[2004年12月]
【ユーザー動向】
私が、これからみなさんをお菓子の世界に案内したいと思います。お菓子の種類や生活のなかでお菓子が果たす役割、お菓子の生産、消費の動き、砂糖を中心としたお菓子の原料との関係、お菓子産業の状況、お菓子産業の新しい動きと今後の課題などを紹介させていただきます。
<お菓子の種類>
みなさんはお菓子というとどのようなものを思い浮かべられるでしょうか。子供のころお母さんが毎日3時に出してくれたおやつ、彼女からもらったチョコレート、彼女にあげたキャンデイー、誕生日やクリスマスのケーキ、お茶席での和菓子、おばあちゃんと食べたあられ、せんべい、友達と一緒の喫茶店で紅茶を飲みながら食べるビスケット、夏に生ビールを飲みながら食べるポテトチップなどでしょうか。子供からおじいちゃん、おばあちゃんまでお菓子を食べたことのない人はいないのではないでしょうか。このように、いろいろな人が、いろいろな場面で、いろいろなお菓子を食べています。私達が食べているお菓子の種類はとてもたくさんあります。
図1を見てください。日本のお菓子の種類は多種多様で何万種類もあると言われています。その分類の仕方もいろいろで、厳密に分けにくい面もありますが、大きく歴史的な発展の仕方から和菓子、洋菓子に、水分含有量による保存性から生菓子、干菓子に、さらに製造方法、原料、形状、使用目的によって細かく分類されます。みなさんは、このなかの多くのものを食べたことがあるのではないでしょうか。
図1 お菓子の分類と種類 |
出典:製菓事典 |
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<お菓子と生活>
それではお菓子は毎日の生活の中でどのように食べられているでしょうか。お菓子は、子供たちの3時のおやつとして、おとなのお茶の時間のお茶請として食べられていますが、このほか身近な生活の中での各種行事になくてはならないものという面もあります。昔からお正月には羊羹などの和菓子、お雛さまには雛あられ、お彼岸にはおはぎ、端午の節句にはちまき、クリスマスにはケーキを食べますし、また、バレンタインデイーには女性が男性にチョコレートをプレゼントをしたり、お返しにホワイトデイーには男性がキャンデイーやクッキーを女性にプレゼントするなどお菓子は私達の生活から切っても切り離せないものとなっています。
最近では、お菓子はカロリーが多い、太るなどと思い、敬遠する人もいますが、適切な食べ方をすれば、お菓子は私達の生活に次のようないろいろな良い効果をもたらしてくれます。
一つは、栄養補給という効果があります。おやつの時間は、昼の食事によって供給された体の中の栄養が消費される頃で、おやつで食べるお菓子によって栄養が補給されます。活発に活動する子供達には、エネルギーが必要ですし、脳を働かせるためにも甘いものが必要です。
二つ目は、私達に「楽しみ」や「やすらぎ」を与えてくれます。お店でカラフルに並んだお菓子を見ながらお菓子を選んで買うのも楽しみですが、それをおいしく食べるのも楽しいものです。また、忙しい生活の中で、お菓子を食べる時間はやすらぎのひとときでもあります。
三つ目は、家族やお友達との「団らん」を提供し、なごやかな人間関係を育みます。お母さんに作ってもらったおやつを食べながら親子の会話が弾みます。また、友達同士でおいしいお菓子を食べると自然と笑顔になり、場がなごみます。
四つ目は、お菓子は四季おりおりの行事とも結びついて、文化と伝統を継承します。お菓子には、このほかにもいろいろな良い点があります。
<お菓子の消費、生産の動き>
次に、私達がお菓子をどれくらい食べているのか、また、どんなお菓子がどれくらい生産されているのかお話ししましょう。
まずお菓子の消費についてですが、総務省の「家計調査」によりますと、1世帯当たりの年間菓子支出金額は、平成4年の89,414円をピークとして減少傾向で推移し、平成15年には76,739円となっています。この間世帯当たりの消費支出も減少していますので、消費支出額に占める菓子支出金額の割合は、ここ10年近く2.1%とほぼ一定となっており、私達の生活の中で一定の割合を占めていることがわかります。
