ホーム > 砂糖 > 視点 > 産業 > 沖縄県におけるさとうきび増産に向けた機械化システム
最終更新日:2010年3月6日
沖縄県のさとうきび作は、引き続き減産傾向が続いており、平成17―18製糖年期は約68万トンと復帰後ピーク時の40%まで減少している。担い手の高齢化や後継者不足は生産量減少の大きな要因のひとつであるが、これを打開するために機械化の推進を加速する必要があるとし、補助事業等により収穫機を中心に種々の作業機の導入が積極的に進められてきたことは周知のとおりである。
収穫機の導入が、さとうきびの減産傾向に一定の歯止めをかける役割を果たしてきたことを過去に報告した5)が、その後の情勢の変化により機械収穫率の増加が鈍化する傾向がみられるようになった。
一方、さとうきび作の再生を図るため一昨年10月に国レベルでさとうきび増産プロジェクト会議が立ち上げられ、これを受けて県レベルでも増産に向けた向こう10年間(平成18〜27年)の推進計画が島しょごとに策定されている2)、4)。それぞれの地域で多少の違いはあるもののこの推進計画においても機械化体系の確立が重要なキーワードとなっている。特徴の一つとして、株出管理作業をきっちり行い株出体系を拡大することによって増産につなげようとするストーリーが読み取れる。
また、平成19年度から始まる経営所得安定対策においては、さとうきび価格制度や取引の仕組みが変わることになり、さとうきび作は大きな岐路に立たされている。受給対象となるためには、生産者はあらかじめ提示された要件を満たす必要があり、当初の3年間(19―21年度)は準備移行期間としての特例措置があるもののこの間にしっかりとした方針や対策を講じながら適切に誘導していくことができなければ、さとうきび産業の崩壊にもつながりかねない。
このような状況を踏まえて本報では、現地調査結果等で補完しながら増産に向けたキーワードとなっているさとうきび作の機械化について、いくつかの考察を行ってみたい。
2 機械収穫率進捗の鈍化とその要因
昭和の後半に開発が進められてきたさとうきび収穫機は、年号が変わって平成に入り本格的な普及の時代を迎えた。当初は中型収穫機が中心で、平成5年には一挙に27台が導入された。その後平成10年以降は高性能な小型収穫機が登場して大型、中型が稼働できない地域に導入が進められた。図1に過去15年間の収穫機の導入と稼働台数の推移を示したが、平成10年を境に中型と小型の導入が逆転していることが分かる。大中小含めた稼働台数については平成11年度以降180台前後で安定しながら推移している。
図1 収穫機の導入及び稼働台数の推移 |
中型機の普及に呼応して機械収穫率も順調に伸びてきたが、平成12年度あたりから進捗状況が鈍化する傾向がみられ、平成14年をピークに減少に転じている。図2に機械収穫率の推移を示してある。機械収穫率は収穫面積ベースで示されるのが一般的であるが、利用料金が収穫量で設定されている事例が多いことからここでは収穫量をベースにして示している。
図2 機械収穫率と沖縄本島南部地域の収穫機稼働状況 |
機械収穫率減少の要因としては、まず、(1)平成初期に導入された中型の代替えが順調に行われていないことが考えられる。製糖期間の短縮などにより適正な稼働量を確保できず減価償却が実行されないからであろう。中型の稼働台数が平成11年度の113台から13年には75台まで急落している。また、(2)沖縄本島に導入された中型収穫機がかなり苦戦している影響も大きい。高性能な小型収穫機の登場を前にして中型ではその稼働の条件が“微妙”でありながら“やむをえず”導入せざるをえなかったような事例も見受けられ、平成11年度以降小型が導入されるようになるとその活躍の場を奪われてしまった。図3に平成15―16製糖年期の中型収穫機の稼働状況を市町村ごとに整理した。市町村名は伏せてあるがNo.16までが沖縄本島及び周辺の離島である。このシーズンに限らず日量、年間処理量ともに適正量を確保できない状況が続いている。特に中型収穫機を保有して法人化した経営体では収穫作業受委託の需要が激減し深刻な事態に陥っている例もある。
