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ビートファイバー

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報


今月の視点
[1999年10月]

日本甜菜製糖(株)総合研究所
研究員 菊地裕人  主席研究員 有塚 勉



はじめに    ビートファイバーとは
栄養生理的特性     食品加工特性
おわりに


はじめに

 砂糖原料であるビート(てん菜、砂糖大根、学名;Beta Vulgaris)は、世界中で広く栽培されているアカザ科の工芸作物(約3億トン/年)である。わが国においては、北海道における輪作体系の中核をなす作物であり、毎年およそ330〜420万トンが生産されている。わが国にてん菜が砂糖原料作物として導入されたのは1870(明治3)年のことであり、以来幾多の変遷を経て、今日では作付面積約7万ha、収量47〜59t/ha、砂糖歩留り15.0〜17.5%の範囲に安定し、先進欧米諸国に比して勝るとも劣らない生産性をあげるに至っている。イオン交換樹脂による完全脱塩法(1959年)、酵素メリビアーゼによるラフィノースの分解法(1968年)等の世界に先駆けて開発された製糖技術が、砂糖の歩留り及び品質向上に大きく貢献している。
  ビート根1トンからは砂糖約160kgが生産され、副産物として糖蜜が得られる。また、当社ではクロマトグラフィー装置を導入することによって、新たにベタイン(トリメチルグリシン)及びラフィノース(オリゴ糖)の生産を開始している。そしてビート根から砂糖を抽出した残渣であるビートパルプは、生パルプまたは乾燥パルプとして反芻動物の飼料原料として使用されている。
 一方、現代病は食物繊維欠乏症であるとしたBurkittらの仮説(1975年)を契機として、ビート中の食物繊維成分の持つ多彩な栄養生理的効果が注目を集め、欧米及び日本で研究開発が進められてきた。ビート中の食物繊維成分は、一般にビートファイバー(Sugar beet fiber)と称され、てん菜糖製造工程においてビート根から砂糖を抽出した後の残渣を、薬品を使用せず衛生的に製造された天然品の食品素材である。当社では、ビートファイバーの製造を1984年に開始している。わが国において新しい食品素材である、てん菜由来のビートファイバーについて紹介したい。

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ビートファイバーとは

 ビートファイバーは白灰色粉末で、水に不溶性の複合型食物繊維(水溶性繊維と不溶性繊維より成るもの)である。繊維質成分は、植物細胞壁組織において一般的にみられる成分(ペクチン、ヘミセルロース、セルロース及びリグニン)から構成され、構成割合はそれぞれペクチン19%、ヘミセルロース36%、セルロース23%、リグニン3%となっている。(図1)。また、ビートファイバーは、天然の各種食物繊維製品の中でも高い繊維含有率(80〜83%)を示し(図2)、野菜由来の繊維質をそのままに保持しているので本来の食物繊維形態での摂取が可能である。

図1:ビートファイバーの成分組織(%)
ビートファイバーの成分組織
  図2:食物繊維の含有量(%)
食物繊維の含有量
 食物繊維は、ヒトの消化酵素によって分解されず、大部分は大腸部に達する食品成分で、大腸部に到達すると腸内細菌によって一部分解されエネルギーを供給することになるが、それ以上に重要なことは、胃から大腸へとほとんどそのまま消化管を通過していく間に、他の食品成分ではなし得ないような栄養生理的機能を果たしている点にある。そして、そのような機能は、食物繊維の物理化学的特性と密接に関連していることが指摘されている。ビートファイバーに関しては、保水性・保油性がともに高く(図3)、さらに膨潤性も高いことが特性としてあげられる。すなわち、ビートファイバー1gは、水を吸収し16ml容まで膨潤する。さらにビートファイバーをタンパク質分解酵素及び脂肪分解酵素で処理すると、さらに膨潤化する。このような特性は、ビートファイバー摂取時の満腹感、あるいは胃内における摂取食品の滞留時間の延長などの生理作用に大きな影響を及ぼしていると考えられている。また、ビートファイバーは、植物性の食物繊維特有の陽イオン交換能(カリウム、ナトリウムなどを吸着する能力)を有する。さらに、陽イオンを吸着することによって陰イオン交換能を示すようになり、胆汁酸、脂肪酸などを吸着できるようになる性質も持つ。つまりビートファイバーの陽イオン交換能は、生体へのミネラル供給や胆汁酸、脂肪酸の排泄に深く関与している可能性が高いと考えられている。

