[2004年8月]
北海道農政部農産園芸課
1. 北海道農業の概要
(1) 地域ごとに特色ある農業を展開
北海道の本格的な開拓の歴史は、明治2年の開拓史の設置に始まり以来135年が経過しました。この間、寒冷で積雪期間が長いなど厳しい気象条件の下、欧米の近代的な農業技術の導入や火山灰、泥炭等の特殊土壌の改良等が進められ、今日では生産性の高い我が国最大の食料供給地域となっています。
本道の総土地面積は、東北6県に新潟県を加えた面積より大きく、地形的にも大きな広がりをもち、気象や立地条件が地域によって異なることからそれぞれの地域ごとに特色のある農業が展開されています。
道南地域では温暖な気候を生かして、野菜や米を中心に馬鈴しょ、豆類等の畑作物を加えた集約的な農業が営まれ、道央地域では水資源が豊富で夏季に比較的高温となることから、米や野菜等を主体とした農業が展開されています。
道東や道北地域では広大な農地を生かし、EU諸国の水準に匹敵する大規模で機械化された畑作や酪農が行われています。
(2) 広大な土地を生かした専業的大規模経営
本道では、恵まれた土地資源の下、大規模で専業的な農家を主体とする農業が展開されており、平成15年の1戸当たりの耕地面積は17.2haと、都府県平均1.2haの約14倍の規模となっているほか、1戸当たりの乳用牛飼養頭数は2倍余、肉用牛飼養頭数は約6倍となっています。
販売農家では、基幹的農業従事者に占める50歳未満の割合が都府県の約14%を大幅に上回る38%となっており、本道農業は比較的若い専業的農家によって農業生産の多くが担われています。この販売農家のうち農業所得を主体とする農家(専業農家+第1種兼業農家)の割合は本道では85%と都府県の32%に対し極めて高く、また、農家所得に占める農業所得の割合(農業依存度)についても都府県の17%に対し、本道は71%と高く、農業地帯といわれる東北や九州を大きく上回っています。
本道と都府県の経営規模等の比較(15年)
区 分 |
単位 |
北海道(A) |
都府県(B) |
(A)/(B) |
耕地面積(1戸当たり) |
ha |
17.2 |
1.2 |
13.9 |
乳用牛飼養頭数(1戸当たり) |
頭 |
93.9 |
41.5 |
2.3 |
肉用牛飼養頭数(1戸当たり) |
頭 |
141.3 |
24.9 |
5.7 |
基幹的農業従事者(販売農家)の うち50歳未満の割合 |
% |
38.3 |
13.8 |
2.8 |
資料:農林水産省「耕地及び作付面積調査」、「畜産基本調査」、「農業構造動態調査」
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販売農家の専兼別戸数の比較(15年)
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地域別農業依存度の比較(14年)
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(3) 我が国最大の食料供給地域
本道は、我が国最大の食料供給地域といわれるように、多くの農産物が都道府県別で全国一の生産量をあげ、15年の生産量では水稲の全国シェアは6%で新潟、秋田に次ぐ第3位となりましたが、畑作物では全量が北海道で生産されているてん菜をはじめ、いんげん、小豆、馬鈴しょ、小麦、大豆が全国1位となっています。野菜はたまねぎ、かぼちゃ、スィートコーン、にんじん、だいこん等が国内最大の産地となっています。
また、畜産部門では生乳が全国の40%以上を占めているほか、牛肉、軽種馬も全国第1位となっています。
農産物生産量の本道シェア(15年)
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(4) 全国の1割を超える農業産出額
14年の農業産出額は、耕種部門では麦やてん菜の作付けが拡大するとともに、作柄も前年を上回り生産量が増加したものの、水稲の生産量及び価格の低下、いも類の価格の低下等によりほぼ前年並みの5,716億円(前年比99.7%)となりました。一方、畜産部門では乳用牛の増加による生乳生産量の増加等により4,845億円と前年を上回りました(前年比102.2%)。
この結果、本道の農業産出額は1兆563億円となり前年をわずかに上回り(前年比100.8%)、全国に占めるシェアは11.8%と0.1ポイント上昇しました。
作目別の構成比の推移をみると、耕種部門については米のシェアが40年の3分の1以下の11.2%に低下する一方で、野菜と花きが大幅に拡大してきましたが、近年は横ばい傾向にあります。
また、畜産部門は40年と比較すると肉用牛、乳用牛が大幅に伸びておりますが、近年の乳用牛は微増、肉用牛は横ばい傾向にあります。
農業産出額の構成比を全国と比較すると、広大な土地資源を活用した畑作や酪農等土地利用型農業の比率が高く、果実や花き等の園芸作物や中小家畜等の施設型農業の比率が低いことが特徴となっています。
