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慢性関節リウマチのモデル動物を用いた病態発症に対する黒糖摂取の効果について

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2004年10月]

【調査・報告〔医学/健康〕】
鹿児島大学理学部生命化学科
助教授  笠井 聖仙

【序論】  【実験方法】  【結果】  【考察】  【要旨】


【序論】
 慢性病態の1つである慢性関節リウマチには臨床的に種々の疾患がみられ、そのメカニズム解明および治療法開発のため多くの研究が行なわれてきた。ヒト慢性関節リウマチのモデル動物の1つであるアジュバント関節炎ラットはこれまで多くの研究者により用いられ、その病態の特徴は体重増加の抑制や投与部位から離れている後肢の腫れが観察される、というような全身性の炎症である(Freund, 1951)。アジュバント関節炎ラットにおける体重減少や後肢の腫れは、鎮痛剤であるモルヒネやカプサイシンの投与により減弱する。しかしながら、いずれもその抑制効果は少なく、それら薬物投与による副作用が予測される。
 ヨーロッパではスクロース(ショ糖)は胃腸によく、腎臓や膀胱の痛みを和らげる薬として古くは用いた。日本でもスクロースは保存剤として古くから用いられ、今でも褥創(床擦れ)の治療に使われている。またスクロースは脳細胞の細胞死の防止に有効であるという報告がある(Aghajanian, 1989)。また筆者は、スクロース溶液およびNaCl溶液の自由摂取でアジュバント関節炎ラットの発症率が抑えられることを示唆する結果を得た(未発表)。このように今後もスクロースの未知の有用性が期待される。
 黒糖は貧血防止にも効果の高い鉄分や血中の糖の上昇を抑制するクロムなどのミネラル類を多く含み、血清コレステロールや中性脂肪を低下させる作用や抗酸化作用をもつと言われている(仲宗根ら、1994;Nakasone et al., 1996)。黒糖にはこれらミネラルとともにスクロースも含まれているので、関節炎の予防薬としての効果が期待される。そこで本研究では慢性関節リウマチのモデル動物の1つであるアジュバント関節炎ラットにおいて体重、摂食量、血中物質の変化およびアジュバント関節炎発症率に対する黒糖摂取の効果について調べた。
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【実験方法】
1 実験動物
 実験動物はSPF/VAFラット{系統LEW/Crj(Lewis)}の体重60-80g 前後の雄を日本チャールス・リバー株式会社から購入した。飼育実験室は12時間明、12時間暗(7時 light on)の条件下で室温26±1℃に維持し、1ケージ(220×390×150mm)に1匹で飼育した。飼料(餌)としては、日本クレア社製CE-2飼育繁殖固形飼料を与え、水は蒸留水を与えた。
 実験は対照群、黒糖水摂取群、黒糖摂取群の3つのグループに分けて行い、それぞれのグループで無処置と関節炎誘起処理(関節炎)を行った(表1)。
 対照群では餌、水を自由摂取させ、黒糖水群では鹿児島市内で入手した沖縄産黒糖20g を100ml 蒸留水に溶かしたもの(黒糖水)を餌とともに、結核死菌投与4日前から与えた。黒糖群は結核死菌投与10日前から黒糖の塊とともに餌、水を自由摂取させた。
表1 実験動物のグループ分け
表1
○は餌および水を与えていることを表し、黒糖水は黒糖20gを蒸留水100 驍ノ溶かしたものを用いている。黒糖塊は2cm以下に砕いた黒糖を与えた。nの数字は調べたラットの匹数を表している。
1 アジュバント関節炎ラットの作成
 フロイント完全アジュバント(Complete Freund Adjuvant:CFA)には、ウシ型結核死菌(Mycobacterium.Butyricum, DIFCO)を流動パラフィンに懸濁したものを使用した。体重100g 前後まで成長したラットをエーテル麻酔し、ウシ型結核死菌を流動パラフィン(0.1ml)に溶かしたものを尾部中央に皮内注射した。結核死菌投与量による体重変化および後肢容積の変化を調べると、0.05mg では体重、後肢容積いずれにも変化はみられず、0.2mg 以上ですべてのラットにおいて投与後10日目以降(慢性期)に体重減少、後肢容積の増大(腫れ)が観察される(Tanaka, et al., 2000)。今回の実験には関節炎発症に十分な量である1.0mg を投与することとした。

1 血中濃度の測定と後肢容積の測定
 結核死菌投与35〜37日後にエーテル麻酔下で断頭・採血を行い、亜鉛、グルコース、ナトリウム、塩素の血中濃度を測定した。後肢容積は足関節からつま先までの容積を実験終了後に測定した。
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【結果】
1 無処置ラットの黒糖摂取による体重、摂食量と黒糖摂取量
 無処置ラットにおいて、対照群、黒糖水群、黒糖群いずれもその体重増加に顕著な違いはみられなかったが、黒糖水群、黒糖群は対照群と比較して体重が低下する傾向があった(図1A)。摂食量(体重100g あたりの摂食量)はいずれの黒糖摂取グループにおいても対照群と比較して減少し、黒糖水群でもっとも少なかった(図1B)。黒糖摂取量(体重100g あたりの摂取量)は黒糖水群の黒糖摂取量(黒糖水の飲水量から換算したもの)が黒糖群にくらべ5倍程度多かった(図1C)。