図3 中型収獲機の処理量(H15―16) |
これらを解決するためには、更新期を迎えた沖縄本島及び周辺離島の中型機を、順次高性能な小型機に置換していく施策が必要であろう。場合によっては、一部当事者間で進められている例もあるが、苦戦中の中型機を稼働条件の整っている別の地域や経営体へ移設、移管する仕組みがあれば有効かもしれない。
3 沖縄本島南部地域における手刈収穫班による作業受託
ここで収穫機についての議論を進めるにあたり、機械収穫率が最も低い地域のひとつである沖縄本島南部地域についても少し触れておきたい。関連するデータの一部を図2に示してある。南部地域はもともと兼業農家が多く、土地基盤整備率が比較的高いにもかかわらず経営規模が零細であり、さとうきび作においても1ha未満の農家が大部分を占めている。狭小なほ場や他作物との混在、隣接する民家など機械収穫に対する制約要因が多いことは突出した特徴である。南部地域の機械収穫率は10%以下で推移しており、県平均の約1/4〜1/3程度にとどまっている。平成7年までは中型のみが稼働し平成8年以降順次小型が導入されるにつれ中型の稼働は少なくなり平成17年には遂にゼロとなった。ピーク時には17台の中型が稼働していたが、現在は生産法人を中心に9台の小型が稼働しているだけである。南部地域の過去15年間の1台当たりのシーズン収穫量は420〜1,040tであり、小型に置き換わった現在でも平均5,500円/tの利用料金では機械の運営コストを回収できない非常に厳しい状況が続いている。
機械収穫がなかなか進展しない南部地域では、JAおきなわ南部地区営農センターさとうきび対策室や南部地区さとうきび生産振興対策協議会などが中心になり、平成15年度から新たに手刈収穫班による収穫作業の受託が行われるようになった。収穫作業を委託したいが機械収穫には抵抗のある農家を中心に、料金が機械収穫より高めの設定であるにもかかわらず需要が拡大し、3年目の平成17年度には収穫量9,104tの実績をあげ、機械収穫量を上回ってきている。しかし、図2に示したようにこれまでの機械収穫分が手刈収穫班に流れている側面も否めない。手刈収穫班を担う請負作業者を今後も継続して雇用することができるとは考えにくいことや、収穫面積1ha未満の零細農家が新しい経営所得安定対策の中で直接支払いを受けるための要件として、基幹作業を委託することがあげられていることから、これを契機に平成19〜21年度までの猶予期間のうちに積極的に本来の機械収穫へ誘導していくことが重要と考えられる。
4 各地域の機械化システムの特徴(代表的な事例から)
平成18年11月〜19年1月の間に離島を含めた8地域の機械化システムについて調査する機会を得た。細かく見ていくと同じ地域でも経営体によりシステムには違いがあるが、代表的な事例をもとにその特徴を整理しておく。なお以下の記述は関係者からの聞き取りに基づいている。
(1) 伊是名島(情報:伊是名村農業機械銀行)
伊是名島では植付けに製糖工場で開発、製作した2節苗プランタを使用している。苗を選んで植えるので発芽の問題はなく補植は行っていない。トラクタ所有者の大部分がこの伊是名式プランタ(写真1)を保有している。全茎式プランタは発芽率に問題があることと40―50PS級の中型トラクタが多いことから作業機との重量バランスの問題があり使用していない。植付け後の灌水については取水場所が整備されており、工場が3tタンクを貸し出している。灌漑施設の整備率はまだ5%(520ha中25ha)程度である。収穫機は中型、小型で計9台が稼働している。そのうち小型6台は個人でリース導入という形を取っている。作型としては4年3収が一般的で夏植からスタートし、株出しを2回行って更新する。収穫後の株出管理作業では株揃えをしていない。収穫機で注意深く刈り取り、高さを調整すれば株揃えの必要はないという考え方である(地表面から5cm下を刈る)。集中脱葉施設との関連で全茎無脱葉収穫が草刈機を使用して行われているが、この場合は収穫後に株揃え機を投入している。株出管理後の補植については現状では普及していないが、一芽苗を準備して実施することを検討中である。作業の受委託については、島外地主が多いことなどもあり今後増える可能性がある。
