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砂糖の適時・適正摂取は身体の働きにどのように影響するか

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最終更新日:2010年3月6日


1. はじめに
 一般に砂糖といえば、ショ糖を意味する場合が多い。ショ糖は、ブドウ糖(グルコース)と果糖(フラクトース)からなる二糖類である。砂糖はエネルギー源として重要であるのはもちろん、食品の保存、甘味調味料として使われており、私たちの食生活に欠かすことのできないものである。砂糖が肥満、糖尿病、う歯などの原因となるとも言われているが、これらは必ずしも砂糖単独の摂取により引き起こされるものではないと考えられる。肥満は、摂取エネルギーと消費エネルギーのバランスが問題であり、糖尿病は、遺伝的背景や、肥満、運動、ストレスなど様々な要因が絡んでいる。う歯についても多くの原因で起こるものであって、食事の後などの口腔衛生の習慣を身に付けることが必要となってくる。
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2.砂糖は大切なエネルギー源
 私たちは毎日、米、魚、野菜など様々な食物を食べて生活している。身体は、主として様々な食物から得られた、たんぱく質、脂質、糖質という三大栄養素をエネルギー源として活動している。エネルギーは身体活動や、体内の内部環境を維持するために必要である。食事由来のエネルギーのうち、半分以上を炭水化物が占めているが、現在の日本人の食事は、従来よりも炭水化物が少なく脂質の多い欧米型の食事内容になってきた1)(図1)。こうした中で、国民栄養調査による砂糖の摂取量の年次推移をみると、1日1人当たりの砂糖の摂取量は減少傾向にある1)(図2)。また、食料需給表をみても砂糖の供給量は減少してきている(図3)2)。最近では、低カロリー甘味料への需要が高まっている。このような需要は、体重をコントロールしようと願う人や、その必要がある糖尿病患者、また糖分を減らした食品に対する消費者の嗜好性が高まっていることなどから生じている3)
図1 エネルギーの栄養素別摂取構成比(年次推移)
図1
図2 砂糖摂取量の推移(全国、1日、1人あたり)
図2
平成14年国民栄養調査結果より
図3 砂糖供給量の推移(1日、1人あたり)
図3
平成14年食料需給表より
 私たちの体内の多くの器官・臓器はエネルギー源として、たんぱく質、脂質、糖質などを利用しているが、私たちの思考、行動のコントロールなどを行っている脳は、エネルギー源として、ブドウ糖しか利用することができない。ブドウ糖は、私たちが生活していくためのエネルギー源として必要不可欠である。
 私たちが日常摂取する食品の中にブドウ糖そのものが含まれていることは少なく、摂取された糖質が体内でブドウ糖へと形を変えていく。デンプンなどの多糖類は、消化管中でα−アミラーゼという消化酵素によって、分解されてデキストリンや麦芽糖(二糖類)になり、小腸に移動するとシュクラーゼ、マルターゼ、ラクターゼ等の消化酵素によって分解されて、ブドウ糖などの単糖類になり、小腸から血液中に吸収される。また、二糖類であるショ糖も、シュクラーゼによって分解されて、その構成成分であるブドウ糖と果糖になる。小腸で血液中に吸収された食物の成分は、ほとんどが門脈を通って肝臓に入り、それから全身に運ばれるが、果糖は肝臓中で酵素の働きによってブドウ糖に変えられる。ショ糖も、すべてブドウ糖となって全身を循環する4) 5)。ブドウ糖の血中濃度(血糖値)は、常に一定範囲内に保たれるように調節されている。
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3.脳はたくさんのエネルギーが必要
 脳の神経細胞は、ブドウ糖が代謝され、二酸化炭素と水ができる際に発生するエネルギー物質(ATP)を利用して活動している。脳は、全体重の2%にしかすぎない重さであるにもかかわらず、全体の20%ものエネルギーを消費しており、エネルギーを多く必要とする器官である6)。これに対して全体重の約50%を占める骨格筋のエネルギー消費量は脳とほぼ同じである3)。このことからも脳が多くのブドウ糖を必要として、エネルギーを消費していることが分かる。
 脳のエネルギー源となるブドウ糖は、脳にほとんど蓄積することができない。また、筋肉や肝臓に貯蔵できるグリコーゲン量もごくわずかであるため、私たちは、絶えずブドウ糖の供給を必要としている。血中にはブドウ糖を約20gしか貯蔵できないため、肝臓や筋肉の細胞で、多く摂取した分のブドウ糖を重合しグリコーゲンとして蓄える。ブドウ糖を過剰摂取したときは脂肪細胞や、肝臓の細胞で脂肪へと変わり、肥満の原因となる。肝臓のグリコーゲンは、空腹時など血糖が低下したときにブドウ糖に分解され、血液中に移行し細胞に送られ利用される。このようにして、血糖値を一定範囲内に保っている。