それではお菓子はどれくらい生産されているのでしょうか。お菓子はいろいろな形状、水分量のものがあり、単純に重さを足して生産量を出すのは難しいのですが、全日本菓子協会が会員団体、会員企業等から集めた情報を下に推計しますと、平成15年には193万トンのお菓子が生産されています。金額ベースでは、メーカー段階の出荷額では2兆3400億円、小売金額では3兆1500億円の市場規模となります。傾向としては、図2のとおり、世帯当たりの菓子支出金額と同様に平成4年の生産量は211万トン、生産金額は2兆6000億円、小売金額は3兆5200億円で、これをピークにその後減少傾向で推移してきましたが、平成15年にはやや下げ止まり感が見られます。
全日本菓子協会の推計の際に使用している分類に基づいて、品目分類別に見ますと、表1のとおり、生産数量では和生菓子が327千トンと最も多く、チョコレート、ビスケット、スナック菓子、米菓、洋生菓子がそれぞれ21〜22万トン台となっています。小売金額ベースでは、和菓子が4,900億円、洋生菓子が4,500億円、チョコレートが4,100億円となっており、続いてスナック菓子、米菓と続きます。
図2 菓子の生産数量・金額の推移 |
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表1 お菓子の品目別生産数量・金額(平成15年全日本菓子協会推定) |
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以上は国内で生産されているお菓子の状況ですが、外国から輸入されて国内で消費されているお菓子もあります。表2のとおり、平成15年には数量では69千トン、380億円を超えるお菓子が輸入されています。なかでもチョコレート類、ビスケット類、キャンデー類の輸入が多くなっています。チョコレート類は、チョコレートを食べる習慣に歴史のあるフランス、ドイツ、ベルギー、イタリア、スイスなどのヨーロッパ諸国に加え、オーストラリア、アメリカから輸入されており、最近では中国、韓国からの輸入が増加しています。ビスケット類は、中国、ブラジル、デンマーク、アメリカ、マレーシア、フィリピンなどから輸入されています。キャンデー類は、ドイツ、オランダ、スペイン、タイ、中国、ベルギーなどから輸入されています。傾向としては、図3のとおり、平成3年から7年にかけて増加し、その後景気の低迷の影響もあり、平成11年まで減少したものの、平成12年以降再び増加し、平成15年は過去最高の輸入量となっています。
一方、量的には少ないのですが、お菓子の輸出も行われています。表3のとおり、平成15年には数量では14千トン、100億円強のお菓子が輸出されています。品目としては、あられ、せんべいなどの米菓類、キャンデー類が多くなっています。輸出相手国としては、あられ、せんべいなどの米菓類は、アメリカ、オランダ、台湾などとなっています。キャンデー類は韓国、台湾、香港、アメリカなどとなっています。輸出の近年の傾向については、年によって増減はありますが、ほぼ横ばいと見られます。
表2 菓子の輸入数量・金額(平成15年) |
(単位:トン、百万円、円/kg) |
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注) 通関統計から全日本菓子協会において集計したものです。 |
図3 菓子の輸入数量・金額の推移 |
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表3 菓子の輸出数量・金額(平成15年) |
(単位:トン、百万円、円/kg) |
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注) 通関統計から全日本菓子協会において集計したものです。 |
お菓子と砂糖との関係
お菓子の種類が多種多様で大変多いということもあって、その原料もさまざまなものが使用されています。お菓子の原料を大まかに分類しますと、図4のとおり、甘味料、菓子用粉、油脂、乳製品、鶏卵、果実及び果実加工品、ナッツ類、洋酒類などになります。この中でも「砂糖」は、お菓子の原料としてなくてはならない重要な原料といえます。一部に砂糖を使用しないお菓子もありますが、キャンデー、キャラメル、ドロップ、グミなどの飴菓子、チョコレート、ビスケット、和生菓子、洋生菓子、かりんとうなどの油菓、その他の焼菓子、甘納豆、錠菓など多くの菓子にとっては砂糖は欠かせないものです。
平成14年度の砂糖の消費量は、農林水産省や精糖工業会の資料によりますと230万トンとなっていますが、このうち菓子類には25.8%(約59万トン)の砂糖が使用されており、家庭用の14.9%、清涼飲料の17.7%に比べてもダントツの使用量となっています。まさに、お菓子産業は砂糖の最大のユーザーであり、お菓子の売れ行きが砂糖の消費量を左右するといっても過言ではありません。