写真1 伊是名式プランタ |
(2) 沖縄本島北部(情報:Tファーム)
沖縄本島北部のTファームでは、採苗作業に収穫機(TS2001)を使用している。機械による芽の損傷はほとんどなく特に苗の選別も行っていない。収穫機で採苗した苗をそのままロータリ装着式の2節苗プランタに搭載する。発芽不良で欠株が生じた場合は補植を手作業で行う。培土は中耕ロータリを用いて2畦同時に行うのを原則としており、高培土の時期が遅れたときに限り小型トラクタで畦間にはいり1畦ずつ培土している。収穫機は外国製の小型TS2001と中型TS3500の2台を保有しているが、小型の方が稼働率は高い。1日5〜6時間の実作業で40袋分を収穫する。1台当たりの年間処理量は1,400〜1,600tで能力的にはまだ余裕がある。小型機については収納袋を大きくし収穫機の荷台を拡張する改良を行った(写真2)。収穫後の株揃え作業は株元の枯れ葉を除去する程度の作業であり、株が光に当たることで萌芽が促進される効果がある。小型トラクタ用の根切機を自作した。株出補植については収穫作業との競合でほとんどできない状況になっている。補植苗として北部地区さとうきび生産振興対策協議会が1芽苗の委託生産を行っており7〜9円/本で販売している。
写真2 沖縄本島北部収獲機荷台の改良 |
(3) 沖縄本島中部(情報:YDファーマー)
YDファーマーは沖縄本島中部地区にあって、中型収穫機を2台(TS3500、UT200K)運用している。収穫の受託のほか全茎式プランタによる植付け作業の受託も行っている。現行のプランタは苗、肥料、粒剤の投入量のコントロールが難しいので改良を望んでいる。具体的な作業内容で特筆できるのは、国道の清掃作業後に出た雑草等の残さ等を有機物(堆肥)として自作地に投入している点である。植付け後に発芽状況を見ながら補植作業を行っているが、同じ品種を使うのではなく補植用には発芽や生育の早い品種を選んで用いるようにしている。培土には丁寧な作業ができるということからもっぱら耕耘機を使用している。
(4) 沖縄本島南部(情報:旧玉城村農業機械銀行)
昨年度から植付け作業の受託が増えてきている(平成17年度43haを受託)。採苗から植付けまでの一貫作業の受託と植付け作業だけの受託があり作業料金は前者が150円/坪、後者が40円/坪である。県内メーカの全茎式プランタを用いて植付け作業を行っているが、接地輪を動力源にするのではなく、油圧駆動に改良することで苗の投入量をうまくコントロールすることが可能となった。植付けの受託に補植は含まれていない。収穫作業については1台の小型が稼働しているのみ。条件の悪いほ場については申し込みがあっても作業を断る場合がある。作業のスケジュールはできる限り移動距離を短くするために18集落を時計回りにずらして作業していく。追加申し込みがあった場合には1周したのち実施する。雨などで休止した場合には作業は順延となる。ほ場間移動は基本的に自走で行っているが、それでも1シーズンに4回程度はトレーラによる移動が必要になる。収穫後の株揃え作業については小型収穫機の場合、地表面より少し下を刈っているので必要ないと考えており、実際株揃え機は使用していない。手刈りほ場では梢頭部を除去してもらった後、株揃え機を投入している。
(5) 久米島(情報:Aファーム)