 ブドウ糖から効率よくエネルギー生成を行うためには、肉類や緑黄色野菜に多く含まれるビタミンB1、B2なども十分に摂ることが必要となり、栄養バランスのよい食事を摂ることが必要不可欠となる。また、体内に効率よくエネルギーを供給するには、1日3度の食事を栄養バランスよく摂る必要がある。エネルギー消費量の高い人は1日3度の食事だけではなく、補食を摂ることによって適時エネルギー補給を行うことも必要となってくる。特に、身体や脳が発達期にあり、運動量が多い子供や、身体活動量の多いスポーツ選手などは多くのエネルギーを必要としている。間食は不足しているエネルギーや栄養素を補うために有効である。砂糖の主成分であるショ糖は、ブドウ糖と果糖が結合している二糖類であるため、ごはんやパンなどのデンプンに比べて、摂取した時に体内での消化、吸収が早く、インスリン分泌も高い。砂糖を使った甘いお菓子などは即効性があり、適切な摂取量であれば大切な栄養補給源となる。
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4.朝食をしっかり食べて効率UP
 私たちは毎日睡眠をとって休息しているが、脳は寝ている間にも働き続けており、1日24時間絶えずエネルギーを消費している。このため、朝、目が覚めた時、脳のエネルギー量は少なくなっている。寝ている間に少なくなったエネルギーを補給し、朝から脳の働きを活発にしてくれるのが朝食である。朝食を食べることによって、体温があがり、脳に血液が行き渡り、脳が働きはじめる。したがって、朝食を摂らないと、学校での勉強や運動、会社での仕事など、脳の神経細胞を活発に働かせることができなくなる。
 平成14年度国民栄養調査によると、朝食の欠食率は男女共に15〜19歳で高くなり、20代で最も高く男性26.5%、女性20.6%という結果であった1)。平成12年に出された健康日本21では、2010年までに朝食を欠食する人の減少(中学生・高校生:0%、男性(20歳代、30歳代)15%以下)を目標として掲げている7)。しかし、現状は目標と異なり欠食率が増加傾向にある。
 朝食摂取の有無と脳の働きに関してはこれまで多くの研究がなされてきている。朝食を食べない子供には、精神的不安定に加えて学力、体力の低下、栄養の偏りなど様々な問題があるといわれている。
 平成15年度児童・生徒の学力向上を図るための調査結果(東京都教育委員会)をみると、「学校に行く前に朝食を摂るか」という質問に対して、「必ずとる」、「たいていとる」と答えた者が87.3%であり、「必ずとる」、「たいていとる」という者のテストの得点は高いと報告されている8)。平成13年度教育課程実施状況調査(国立教育政策研究所)においても、同様の結果が得られており、基本的な生活習慣(この場合は朝食摂取習慣)が身についている人はテストの得点が高い傾向にあると報告されている9)(表1)。
 朝食欠食の理由としては「夜遅い時間に食事をするために朝起きたときに食欲が無い」、「出かける時間ぎりぎりまで寝ているため朝食を食べる時間が無い」など、夜型の不規則な生活習慣が身についていることが考えられる。朝食を欠食している人は、午前中、活動し始めても、血中のブドウ糖濃度が低いために、脳へのブドウ糖供給が不十分になり、集中力が欠けたり、判断力が鈍ったりと脳が働きにくくなる。朝からしっかりと脳を活性化させて、効率良く仕事や勉強をするためにも、栄養バランスの整った朝食を摂ることが大切であるといえる。
表1 学校に行く前に朝食を摂りますか?(中学2年生)
表1
*数値は、標準化した得点、( )内は、単純無作為抽出とした場合の標準誤差
 平成13年度教育課程実施状況調査報告書(国立教育政策研究所教育過程研究センター)より
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5.砂糖摂取による学習能力向上効果の検討
 日常生活の中では、どんなに疲れを感じていても作業を続けなければならないときがある。疲れを感じたまま仕事を行っていても効率が悪くなる一方である。こんなときに脳の働きを高めるためにはどうしたらよいだろうか。そこで、砂糖摂取による学習能力向上効果の検討を行った10)
【目的】 一定の作業を長時間続ける場合には、適度な間隔で休憩をとることが大切である。その際、適当な飲料、食物を適量摂取することは作業量の維持、向上につながると考えられる。本研究は、単純な計算作業に対するコーヒー、砂糖、チョコレート摂取の影響を検討することを目的とした。
