生じるバガスはボイラーの燃料として用い、発電を行っている(4基のボイラーで発電量は12000kw)。それでも、2〜3割程度の余剰バガスがでるので、バガスを用いた発電・売電を計画中とのことであった。
タイではほとんどが人力収穫で、ハーベスターはあまり導入されていない。現在、この工場に運び込まれる原料のうち、ハーベスターで収穫された原料は全体の約10%程度である。この地域の農家一戸あたりの平均的な圃場の広さは4〜7ヘクタールであるが、中には1000ヘクタール以上の大面積に作付けしている大きな農家もある。ちなみにこの農家ではハーベスターを4台保有しているという。農家の平均的な収量は、新植で1ライ(=16アール)あたり10トン、株出し1回目で5トン程度である。この地域での栽培における大きな問題点としては、土壌が痩せていることや白葉病・黒穂病が出ていることなどである。クムパワピー工場に搬入される原料サトウキビの品種別構成を示した(表3)。工場管内の農家では、タイ育成の品種Uthong 1の作付けが伸びており、2001/02年の製糖期には62%を占めるようになっている。Uthong 1は収量が高く、株出しも良好であるため農家には人気がある。しかし、工場としては、同品種が晩熟で低糖であることから考えて、その割合が高くなることは歓迎しておらず、早い時期に高糖多収の他品種を導入したいということであった。
タイでも原料の品質取引が行われており、2001/02年製糖期の農家からの原料買い入れ価格は、CCS(可製糖率)10%の時にトンあたり530Bath(バーツ、2003年6月のレートでは100バーツ=285円、530バーツは約1500円である)で、CCSが1%高くなるごとに価格は6%ずつ高くなり、逆に1%低くなると6%安くなるとのことであった。タイでは世界砂糖市場におけるタイ産砂糖の競争力を高めるために、サトウキビ栽培、製糖工程における合理化を推進しており、その目安としてCCS(可製糖率)を測定するためのシステムを各工場に導入し、要員も派遣している。
図1. |
タイ、スパンブリ畑作物研究センターにおけるサトウキビ育種工程概略図
* ()内の数値は選抜した比率。 |
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タイではサトウキビの育種は農業省傘下の畑作物研究所(Field Crops Research Institute)と、工業省傘下のカンチャナブリ サトウキビ研究所(Kanchanaburi Sugarcane Experiment Station, Ministry of Industry)で行われている。また、さらにいくつかの製糖工場も独自に育種に取り組んでいるという。今回、畑作物研究所のなかでサトウキビ育種の中心であるスパンブリ畑作物研究センター(Suphan Buri Field Crop Research Center)と、工業省のカンチャナブリサトウキビ研究所を訪問することができた。ここでは、スパンブリ畑作物研究センターを中心に紹介する。
農業省の畑作物研究所は畑作物全般に関しての試験研究を統括する機関で、本部はバンコクのカセサート大学の敷地内部にある。実際に試験研究が行われているのは、全国各地に散らばる9つの下部組織、畑作物研究センターで、我々が共同研究を実施しているコンケン畑作物研究センター、そしてスパンブリ畑作物研究センターなどがある。それぞれの研究センターでは、その試験研究の対象となる作物は異なっており、スパンブリ畑作物研究センター主な研究対象作物はサトウキビとソルガム、コンケン畑作物研究所ではサトウキビに加え落花生、ケナフ、ジュート、ローゼル等となっている。この他、畑作物研究センターが研究対象としている作物としては、トウモロコシ、大豆、キャッサバ、ゴマ、綿花等がある。
スパンブリ畑作物研究センターはバンコク近郊のスパンブリ県、バンコクからは車で2時間ほどのところにある。ここ20年間ほどの年間降水量は635mm〜1586mmで、少ない年には年間1000mmにも満たない。雨のほとんどは5月から10月に降り、特に9、10月に集中する。乾季となる11月から4月は雨が少なく、特に12、1、2月にはほとんど降らない。年平均気温は29℃である。1965年にウトン(U-Thong)畑作物試験場として設立され、その後、組織改編にともない現在の名称に変更された。このU-Thongの名称は、スパンブリ畑作物研究センターで育成された品種の名前として残っている。同センターの圃場面積は80haである。組織は管理運営部(7名)、育種部(7名)、栽培部(10名)、作物保護部(5名)、種苗管理部(5名)の5部門に分かれている。
スパンブリ畑作物研究センターでは、日本とほぼ同じようなサトウキビ育種のシステムを用いており、交配から新品種を出すまでには10年前後を要する(図1)。製糖用サトウキビでは、毎年約30〜40 組合せの交配を実施し、実生1万〜2万個体が選抜に供試されている(写真3,4,5)。日本の沖縄県農業試験場さとうきび育種研究室では、毎年300〜400組合せの交配を実施し、実生約6万個体を選抜に供試しているが、これと比較するとスパンブリ畑作物研究センターの育種の規模は小さいと言える。一方、工業省のカンチャナブリサトウキビ研究所では毎年約6万の実生個体を選抜に供試しているとのことで、こちらの育種規模は沖縄とほぼ同じである。両国のサトウキビ育種システムにおける際だった違いとしては、実生選抜における選抜率がある。沖縄での選抜率は約5%であるが(実生6万個体のうち2次選抜へ進むのは3000個体)、スパンブリでは2%(実生2万個体としてもうち2次選抜へ進むのは200個体)、カンチャナブリにしても2〜3%で、最初の実生選抜において多くの個体をふるい落としていることがわかる。タイにおける現在の主な育種目標は多収、早期高糖、株出適応性、主要病虫害に対する抵抗性などである。この他、特定の地域向けのサトウキビ品種として耐塩性、耐干性についての選抜も行われている。タイのサトウキビ栽培では、通常、一から数回の株出し栽培が行われることから、品種の育成において株出適応性は重要視される。重要な病害としてはSmut(黒穂病), White leaf Diseases(白葉病), Red rot(赤腐病)などがあり、これらの病害に対しては、育種の過程で抵抗性、耐性を持ったものが選抜されている。また、スパンブリ畑作物研究センターでは製糖用の品種だけではなく、ジュース用、生食用(Chewing cane)の品種育成も行われている。その結果、1996年には多汁で、ジュースの品質に優れる品種Suphanburi 50を出している。近年、タイで育成された主要奨励品種を示した(表4)。