久米島在のAファームでは更新ほ場の深耕、耕起にプラウや油圧ショベルは全く使用しないでプラソイラ(排土型心土破砕機)を使用している。作業能率が高く、排水性の改善や硬盤破砕に効果がある。ただし作業中に枯れ葉を抱え込んでしまうことがあるので強制的に枯葉を切断する装置をつけるなどの改良を期待している。植付けには全茎式プランタを使用し、採苗は草刈機を用いて行う。苗は剥葉しないで植付けるが発芽不良等の問題は全くない。午前に採苗し午後機械で植付けるという手順で作業を進める。欠株が発生したときには一芽苗で補植を行う。灌水が必要なので雨が降る前など天候を見ながら補植のタイミングをはかる。一芽苗の育苗には労力を要するが雨が降って機械作業ができないような時間を利用して行っている。平均培土、高培土ともに耕耘機を使って行う。中耕ロータリは株をつぶしたり土がうまく飛ばなかったりするので使用していない。収穫は小型収穫機で行うが、久米島ではトラッシュが隣接ほ場や民家へ飛ばないように、排出ガイド装置を自作装備している(写真3)。収穫後は株出し管理機を使って株揃えを行っており、その結果、根が浮きあがらず株出し収量も維持できている。また、収穫後はプラソイラで確実に心土破砕を行っている。
写真3 久米島のトラッシュ排出ガイド |
(6) 宮古島(Y農産)
宮古島のY農産は、植付けから収穫までの全作業の受託(いわゆる全面受託)を行っているところが他の生産法人と少し異なる。地域(集落)に88戸のさとうきび農家があるがそのうちの約20戸から全面受託している。剥葉などの機械化されていない作業や除草などについては、委託農家に任せる。収量増に繋がるので農家も喜んでやってくれる。全面受託でも作業料金は作業毎に設定しており収穫後にまとめて精算している。遊休地をできるだけなくしたいことと元気な活力ある地域にしたいという気持ちから全面受託を始めた。収穫は車輪式の中型を保有しているが稼働率が低いので平成17年度から中古の小型をリースで導入している。宮古地区ハーベスタ運営協議会ではリース機による受託作業を認めていないことから、改善策を検討する必要がある。また収穫機用の収納袋を漁網を利用して自作しているほか培土作業時に耕耘機に搭載して使用する施肥装置を自力開発している(写真4)。
写真4 宮古島のY 農産耕耘機用追肥装置 |
(7) 伊良部島(情報:Dファーム)
収穫機を保有しない生産法人の事例として伊良部島のDファームを調査した。2節苗を使用し汎用管理機を用いて植付けを行っている。汎用管理機の自動給苗機構を取り外してそのかわりに大きめの苗搭載部を設置し、苗を人力で投入する構造に改良している。雑草対策として基肥は植付け時には施用せずに発芽確認後最初の中耕培土作業時に施肥している。補植は行わない。培土は、小型トラクタ及び耕耘機を使っている。収穫作業は伊良部島に32集団ある手刈りグループを活用して行っており1グループ12〜13名程度で朝から昼までの約4時間で12〜15tを収穫できる。機械作業の受託では耕耘整地作業が最も多く1シーズンに40〜50ha程度を受けている。
(8) 石垣島(情報:T生産農家)
石垣島におけるさとうきび多量生産農家であるT氏から聞き取り調査を行った。T氏は中型収穫機TS3850を個人で所有している(石垣市にはほかに2台の個人所有収穫機が稼働している)。以前久米島で稼働していた中古機を導入した。TS3500と違いクローラタイプなので湿地帯等での稼働が可能になった。基本的には自作地の収穫を優先して行い、島内の作業受託組織である石垣市農業開発組合やJAなどから要請があった場合に出役受託している。比率的には自作9割、受託1割程度である。T氏の経営の特徴としてほかに10a当たり20tという大量の堆肥を投入していることがあげられるが、堆肥施用には油圧ショベルを使用している。堆肥は畜産農家から譲り受けるほか、籾殻などを使用して自作している。1年ほど寝かせた堆肥が非常に効果的である。更新のたびに油圧ショベルで深耕を行っている。植付けには、けん引式の全茎式プランタを使用する。植付作業後にトラクタのタイヤ跡をサブソイラで耕耘し排水性の改善を行っている。補植は2節苗を使い丁寧に行う。側枝苗も使ってみたが、生育が遅れがちであることや灌水が必要なことなどの問題で3年間で中止した。雑草対策として培土作業の合間に、中耕を何回も行う。株出管理で株揃えは行っていない。株出しの場合でも欠株に対しては2節苗を使用し丁寧に補植を行っている。なおT氏は農業機械士の資格を有しその活動を通して、運搬機をベースにしたさとうきびの薬剤散布及び灌水機を開発して活用している。
