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砂糖摂取に影響する要因と食環境への味覚適応性の検討

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2005年2月]

【調査・報告〔砂糖/健康〕】

東京都立短期大学健康栄養学科 助手   井上久美子


I 緒言   II 方法   III 結果   IV 考察


I. 緒言
 日本とアメリカでは近年、糖類の摂取量が相反する傾向であることが報告されている。糖類摂取は甘味に対する嗜好のみならず、食環境からの影響も大きく受ける。甘味嗜好と食環境は、双方が依存し対応しながら変化するものと考えられるが、本研究では主に食環境側からの影響に注目し、最初に日本とアメリカの食環境の違いを明らかにした後、異なる食環境が与える甘味嗜好への影響を、個人の側から日米間ならびに世代間で比較することを試みたものである。

II. 方法
1. 糖類摂取に関する食環境調査
  (1)  公立小学校の給食メニューを用いた、糖類摂取の特徴比較
[1] 対象
 日本においては、東京都K市で実施されている学校給食の実施献立1年間分を収集し、アメリカワシントン州S市では、公立小学校の1年間の実施献立を得た。
[2] 方法
 全ての食材が明確になったアメリカの30種類のメニューと、日本の30種類とを比較に用いた。栄養計算を実施し、各々の献立から、添加された糖類の量を算出した。
  (2)  同類の市販食品における糖類含有量の測定
[1] 対象
 日米のいずれでも同様に購入でき、かつ常食されている市販食品である、ヨーグルト・クッキー・シリアルを複数ずつ選択し、含まれる糖類の測定を行った。
[2] 方法
 一定量の食品をブレンダ−により粉砕した後、純水にて30分間の超音波抽出を行う。この場合、たんぱく質を多く含む食品は50%(V/V)で抽出し、脂質を多く含む食品は石油エーテルにて脱脂した後、超音波抽出を行った。濾紙(No.5B)を用いた濾液を採取し等量のアセトニトリルを加え、メンブレンフィルター(0.45μm)で濾過した。Shodex Asahipak NH2-P 4EカラムならびにShodex RI検出器を用いて、糖分析を行った。

2. 個人の摂取頻度調査と甘味に関わる嗜好ならびに強度評価
 [1] 対象
 日本在住日本人として東京都T市立小学校の小児ならびに成人、アメリカ在住日本人としてアメリカワシントン州S市に3年以上在住している日本人小児7〜12歳、ならびに成人20〜45歳の各々10名を対象とした。
 [2] 調査方法
 インフォームド・コンセントを得た対象者の身長と体重を測定するとともに、ヨーグルト・クッキー・シリアルについての摂取頻度調査を行った。その後、蒸留水を用いて2・4・8・16・32%に調整した5種類のショ糖溶液を口に含み、甘味の嗜好と強度についての評価を実施した。従来、成人向けには9段階評価シート1)が用いられてきたが、対象が小児であることから5段階の評価シートを作成し、小児と成人に共通で用いた。好みに関する5段階は、「大嫌い・少し嫌い・好きでも嫌いでもない・少し好き・大好き」であり、甘さの評価の5段階は「全然甘くない・少ししか甘くない・好ましい普通の甘さ・少し甘すぎる・とても甘い」である。

表1 小学校給食の日米比較による添加糖類摂取の特徴

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III.結果
1. 糖類摂取に関する食環境調査
  (1)  公立小学校の給食メニューを用いた、糖類摂取の特徴比較
 実際の食生活における糖類の正確な摂取量を算出することは、個人の綿密な3日間以上にわたる食事記録を必要とし大変困難である。そこで、公立小学校の給食メニューを双方の典型的な食事メニューとして選択した。食事パターンに合わせて分類し、添加糖類摂取の特徴を検討した結果を表1に示した。その結果、食事パターンの違いは明らかで、日本においては [1] 副菜、[2] 主菜あるいは変わりご飯などの主食に、効果的に微量の砂糖が用いられている。しかし、アメリカにおいては調味に用いられることはほとんどなく、糖類を多く含むパンケーキやマフィンなどの主食や、デザートのクッキーやプデイング、チョコレート牛乳、缶詰の果物から、明らかな甘味として摂取されていた(t検定p<0.01)。
  (2)  同類の市販食品における糖類含有量の測定
 日本とアメリカで購入したヨーグルト・クッキー・シリアル中の糖類含有量を、表2に示す。アメリカでは日本に比べ、100g当たり(ヨーグルト・シリアル,U検定p<0.05)ならびに1serving size当たり(ヨーグルト,U検定p<0.05)共に、多量の糖類が添加されており、アメリカでこれらの食品選択をする場合、日常的に糖類の摂取しやすい環境であることが明らかになった。