【方法】 対象者は健康な女子大学生98名(年齢は18歳〜20歳)である。朝食は、各自が自由に摂取した。試験開始時の条件をできるだけ均一にするために、昼食は全員が同じ弁当(565kcal)を摂取、以後試験終了まで飲食は禁止した。試験は1日の講義終了後(16時30分)より、内田クリペリンテストを実施した。内田クリペリンテストは、1分間あたりに1桁の足し算をどれだけできるかを調べるもので、前半後半それぞれ15分間作業を継続する。まず15分間にできるだけ多くの1桁の足し算を行い、15分間休憩をとった。この休憩時間の最初の10分間に飲食を行い、休憩終了後さらに15分間作業を行った。休憩前後の計算作業数から休憩時の飲料の効果を比較した。休憩時の飲食は湯(140ml、温度80℃)、コーヒー(140ml+インスタントコーヒー2g)、コーヒー+砂糖(4g)、コーヒー+チョコレート(13.5g、砂糖として約4g)の4種類とし、1人が全ての飲料試験を実施するように試験は4日間行った。試験は4種の飲料の摂取順序がランダムになるように24グループにわけて実施した。
【結果】 前半後半の計算作業量は、いずれの飲食時においても、休憩後の方が有意に多くなった(p<0.001)(表2)。前半後半の作業量の差は、湯摂取時では平均66であったのに対して、コーヒー摂取時では平均100、コーヒー+砂糖摂取時では平均103、コーヒー+チョコレート摂取時では平均110と、3グループとも有意に増加した。湯摂取時を除く3グループ間の比較では有意な差は認められなかった(図4)。
【考察】 前半と後半の計算作業量を比較してみると、どのグループにおいても後半の方が作業量が多くなっていることから、連続した作業を行う際に適度な間隔で休憩をとることは、再度、集中力を高め作業能力を維持、あるいは亢進させるために必要なことであるといえる。今回の試験では、コーヒーに含まれているカフェインの影響が強く見られ、砂糖、チョコレート摂取の有用性を明確に示すことはできなかったが、砂糖やチョコレートを加えることで作業量は少し増える傾向にあった。血糖が低下し、脳へのブドウ糖の供給が不足すると、身体の中の中枢機能が低下し、記憶力や集中力の低下が起こる。集中力や判断力を高めるためにも、脳を活性化させる唯一のエネルギー源であるブドウ糖を補給することは、脳の再活性化が期待でき、有用であると考える。コーヒーに砂糖を入れて飲むことや、コーヒーはブラックが好きという人でも、ブラックコーヒーにチョコレートやキャンディーなど砂糖を含んだ甘いものを一緒に摂取することは、集中力を高め作業能力を維持、あるいは亢進させるために必要なことであるのではないだろうか。
表2 休憩前後の計算作業量、および前後の差(平均値) n=98
表2
図4 休憩前後の計算作業量の差(平均値) n=98
図4
*:湯摂取時に対して有意差あり(P<0.001 ANOVA、Bonferroni多重比較)
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6.砂糖摂取によるストレス緩和効果
 疲労やストレスがたまると甘い食べ物が欲しくなる。これは、糖質が不足していると身体が訴えるからである。脳において、砂糖の摂取はエネルギー供給だけではなく、精神安定においても有効とされる。ストレスには脳の松果体でトリプトファンというアミノ酸から合成されるセロトニンが関係するといわれている。トリプトファンは体内で合成されない必須アミノ酸であるため、必ず食物として摂取しなければならない。インスリン分泌を刺激するデンプンや糖を摂取するとバリン、ロイシン、イソロイシンなどの分岐鎖アミノ酸が筋肉に取り込まれ選択的に血漿中濃度が低下する。このことにより、脳内でトリプトファンから5−ヒドロキシトリプタミン生合成の誘導が起こるため、高炭水化物を摂取した後には、眠気や気分の変化が生じると説明されている3)。糖類の摂取でインスリン分泌が高まると、トリプトファンは脳内に取り込まれやすくなる11)。疲労やストレスがたまった時、一口チョコレートを食べることや、砂糖入りの紅茶、コーヒーなどをコップ一杯飲むことで糖質を摂取し、脳内セロトニンのレベルをあげることで、ストレス解消に有効であると考えられる。特に砂糖は消化吸収が早く、インスリン分泌も高いので、短時間での疲労回復やストレス解消が期待できる食品である。
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7.運動と糖供給