砂糖にもいろいろな種類がありますが、お菓子にはその種類に応じて様々な砂糖が使用されています。最もポピュラーでよく使われている砂糖が上白糖で、いろいろなお菓子に幅広く使用されています。中白糖は、淡い褐色で糖度がやや低く、しっとりとしていて、かりんとう、甘納豆などに使われています。グラニュー糖は、糖度が高く、結晶は小さくサラサラしていて、チョコレート、チューインガムなどに使われています。白ざら糖は、純白で糖度100%に近く、高級ドロップ、ゼリー、ビスケット、和菓子などに使われています。中ざら糖は、やや黄褐色ですが糖度が高く、和菓子のあん、スポンジケーキなどに使われています。粉砂糖は、装飾的な菓子等に使われています。このほか黒砂糖や赤砂糖などもありますが、それぞれ地域の特産的なお菓子に使われています。
図4 お菓子の主な原料 |
○ 甘味料 |
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砂糖、水あめ、ぶどう糖、異性化糖、はちみつ、糖アルコール |
○ 菓子用粉 |
・・・ |
小麦粉、米及び米粉、あん及び雑豆、でん粉、コーングリッツ コーンフラワー、大豆粉及び大豆たんぱく製品、ポテト |
○ 油脂 |
・・・ |
植物油、ラード、ショートニング、マーガリン、その他油脂類 |
○ 乳製品 |
・・・ |
牛乳、練乳、粉乳、バター、クリーム、チーズ、ホエイ、発酵乳 |
○ 鶏卵 |
・・・ |
殻付き卵、液卵、凍結卵 |
○ 果実及び果実加工品 |
・・・ |
生果実、缶詰果実、乾燥果実、果実飲料、ジャム、マーマレード |
○ ナッツ類 |
・・・ |
アーモンド、ヘーゼルナッツ、ウオルナッツ、栗、その他ナッツ類 |
○ 洋酒類 |
・・・ |
ラム、ブランデー、リキュール、その他洋酒 |
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菓子産業の状況
お菓子を作っている産業の状況について紹介します。お菓子の種類は既に紹介しましたが、流通の観点から見ますと大きく二つの分類ができ、この分類に沿って、お菓子の作り手(企業)の形態も大きく二つに分かれます。
一つは、お菓子の製造企業から卸等を経て小売業に販売されて消費者に販売されている流通菓子といわれるお菓子です。これらは町のお菓子やさんやスーパー、コンビニなどで販売されています。表4をみますと、このような流通菓子の製造企業数(事業所)は、経済産業省の「工業統計(品目編)」によりますと、平成14年には、従業者4人以上で8,751事業所となっています。従業者規模別で見ますと、従業者4〜9人の事業所が最も多く、従業者100人以上の事業所数は、895事業所で、従業者4人以上の事業所総数に対して10.2%となっており、規模の小さい企業の割合が極めて高くなっています。
もう一つは、お菓子の製造とあわせて小売も行う、いわゆる製造小売されているものです。町でよく見かけるのは、お店の中で和菓子や洋生菓子を製造し、店頭で消費者に販売するというものです。もちろんお菓子を製造するところと販売するところが別ということもあります。このようなお店(事業所)の数は、経済産業省の「商業統計」によりますと、平成14年には、お菓子の製造小売と他の小売を兼業しているものもありますが、お菓子の製造小売のみを行っているものは、約32,000事業所となっています。
以上のようにお菓子を作っている産業は、みなさんご存知の大手企業もありますが、町の和菓子やさんやケーキやさんのような企業もたくさんあります。このような産業構造では、合理化や技術の革新も難しく、国際化の中での競争力も弱いといえますが、一方で、企業の独自の技術や製品で一定の消費者の支持を得ているともいえます。
お菓子の種類が多種多様にわたることとこのような産業構造であることから、お菓子の団体もたくさんあります。お菓子の種類別の団体や産業の構造に由来する団体など様々な団体がありますが、図5のとおり、全日本菓子協会は、このようなお菓子に関する各種の団体の参画を得て、菓子産業の統一団体として設立され、菓子産業全体に関わる様々な課題に取組んでいます。
表4 表4 品目別・従業者規模別事業所 (平成14年、従業者4人以上の事業所) |
(単位:事業所数、%) |
