[2005年1月]
〔年頭に当たって〕
新年のごあいさつ
独立行政法人農畜産業振興機構 理事長 山本 徹 |
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平成17年を迎え、謹んで新春のお慶びを申し上げます。
昨年は台風の相次ぐ襲来、新潟県中越地震の発生など天災が多発し、日本各地に大きな爪あとを残し、甚大な被害をもたらしました。罹災された方々に衷心よりお見舞い申し上げますとともに一日も早い復興を祈念しております。
昨年のわが国の砂糖生産は、「食料・農業・農村基本計画」(平成12年3月)の方針に基づき、砂糖の自給率の引き上げ、生産コストの低減、消費の拡大などに努力が払われ、目標達成のための取り組みが行われました。
具体的には、国内の甘味資源作物に関しては、安定生産およびコスト低減に向けた土層改良や優良品種の育成、適時・適切な肥培管理の徹底などによる品質・単収向上、機械化一貫体系の導入、規模拡大のための担い手農家の育成が進められました。
国産糖企業は、製造・流通コストの縮減を図るため、原料受入れ体制の合理化、効率的な製造・流通施設などの整備などが行われました。
精製糖企業は、砂糖の価格競争力の強化を図るため、生産コスト低減に向けて、系列を超えた企業の合併や製糖の共同・委託生産化が実施されました。
この結果、平成16年産の甘味資源作物の国内生産は、てん菜の生産量は、前年を上回る460万3千トンとなり、産糖量も前年を上回る78万9千トンが見込まれております。また、さとうきびは、収穫面積はほぼ前年並みとなりましたが、干ばつによる生育停滞と度重なる台風の襲来による折損・潮害などの被害により、前年を下回る生産量128万9千トン、産糖量14万トンが見込まれております。
一方、砂糖の消費は、砂糖需要の維持・増大に向けたシンポジウムなどの開催や各種広報媒体を活用した普及啓発活動のための取り組みにもかかわらず、消費者の低甘味嗜好や砂糖に対する誤解などを背景として減少傾向が続いております。
今後とも、依然として大きい内外価格差、国際化の進展などを踏まえますと、原料作物の生産から製造・流通に至るまで、なお一層のコスト削減が求められるとともに、砂糖需要の維持・増大に向けた各分野での取り組みが重要です。
農林水産大臣から当機構に示された中期目標の中では、「国内産糖と輸入糖との価格差、てん菜・さとうきびの生産の省力化の遅れなどの課題に対応し、てん菜に関しては、直播栽培などによる生産の省力化(基本計画に掲げる労働時間の2割程度の減少)などを通じた計画的な生産、さとうきびに関しては、機械化一貫体系の導入などによる生産の省力化(基本計画に掲げる労働時間の6割程度の減少)、優良品種の導入や新たな技術の普及などによる生産性の向上(基本計画に掲げる収量の1割程度の増加、生産コストの3割程度の低減)などを通じた国内生産の維持増大に資するよう、砂糖の価格調整に係る業務及び砂糖に係る補助業務を実施する」とされています。
この目標に沿って、機構といたしましては、輸入糖・異性化糖の売買業務、国内産糖交付金の交付業務による価格調整業務を着実に実施することはもとより、砂糖生産振興資金を活用した補助業務として、てん菜・さとうきびの生産・流通コストの低減を促進するための事業および国内産糖企業・精製糖企業における製造コストの低減などを促進するための事業ならびに砂糖に対する理解の促進のための事業に今まで以上に、適正かつ効率的に取り組んでまいる所存です。
砂糖は、心と体に活力と安らぎをもたらし、国民の健康な体づくりに役立つ重要な食品であるとともに、調理面でも様々な効用があります。例えば、砂糖は、即効性のあるエネルギー源であるため、すばやい疲労回復に有効であり、特に脳にとって有効です。また、ストレスの緩和やうつ病の予防に有効であるとの研究報告もあります。しかし、肥満や糖尿病の直接的な原因となると言った誤解が依然として根強く残っています。砂糖は炭水化物の一種であり、1グラム当たりのカロリーも米麦とほぼ同じ4キロカロリーです。
このような様々な砂糖に関する正しい知識、情報をできるだけ分かりやすく消費者に提供していくことが機構の重要な使命です。
このため、機構ホームページ、刊行物を通じた情報の提供とあわせて、食に関するフォーラム、各種セミナー、消費者代表との意見交換会などをより一層充実してまいります。また、科学的なデータに基づく情報提供を実施するため、医学、栄養学、心理学および体育学などの幅広い研究者を対象とした公募による砂糖に関する学術調査を実施します。
現在、農林水産省においては、平成17年を目途に新たな食料・農業・農村基本計画の策定に向けて検討作業がされておりますが、昨年8月10日には食料・農業・農村政策審議会企画部会から「中間論点整理」が報告され、その枠組みに即し、個別品目としての砂糖及びでん粉に関する制度・施策のあり方を検討するため「砂糖及びでん粉に関する検討会」が8月30日に設けられ、現在精力的に検討が行われており、今年3月下旬には大綱とりまとめが予定されております。
最近の国際情勢について見ますと、WTO農業交渉は、紆余曲折を経て、昨年7月にドーハ・ラウンドの枠組み合意が行われました。この枠組み合意では、(1)貿易歪曲的な国内支持が多い国ほど大幅に削減を行う、(2)輸出信用を含む輸出補助金を期日を設けて撤廃する、(3)一般の品目は高関税ほど大幅に削減する階層方式を採用するが、センシティブ品目は別の取り扱いを行うこととなっています。今年は、12月に香港で開催される第6回閣僚会議に向けて具体的な数値の入ったモダリティ(国内支持、市場アクセス、輸出競争などの規律の大枠)確立に向けて交渉が行われることになります。
2国間の貿易協定である自由貿易協定(FTA)については、日本は既にシンガポールとメキシコの間で締結しており、シンガポールとの協定は平成14年11月30日に発効し、メキシコは本年中に発効する予定となっております。現在、タイ、マレーシア、フィリピン、韓国との交渉が進められていますが、昨年11月には、フィリピンとの交渉が大筋合意し、その中で粗糖は、協定発効後4年目に再協議することとされたところです。
今後ともWTO農業交渉、FTA交渉に当たっては、国内の農業改革との整合性を保つとともに、農林水産業の多面的機能への配慮、食料安全保障の確保など、各国が持つそれぞれの事情を踏まえた上で、多様な農業が共存できるよう、慎重な交渉が進められるものと理解しております。
当機構は一昨年10月、農畜産業振興事業団と野菜供給安定基金が統合し、独立行政法人として発足しましたが、発足以来1年3ヵ月、皆様方のご支援、ご協力により、順調に業務の運営を進めることができたと考えております。改めて御礼を申し上げます。
独立行政法人全体に対しましては、透明性の確保、一層の効率化などの観点から業務組織の不断の見直しが厳しく求められており、当機構におきましてもIT化の推進などによる効率的な組織業務運営に努めるとともに、時代の要請に即応した業務展開を図り、農畜産業および関連産業の健全な発展ならびに国民消費生活の安定に努力してまいる所存です。
今後とも、皆様方の格別のご支援、ご指導を賜れば幸いでございます。本年が皆様方にとって希望の持てる年となりますことをご祈念申し上げ、年頭のあいさつといたします。