(9) 聞き取り調査で見えてきたこと
今回の8地域での聞き取り調査により、以下のような点が改めて明らかになった。
1)地域や経営体により栽培方法や機械化システムが微妙に異なるが、基本的な部分においては大きな違いは感じられなかった。
2)植付け作業については全茎式プランタ(国産ロータリ装着タイプ、外国製けん引タイプ)を使用している事例が多かったが、伊是名島や宮古島のように地域独特のプランタを有効に活用している事例もあった。また、防除作業など他の作業機についてもオリジナリティの高い工夫が凝らされた自作の機械装置がいくつか見られた。製品化して普及に移せると思われるほど完成度の高いものもあった。
3)収穫機の運用については、稼働量を確保するためにそれぞれが工夫、努力しているものの、地域や経営体によって収益差が厳然と存在する。沖縄本島南部地域においては、機械収穫受託組織から手刈収穫班の台頭に対する懸念の声が多く聞かれた。
4)収穫後の株出し管理作業には、いろいろな考えがあり、それぞれの経営体の中でもしっかり整理されていない。話題になっている株出し管理機については評価が分かれた。株出し管理の必要性等について分かりやすく情報を整理する必要がある。
5)補植については、必要性を認識しながら収穫作業などとの競合により実行できていない実態が明らかになった。特に経営規模が大きいほどその傾向が強くなる。補植以外の管理作業についても同じような傾向がある。必要な管理作業を徹底するという観点からも作業の役割分担など地域内で工夫していく必要がある。
6)採苗作業の省力技術については、草刈機を使って刈り倒しを行っている事例があったが、そのほかには特筆できるような事例はなかった。夏植の採苗は重労働との認識が強いことから、低コストな採苗作業省力化技術の開発は急務である。
7)培土作業では、小型トラクタや耕耘機を使用している事例が多く、中耕ロータリの利用は意外に少ない。要因としては、耕耘幅の調整が十分でないため株を損傷したり、高培土作業では時期を失すると折損茎が発生すること、また、株元へ十分な土入れができないことなどが考えられる。中耕ロータリは作業能率と安全性で圧倒的に有利であることから、小型トラクタ用のロータリをベースにした中耕ロータリを新たに開発、改良する必要性を痛感した。
5 さとうきび増産に向けた機械化システム
ここまで、機械収穫に関する最近の状況及び県内8地域での聞き取り調査結果について述べてきた。この節では、さとうきびの増産に向けて機械化の側面から問題点や解決法について私見を述べる。
(1) 作業機の汎用化による機械コストの低減
前節で述べた聞き取り調査でも多くの関係者から指摘されたが、機械化システムを完成するためには、種々の作業機を装備する必要がある。現状では例えば表1の慣行体系に示したように、耕起や収穫を除いた一般管理作業でロータリ、全茎式側方植付機、ブームスプレーヤ、中耕ロータリ、芯土破砕、70PS級トラクタなどと6種類もの作業機が必要になる。それぞれの作業機は稼働時間の実績から見ると低い利用効率となっており稼働コストを跳ね上げている場合が多い。コストを低減するためには収穫機のようにもともと高価な新調価格について低価格化の可能性がないかどうか検証することのほか、1台で複数の作業に対応できるような汎用性の高い作業機を開発して機械化システムに組み込んでいくことが有効である。沖縄県農業研究センターでは植付け、中耕、培土、株出管理のほか砕土作業にも対応できる作業機(植付管理機)の開発に取り組んでいる(表1)。
表1 全茎苗汎用管理機(植付管理機)の開発・導入による機械導入コスト低減効果の例 |
単位:円 |