図1 無処置ラットでの黒糖摂取による体重、摂食量と黒糖摂取量
図1

1 関節炎ラットの体重変化、摂食量の変化に対する黒糖摂取の効果
 対照群での関節炎ラットの体重増加の抑制は投与後すぐに起こり、10日前後には明らかな体重減少がみられ、14日前後から体重減少は回復したが35日までに無処置ラットの体重のレベルには戻らなかった(図2A黒丸)。この体重減少は摂食量の低下により起こった(図2B)。黒糖水群(青丸)および黒糖群(赤丸)においてもその体重変化は対照群と比較して有意な差は見られず、関節炎による摂食抑制に関しても、黒糖摂取では対照群と比較して差は見られなかった。黒糖摂取量は、無処置ラットと比較して特に差は見られず、黒糖摂取量は関節炎による影響を受けないことがわかった。

図2 関節炎ラットでの黒糖摂取による体重、摂食量と黒糖摂取量
図2

図3 血中亜鉛濃度と血糖値
図3
対照群、黒糖水群、黒糖群の血中亜鉛濃度(A)と血糖値(B)のそれぞれの平均値(±標準偏差)を表している。

1 血中亜鉛濃度と血糖値
 血中亜鉛は対照群関節炎ラットで顕著な減少がみられ、約45%にまで低下した(図3A、表2)。関節炎による亜鉛低下は黒糖水群、黒糖群とも対照群と比較して抑えられ、黒糖摂取が関節炎による亜鉛低下を押さえる働きがあることを示していた。血糖値については、対照群の関節炎で若干の低下がみられ、この低下は黒糖水群で抑えられる傾向がみられた(図3B、表2)。

1 関節炎発症と血中濃度のまとめ
 後肢の腫れを指標として関節炎発症率をまとめた(表2)。
 実験終了後における後肢容積は対照群関節炎ラットで3.08±0.10ml、黒糖水群関節炎ラット3.10±0.22ml、黒糖群関節炎ラット3.04±0.31ml でいずれの関節炎ラットの間には差はみられず、いずれの関節炎ラットも後肢容積が増大していた。体重変化と後肢容積を指標とした黒糖水群および黒糖群の関節炎発症率はいずれも100%で対照群との間に差はみられなかった。血中ナトリウム(Na)、塩素(Cl)濃度はどのラットにおいても差はなかった。
表2 関節炎発症率と血中成分に対する黒糖摂取効果のまとめ
表2
いずれの数値も平均(±標準偏差)で表している。
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【考察】
1 黒糖摂取は摂食抑制を引き起こす
 無処置ラットにおいて黒糖摂取は摂食抑制を引き起こしたが、これは黒糖摂取による血糖値の上昇が視床下部にある摂食中枢に働きかけ摂食行動を抑制し、その結果摂食量の低下を引き起こしたと考えられる。この摂食量の低下により体重減少を引き起こすことが予想されるが、しかし、体重変化にはあまり影響を及ぼしていない。黒糖に含まれるスクロースが消化によりブドウ糖に分解されて腸管から体内へ吸収され、その吸収されたブドウ糖が脂肪へ変換されて体内に蓄積したため体重減少が見られなかった可能性が考えられる。しかし、ブドウ糖から脂肪への変換に重要な役割を果たすインスリン分泌は、黒糖摂取ではあまり増大しないと言われている、もしそうであれば、摂食抑制されているにも関わらず顕著な体重減少がみられなかったことはどうしてであろう。今後体脂肪率の測定などを行い、脂肪量がどのように変化しているかを調べる必要があろう。
 さて、摂食制限により寿命が2〜3倍に延びると言われている。今回の黒糖摂取による摂食量の低下が、摂食制限に相当するのかどうか分からないが、黒糖摂取が長寿となる可能性はある。今後の研究課題であろう。

