[1999年10月]
農林水産省国際農林水産業研究センター沖縄支所 業務科長 勝田義満
はじめに
自然災害(台風、干ばつ等)が頻発する南西諸島において、防災性が高いさとうきびは重要な基幹作物となっている。しかしながら、その生産には、とくに植付けと収穫作業に過重な労働が強いられるため、農家のさとうきび離れとともに作業従事者の高齢化が急速に進んでいる。さとうきび栽培の機械化は、収穫作業では製糖会社や生産組合等の機械収穫請負がやや進行し、50%以上の面積を機械により収穫する地域も出てきた。しかし、植付作業では茎節苗を用いたプランターが一部で導入された程度である。そこで最近、作業効率化を目指した省力的な植付法として、3〜4葉の側枝苗(高位分げつ苗)を育成して機械定植する方法が石垣島製糖(14)を中心にして開発された(「砂糖類情報」7月号参照)。この新しい方法は、大幅な定植労力の省力化が可能で、定植後のほ場活着率が95%以上と従来からの方法に比べ高く、補植も容易にできるため高いほ場利用効率が望める。しかし、この方法では、ほ場で母木の養成が必要なだけでなく、側枝の伸長、生育が不安定で、側枝苗の十分な確保が困難であった。
そこで、国際農林水産業研究センター沖縄支所で開発した露地に設置可能な省エネルギー型養液栽培装置を用いて、さとうきびの母木養成栽培による側枝ポット苗の大量増殖技術を開発し、実用化に向けた事業で応用したので報告する。
側枝苗大量増殖技術
当研究センター沖縄支所で開発した省エネルギー型養液栽培装置を用いて、梢頭部を切断した蔗茎を培地に挿し、最下位節より発根を促し、各節から伸長した1次側枝から、さらに2次、3次側枝と多数の側枝を伸長させた。一方、側枝苗においても10節以上の使用可能な茎の生育後に、梢頭部を切断し、各節から側枝を発生させた。ほ場栽培では、側枝が上位3節に集中して伸長するため、養液栽培装置を用いた場合と比較して、伸長側枝数が減少する。養液栽培装置を用いることで、ほ場栽培と比較して、小面積で多数の側枝苗の確保が可能であることを確認した。
養液栽培装置を利用した側枝栽培 |
2次側枝の生産 |
また、養液栽培装置において、培地は化学繊維、ロックウール粒状綿、地域資源として籾(もみ)殻、バガス、フィルターケーキ等を供試した。その中で、化学繊維は養水分の保水性に課題を残したが、他の資材は十分に使えることが分かった。
さらに、養液栽培装置を軽量鉄骨ハウス等の施設内に設置することで、さとうきびの生育適温が維持されるため、より短期間に多数の側枝苗が伸長した。また、施設内では除草や薬剤散布等に省力となる。
養液栽培では、養液は培地に順次供給されるので栄養障害もなく良好な生育を経過し、多数の良質苗の確保が可能であることが期待された。
表 溶液栽培装置における側枝苗の生産
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項目 品種 |
母 株 (株/10) |
採芽本数 (本/10) |
株当たり本数 (本/株) |
F161 |
3,528 |
201,802 |
57.2 |
NiF8 |
3,528 |
222,264 |
63.0 |
Ni9 |
3,528 |
222,617 |
63.1 |
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1998.1.10調査 |
品種では、NiF8、NiF9の側枝発生が多い傾向にあり1株当たり63本の側枝苗採取が可能である。 |
図 側枝ポット苗大量増殖の流れ
・母茎利用は、ほ場で養成したさとうきび茎を採取し、節数11節、長さ1m前後に切り揃え、1節を培地内に埋め込み直立の状態で固定して側枝を発生させる。
・側枝苗利用は草丈20cm前後の1株を培地内に植え付け、側枝苗養成中に分げつさせ5本仕立てとする。 |