 私たちが健康な日常生活を送るためには栄養バランスのよい食事を摂ることと共に、適度な運動を行うことも大切である。運動のためのエネルギーは、糖質と脂肪を体内で酸化して生産される。糖質の摂取は運動能力にも影響を及ぼす。不適切な糖質摂取の仕方を行うと運動能力を阻害してしまうこともある。一般的に、運動中にグリコーゲンが分解されてブドウ糖になり、ブドウ糖がエネルギー源として使われる。運動中の糖質補給の目的は筋肉中のグリコーゲン量の低下を防ぐことである。運動中の糖質補給は特に、マラソンなど持久性運動を行っているときに有効であるといわれている。運動継続中に何回かに分けて摂取する方法がインスリンレベルを上げることがなく糖質の補給ができる。糖質の摂取と同時に、水分補給も大切になる。また、運動をした後は身体の筋肉が分解されている。糖が不足している状態にあり、十分な糖質を摂取せずにいると、グリコーゲンの回復が遅れ、後の競技力に支障が生じることがある。運動をした後は、できるだけ早く糖質を摂取し、グリコーゲンを回復させることが必要となる12) 13) 14)
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8.まとめ
 砂糖は食品の保存、甘味調味料として使われており、私たちが健康に生き生きと生活していくために欠かすことのできない食品である。肥満、糖尿病、う歯などの生活習慣病の原因となりうると言われているが、肥満はエネルギーの摂取と消費のバランスが原因であり、砂糖単独の摂取により起こるものではない。
 私たちの思考、行動のコントロールなどを行っている脳はブドウ糖を唯一のエネルギー源としている。ブドウ糖は、ほとんど脳に蓄積することができないため、また、筋肉や肝臓に貯蔵できるグリコーゲン量もごくわずかであるため、絶えずブドウ糖の供給を必要としている。脳のブドウ糖が不足すると、身体の中枢機能が低下し、記憶力や集中力の低下が起こる。疲労やストレスによって血糖が低下した脳のブドウ糖を補給し、集中力や判断力を高めるためにも、脳を活性化させる唯一のエネルギー源であるブドウ糖を補給することが必要となる。特に砂糖はブドウ糖と果糖からなる二糖類であるため、体内での消化吸収が早く、インスリン分泌も高いので、短時間で疲労回復やストレス解消が期待できる食品である。

参考文献
1) 健康・栄養情報研究会:国民栄養の現状 平成14年国民栄養調査結果、第一出版、p30、p48、p211、2004
2) 農林水産省総合食料局:食料需給表、農林統計協会、p178-179、2004
3) 細谷憲政:ヒューマン・ニュートリション−基礎・食事・臨床−、医師薬出版、p40、p419、p751、2004
4) 足立己幸 他:砂糖、女子栄養大学出版部、p103-104、1979
5) 武藤泰敏:消化・吸収、第一出版、p235-263、2002
6) G.H.Anderson,木村修一、足立堯:糖質と健康、建帛社、p6-7、2003
7) 健康・体力づくり事業財団:健康日本21(21世紀における国民健康づくり運動について)、p8、2000
8) 東京都教育委員会:平成15年度児童・生徒の学力向上を図るための調査報告書、P36、2004、
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/buka/shidou/15gakuryoku/honbun.pdf
9) 国立教育政策研究所教育課程研究センター:平成13年度小中学校教育課程実施状況調査結果概要について、p22、2002、
http://www.nier.go.jp/homepage/kyoutsuu/02_result/02_summary.pdf
10) 第51回日本栄養改善学会(金沢)にて発表 2004
11) 中川八郎:ブレインサイエンスシリーズ 脳の栄養、共立出版、p61-68、1988
12) 日高秀昌 他:糖と健康、学会センター関西、p25-39、1998
13) 下村吉治:スポーツと健康の栄養学、ナップ、p29-43、2002
14) 伏木亨 他:スポーツと栄養と食品、朝倉書店、p1-6、1996
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「今月の視点」 
2004年10月 
砂糖の適時・適正摂取は身体の働きにどのように影響するか
 女子栄養大学 助教授 上西 一弘  石田裕美  庄司伸絵
慢性関節リウマチのモデル動物を用いた病態発症に対する
 黒糖摂取の効果について
(平成15年度砂糖に関する学術調査報告から)
 鹿児島大学理学部生命化学科 助教授 笠井 聖仙
砂糖についての大学生・母親アンケートから
 滋賀大学名誉教授 岡部 昭二


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