1 関節炎発症率は黒糖摂取で抑えられなかった
 今回の実験において、黒糖摂取による関節炎発症の予防効果はみられなかった。しかし、このことは必ずしも黒糖が関節炎発症の予防効果がない、ということにはならない。その理由として 1)黒糖には様々な種類があり、今回はそのうちの1種類しか用いていなかったこと、2)黒糖を与えていた期間が短かったこと、3)発症させる結核死菌の量が多すぎたこと、さらに 4)関節炎による血中亜鉛濃度の低下に対しては黒糖摂取効果があった、ということがあげられる。第1の理由として、琉球大学の尚弘子教授らのネズミを使った研究で、黒糖の薬効としての血液中のコレステロールや中性脂肪の低下は、さとうきびの茎皮の部分に含まれるワックス成分の効用といわれている。また、さとうきびの種類や土壌、さらに製法の違いにより黒糖の中に含まれるミネラル成分等も異なる(和田、1993;岩屋ら、1998)。今後いくつかの種類の黒糖について調べる必要がある。第2の理由として、今回は感染4ないし10日前から黒糖を摂取させていたが、さらに長い期間の投与により関節炎発症の予防効果がみられるかもしれない。第3の理由として関節炎を誘発させる結核死菌の量が多かったことがあげられる。今回用いた結核死菌の量は1mg であり、これは誘発に必要な量(0.2mg)の5倍である。今後、結核死菌の量を減らして実験を行う必要があろう。
 筆者らは以前、スクロース溶液とNaCl溶液自由摂取のラットにおいて、その発症率(後肢の腫れ)は抑えられ、発症したラットにおいてもそれらの体重減少は抑制され、スクロース摂取により関節炎発症が抑えられる可能性を示唆する結果を得た。しかし、調べた例数が4例と少ないこともあり、今後例数を増やして明らかにする必要がある。さて黒糖摂取では効果がなく、スクロース摂取で効果が見られたのはなぜであろうか。さきにも述べたように、黒糖はその原材料となるさとうきびの種類や土壌、製法により黒糖に含まれるミネラル成分等は異なる。黒糖成分のうち、病態発症に促進的に働くものがあり、スクロース摂取の有効な作用を打ち消している可能性がある。どの成分が有効で、どの成分が悪いのかが明らかになれば、黒糖の製造法の改良により、病態に有用な黒糖をつくり出すことができる可能性がある。

1 黒糖摂取は関節炎による亜鉛低下を抑える
 今回の研究により関節炎による血中亜鉛濃度の低下が起り、黒糖摂取によりその低下が抑えられることがわかった。亜鉛は生体の数百種類の酵素の組成であり、生体にとって重要な微量重金属である。亜鉛低下はストレスなどにより引き起こされる。亜鉛が欠乏することにより成長の遅延、食欲低下、皮膚などの障害、骨・軟骨の異常、生殖機能の障害、味覚障害、嗅覚・視覚の障害、中枢神経の障害、免疫系の低下などが起きる。関節炎発症に亜鉛がどのように関与しているかは現在のところ不明であるが、関節炎による亜鉛低下は関節炎以外の種々の疾患を引き起こす可能性がある。黒糖摂取は関節炎による亜鉛低下を減弱させることより、関節炎に伴う各種症状の悪化の予防に有効であると考えられる。

1 黒糖摂取は関節炎による低血糖を抑える?
 今回の研究により関節炎による血糖値の低下が起る可能性があることが分かった。さらにこの低血糖が黒糖摂取により抑えられる可能性があることもわかった。血糖値は食事やストレスなどにより影響を受け、今回測定した結果は瞬間の値を測定しているので、正確な値を反映していない可能性がある。今後は血糖値の連続的な測定が必要であろう。
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【要旨】
 慢性関節リウマチのモデル動物を用いて、黒糖摂取による関節炎発症率および血中物質の濃度変化に対する効果を調べた。その結果、1)体重減少と後肢の腫れを指標とした関節炎発症率では黒糖摂取は予防効果はなかったが、2)関節炎によって引き起こされる血中亜鉛の低下は、黒糖摂取で抑えられ、3)関節炎によって引き起こされる低血糖が黒糖摂取で抑えられる可能性がある、ことがわかった。関節炎発症に対しての黒糖摂取による予防効果の可能性は残されており、今後研究を継続して行く必要がある。

参考文献
1) Freund, J. , The effect of paraffin oil and mycobacteria on antibody formation and sensitization. Am. J. Clin. Pathol . , 21, 645-56, 1951.
2) Aghajanian, GK. And Rasmussen, K., Intracellular studies in the facial nucleus illustrating a simple new method for obtaining motoneurons in adult rat brain slices, Synapse, 3 , 331-338 , 1989
3) 仲宗根洋子ら、琉球大学農学部学術報告、41 , 305-308 , 1994
4) Nakasone, Y., et al., Biosci. Biotech. Biochem., 60(10) , 1714-1716 , 1996
5) Tanaka, T., Kasai, M. and Mizumura, T., Changes in body weight and hindpaw volume of rats after inoculation of various dose of complete Freund´s adjuvant and effects of anti-NGF antibody on these changes, Environmental Medicine, 44, 72-74, 2000
6) 和田浩二 , 沖縄産黒糖の製造工程における化学成分および香気成分の変化 FFIジャーナル, 156, 58-65, 1993
7) 岩屋あまね、瀬戸眞治、吉村浩三 , 黒糖の一般成分に関する研究、 鹿児島県工業技術センター、H8.9 研究報告
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「今月の視点」 
2004年10月 
砂糖の適時・適正摂取は身体の働きにどのように影響するか
 女子栄養大学 助教授 上西 一弘  石田裕美  庄司伸絵
慢性関節リウマチのモデル動物を用いた病態発症に対する
 黒糖摂取の効果について
(平成15年度砂糖に関する学術調査報告から)
 鹿児島大学理学部生命化学科 助教授 笠井 聖仙
砂糖についての大学生・母親アンケートから
 滋賀大学名誉教授 岡部 昭二


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