(5) 本道経済に重要な位置を占める農業と関連産業
北海道内の総生産(出荷ベースの総生産額から資材費等の中間投入額を差し引いた 額)に占める農業の割合は2.3%ですが、全国の2倍余となっており依然として重要なウエイトを占めています。
農業は、肥料、農薬等の生産資材や農業機械、農産物を原料とする食品加工、運輸・流通等広範な産業と密接に結び付いています。特に乳製品、砂糖、でん粉等の製造業は地域に密着し地域経済を支える基幹産業として、本道経済に重要な地位を占めています。
2. てん菜の栽培
我が国におけるてん菜の栽培は、1870(明治3)年、西洋作物種子導入政策によって、内務省(勧農局)が海外から導入したてん菜種子を東京府(開墾局)において栽培が試みられたのが最初で、翌年には北海道開拓史の札幌官園で栽培試作されました。
その後、現在に至るまでてん菜は、我が国の重要な甘味資源作物となっているとともに、本道の畑作農業における輪作の基幹作物として欠かせない作物となっています。
(1) 最近のてん菜の栽培
北海道のてん菜は、過去20年以上にわたって7万ha前後の安定した作付面積を維持し、本道畑作経営における輪作体系を維持していく上での基幹的な役割を果たしてきました。
また、てん菜糖業は地域において、てん菜の集荷、製造、販売を行うとともに地域の基幹産業として、地域経済の発展の重要な役割を果たしてきております。
このような状況の下での最近のてん菜の作付状況は、農業団体が定める作付指標を下回って推移しておりましたが、平成13,14年産が連続して高収量、高糖分となったことから、15年産は前年に比べ1,300ha増加し、67,900haとなりました。
一方、栽培農家戸数は年々減少しており15年産では1万戸余となっており、昭和60年と比較すると約2分の1となる反面、1戸当たりの作付面積は6.5haと約2倍になっています。1戸当たりの作付面積の拡大に伴い、省力化栽培技術の直播栽培が増加傾向にありますが、移植栽培に比べてやや収量が下回ることや、初期生育時に風霜害を受けやすいなどのデメリットもあることから、作付面積に対する割合は15年産で4.5%と伸び悩んでいる状況にあります。
てん菜の作柄は、これまで根中糖分が高い年は収量が低く、収量が高い年は根中糖分が低い傾向で推移してきました。15年産は春の融雪が遅く、移植作業も平年よりやや遅れ、5月には干ばつや霜害が発生したものの、その後は順調に推移し、夏期はてん菜の生育に適した涼しい夏となり、秋の降雨も少なかったことから、ヘクタール当たり収量は史上最高を記録した前年に次ぐ61.3tとなりました。根中糖分も史上最高であった平成5年産の18.0度と並び、単収、糖度とも良好な作柄で過去最高水準の前年産を超える豊作となりました。
てん菜の作付状況
資料:農林水産省「作物統計」、北海道農政部調べ
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てん菜の単位収量と平均根中糖分の推移
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(2) 16年てん菜の生産振興
てん菜は、本道の冷涼な気候に適した作物であり、畑作の輪作体系を構成する重要な作物となっています。また、てん菜糖業は地域経済の重要な基幹産業となっていることから、本道の畑輪作の維持・確立とともにてん菜糖業の安定操業も勘案し、農業団体が推進している作付指標面積(68,000ha)の下で、計画的な生産に努めています。
栽培においては、てん菜は深根性で酸性土壌や排水不良土壌では生育が抑制されやすい作物であるため、適正な輪作や栽培管理の実施と併せて、計画的な明暗渠、心土破砕や浅層排水等土地基盤の整備による透排水性の改善を図る必要があります。
なお、平成15年度に新たに3品種(「KWS0213」(あまいぶき)、「H129」(アセンド)、「HT21」(フルーデンR))が北海道の優良品種として認定されました。てん菜の低コスト生産、品質及び収量の安定を図るため、従来の優良品種と併せて地域に適応した優良品種を選択し、栽培技術の改善や農業経営の合理化を促進するとともに、生産振興総合対策事業や独立行政法人農畜産業振興機構の砂糖生産振興事業の活用による栽培技術の改善とその普及指導、試験研究における成果の普及推進を図る必要があります。
3. おわりに
砂糖及び甘味資源作物については、「新たな砂糖・甘味資源作物政策大綱」に基づき、砂糖の価格競争力の強化による需要の維持・増大を目指し、関係者が一体となった取組みを進めているところですが、大幅な需要回復には至らずさらなるコスト低減努力が求められている状況の中で、北海道畑作の持続的な発展に欠かせないてん菜の安定した生産体制を推進するためには、関係機関・団体が連携した効果的な取組みを積み重ねていくことが重要であると考えます。