表2 食品中糖類含有量の日米比較


2.個人の摂取頻度調査と甘味に関わる嗜好ならびに強度評価
  (1)  摂取頻度調査
 表3に示すように、小児および成人の身体的特徴ならびに年齢に相違はない。また、小児のアメリカ在住期間は8.1±3.3年、成人は6.4±3.0年であった。
 これらの対象者について、糖類含有量の測定を行ったヨーグルト・クッキー・シリアルの摂取頻度調査を行った結果を表4に示す。いずれの食品も、日米間においてχ2検定による有意差は確認できなかった。しかし、クッキー・ケーキは、アメリカ在住者、特に成人において、高頻度に摂取する方向へ移行する傾向がみられた。シリアルは明らかにアメリカ在住小児の頻度が高かった。
  (2)  甘味に関わる嗜好ならびに強度評価
 甘味の嗜好と、その強度に関する評価については、図に示した。対象者数が少ないため、いずれの場合も一元配置分散分析から有意な結果は得られていないが、アメリカ在住小児では日本在住小児に比べて、高濃度のショ糖溶液への嗜好が高まる傾向がみられた。

表3 菓子の甘味度と甘味効率

表4 菓子の甘味度と甘味効率

図 異なるショ糖濃度溶液に対する甘味の嗜好ならびに強度評価
嗜好評価指標: 1:大嫌い 2:少し嫌い 3:好きでも嫌いでもない 4:少し好き 5:大好き
強度評価指標: 1:全然甘くない 2:少ししか甘くない 3:好ましい普通の甘さ 4:少し甘すぎる 5:とても甘い
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IV.考察
 食文化を超えた味覚や嗜好に関する研究は、従来数少ない。成人を対象とした、単一食品への嗜好・摂取頻度調査、味覚の官能検査が主であり、味覚形成期である小児を対象とした国際比較データは報告されていない。また、食生活を含む社会環境の影響を日系人studyにみることができるが、この場合も、最も早く強い影響を受けると推察される小児に関するデータはまれであった。本研究は、味覚形成期の小児を中心に、日米在住日本人の甘味に対する嗜好や強度を調べ、成人とのデータを比較することで、味覚の適応性、ひいては、新しい社会環境における食習慣への順応性を検討する基礎データを構築することを試みた。
 食環境の面から日米を比較すると、共にエネルギー摂取量が増大し肥満という共通の健康問題を抱えているにもかかわらず、砂糖の摂取量は相反する傾向を示している。アメリカでは、「砂糖の摂取量あるいは甘味嗜好と、肥満や糖尿病との間には、直接的な因果関係は見い出せない」というコンセンサスに達した1997年以来2)、“Healthy People 2000”および“Healthy People 2010”においても脂質摂取の低減と運動増進を推奨し、砂糖は脂質の代替となるエネルギー源として認知されてきている。
 しかし、最近では、脂質を控えたにもかかわらず総摂取エネルギーが増大していること、また、低所得者層においては、安価に購入できる糖類含有食品がエネルギー源として多量に摂取されており、所得層あるいは教育レベル別の糖類摂取量評価や、義務化されている食品の糖類含量表示による、高エネルギー摂取への栄養教育の必要性が問われていることも事実である。
 一方、日本では「砂糖は太る」というイメージがいまだに強く3)、特に思春期・青年期女性の砂糖離れが進行している。糖類含有量が低く甘味が少ない食品や、甘いけれどもノンあるいはローカロリーの甘味料が注目されるようになり、糖類含有量の少ないことを強調する食品表示においては、基準値が設定された(0.5g/食品100g未満の場合「ゼロ」「ノン」など,5g/食品100g未満の場合「ロー」「ひかえめ」など)。他方で、食品中の糖類含有量に関する知識不足から、極端に糖類を過剰摂取する若年期のペットボトル症候群なども報告されており、糖類摂取に関する食環境がアメリカと日本では異なっているのである。
 本研究では、食環境の一面として、実際に摂取する食品、特に小児の摂取頻度が高い典型的な食品の糖類含有量を比較したが、明らかにアメリカの食品が高かった。これは、アメリカ人の甘味嗜好に対応した糖類濃度の設定であると推察され、アメリカ人の甘味嗜好調査による比較が必要である。一方、個人の側から検討すると、アメリカ型食環境におかれた日本人小児の場合、甘さの強度は日本在住者と同様に感じているが、嗜好は高濃度のショ糖溶液へ移行する傾向がみられた。この変化は、成人にはみられなかったものである。本対象者の小児の在米年数は成人より長く、日本の食環境経験が短い対象者が多かったことも一因と考えられる。小児の場合は特に、小学校給食などアメリカ型食生活に直接触れる機会が多く、甘味を強く感じながら摂取する食習慣の体験からも、大きな影響を受けるものと考えられた。しかし摂取頻度をみると、小児、成人ともにクッキー・ケーキとシリアルの摂取頻度が高まっており、小児ばかりでなく成人においても、たとえ嗜好は変化していなくとも、食環境への順応が摂取頻度の上昇を導く可能性が考えられ、今後、さらに対象者を増やした検討が求められる。


【引用文献】
1) Drewnowski,A.. et al ; Nontasters, tasters, and supertasters of 6-n-propylthiouracil(PROP) and hedonic response to sweet tastes. Physiol. Behav., 62, 649-655, 1997
2) FAO ; Report of Joint FAO/WHO expert consultation, Rome, 14-18 April 1997
3) 高橋久仁子 砂糖類情報2001年4月号寄稿文(今月の視点 砂糖に関するアンケート調査から)
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