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資料:経済産業省 「工業統計(品目編)」 |
図5 全日本菓子協会の会員状況 |
1 団体会員(19団体) |
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全国甘納豆組合連合会
全国飴菓子工業協同組合
全日本菓子工業組合連合会
全国菓子工業組合連合会
全日本菓子輸出工業協同組合連合会
全国小麦あられ協会
全国せんべい協会
日本チューインガム協会
日本チョコレート工業協同組合
日本チョコレート・ココア協会
全国半生菓子協会
(社)全国ビスケット協会
全国米菓工業組合
日本スナック・シリアルフーズ協会
全国銘産菓子工業協同組合
(社)日本洋菓子協会連合会
(協)全日本洋菓子工業会
全国和菓子協会
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2 維持会員企業(59社) |
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<菓子産業の新しい動き>
先に、お菓子が私達の生活の中で果たす役割、良さを紹介しましたが、最近では、お菓子の原料であるお砂糖が私達の健康になくてはならない大切なものであり、運動と組合せてバランス良くもっと摂取する必要があることが、様々な科学的研究成果からも明らかになってきており、もう一度甘いお菓子を見直そうという気運が見られます。しかし、一方で、どうしても砂糖の摂取を控えめにしたいという消費者もおられることから、これらのニーズに対応するため砂糖の使用を控えめにしたお菓子も増加しています。
さらに、最近では、オリゴ糖類、その他の食物繊維素材、糖アルコール類、ポリフェノール類、ペプチド類、ミネラル類など私達が摂取することによって体に良い効果をもたらす機能性を持った食品素材の研究開発が進み、これらを原材料として使用したお菓子の商品開発も進んできています。
<菓子産業の課題>
以上お菓子をめぐる状況をご紹介しましたが、菓子産業も多くの課題を抱えています。最後にその主なものを紹介します。
一つは、お菓子の需要の拡大を図ることです。お菓子の需要は既に紹介したとおり、消費者の甘さ離れ等を背景に平成4年をピークに減少傾向で推移してきています。平成15年にはやや下げ止まり感が見られますが、今年は夏の猛暑、秋の台風、長雨で需要の減少が心配されています。もう一度、砂糖を使ったお菓子の良さ、お菓子が私達の生活のなかで果たす役割を消費者のみなさんに知っていただいて、お菓子をもっと食べていただきたいと考えています。
二つ目は、原料問題です。お菓子の原料は、既に紹介したとおり多種多様ですが、主なものは砂糖、小麦粉、お米及び米粉、乳製品などです。これらの原料はそのほとんどが国内農業保護のための価格支持などの政策で外国に比べて割高になっています。もちろん農産物の内外価格差は、比較する物の品質、比較する国、比較する段階、比較する時点によって、また、為替レートがどうであったかによって数値は変わりますので、一概には論じられませんが、私達の調べでは、砂糖については2〜3倍、小麦粉については2〜3倍、米については6倍(アメリカ)〜11倍(タイ)、バターについては2倍(タイ)〜5倍(オーストラリア)となっています。菓子産業はこのような状況の中で輸入菓子との競争を余儀なくされています。現在検討されている食料・農業・農村基本計画策定などの農政改革の中で検討していただきたいと考えています。
三つ目は、貿易交渉への対応の問題です。現在、WTO、FTA交渉が行われていますが、この中では、関税引下げ問題も交渉テーマとして取り上げられています。現在のような国際社会の中で、日本としてそれなりの貢献をして行かなければならいことは理解できますが、中小企業が多いという国内の菓子産業の構造に加え、割高な原料の使用を余儀なくされている菓子産業にとっては、菓子製品の関税引下げは大きな課題であり、慎重な対応をお願いしたいと考えています。
四つ目は、安全、安心への対応です。この問題は菓子に限ったことではなく、あらゆる食品に共通の課題ですが、お菓子についても適正な表示を行うことはもちろんのこと、安全で健康に良いお菓子を消費者の皆様に提供していくことは、全てのお菓子企業にとっての重要な課題となっています。さらに、消費者の皆様に安心してお菓子を食べていただけるよう様々な情報提供に取組んでいきたいと考えています。