図3:非水溶性食物繊維素材の保水性・保油性
非水溶性食物繊維素材の保水性・保油性
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栄養生理的特性

  ビートファイバーの総合評価書概要
関与する成分

保健の用途


有効摂取量

最大無作用量
ビートファイバー

整腸作用
  便通・便性の改善

5g/日
20g/日
平成5年2月17日 靴日本健康・栄養食品協会
 
 
図4:ビートファイバー摂取による
血中脂質の変動
ビートファイバー摂取による血中脂質の変動
 
 ビートファイバーは大腸内での発酵性に富み、整腸・排便効果を有する。摂取された食物繊維が吸水・膨潤して消化管内容物のかさを増大させ、かつ、腸内細菌に資化される際に多量のガスが発生するため、大腸に対する刺激が高まり、その収縮運動が活発化し、糞便排泄を促進させるためと考えられている。過食による下痢症状はなく、整腸作用のある食物繊維素材として靴日本健康・栄養食品協会から総合評価書(表1)が出されている。その1例として、Giacosaら(1990年)は、慢性便秘の患者27名にビートファイバーを摂取させて、顕著な便秘改善(排便回数、便性)を確認している。肥満や高血圧など現代病と言われているものの発生の頻度は、便の量に反比例していると言われており、また大腸ガンは腸内でも便がたまりやすい部分に多く発生することが分かっている。必要以上に便を腸内に滞留させないことは腸の健康を守る上で重要である。
 ビートファイバーは脂質代謝に影響を及ぼす。ヒトによる調査では血中コレステロール低下作用があることが報告されているし、動物(ラット)試験では血中脂質(コレステロール、中性脂肪)の上昇抑制作用、肝臓及び体組織への脂質蓄積抑制作用を顕著に示すことが報告されている(図4)。ラットの盲腸を切除するとそれらの効果が低減することから、血中脂質調整作用は盲腸機能=ヒトの結腸上部機能と密接に関連していることが示唆される。コンニャクマンナンなどの水溶性食物繊維も血中コレステロールを下げることが知られているが、これは高コレステロール食を食べた場合のみに効果があるのであって、ビートファイバーは通常の食事でもコレステロールを下げることが可能である。
 ビートファイバーは食餌性有害物質の毒性阻止作用も有する。ラットに大量の食用色素(アマランス)を与えると、下痢をして成長が悪化するが、食物繊維を同時に与えると食用色素の毒性が阻止され、正常に成育する。特に、ビートファイバーは他の食物繊維素材と比較して、顕著に毒性阻止作用を発現することが明らかとなっている。これは胃内滞留時間の延長によって、栄養素の消化・吸収が改善されたためと推定される。
 糖尿病の予防及び治療においても食物繊維は重要な役割を果たしていると注目されており、その血糖値調節作用は多くの研究により実証されてきている。これまで、その効果はペクチン、マンナンなどの水溶性食物繊維に効果があるとされていたが、複合型のビートファイバーについても、ヒトまたは実験動物で血糖値調節作用が示され、その有効性が確認されている。そのメカニズムには、ビートファイバーの高い保水性及び膨潤性が関与していると予想される。
 以上のように、ビートファイバーは様々な優れた生理機能を持っている。そしてこれらの機能は物理化学的特性と密接に関連していると考えられている。

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食品加工特性

図5:パンの硬さの変化
パンの硬さの変化
 現代人の食生活の中で食物繊維の摂取不足は顕著である。厚生省では1日20〜25の食物繊維摂取を推奨しているが、日本人は平均して5〜6程度不足していると言われている。この状況を改善するための1つの方法として、食物繊維を添加した加工食品を摂取するという方法があるが、現実としてそのような目的で加工食品メーカーに食物繊維を使っていただくというのはなかなか難しいというのが我々の実感である。そこで我々は、ビートファイバーの持つ特有の物理化学性(保水性、保油性、膨潤性など)を生かして、加工食品の物性改善にも利用できないかを検討してきた。