注1)苗準備や収穫作業等この表に記載されてない作業については各体系とも同じ作業機を使用するものとする 注2)全茎苗汎用管理機の価格は販売時の目標価格 注3)ブームスプレーヤ及び駆動用トラクタの価格は当該作業での占有率を考慮して計上している。 新調価格 ブームスプレーヤ 2,971,500円 70PS級トラクタ 6,150.000円 90PS級トラクタ 9,418,500円 占有率 ブームスプレーヤA、B体系 10% トラクタ A体系 82% B体系 80% C体系 78% |
(2) 受託作業の競合とその回避
収穫機の普及が進捗してきたことはもとより生産法人等の作業受託組織の増加により、例えば中型収穫機と小型収穫機、あるいは生産法人同士、生産法人と機械銀行などの間で、限られた作業量をめぐって受託の競合が発生する可能性が高まっている3)。既に競合が発生している例もいくつか見られる。前述した沖縄本島南部地域における手刈収穫班と収穫機との競合は特異な事例であるが、機械化を進める上では憂慮すべき状況と言わざるを得ない。
この事例からも分かるように収穫作業の精度(収穫ロスの発生程度など)やほ場への影響等に技術的な優劣が認められるならば、委託する農家が技術の高い方へ流れていくことは自明である。従って、今後は、(1)受託作業組織の作業技術の高位平準化、(2)地域や経営体間における緻密な役割分担や調整機能の確立、(3)30%前後で低迷している機械収穫率の飛躍的向上の3点について施策を講じていく必要があろう。
具体的には(1)については従来のオペレータ研修等の充実強化等が考えられるし、(2)については、新たに立ち上げられた宮古地区ハーベスタ運営協議会等の活動が注目される。ただ(3)については単に収穫機の導入を進めるだけでは新たな競合を生むだけなので、経営安定対策等ともリンクさせながらこれまで自家収穫を行ってきた1ha未満の零細農家を機械収穫の方向へ誘導することが有効であると考えている。
(3) 新しい施策に対応した機械化システムとその担い手
前節で述べたが、現地調査結果から、必要最小限の管理作業を徹底して行うことが増産に向けて最も重要であることが明らかになった。表現は悪いが“やるべきことをやっていない”現実が単収の低迷につながっているようにも思えた。労働力の脆弱化が“手抜き”につながっていることは事実だが、それを補うのが機械化であろう。個々の機械化技術にはまだ課題もあるが、汎用性の高い植付け管理機などの開発・導入によりコスト低減を図りながら、受託組織間で作業の役割分担を行う(例えばA法人が収穫、B銀行では株出管理と植付作業、C社が防除作業を担う)など必要な作業の欠落が生じない仕組みを確立する必要がある。
沖縄県のさとうきび農家の経営規模は、平均約75aと零細で1ha未満の農家が約80%を占めている。このままでは経営所得安定対策における直接支払いの対象者としての要件を満たせない農家が大部分となる。受給要件として基幹作業の委託があげられていることから、今後は効率的な作業受委託システムの確立が重要になってくるであろうし、とりもなおさず受託作業集団が新しいさとうきび作の担い手として重要な役割を果たすようになると確信している。
【参考文献、資料】
1)新井祥穂:沖縄におけるサトウキビ関連政策と農家の対応 ―新価格制度への考察―、農村と都市を結ぶ、2006年12月
2)比嘉俊昭:沖縄県におけるさとうきび増産に対する取組について、
砂糖類情報(/japan/view/jv_0610a.htm)、2006年10月
3)上野正実:さとうきび生産法人における機械利用と経営改善、
砂糖類情報(/japan/view/jv_0607b.htm)、2006年7月
4)沖縄県さとうきび増産プロジェクト会議:さとうきび増産に向けた取組目標及び取組計画(生産計画)、沖縄県農林水産部糖業農産課ホームページ(http://www3.pref.okinawa.jp/site/view/contview.jsp?cateid=117&id=12025&page=1)、2006年6月
5)赤地 徹:沖縄県におけるサトウキビハーベスタの歴史とこれからの方向、
砂糖類報(/japan/view/jv_0204b.htm)、2002年4月
ページのトップへ |