パン類への添加
 よくご存じのようにパン類は焼成後時間の経過に従い、硬くなりパサパサした食感になってしまう。この現象を老化と呼んでいるが、一般に老化防止のためパンに乳化剤が添加されていることが多い。ビートファイバーには乳化剤と同等の効果があり、老化による硬化を1〜2日間遅らせることができる(図5)。ただ、ビートファイバーをパンに添加する際のコツとして、パン生地を作るときの加水量を増やす必要がある。ビートファイバーの高い保水性のため、通常の加水量ではパンが膨らまない。

麺類への添加
 生麺における製品上の問題の1つは、製造後時間の経過とともに、麺が互いに付着してほぐれにくくなってしまうことであるが、ビートファイバーの添加により、付着を軽減することができる。また、ビートファイバーの添加によって麺の水分は高くなるため食感はやや柔らかくなるが、一方で歩留りの向上が期待できる。

畜肉への添加
 ハンバーグにおけるドリップ(うまみの素の流失)の発生は、商品価値の低下につながるが、ビートファイバーの添加により、ドリップの発生を防止することができる。同時に、ビートファイバーは保水性が高いので、相当量の加水を行うことができる結果、顕著な歩留りの向上が期待できる。また、ビートファイバー添加により機械による成型性も改善される。

図6:揚げ玉に対する
ビートファイバーの添加効果

揚げ玉に対するビートファイバーの添加効果

コロッケ類への添加
 コロッケ類において油分過多は、品質に関わる大きな問題であり、同時に揚げ油の不経済にもつながる。また、油調後に揚げ物から油が遊離することも、やはり商品価値に関わる問題となっている。ビートファイバーを添加することにより、コロッケ類の油調時の吸油量を減らし、また油滲じみを抑制することができる(図6)。

ドーナツへの添加
 ドーナツにおいても、コロッケ類と同様に、油分過多や油調後の油滲みが品質上の問題となっているが、ビートファイバー添加によりそれらの問題を改善することができる。ドーナツの種類(イーストドーナツ、ケーキドーナツ)や油の種類(液状油、固形油)に関係なく、ビートファイバー添加によりドーナツの油分は低下し、また油滲みも少なくなることが確認されている。

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おわりに

 食物繊維特有の物理化学性は、保水性、膨潤性、イオン交換能などである。そして、その物理化学性は、食物繊維の栄養生理的機能、食品加工特性に大きく影響していると考えられる。数多くの食物繊維素材の中でも、ビートファイバーはその食物繊維特有の物理化学性に長たけている食物繊維素材である。その結果、ビートファイバーは、血中コレステロール低下作用などの優れた栄養生理的機能を持ち、また食品加工面においてもパンの老化防止など優れた特性を持つ。国民の食物繊維摂取量が減少している現在、一般食品への食物繊維添加は健康上重要性が増している。また、最近の動向として食品添加物の使用は避けられる傾向にあることから、ビートファイバーのような食物繊維素材を食品改良剤として利用することも、今後の食品加工における1つの方向ではないかと考えられる。
 ビートは北海道畑作農業における輪作体系の中核をなす重要な甘味資源作物である。しかし、ビートは単に砂糖の原料であるばかりではない。ビートからはラフィノース、ベタインそしてビートファイバーという有用な物質も製造・販売されている。ラフィノースは腸内のビフィズス菌を増やすオリゴ糖であり、そしてまた唯一の非吸湿性オリゴ糖であるとして健康食品等に利用されている。ベタインは天然の保湿成分として、シャンプーなどの香粧品に幅広く使用されている。こうして見ると、ビートは人の生活を豊かにする物質を多種含む作物であると言えるかもしれない。我々は、さらに多くの有用物質がビートに含まれていると考えており、砂糖も含めて効率よく有用物質を取り出し、ビートという作物を無駄なく利用したいと考えている。

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「今月の視点」 
1999年10月 
第6次改定日本人の栄養所要量−食事摂取基準−について
  厚生省保健医療局地域保健・健康増進栄養課生活習慣病対策室 栄養調査係長 河野美穂
缶詰と砂糖の関わりについて
  (社)日本缶詰協会 業務部長 沼尻光治
ビートファイバー
  日本甜菜製糖(株)総合研究所 研究員 菊地裕人/主席研究員 有塚勉
養液栽培におけるさとうきび側枝苗大量増殖技術の開発
  農林水産省国際農林水産業研究センター沖縄支所 業務科長 勝田義満


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